LSO/ビシュコフ/ストーティン(ms):圧巻最高のマーラー3番2012/04/01 23:59


2012.04.01 Barbican Hall (London)
Semyon Bychkov / London Symphony Orchestra
Christianne Stotijn (Ms)
Ladies of the London Symphony Chorus
Tiffin Boys' Choir
1. Mahler: Symphony No. 3

ビシュコフのマーラー3番は2004年にブダペストで聴いて以来ですので、実に8年ぶりです。そのときのオケだったケルン放送響と録音したCDは当時評判になっていましたし(確か賞も取ったはず)、当時の手兵ケルン放送響とのアジアツアーや、その他のオケへの客演でもマーラー3番を好んで取り上げていて、指揮者急病の代打でもよく呼ばれているようで、よっぽどオハコなんでしょうね。

今日はストールのE列だったのですが、いつもよりステージが張り出していて、何と最前列でした。オケが下手だったりバランスが悪かったりするとこの曲をこの至近距離で聴くのは苦痛にもなりかねないのですが、流石にLSOだとはそんな心配は無用で、極上のオーケストラサウンドを大迫力の音響で十二分に堪能できました。ビシュコフのマーラーは強弱のコントラストが大きく、よく歌い、よく泣き、大爆発する、極めてドラマチックな音楽です。大地を隆起させるような冒頭のホルンに、決して外さず炸裂するトランペット、盤石なLSOブラスセクションにはもう降参するしかありません。鋭く叩き込む打楽器群は、今までこの曲を聴いたどのオケよりも衝撃的です。もちろん弦も木管もほぼパーフェクト、穴がない演奏集団を従えて、ビシュコフも自信たっぷりに「俺のマラ3」を紡いで行きます。途中、ぐっとテンポを落として「タメる」箇所で、わずかにオケが追従できず前のめりになってしまう瞬間もあったりしましたが、圧巻の第1楽章が終った時点で、もう本日終了でもいいくらいの満足感。実際拍手がパラパラ起こっていましたが、思わず拍手したくなる気持ちは私も同感でした。

今日の少年合唱は昨年のマゼール/フィルハーモニア管のときと同じティフィン少年合唱団でした。舞台袖ではなく後方のオルガン下の扉から登場、最初から舞台に出ていたので待機時間が長く気の毒でした。少年合唱も女声合唱も昨年より人数が少なめだったので、オケの音量に比べて終始負け気味でした。ストーティンは昨年のマゼールチクルスでも最初クレジットされていたものの、急病でキャンセル(代役はセイラ・コノリー)。彼女のマーラー3番は初めて聴きましたが、昨年の穴埋めをして余りある堂々とした歌唱でした。

終楽章の一番最後はふわりと着地するように終りますが、待ちきれず即効で拍手が起こったのは、まあ仕方がないですかなー。終演後の歓声の盛り上がりは相当なものでした。例えばブーレーズのようなマーラーをリファレンスにしている人が聴けば「何故にここまで劇的にやらなきゃならんのか」「外見立派だが中身がない」「カラヤン的」と蔑むような演奏かもしれません。ですが、夏の休暇中にアルプスの大自然を散策し、作曲のインスプレーションを得たマーラーが頭に思い描いたのは、対象の中に自ら飛び込むようなビシュコフの演奏のほうではないか、と私は確信します。

最前列かぶりつきだったので奏者の顔はあまり見えなかったのですが、かんとくさんお気に入りの「ミナ嬢」ことMinat Lyonsさんがちょうど正面に見えて、じっくりと鑑賞することができました。確かに黒髪のエキゾチックな美人で、ほのかに紅潮した頬が色っぽいです。この人はまた、豊かな表情がたいへんキュート。演奏中も隣りの奏者と目が合えばニコっと微笑み、出番のない箇所でコンマスのヴァイオリンソロを聴き入って「ああっ、何て素晴らしいのっ」とでも言いたげな表情でなんとも官能的にかぶりを振ったり、音楽に没頭して本当に楽しそうに弾いているので、見ていて飽きません。しかーし、第4楽章の前にストーティンが入ってきたとき、第1ヴァイオリン奏者の椅子の位置が変わってしまって彼女の姿をブロック、以降最後まで人影になって見えませんでした(大粒涙)。写真もロクなのが撮れず。次回以降、またチャレンジです(何を?)。


