ロイヤルバレエ・ライブシネマ:ロミオとジュリエット2015/11/08 23:59


2015.11.08 Live Viewing from:
2015.09.22 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Romeo and Juliet
Koen Kessels / Orchestra of the Royal Opera House
Kenneth MacMillan (Choreography)
Sarah Lamb (Juliet), Steven McRae (Romeo)
Alexander Campbell (Mercutio), Gary Avis (Tybalt)
Tristan Dyer (Benvolio), Ryoichi Hirano (Paris)
Christopher Saunders (Lord Capulet), Elizabeth McGorian (Lady Capulet)
Bennet Gartside (Escalus), Lara Turk (Rosaline)
Genesia Rosato (Nurse), Sian Murphy (Lady Montague)
Alastair Marriott (Friar Laurence, Lord Montague)
Itziar Mendizabal, Olivia Cowley, Helen Crawford (Harlots)
1. Prokofiev: Romeo and Juliet

昨年もギリギリまで興業体制がはっきりせず、やきもきさせられたROHのライブシネマシーズンですが、今年はとうとう開幕に間に合わず、その代りというか、本国上演の24時間以内に1度きりの上演という今までの「準ライブ」方式ではなく、METのように2か月ほど前の演目を1週間上映するスタイルになりました。見に行けるチャンスが増えるという意味では一回ポッキリよりむしろ良いかもしれません。ただし劇場数は激減し、千葉県の上映がなくなってしまったので、日曜日に新日本橋のTOHOシネマズまではるばる家族で出かけました。周辺県からも集まったためか、土日の上映回は早々に満席になっていました。

以前は本国の書式を踏襲した配役表が入館の際配られていましたが、今回は幕間のインタビューで字幕が出ない部分の対訳がチラシとして配られました。元々台本にないインタビューのやりとりは翻訳が間に合わないから字幕が入らないのだと思っていましたが、たっぷり時間はあったはずの今回も途中字幕が抜けていたのは、どうやら契約の問題だったもようです。

昨年見た複数の千葉県の上映館と比べ、TOHOシネマズ日本橋はスクリーンの大きさ、音響共に圧倒的に良かったです。その分オケのアラがよく聴こえて、特にトランペットは相変わらずひどかったけど、ロンドンで聴いていた時も、まあだいたいいつもこんなもんだったかなと。

このマクミラン版ロメジュリは、今でも妻が自宅で繰り返しDVDを見ているのでいいかげん食傷気味なのですが、それでも大スクリーンで見ると、緻密に練り上げられ、歴史のふるいにかけられたその舞台はやっぱり感動的。何度も見たマクレーのロメオ、始めて見るサラ・ラムのジュリエット、どちらもこの上ない安定感で、パーフェクトと言うしかない素晴らしい演技でした。特に終幕でラムの凛とした決意の表情から、最後に爆発する悲痛な叫びまでの感情表現は渾身の名演技で、わかっちゃいるのに不覚にもウルっと来てしまいました。

ギャリーさんのティボルトは以前も見ましたが、さらに渋みが増し、哀愁が漂う大人の演技です。動きの激しい役はもうあまりやってないと思いますが、衰えを見せない剣さばきは流石。キャンベルのマキューシオは道化が足りず、ちょっと真面目過ぎでしたか。ベンヴォリオは初めて見る人です。悪友3人の息はピッタリで、ロメオの引き立てに徹した感じです。一方、強烈に違和感を感じてしまったのは、平野さんのパリス。せめてこの中なら、金髪に染めて欲しかったです。

ロイヤルバレエ・ライブビューイング:リーズの結婚2015/05/06 23:59


2015.05.06 Live Viewing from:
2015.05.05 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: La Fille Mal Gardée
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (choreography)
Natalia Osipova (Lise), Steven McRae (Colas)
Philip Mosley (Widow Simone), Paul Kay (Alain)
Christopher Saunders (Thomas), Gary Avis (village notary)
Michael Stojko (cockerel, notary's clerk)
Francesca Hayward, Meaghan Grace Hinkis,
Gemma Pitchley-Gale, Leticia Stock (hens)
Christina Arestis , Claire Calvert, Olivia Cowley,
Fumi Kaneko, Emma Maguire, Kristen McNally,
Sian Murphy, Beatriz Stix-Brunell (Lise's friends)
1. Ferdinand Hérold: La Fille Mal Gardée (orch. arr. by John Lanchbery)

