日本フィル/インキネン/神尾真由子(vn):アルプス交響曲、他2024/11/24 23:59



2024.11.24 サントリーホール (東京)
Pietari Inkinen / 日本フィルハーモニー交響楽団
神尾真由子 (violin-1)
1. グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲 イ短調
2. R.シュトラウス: アルプス交響曲

元々予定していなかったのですが、時間ができたので急遽行ってみました。日曜のマチネということで、満員札止めではないものの客入りは上々。なんだかんだでアルプス交響曲の生演は10年ぶり。インキネン/日フィルを聴くのも10年ぶりでした。

本日のプログラムは、1864年生まれ、今年で生誕160年、没後75年のリヒャルト・シュトラウスと、その1歳年下のグラズノフという、おそらく接点はほぼなかったであろう同世代作曲家の組み合わせです。グラズノフといっても、パッと思い浮かぶ音楽はなく、過去には「ライモンダ」第3幕などのバレエ作品をロイヤルバレエで観たくらいの、馴染みが薄い作曲家です。諏訪内晶子さん以来日本人として二人目のチャイコフスキー国際コンクール優勝者である神尾真由子さんを聴くのは初めてでしたが、ファンの人には申し訳ないものの、最初の一音からして自分にはちょっと受け付けない類のヴァイオリンでした。誤解を恐れず思ったことを言うと、音が汚く、荒っぽい演奏。解釈でそのように装っていることでもなく、途中のカデンツァなどを聴くと確かに技巧的に長けているのは認めますが、全然好みではありませんでした。ということで、残念ながらパスです。アンコールはパガニーニ「24のカプリース」の有名な終曲を弾き切って、ドヤ顔。うーむ、ますます何だかなあ…。ベレゾフスキー(この人もチャイコフスキー国際コンクールの優勝者でしたね)を最初に聴いた時と同じようなモヤモヤ感が残りました。

メインのアルプス交響曲は、私の大好物である打楽器大活躍の大編成曲ですが、オケの地力がモノを言う曲だけに、日本のオケでは物足りない思いをするに違いなく、結果として10年も敬遠していたのも「わざわざ出かけていってがっかりしたくない」のが大きな理由でした。キャリアのハイライトがバイロイトで「指輪」を振った実績であろうインキネンなら、かつての手兵を率いてハッタリでも何でも大いに劇的に仕上げてくれれば、という期待を持って買ったチケット。演奏開始前、えらく長い時間をかけて静寂を待ってから指揮棒を振り始めたインキネン。冒頭から管がバラっと入ってしまって、繊細とは言えない弱音の出だしにちょいと不安がよぎりましたが、インキネンは気にせずひたすら丁寧に、ゆっくりと音を紡いでいきます。全部で60分近くはかかっていたのではないかと感じましたが、こういうアプローチのときはなおさらオケがバテて息切れしてしまうのが常。しかし今日は金管の頑張りが良く、山頂のクライマックスまでは何とか音圧を維持し、持ち堪えていました。その後、集中力が切れたのか、ちょっとヤバい箇所がちらほらと出てきたものの、嵐の場面で巻き直し、後半の金管の難所である弱音高音を乗り切ると、最後は冒頭の再現のような、あまりデリケートではない静寂で幕を閉じました。うーむ、やはりこういうところは、過去に聴いたウィーンフィルやBBC響の惚れ惚れする弱音にはかなわないなあとは思いつつも、全体的にはメリハリが効いて見通しの良い、普通に良い演奏でした。カーテンコールでインキネンが最初に指名したのが、ホルンとトランペットだったのも納得。そう言えば、日フィルはけっこう外国人とおぼしき奏者が多いと言う印象です。個人的には、サンダーシートが図体の割にあまり響かなかったのが少し残念でした。


おまけ。アークヒルズもすっかりクリスマスの装いです。


武蔵野音大管弦楽団:三角帽子、サン=サーンス「オルガン付き」2024/11/26 23:59

2024.11.26 東京オペラシティ コンサートホール (東京)
現田茂夫 / 武蔵野音楽大学管弦楽団
長嶋穂乃香 (mezzo-soprano-1)
斎藤茉奈 (organ-2)
1. ファリャ: バレエ音楽《三角帽子》全曲
2. サン=サーンス: 交響曲 第3番 ハ短調Op.78 「オルガン付き」

こちらも元々予定にはなかったのですが、選曲に惹かれて行ってみました。オペラシティのコンサートホールは今年2回目ですが、ここのパイプオルガンはまだ聴いたことなかったなあ、というのも理由の一つです。

武蔵野音大は学生時代に何人も知り合いがいたのですが、オケは初めて聴きます。学生オケはプロと比べるともちろん技術レベルは及ばないところがあるものの、しっかりと練習を積み重ねていて、概ね演奏が丁寧なので、技量よりも一期一会の熱意と勢いが感動を生むこともあるから面白いです。ましてやここは音楽を専攻する人たちの集まりなので、技術レベルもなかなかのものでした。

前半の「三角帽子」は、バランス的にはブラスがちょっと馬力不足は否めないものの、弦、木管、打楽器は文句のつけようがない立派な演奏。メゾソプラノは、舞台袖、コーラス席など通常の指揮者の横ではない離れた場所で歌うことが多いですが、今日は木管に紛れた場所に座ってらっしゃいました。在学中の学生さんですが、すでにプロでも通用するレベルのしっかりした歌唱でした。

指揮者の現田茂夫さんはよく名前を見る人ですが、聴くのは初めてです。2019年に亡くなった佐藤しのぶさんのwidowerですね。少し脱色した髪に耳ピアスのチャラい外見で、指揮台から身を乗り出して、コンミス嬢の譜面台の真上くらいまで顔を近づけるのがちょっとキモい。

メインのサン=サーンスのオルガニストは、元々はピアノ専攻で、大学院の音楽研究科に在学中とのこと。このホールのパイプオルガンは初めて聴きましたが、高音の抜けがよく、低音の濁りが少ない、まさに私好みのオルガンでした。この曲は誰がやっても演奏効果が上がる、よくできた曲だと思っていましたが、勢いがあれば押し通せる第2楽章はともかく、第1楽章は結構難しいんだなとあらためて感じました。特に弦のアンサンブルが未熟だと、わちゃわちゃとした感じになってしまってテンションが上がってこないのがちょっといただけないかなと思いましたが、一方で、あまりデリケートなコントロールがない分、普段は目立たない副次声部が際立ってしまうというご利益もあり、面白い演奏になりました。

プログラムを見ると、このオケは武蔵野音大の器楽専攻学生から選抜されており、合奏授業の一環として毎年管弦楽の大作に取り組んでいるそうなので、大作好きの私としては、今後もウォッチしたいと思います。