花束をもらうストーティン。ビシュコフはいったん指揮台を下りた後は、ずっと人の影だったので写真撮れませんでした。

アンダルシア (1):雨のアルハンブラ2012/04/03 23:59

先週休暇を取り、スペインはアンダルシア地方を旅行してきました。どこまでも続く青い空と強い日差しがデフォルトかと思ったのに、運悪く毎日の雨模様で肌寒かったです。


グラナダ大聖堂も、今にも雨が落ちてきそうな曇天です。先週スペインでは「セマナ・サンタ」という復活祭のお祭りが各都市で盛り上がっておりまして、国内外から大勢の観光客が集まります。「プロセッション」と呼ばれるキリストの受難を表す神輿を担いだパレードが毎日行われるため随所で交通規制があり、写真のように大聖堂も一時閉鎖され、前の広場は観覧席が設けられてだいぶ不便なことになっています。うちは別にセマナ・サンタが目当てだったわけではなく、イースターの連休と子供の春休みを絡めるとその週しか選択肢がなかったのですが、おかげでいろいろと、良きも悪きも忘れ難い経験をすることが出来ました。

で、グラナダと言えばまずはアルハンブラ宮殿。チケットは事前に予約しておいたほうが良いと聴いたので1ヶ月前にWebサイトを見てみたのですが、甘かった。セマナ・サンタのおかげでチケットの売れ行きが驚くほど速くて、どの日も夜7時からの最終スロットしかすでに残ってなく、それすら残り稀少という状況。普段ならそこまでひどいことはないようなのですが、もっと早くチェックを入れておくべきでした。ともあれ大慌てで夜7時から入場のチケットを購入。実際のチケットは、ダウンタウンにある宮殿のショップか、宮殿入り口のチケットカウンターで発券できます(予約時に登録したクレジットカードが必要)。夜7時入場というのは、メインの建物であるナスル宮の入り口に7時までに行けばよく、その他の庭や離宮は早めに入って見ていてもかまいません。というか、8時閉場なのでそうしないと見切れません。


夕方から降り始めた雨は強さを増し、宮殿入り口に着いた頃には絶好調の大雨。アンダルシアの青い空はどこに…。


入り口に近い離宮のヘネラリフェから先に見ます。うーむ、写真で見た通りのエキゾチックな庭園です。これで天気さえ良ければ…。


反対側の先端、アルカサバの塔に登ると絶景が広がります。雨も小康状態になり、多少持ち直してきました。


グラナダの町も一望。あー、返す返すも天気が残念だ。


アラヤネスのパティオと呼ばれる、池の水面を巧妙にあしらった美しい中庭。


イスラム様式の装飾はヨーロッパの教会とは別世界の精巧さで、圧倒されます。


著名なライオンのパティオは残念ながら改装工事中。とにもかくにも念願のアルハンブラ宮殿を無事見ることができたのは良かったですが、天候も含めてとてもベストコンディションとは言えない状況に、欲求不満は残りました。

アンダルシア (2):ファリャの家2012/04/04 23:59

グラナダには私の大好きな作曲家、マヌエル・デ・ファリャが亡命前の晩年住んでいた家が博物館として残されています。アルハンブラ宮殿へ向かう細い坂道を延々と上って行くと、


ありましたありました。道がちょっとわかりにくいですが、この看板が目印です。


扉には怪しげなノックが。


開館時間中は扉が開いているので中に入り、呼び鈴を鳴らすと係員がすぐに出てきてくれます。他のグループをガイド中であってもともかく顔は出して「5分待って」などと言いますが、実際は20分くらい待たされました。