半年ぶりのROHライブビューイングは古典バレエの名作「リーズの結婚」。原題は仏語で“La Fille Mal Gardée”(下手に見張られた娘=しつけの悪い娘)、英語では“The Wayward Daughter”(御しがたい娘)というタイトルですので、邦題で通用されている「リーズの結婚」は、以前から違和感を持っていました。最後のシーンが「結婚」という印象はなく、せいぜい「婚約」であろう、ということと、リーズとコラスの結婚に向けた道のりが話の本筋ではない(実質的な障害はほとんどなく、ずっといちゃいちゃしているだけ)、というのが理由です。「じゃじゃ馬娘」とか「おてんばリーズ」のほうが邦題として適当ではないかしらん。

過去ROHで観た2回はいずれもマクレー、マルケスの当時の定番ペアでしたが、最近マクレーはラムやオーシポワにペアを組み替えられたようで(近年は隈なくキャスト表を見ていないので、間違っていたらごめんなさい)、今日のリーズはオーシポワ。彼女をロンドンで観たときは、ボリショイ(コッペリア)、ペーター・シャウフス(ロメジュリ)、マリインスキー(ドンキホーテ)と毎回違うカンパニーでしたが、ロイヤルで踊っているオーシポワを観るのは初めてです。

過去に見た印象通り、今日の彼女も相変わらず躍動感が凄い。回転の加速とか、バランスの揺るぎなさとか、アスレチックな動きは抜きん出たものがあります。それだけで十分金を取れるダンサーであることは間違いない。一方、かつて見たマルケスを思い出しながら第1幕を見ていてすぐに感じたのは、この人、足技は凄いけど、手の動きがしなやかさに欠け、結果として全身の造作がぎこちなく見える場面が少々。実は意外と身体が硬いのでは、と思いました。また、マクレーと息を合わせて見栄を切ってほしいほんの一瞬で、客席への一瞥もなく、何だか自分の演技に没頭し過ぎている余裕のなさも垣間見られました。このバレエは小道具がたくさん出てきますが、長いリボンであや取りのように格子模様を作ったあとで、ほどくとリボンの中央に結び目が残ってしまうというミスも(まあこれはどちらのせいかわかりませんが)。資質的にはマクレーとはキレキレどうしで相性が良さそうにも思えますが、特にこの演目では、踊りの鋭さはなくとも、ラブラブ感をぷんぷんと匂わせていたマルケスに分があったでしょう。

幕間にビデオが流れた司会のダーシー・バッセルとバレエコーチのレスリー・コリア(我が家にあるDVDのリーズはこの人が踊っていました)の対談で、コリアが「オーシポワは技術的には完成されたものを持っているが、英国式のポール・ド・ブラ(腕の動かし方)を習得するのに苦労している」というようなことを言っていて、自分の感覚があながち外れていないことを確認できました。言い換えれば、こういう苦手な(というか向いてない)役をも乗りこなせば、オーシポワは無敵のプリンシパルになれるのではないでしょうか。

マクレーさんは今回も余裕で180度超の開脚を見せ、この人は相変わらず凄いです。マクレーファンの妻も大満足。何も言うことはございません。未亡人のフィリップ・モーズリーは、前に観たときも全てこの人が同じ役でした。木靴の踊りのキレはもう一つで(DVDで見る昔の人のほうが凄いです)、そのうちマクレーさんがこの役をやってくれないかなと真面目に思ってます。

幕間のオヘアへのインタビューでは、次シーズンのROHライブビューイングのバレエは、ロメジュリ(キャストはペネファーザーとラム)、くるみ割り人形、ジゼル、フランケンシュタイン(スカーレットの新作)、アコスタのミックスビル、アシュトンのミックスビルと、6本も予定されていることが告げられました。多分猟奇的なものになるであろうスカーレット新作は、是非見てみたいかな。その前に、来シーズンもライブビューイングを近場で上映してくれることをただただ祈るばかりですが。