待っている間、庭に入って周囲を眺めます。


小さな公園のように、奇麗に整った庭。奥にはファリャの像があります。


アルハンブラ宮殿ほどではないですが、けっこう高台にあるので、庭から望むグラナダの町並みは絶景です(天気さえ良ければ…)。


前のグループが終ってようやく中に入ります。入場料(ガイド付)3ユーロ。スペイン人のグループと一緒でしたが、係員は多少英語を混ぜて解説してくれました(ただしめっちゃスペイン訛りの英語なので聞き取りにくい)。ファリャが身体の小さい人だったせいか、たいへんこじんまりとした家です。玄関すぐ横の応接間には小さな円卓があり、ロルカ、ラヴェル、ストラヴィンスキー、ピカソといった友人たちが集っていたそうです。


手回しのレコードプレイヤー。もうレコードがあったんですねえ。


ファリャがここに住んでいた1921〜1939年はほとんど隠居生活で、あまり重要な作品は生まれていませんが、作曲に使っていたピアノも当時のまま残されています。


神経質な人だったようで、寝室のベッドの脇にはおびただしい量の医薬品が常時置いてあったそうです。


ファリャが実際に収集していた浮世絵のプリントは意表をつかれました。左が歌麿、右が北斎です。

ファリャは1936年の親友ロルカの暗殺を受けて1939年にアルゼンチンに亡命し、そのまま1946年に当地にて没。家を見ていると社交的で温和な人柄が見て取れますが、必ずしも幸せな人生とは言えなかったのかもしれません。そう言えば晩年の作品って聴いたことがなかったので、俄然興味が湧きました。

アンダルシア (3):グラナダのフラメンコ・ショー2012/04/05 23:59

せっかくアンダルシアまで来たのだから本場のフラメンコを見てみたいと、Los Tarantosという有名なタプラオに行ってみました。ホテルへの送迎と夜の旧市街アルバイシン散策ツアー付き、1ドリンク込みのフラメンコショーの値段は28ユーロ/人。夜9時15分にホテルに迎えのバスが来て、乗り込むとすでに十数名のツアー客が。あといくつかのホテルを廻ってからお店に向かうとのことでしたが、くしくもこの日はセマナ・サンタで市街地は通行止めと交通渋滞の嵐。ようやくアルバイシンに着いたら時刻はすでに10時30分を回っていて、やはり子連れでフラメンコを見に来るのは無理があったかと後悔。どれだけ待たせるんだとすでに怒り出している人もいました。


お店に行く前に、まずは夜のアルバイシン散策。ツアーは結局バス2台分、20数名になっていました。夜中でも人通りの多い旧市街を、はぐれないように皆でぞろぞろと着いて行きます。


サン・ニコラス展望台から見るアルハンブラ宮殿の夜景は、確かに見応えがありました。この近くに宿泊でもしない限り、夜中に自力でここまではなかなか来れないので、よいものが見れました。


展望台から人ごみをかき分けつつ10分くらい歩き、ようやくお店に到着。とにかく人が多い。


洞窟住居を改装した店内にはショーを行う細長い部屋がいくつかあるようで、早速音楽が聴こえてきます。ぎゅうぎゅう詰めの廊下で長らく待たされた後、やっと一つの部屋に通されました。ウェイターが一人一人ドリンクの注文を取り、皆にドリンクが配られてから、女性ダンサー2名(思ったより若く、エキゾチック美人)、男性ダンサー1名(ハゲ)、女性の歌い手1名(いかにもジプシー)、ギタリスト1名(生まれてこのかた裏社会しか生きてこなかったかのような、実に味のある顔をしたおっさん)が入ってきて、ようやくお待ちかねのフラメンコショーがスタート。時刻はすでに午前0時を回っています。


フラメンコをちゃんと見るのは、実は生まれて初めてです。歌とギターを伴奏に、最初は女性、次に男性が踊りを披露して行きます。カスタネットなどは使わず、フィンガースナップとタップだけの激しくフィジカルなダンスです。メンバーが一通り踊った後、別の男性ダンサーが外から入ってきて、一段とレベルの高いタップを披露しました。この人が真打ちなんでしょう、ハゲの兄ちゃんもけっこう上手いと思いましたが、真打ちはタップの速さと鋭さの次元が違いました。一度見ただけでフラメンコの真髄など語れるはずもないですが、私が見た限りこれは所詮、こけおどし系タップダンスの競い合い、なのではないかと。ギタリストと歌手が気もそぞろにずっと部屋の外を見て、心ここにあらずだったのも気になりました。

ショーが30分くらい続いた後、少し間を置いて、メンバー総入れ替えで次のショーが始まりました。今度は意外とあっさり終り、時間も時間だけに、お客はそろそろ帰りたくてそわそわしていると、ウェイターがやってきて「まだ終わりではありません」。タクシーも入って来れない深い旧市街ではこちらも帰りの足がないと困るので、仕方なく待っていると、さっきと同じメンバーが入ってきて、今度は年配の(というか老齢の)女性ダンサーがカスタネットを持ってやる気のなさそうな踊りをしつつ、お客を誘って一緒に踊ろうとします。そういうのもいいけど、それはフラメンコじゃないだろうと思っていたら、今度はさらに短時間で終って、メンバー撤収。取り残されたツアー客はさすがにしびれを切らし、立ち上がって出口に向かい、ツアコンを探しますが、入り口付近が人であふれかえっていてとても外に出られない状況であるのに気付きました。セマナ・サンタの山車巡行が、まさにこのお店の前を通過しようとしているところで、人ごみは朝の山手線状態。そんな中でも同じツアーに参加していた中国人グループは傍若無人にぐいぐいと人を押しながら前に出て行ったから、たいしたもんです。


せめて同じホテルに帰る人々とははぐれないようにと気をつけつつ、もうこうなりゃヤケよ、山車が見れてラッキーと、十字架に磷り付けられたキリストの山車は足の部分だけ何とか見えました。


それに続く嘆きのマリアの山車はちゃんと顔が見えて、元々見るのを諦めていただけに、まあラッキー。後で気付いたのですが、ジプシーの歌を歌っていたおばちゃん達は、お客もそっちのけでいち早く外に出て、山車に対する奉納の歌を外で歌っていたようで、それであんなにソワソワしていたのかと、納得。

山車の一行が通過して、ようやく動けるようになったら、ツアコンが皆を引率して(でも人数確認もしてないし、はぐれた人は絶対いると思う)元のバスが駐車してある場所まで歩き、帰路につきました。ホテルに着いたら時刻はすでに2時を回っていて、長い一日でしたが、何はともあれ無事帰れたし、普通じゃできない体験だったので、まあ旅のよい想い出ですかな。

教訓は、「聖週間のグラナダでフラメンコツアーは控えるべし」。

そもそも、日本人がアンダルシアへ旅行するなら聖週間は避けたほうが無難かも…。

アンダルシア (4):セビリア2012/04/06 23:59

グラナダをあとにして、セビリアへ。スペインは治安に不安があるので、できるだけ夜歩かなくて済むようにと町中ど真ん中のホテルを予約したら、これが裏目。セマナ・サンタが最も盛り上がるセビリアでもまさにピークの日だったため、旧市街は交通が完全に封鎖され、車でホテルに近づくことすら不可能なのでした。仕方がないので離れた場所の公共駐車場へ行くも、すでに満車。自分の前に並んでいる車の家族は、運転手だけを残してみんな駐車場横のタパスで飲み食いしております。列に並ぶこと1時間半、途中、無法なガイキチ野郎が無茶な割り込みで順番抜かしてさっさと入って行ったりもしましたが(誰か取り締まらんのか)、何とか地下駐車場に入り、狭苦しいスペースに苦労して駐車。石畳の上をガラガラと荷物を引いて、やっとのことでホテルに到着。

教訓:「セマナ・サンタのセビリアは車で行くべからず」


セビリアに着いても、天気は相変わらず不安定です。これは町のシンボル、大聖堂とヒラルダの塔。アンダルシアはいつも青い空じゃなかったんか〜。この日の夜の山車巡行は、雨のため結局中止になってましたが、交通規制とけんもほろろの対応でムカついていた私は、ちょっと「ざまあみろ」気分。