MET Live in HD:イオランタ&青ひげ公の城2015/03/28 23:59

2015.03.28 Live Viewing in HD from:
2015.02.14 Metropolitan Opera House (New York City)
Valery Gergiev / Orchestra of the Metropolitan Opera
Mariusz Treliński (production)
Anna Netrebko (Iolanta-1), Piotr Beczala (Vaudémont-1)
Aleksei Markov (Duke Robert-1), Ilya Bannik (King René-1)
Elchin Azizov (Ibn-Hakia-1)
Nadja Michael (Judith-2), Mikhail Petrenko (Bluebeard-2)
1. Tchaikovsky: Iolanta (sung in Russian)
2. Bartók: Bluebeard's Castle (sung in Hungarian)

ライブビューイングはこれまでロイヤルバレエを何度か見ましたが、METは初めてです。遠く離れた日本でも前夜の公演を中継するので本当のライブに近いROHと違って、METは1ヶ月以上前、バレンタインデーの収録でした。司会のジョイス・ディドナートも言ってたように、バレンタインにはあまり見たくない演目だとは思います。


前半の「イオランタ」は、チャイコフスキー最後のオペラで、初演は「くるみ割り人形」と2本立てだったとか。一幕のコンパクトな仕上がり、円熟極まった無駄のない構成、ひたすら美しいチャイコフスキー節、それでも彼のオペラとしては「スペードの女王」「エフゲニー・オネーギン」ほどのメジャーになり得なかったのは(METでも今回が初上演だそう)、おとぎ話とはいえ底の浅いストーリーのせいでしょうか。ポーランド国立大劇場の芸術監督でもあるマリウシュ・トレリンスキの演出はシンプルかつモダンですが、見たところシンボリックな作りでもなく、意味深な感じはしませんでした。しかし見ていくと存外凝った演出で、レネ王を除くほぼ全員が衣装の早変わりをするし、イオランタ姫に至っては一幕の中で2回も衣装を変え(LEDを仕込んだ最後のキラキラウェディングドレス含め、どれも胸の谷間強調系のオヤジキラードレスでした…)、細かいところでいっぱいお金がかかっていそうです。レネ王だけずっと軍服で通してましたが、彼だけ代役だったので、もしかして衣装が間に合わなかったのかも。

ネトレプコはすっかり恰幅がよくなりました。可憐なお姫様役はそろそろ無理があるかも。ただし歌唱は華と声量にますます磨きがかかって、母国語のオペラということもあり、有無を言わさぬ貫禄がありました。彼女に限らず歌手陣は皆さん本当に穴なしで素晴らしく、さすがMET、と言わざるを得ません。ベチャワはあまり縁がなく、2007年のチューリヒ歌劇場日本公演「ばらの騎士」で第一幕に出てくる空虚なテナー歌手(この役はけっこうスターがカメオ的に歌うこともあるのですが)を聴いたくらいでしたが、今まさに円熟期を迎えようとしている正統派テナーの丁寧な歌唱は、衣装はともかくオーセンティックな芸術的欲求を十二分に満たしてくれるものでした。病欠タノヴィツキーの代役でレネ王を歌ったイリヤ・バーニクは、名前と風貌が記憶の片隅にあったので記録を探してみたら、2012年にLSOでストラヴィンスキーの音楽劇「狐」を聴いた時、「山羊」役だった、まさに風貌が山羊のバス歌手がその人でした。王様の貫禄まるでなしなので外見は全くミスキャストなんですが、歌は重心が低くたいへん良かったです。