翌朝はようやく抜けるような快晴となり、ここぞとばかりに観光レッツゴー。午後の予報は依然として雨、今のうちにと、大聖堂にも長蛇の列です。


どこまでも青い空が広がると、ガイドブックに書いてあった通りのスペイン広場を見れて感動です。


いわゆる「カルメンのタバコ工場」。現在は大学のキャンパスで、通常は閉鎖されています。バラの花を加えてポーズをとろうと思ったのですが、肝心の花屋が見当たりませんでした。


さて、時は聖週間のセマナ・サンタ。町中にはKKKのようなとんがり帽子の人がよく歩いています。


教会・宗派によって衣装の色が違うそうで、皆さん、どうだ見たかというように堂々と町中を跋扈しております。でも、結局雨に降られ、とんがり帽子がへしょんと萎れてトボトボ帰る様は、ちょっと物悲しいものがありました。


雨もあって、この日の巡行は結局深夜の12を過ぎてから。大聖堂から出てきた集団を見るために、大聖堂前広場は真夜中にもかかわらず大勢の観光客で賑わっていました。


私はもう疲れたので、山車を遠目に確認したらすぐに撤収しました…。

アンダルシア (5):マラガ2012/04/07 23:59

今回のアンダルシア旅行はロンドンLCY発マラガ行きの直行便を使ったので、最後はマラガに戻って来ないといけません。セビリアの交通封鎖で懲りたため、午前のうちにマラガまで移動しました。ホテルの近くに大きいデパートがあったので、昼食、夜食、ワインとお土産物(カラスミ等)を買い込み、腹ごしらえをしたあと、日のあるうちに高台のヒブラルファロ城へゴー。入場チケットを買おうとしたら、小銭がなくて50ユーロ札しかなかったので発券機は受け付けてくれず、近くの売店で崩そうとしても大きい札は受け付けてくれなかったので(店員の態度には非常にむかついたが)、途方に暮れていたら、お城の受付のおばちゃんが、じゃあいいわよ入りなさいと、タダで中に入れてくれました。頭に来ることの多かった今回の旅行で、一番人の親切に感謝した瞬間です。



お城から見下ろすマラガの町並みは絶景でした。ここも3000年以上前から人が住んでいる古い都市で、予想外の大きさに驚きました。


とんねるずが番組でロケをしていたという闘牛場もばっちり見えました。闘牛は残念ながら今回見ることはかなわず。


夕食を目指して町中に下りると、まだ日は高く、大聖堂も西日を浴びて燦々とそびえておりました。

翌日、セマナ・サンタの最終日は昼の時間帯に最後の巡行がありました。逆に町のど真ん中に行かなかったのが良かったのでしょう、行列を至近距離で見ることができてたいへんラッキーでした。グラナダやセビリアでは近づくこともできなかったので。


キリスト受難の山車。やはりハードワークなのでしょう、ちょっと進んでは休憩、の繰り返しなので、なかなか進みません。




教会、宗派によって衣装の色が違うようで、みなさん競って色とりどりです。小さい子供も借り出されていて、特にかわいかった三兄弟は観光客のカメラの的になっていました。



キリスト受難と嘆きのマリアはセットです。楽隊は地元の中学・高校生のブラスバンドが動員され、やっとアンダルシアらしい快晴がやってきて25℃くらいの気温の中、汗をかきかきがんばっていました。

アンダルシア (6):スペイン料理2012/04/08 23:59

スペインは料理が美味しいのでも有名です。実は私、魚と貝は大丈夫なんですがエビ・カニ・イカ・タコがダメで、スペイン料理は大の苦手でした。大学の頃、研究室のコンパをスペイン料理屋でやった際に、マッシュルームのガーリック焼き以外、何も食べられなかった記憶があります(その分飲んだので割り勘負けはしませんでしたが)。しかしその後人生経験を積み、別にエビ・イカだけがスペイン料理じゃない、というのがわかってきて、今ではタパスなど好んで行くほうです。

今回も食事は非常に楽しみにしていましたが、グラナダではなかなか良い店に当たらず、残念でした。やっぱり地元の人の手引きがないと、美味しいお店を見つけるのはそう簡単ではないですね。


セビリア旧市街のタパスは、それなりに美味しかったんですが、どの店もメニューがだいたい同じで個性がありませんでした。だいたい毎食、私はイベリコ豚の生ハムを食し、妻と娘は、私が苦手なんで家の食卓では出さないイカのフライを、ここぞとばかりに食べまくっていました。


生ハムも店によって様々で、やっぱり注文を受けてから切ってくれるお店がいいですね(そうじゃない店もけっこうあったので)。


これもタパス飯ですが、意外とイケた、そら豆とイベリコハムのオーブン焼き。ロンドンはそら豆が手に入るし、家庭でもアレンジが出来そうな一品です。


スペインのデザート、フラン。要はカスタードプディング、日本で言うプリンです。


マラガの町中では、Calle Strachan、Calle de Marín Garcíaといった通り沿いにレストラン、タパスが立ち並んでいます。スペインの標準として、レストランは8時にならないと開きません。


これはアンコウのマラガソース。娘がアンコウを気に入り、アンコウがあればそればかり注文していました。贅沢なやっちゃ…。全般的にさすがはスペイン、魚介類は新鮮な材料を使っていて、魚の鮮度にうるさい日本人にも十分満足のできるものでした。


レストランで食べる機会がなかったので、スペイン名物「ウナギの稚魚」の缶詰をデパートで買ってみました。そのまま食べれるかと思ったらどうもそうではなさそうで、パッケージの写真を真似て、ニンニクスライスと一緒にオリーブオイルで炒めてみました。


うーむ、見た目は寄生虫のようで何ともグロい…。妻は飛んで逃げて行きました。が、味は良かったです(ウナギの稚魚なのでそんなヘンなものにはなりようもない)。缶詰じゃないちゃんとしたフレッシュなやつを、いつか食べてみたいと思いました。


日本の成城石井などではよくスペイン産のアンキモの缶詰を売っていましたので、デパートで探したのですが、残念ながら見つからず。悔しいので代わりに、タラの肝の缶詰と、マテ貝の缶詰を買いました。まだ開封していません…。

以上、アンダルシアシリーズはこれでおしまいです。

ロイヤルバレエ:「不思議の国のアリスの冒険」再び2012/04/13 23:59

2012.04.13 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Alice’s Adventures in Wonderland
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Christopher Wheeldon (Choreography)
Lauren Cuthbertson (Alice) Federico Bonelli (Jack/The Knave of Hearts)
Edward Watson (Lewis Carroll/The White Rabbit)
Laura Morera (Mother/The Queen of Hearts)
Gary Avis (Father/The King of Hearts), Steven McRae (Magician/The Mad Hatter)
Fernando Montano (Rajah/The Caterpillar), Philip Mosley (The Duchess)
Ricardo Cervera (Vicar/The March Hare), James Wilkie (Verger/The Dormouse)
Kristen McNally (The Cook), Ludovic Ondiviela (Footman/Fish)
Dawid Trzensimiech (Footman/Frog), Emma Maguire, Leanne Cope (Alice's Sisters)
Michael Stojko (Butler/Excutioner)
Sander Blommaert, James Hay, Valentino Zucchetti (The Three Gardeners)
1. Joby Talbot: Alice’s Adventures in Wonderland

幸い出張は微妙にずれて、今度は家族と共に2度目の「アリス」です。王様、カエルを除き、前回とほぼ同じキャストですが、欲を言えば別のキャストでも見てみたかったかも。ただ、前回とは反対側に位置する席でしたので、別アングルを楽しめました。

主役二人の動きは前よりちょっと悪かったような。息が合わない箇所があり、リフトなどもだいぶ慎重になっていました。一方、マクレーは相変わらずの芸達者で、今日は思わず帽子を落としてしまうくらい、クレイジーにはじけていました。はじけると言えばハートの女王のモレラ。ますます吹っ切れて堂に入ったコメディエンヌぶりに、妻も娘も大笑い。やはりこの役、ファーストキャストのヤノウスキーの長身を前提に作られていると思うので、モレラはもうちょっと身長があれば、と思わないでもないですが、これはこれで、背が高いと思わせておいてカバーをあけたら小柄な女性、というギャップも面白いかも。何にせよ家族で気楽に楽しめるほのぼのプロダクションです。来シーズンもやるので、また是非見たいです(ロンドンにまだ居れば、ですが)。