インターミッションは出演を終えたばかりのネトレプコ、ベチャワ、ゲルギエフへバックステージでインタビューを行うわけですが、ディドナートが、まあようしゃべること。この人は本当に司会者向きです。ネトレプコは出番が終わった開放感からか、やけにハイテンションで、「バレンタインデーに何でこんなの見てるの?早く家に帰って愛を確かめましょう!」などとのたまい、あわてたディドナートが「いやいや最後まで見ていって」と思わずフォローする微笑ましい場面も。ゲルギーの堅めのインタビューのあと、突然フローレスが登場し、二人が出演する次のライブビューイング「湖上の美人」の宣伝もちゃっかり。一番最後にはMET賛助会員の寄付募集までアナウンスして、この抜け目ない番組構成はROHにはなかったもの、まさにアメリカ式ですなー。


後半の「青ひげ公の城」が、もちろん今日の私の目当てだった訳です。冒頭の吟遊詩人の口上は、英語圏だと最近はペーテル・バルトーク訳の英語版を使うのが一般的かと思いきや、久々に聴いたハンガリー語のオリジナル。ヴィンセント・プライスばりにおどろどろしいホラー映画のナレーションだったので、これでこの先の雰囲気はだいたい読めてしまいました。演出は半透明スクリーンに映像を映した特殊効果を多用しており、象徴的よりも直接的な表現を志向しています。ただし、最初の拷問部屋で壁に血が付いていたくらいで、スプラッター度はあまりなし。普通と違うのは、ずっと夜というか闇の世界に留まっており、第5の部屋、青ひげの領地も大木の地下茎のようなものがぶら下がる地下世界。最後は、土に埋められようとしているパーティードレスの女(これはマネキン)の後ろには、長い黒髪の「貞子」が5人もわらわらと…。陰々滅々とした終わり方で、閉幕後の場内はシーンと静まり返っていました。せっかくのバレンタインにこれを見て帰ったNYの人はたいへん御愁傷様です。この企画、オペラの演目の順番は逆でも良かったのではないかなあ。「闇から光」と「闇からさらに深い闇」の対比でまとめたかったのだとは思いますが、順番を逆にしては全く意味をなさない、とも思えないし。

歌手はどちらも初めて聴く人で、ユディット役のナディア・ミカエルはドイツ出身の金髪スレンダーソプラノ。ROHで歌った「サロメ」がDVDになっています。ホラー映画の常套として金髪グラマー系はたいがい殺人鬼のエジキになるわけですが…。しかもミカエルはサロメ歌手だけあって露出はどんとこい系、第3の宝物部屋では何故か入浴シーンになって自慢の?ボディーを晒し、最後の部屋ではシミーズ一枚で雨に濡れて○っぱいもスケスケ(せめてカーテンコールはガウンくらい着せてあげなよ…)。文字通り「身体を張った」熱演は素晴らしいものでしたが、歌は、先のネトレプコ達と比べてしまうと、抜群とは言えず。ハンガリー語の発音がちょっと不自然なのも気に触りました。対する青ひげ公のミハイル・ペトレンコは名前からしてロシア人。この人も熱唱度では負けてないものの、ちょっと熱入りすぎで、キャラクターがミスマッチです。とは言え「青ひげ公の城」単独で評価しても歌手は粒ぞろいでお金がかかった舞台なのは疑いなく、どんなオペラを持ってきてもゴージャスに仕上げてしまうMETの財力はやっぱり凄い。いつの日かMETの劇場の良席で、珠玉の生舞台を見てみたいものだという、人生の目標がまたできてしまいました。

ナショナル・ギャラリー 英国の至宝2015/02/14 23:59

守屋さんのブログでちらっと紹介されていたのを見て気になっていたのですが、先日ふらっと見てまいりました。

渋谷文化村の「ル・シネマ」は128〜152席の小さな映画館ですが、それでもぎっしり満員御礼だったのにはちょっと驚きました。上映時間をよくチェックしないで、せいぜい2時間くらいだろうと思っていたら3時間以上の長さで、その後予定が入っていたので最後の方は内心かなり焦りながら見ていました。