今日も6番ひかるさん、7番ユフィさん。


ちょっとお疲れ?主役のペア。


マクレー、モレラの芸達者組は、怪演度合いが増しています。

ロイヤルオペラ:「連隊の娘」は笑いと涙の松竹新喜劇2012/04/21 23:59


2012.04.21 Royal Opera House (London)
Yves Abel / Orchestra of the Royal Opera House
Laurent Pelly (Original Director), Christian Rath (Revival Director)
Wendy Ebsworth (Interpreter to British Sign Language)
Patrizia Ciofi (Marie), Colin Lee (Tonio), Alan Opie (Sulpice Pingot)
Ann Murray (La Marquise de Berkenfeld), Donald Maxwell (Hortensius)
Ann Widdecombe (La Duchesse de Crackentorp), Jonathan Fisher (Corporal)
Luke Price (Peasant), Jean-Pierre Blanchard (Notary)
1. Donizetti: La Fille du Régiment

デセイとフローレスが出演した一昨年の公演は、一般発売日にはもう碌なチケットが残ってなくて断念しました。今年はそのリベンジでしたが、歌手陣がガラっと変わってしまって(正直ダウングレード)ちと残念。ロンドンブロガーの方々でもほとんど話題に上らないのは、皆さん2年前にきっちりご覧になっていて今年はパスされてるからなんですかねー。

こないだ数えてみたら、オペラ・バレエ鑑賞を合わせてようやく生涯100本目を超えたところですが(まだまだヒヨッコです…)、意外にもドニゼッティのオペラを生で見るのは初めてです。「連帯の娘」はロンドンに来るまで名前すら知りませんでしたが、笑いあり涙あり、ストレートでどこかほのぼのとしたストーリーは、まさに松竹新喜劇の世界。台詞に唐突に英語(しかもオリンピックなど時事ネタ)やドイツ語が混じってきて面食らいますが、それも爆笑を取る計算のうち。無邪気に笑える素敵なプロダクションでした。

マリー役のパトリツィア・チョーフィは特に出だしの調子が上がらず。高い声は出ているものの、いかにも声が弱く、オペラの歌になっていませんでした。風邪が治ったばかりのような、芯のない声でした。これはやっぱり、DVDで見たデセイにかなうものではありません。ただ妻に言わせると、「ジャガイモの皮むきはデセイより上手かった」。軍曹のアラン・オピーも、いい体格をしているわりには声は意外と細く、というか繊細で、ちょっと舞台の奥に引っ込むと途端に声が通らなくなるのはどうしたものかと。演技は面白かったですが。

このオペラの真の主役、トニオを歌ったコリン・リーは、たいへん立派な歌唱で感心しました。そりゃフローレスと比べたらスターのオーラは薄いし、ゴツめの身体は二枚目役には似合わないけど、ハイCはよく出ていたし、演技も達者でした。指揮者のイヴ・アベルは確か2年前のゲオルギューの「椿姫」で聴いていますが、オケの出来はまずまずといったところ。あの荒れがちなオケを手堅くまとめたという点では、よい仕事をしたと言えましょう。

今日の公演はBSLというイギリスの手話に通訳する女性が舞台袖にずっと出ずっぱりで、ほとんど全ての歌・台詞を身振り手振りで訳していました。まさかフランス語の歌を同時通訳でBSLに訳していたわけではなく、脚本はあったんでしょうが、長丁場に渡り全身を優雅にかつダイナミックに使った熱演で、今日一番大変だったのは間違いなくこの人でしょう。


拍手喝采、熱唱のコリン・リー。


チョーフィはどうしてもデセイと比べられてしまう宿命なので、ある意味気の毒。


カーテンコールでは手話通訳のウェンディさんも一緒に。

コンセルトヘボウ管/アーノンクール:「ミサ・ソレムニス」はマラソンに捧げる祈り2012/04/22 23:59


2012.04.22 Barbican Hall (London)
Nikolaus Harnoncourt / Royal Concertgebouw Orchestra of Amsterdam
Groot Omroepkoor (Dutch Radio Chorus)
Marlis Petersen (S), Elisabeth Kulman (A)
Werner Güra (T), Gerald Finley (Bs)
1. Beethoven: Missa Solemnis