タイトルの通り英国が世界に誇る美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーに関するドキュメンタリーで、ダ・ヴィンチ展、ターナー展、ティッツィアーノ・メタモルフォーシスといった、ちょうど私が住んでいたころやってた企画展の様子が時系列で挿入され、たいへん懐かしかったです。とはいえこのドキュメンタリー映画がフォーカスするのはギャラリーのコレクションではなく、そこで働くスタッフです。数多く挿入されるツアーガイド、カルチャースクール、学生の課外授業などのシーンで、学芸員が情熱的に語りかけるウンチクの数々はどれも奥深くて「へぇ〜」と感心するばかりで、芸術的好奇心を満たしてくれるものですが、話の内容もさることながら、仕事に没入する学芸員それぞれの人間味こそがこの映画の主役であると感じました。

ロンドンに住んでいても普段見ることができない裏方シーンも興味深いものばかりで、額装へのこだわりとか、途方もない時間と労力をかけた修復がわずか15分で落とせる(原状復帰できる)作りになっているとか、トラファルガー広場のチャリティイベントに協力すべきかどうかというスタッフ会議の議論も面白かったです。トラファルガー広場は頻繁にイベントをやっていたので、その度にギャラリー正面入口へのアクセスが制限され、実は(イベントによっては)いい迷惑だったわけですね。

巨匠フレデリック・ワイズマンの映画を見るのは多分初めてですが、BGMもナレーションもなく、ただリアルの断片を紡いでいくぶっきらぼうな作りは、正直気持ちが乗り切れませんでした。断片は各々面白いんだけど、どうせ「オチ」はないなと分かった後は、その長さに途中からちょっとうんざりしてしまいました。1本のわかりやすいテーマがわかりやすく通ってくれた方がすんなりと身体に入ってくるんでしょうけど、もちろん、そんなハリウッド的映画作りに背を向けている監督なんですよね。繰り返し見れば、その度に新しい発見がありそうな映画です。

東京は3月6日までの公開です。その他の地域は映画の公式ページでご確認ください。
http://www.cetera.co.jp/treasure/

下は2012年のお正月、ダ・ヴィンチ展のときの写真です。



ロイヤルバレエ・ライブビューイング:眠れる森の美女2014/03/20 23:59


2014.03.20 Live Viewing from:
2014.03.19 Royal Opera House (London)
Valery Ovsyanikov / Orchestra of the Royal Opera House
Marius Petipa (Choreography)
Frederick Ashton, Anthony Dowell, Christopher Wheeldon (Additional Choreography)
Sarah Lamb (Princess Aurora), Steven McRae (Prince Florimund)
Christopher Saunders (King Florestan XXIV), Elizabeth McGorian (His Queen)
Kristen McNally (Carabosse), Laura McCulloch (Lilac Fairy)
Yuhui Choe (Princess Florine), Valentino Zucchetti (The Bluebird)
1. Tchaikovsky: The Sleeping Beauty

昨年末の「くるみ割り人形」に続き、ロイヤルバレエのライブビューイングを見に行ってみました。妻のお目当てはもちろんマクレー様。2011年にオペラハウスで見た際はマクレー&マルケスのゴールデンコンビだったんですが、芸術監督がオヘアに変わってからマルケスはちょっと冷遇されているようで、栄えあるライブビューイングのオーロラ姫はクール・ビューティーのサラ・ラム。マクレーとのペアは、どちらも本当に佇まいの美しい、ある意味よく似たお二人なのですが、あまりにもクールで完璧過ぎて、暖かみに欠ける気がしました。たとえローズアダージョが少々危うくても、マルケスのあの明るさと過剰な顔芸が、実はマクレーとの相乗効果でお互いよく引き立っていたんだな、と今更ながら思いました。そう言えば、サラ・ラムも今回のローズアダージョは意外と余裕ないなと思ったのですが、そんなことより、「不思議の国のアリスの冒険」を見て以来、ローズアダージョの音楽を聴くとハートの女王の爆笑パロディがどうしても瞼に浮かんできます、どうしてくれよう。

ライブビューイングの司会進行は前回と同じく元プリンシパルのダーシー・バッセル。休憩時のオヘアのインタビューでは日本語字幕がなくなるのも前と同じなので、ここだけは台本なしでやってるんでしょうね。ライブビューイングの映画館は千葉県の田舎でも6割くらいの客入りで、ほとんど女子。バレエスクールから団体で来ているっぽい集団もいましたが、引率の白人先生以外は皆女の子で、なるほど、日本ではかのように男性バレエダンサーの層は薄いのだな、とあらためて認識しました。次のライブビューイングは「不思議の国のアリスの冒険」のウィールドン/タルボットのタッグが手がける新作「冬物語」。ロイヤルの新作が日本に居ながらリアルタイムで見られる機会などそうそうないし、プリンシパルをずらりと揃えたキャスティングも非常に楽しみです。

ロイヤルバレエ「くるみ割り人形」のライブビューイング2013/12/13 23:59


2013.12.13 Live Viewing from:
2013.12.12 Royal Opera House (London)
Tom Seligman / Orchestra of the Royal Opera House
Peter Wright (choreography, production & senario)
Marius Petipa (original scenario)
Laura Morera (The Sugar Plum Fairy), Federico Bonelli (The Prince)
Gary Avis (Herr Drosselmeyer), Francesca Hayward (Clara)
Alexander Campbell (Hans Peter/The Nutcracker), Yuhui Choe (Rose Fairy)
1. Tchaikovsky: The Nutcracker<BR>

初ライブビューイングです。日本に居ながらもほぼリアルタイムでロイヤルバレエが見れる貴重な企画だし、昨年の「くるみ割り人形」はブダペストで見たのでロンドンでは見ず、今年は見に行く予定がなく年末恒例の「くるみ割り人形」が途絶えてしまうところだったので、ちょうどよい機会でした。

ライブとは言っても時差があるので実際は中継録画ですが、前夜のパフォーマンスを1回限りの上映ですから貴重なワンチャンスです。19時15分に上映開始ですが、ダーシー・バッセルを司会に据えて、15分ほど前ふりが続きます。日本語字幕付きでギャリーさんの作品解説や、バレエスクールの様子、オリジナルの振付け師ピーター・ライトがレッスンを見に来たシーンなど、なかなか興味深い映像でした。

その後カメラはオペラハウスのオーディトリウムに切り替わり、指揮者が登場してようやく開演です。ライブビューイングの日はさすがにオケも手堅い演奏をしていましたが、これは映画館のせいなんでしょう、音響があまり良くなかったので音は不満でした。まあ、もちろん生と比べるのは無い物ねだりですが…。一方、バレエはだいたいオーケストラストールかストールサークルの最前列で見ることが多かったので、普段見たことがなかったアングルのシーンがいっぱい見れたのは新鮮でした。ただ、好きなときに見たいところをオペラグラスでアップで見る、というのができないのはちょっともどかしかった。

第1幕が終わるとちゃんと20分間の休憩があり、またバッセルの司会でチェレスタ奏者とケヴィン・オヘアへのインタビューがありました。このインタビューのところだけ、ふと気付くと字幕が出てなくて、見に来ていた大勢の子供さんは戸惑ったのではないかな。インタビューが終わって第2幕のあらすじに戻るとまた字幕が復活していたので、最初から台本で決まっている部分だけ、各国語の字幕が用意されているんでしょう。

本日のプリンシパルはモレラとボネッリ。モレラは上手い人なんですがクセのある役専門なので、シュガープラムにはちょっと違和感が…。身体も筋肉質で重量感があり、リフトではボネッリの顔が歪んでましたので(こういうのがアップになるから面白い、いやいや、辛い)実際重いんでしょう。花のワルツのユフィちゃんは相変わらず可憐です。足ワザの技巧は大したものだと素人目にも思いましたが、モレラと比べたらやっぱりスケール感がないなあと、前にも思った感想をまた感じてしまいました。平野さん、小林さん、高田さんも健在のご様子。クララを踊ったフランチェスカ・ヘイワードという人は記憶になかったんですが、ロイヤルのバレエスクールを出たばかりの若手とのこと。若いわりには女の色気があって、やけに艶っぽくなまめかしいクララが面白かったです。是非、お色気路線を突っ走って欲しいと思います。