ブログ友達のかんとくさんも完走されたロンドンマラソンが好天に恵まれて盛り上がっているその裏で、どこまでもインドア系の私はせっせとバービカンへ(というか、チケット買ったときはマラソンと同じ日とは知らなんだ)。地下鉄がちゃんと動いていてよかったです。

コンセルトヘボウを聴くのは3回目ですが、アーノンクールは初めて。マークしてなかったわけでもないんですが、彼の演奏会の選曲は基本的に私の趣味とはほとんど合致しないので、結局食指が伸びず。今回もどうしようか迷ったのですが、せっかくコンセルトヘボウを聴けるチャンスだから、正直馴染みのない「ミサ・ソレムニス」を果敢に聴くことにしました。

本日のプログラムは休憩なしの1曲のみ。もちろん名前はよく知ってるしCDもありますが、元々声楽曲も宗教曲も苦手な私は、普段この曲を聴こうと思う日はまずありません。ですので語れることがたいしてないことは最初に断っておくとして、まず、4人の独唱者たちのクオリティに感嘆しました。バスのフィンリー以外は初めて見る名前ですが、合唱に埋没しない力強い声を持つソリストを見事に揃えた、実力本位の布陣です。もちろん、アーノンクールが自分の顔で集めているんでしょう。超完璧なアンサンブルではなかったけれども、いちいち歌が際立っていました。アルトとバスは特に良かったです。フィンリーはずいぶん昔にブダペストでドン・ジョヴァンニを歌ったのを聴いているんですね、すっかり忘れていましたが。

ミサ曲ですが、ベートーヴェンだけあって響きと進行は極めてシンフォニック。時々「第九」を思い起こさせるフレーズも随所に出てきます。しかしこの曲のメインはあくまでコーラスであり、オケは伴奏です。アーノンクールは理論武装で身を固め、尖った脅かし系の音楽をやる人という先入観があったのですが、終始敬虔なムードでミサ曲らしい格調を保っていたのが、意外と言えば意外でした。曲の合間で時々長い休憩を取り、椅子に座るとコーラスも一斉に座り、指揮棒を構えるとさっと空気が変わり、奏者にみなぎる緊張感が凄かったです。天下のコンセルトヘボウに、尊敬と畏怖を持って迎えられているのがよくわかります。

楽器は見たところどれもモダン楽器で、ごく普通のコンサートオーケストラの編成でした。弦楽器は基本ノンビブラートでしたが、それでもこんなにふくよかな音になるのは、さすがコンセルトヘボウ。ティンパニは手回し式の小型で、ピリオド系らしく硬質の撥を使っていましたが、全体的には控えめの演奏です。最後の曲で、ティンパニの皮に布を乗せてミュートし、小太鼓のスティックを使ってロールするという、見たことのない奏法をやっていましたが、あれは何だったんだろう…。

途中合間をゆっくり取ったりもしていましたが、トータルでゆうに90分は超えていた、スローペースの演奏でした。最後の音がふわっと終わり、いつものようにフライングでブラヴォーやるやつが誰かいるだろうと思っていたら、今日は珍しく、指揮者がゆっくりと腕を下ろし切るまで誰も拍手をしませんでした。今の日本ならこれがデフォルトでしょうけど、ロンドンにはあるまじき光景です。やっぱりロンドンでも、アーノンクールを聴きに来ようなどという聴衆は「ウルサガタ」の部類なんですねえ。興味深い発見でした。

なお、終演後、アーノンクールに対して王立フィルハーモニー協会のゴールドメダル授与式がありました。この栄誉は自分の力ではない、作曲家、演奏家の仕事があってこそのものなので、それらの人々と栄誉を分かち合いたい、というような殊勝なことをスピーチしていました。彼ももう82歳、いつまでもアンチテーゼの人かと思っていたら、すっかり「巨匠」になられてしまって…。


遠かったのでボケ写真のみでした。すいません。