つい半年前まで日常あたり前に目の前に広がっていた舞台が、もうスクリーンの向こう側、はるか遠くにしかないんだなあとしみじみ思い、ちょっと淋しくなりました。何にせよ、日本に居てもこうやって最新の舞台を見れるというのは有り難いことです。また行きたいと思います。ROHライブビューイングの今後の予告で、3月の「眠れる森の美女」のキャストにマクレー様の名前を見て、妻の目が眼鏡の奥でキラリと光ったのを、私は見逃しませんでした…。

フィリップ・グラス75歳記念演奏会:コヤニスカッツィ2012/12/14 23:59


2012.12.14 Barbican Hall (London)
Philip Glass at 75: Koyaanisqatsi
Michael Reisman / Britten Sinfonia
Godfrey Reggio (director), Jeremy Birchall (bass)
Philip Glass Ensemble
Trinity Laban Chamber Choir
Stephen Jackson choir director
1. Phillip Glass: Koyaanisqatsi (1982) (Live film screening)

昨年のスティーヴ・ライヒに続き、今年はフィリップ・グラスの75歳記念イベントがバービカンで企画されました。ミニマルミュージックの両雄も、相次いで「後期高齢者」になられたわけですなー。フィリップ・グラスというと私の思い出は、高校生のころ「SONY MUSIC TV」という洋楽(一部邦楽も)ビデオクリップをひたすら流すという深夜番組が始まりまして、毎週欠かさず見ていたのですが、そこでフィリップ・グラス・アンサンブルのインスト曲(曲名忘れました)のビデオを見たのが初めての出会いでした。従って当時はクラフトワークかYMOみたいなテクノポップバンドの一種かなあと思っていて、グラスの本職は現代音楽の作曲家ということを知るのはもっと後になってからでした。しかしそれ以降特に追いかけたわけではないので、CD含めグラスの曲は、「あんな感じの曲」というイメージは頭の中にあるものの、ちゃんと通しで聴いたことがありません。

今日のコンサートは、1982年にグラスが音楽を付けたドキュメンタリー映画「コヤニスカッツィ/平衡を失った世界」を、ブリテン・シンフォニアとフィリップ・グラス・アンサンブルの生演奏をバックに上映するという趣向です。私は初めて知ったのですがこの映画、そこそこ有名なカルトムービーらしい。チケットは早々にソールドアウト、普段の演奏会とは客層が違う感じでした。映画の内容は、台詞・ナレーションは一切なしでアメリカの大自然や都会の風景をグラスの音楽に乗せて約1時間半の間延々と見せていくだけです。もちろん超簡単に言えばそうなのですが、最初砂漠や峡谷の雄大な自然風景から始まって、農業や鉱業といった人間の営みが徐々に見えてきて、後半は大都市の喧騒を猛スピードの早回し映像で強調し、最後は衛星ロケットの空中爆発(よく似ているので一瞬スペースシャトル・チャレンジャーの映像だと私も思いましたが、よく考えたらこの映画はチャレンジャー事故より前なのでした)からエンジンが焼けながら落下していく様子を黙々と追いかける映像で締めくくる、といういかにも含みを持った構成。作品の意味は見る人に委ねられているとは言え、テクノロジー批判の匂いは多分誰もが感じることでしょう。

極めて大雑把に言えば、リズム反復中心のライヒに対比して、グラスの音楽はアルペッジョのスケール反復(リズムは六連)というイメージです。和声と旋律的には全くの調性音楽なので耳にも脳にも優しい。最初のほうのスローな曲調に雄大な自然がゆったりと流れる映像は、あらがい難く眠気を誘いました。一方で終盤の低速撮影フィルムの早回しによるめちゃくちゃせわしない大都市文明の映像は、これまた頭がぼーっとしてくるトランス効果があり、どうしても視覚と聴覚両方からどっぷりと絡めとられてしまった様子です。ミニマル系を一歩引いて聴くというのはなかなかに難しい。映画としては、もちろん音楽も含めて、何だか病みつきになりそうな危険を感じました。冒頭と最後でバスが「こ〜や〜に〜す〜か〜ち〜」と、お経をつぶやくように単音で低く歌うのがいつまでも耳に残ります。この映画には「ポワカッツィ(1988)」「ナコイカッツィ(2002)」という続編もあって、合わせて「カッツィ三部作」と呼ばれるそうで、こうなったら他の二つも全部見てみます。


The Adventures of Tintin 3D2011/10/30 23:59

娘が原作漫画のファンなので、近所のvueへ見に行ってみました。封切りしたばかりなので、いつもはがらんがらんの映画館もそこそこ席が埋まっていました。こちらの映画館は日本のようにバカみたいな混雑がないのがいいです。

スピルバーグとピーター・ジャクソンの共同製作、スピルバーグ初のアニメ監督作品との鳴り物入りでしたが、すいません、話の展開がヌルいので、正直、途中寝てしまいました。内容はまさに「無茶をするインディ・ジョーンズ」。インディもたいがい荒唐無稽な無茶をしていますが、モーションピクチャのアニメ映画なのでスタントマンの命を気にせずいくらでもエスカレートさせられるわけです。しか、それがあだとなって、何だかゲームの画面を見ている感覚が拭えませんでした。逆に、生身の身体であれだけの撮影をしたハリソン・フォード(およびスタントマン)の凄さを再認識させられました。

邦題は「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」、日本では12月公開らしいです。CGアニメとゲーム世代の子供は大喜びでしょう。

UK Amazonで日本映画2011/09/07 07:41

もう数ヶ月前の話になりますが、Amazon.co.ukをつらつらと見ていて、日本映画がけっこうあるのに気付きました。かつて熱狂した映画が£5くらいで売っているのを見て思わずポチポチっと買ってしまったのが下の二つ。



狙ったわけではありませんが、どちらも高倉健主演、佐藤純彌監督の作品でした。言わずもがなですが、後者は角川映画第3弾の「野性の証明」です。

一気に見てしまいましたが、いやー、面白かった。あらためて見てみると「野性の証明」はありえねーだろーという展開の連続で、ストーリー完全に破綻してますが、勢いだけで一気に最後まで見せてしまいます。それに、出てくる役者さんのかっこいいことといったら!高倉健はもちろんのこと、三国連太郎、夏八木勲、田村高広、松方弘樹、梅宮辰夫、成田三樹夫、館ひろし、丹波哲郎、寺田農、皆それぞれ役どころをがっつりとつかみ、出番の長い短い関係なく、この人以外に想像できないと思えるほどのハマリっぷり。よくもまあこんな映画に(失礼!)真顔でここまで仕事ができるもんだと感心しました。よっぽどギャラが良かったんでしょうか。

「新幹線大爆破」は、欧米ではアクションスターとして超有名な「ソニー千葉シリーズ」の1本です。アメリカやフランスで公開された短縮板でなく、オリジナル152分の尺で収録されているのが嬉しい。この作品、確かに千葉真一は出てますけど、新幹線の運転手というアクションの一切ない地味な役どころ。でも、芸の濃いい人々の狭間で、彼でなければ出せない存在感はビンビン立ってます。こちらは何度見ても掛け値なしに面白い映画です。

Kung Fu Panda 2 3D2011/06/28 07:34

娘との約束だったので、仕事帰りの夕方に一緒に見に行きました。

ハリウッドの3D CGアニメは見るたびに躍動感、浮遊感が凄さを増していて、技術の進歩は全くたいしたものです。それに対して、プロットは全然進化してません。アクションは香港カンフー映画へのオマージュ、との解釈も可能なのかもしれませんが、ストーリーがあまりに予定調和的でヌルいです。エンディングでパート3への布石を打っていたようですが、Dream Worksなんだから、次はもうちょっとヒネッた展開を期待します。

見ている間は気付きませんでしたが、エンドクレジットを見ると声優陣がとんでもないです。主役のジャック・ブラックはともかく、ダスティン・ホフマン、アンジェリーナ・ジョリー、ゲイリー・オールドマン、ジャッキー・チェン、ルーシー・リュー、ジャン=クロード・ヴァン・ダムなど蒼々たる顔ぶれ。もしこれだけ集めて実写映画を撮るとしたら相当たいへんだろうなと思います。