コンセルトヘボウ管/アーノンクール:「ミサ・ソレムニス」はマラソンに捧げる祈り2012/04/22 23:59


2012.04.22 Barbican Hall (London)
Nikolaus Harnoncourt / Royal Concertgebouw Orchestra of Amsterdam
Groot Omroepkoor (Dutch Radio Chorus)
Marlis Petersen (S), Elisabeth Kulman (A)
Werner Güra (T), Gerald Finley (Bs)
1. Beethoven: Missa Solemnis

ブログ友達のかんとくさんも完走されたロンドンマラソンが好天に恵まれて盛り上がっているその裏で、どこまでもインドア系の私はせっせとバービカンへ(というか、チケット買ったときはマラソンと同じ日とは知らなんだ)。地下鉄がちゃんと動いていてよかったです。

コンセルトヘボウを聴くのは3回目ですが、アーノンクールは初めて。マークしてなかったわけでもないんですが、彼の演奏会の選曲は基本的に私の趣味とはほとんど合致しないので、結局食指が伸びず。今回もどうしようか迷ったのですが、せっかくコンセルトヘボウを聴けるチャンスだから、正直馴染みのない「ミサ・ソレムニス」を果敢に聴くことにしました。

本日のプログラムは休憩なしの1曲のみ。もちろん名前はよく知ってるしCDもありますが、元々声楽曲も宗教曲も苦手な私は、普段この曲を聴こうと思う日はまずありません。ですので語れることがたいしてないことは最初に断っておくとして、まず、4人の独唱者たちのクオリティに感嘆しました。バスのフィンリー以外は初めて見る名前ですが、合唱に埋没しない力強い声を持つソリストを見事に揃えた、実力本位の布陣です。もちろん、アーノンクールが自分の顔で集めているんでしょう。超完璧なアンサンブルではなかったけれども、いちいち歌が際立っていました。アルトとバスは特に良かったです。フィンリーはずいぶん昔にブダペストでドン・ジョヴァンニを歌ったのを聴いているんですね、すっかり忘れていましたが。

ミサ曲ですが、ベートーヴェンだけあって響きと進行は極めてシンフォニック。時々「第九」を思い起こさせるフレーズも随所に出てきます。しかしこの曲のメインはあくまでコーラスであり、オケは伴奏です。アーノンクールは理論武装で身を固め、尖った脅かし系の音楽をやる人という先入観があったのですが、終始敬虔なムードでミサ曲らしい格調を保っていたのが、意外と言えば意外でした。曲の合間で時々長い休憩を取り、椅子に座るとコーラスも一斉に座り、指揮棒を構えるとさっと空気が変わり、奏者にみなぎる緊張感が凄かったです。天下のコンセルトヘボウに、尊敬と畏怖を持って迎えられているのがよくわかります。

楽器は見たところどれもモダン楽器で、ごく普通のコンサートオーケストラの編成でした。弦楽器は基本ノンビブラートでしたが、それでもこんなにふくよかな音になるのは、さすがコンセルトヘボウ。ティンパニは手回し式の小型で、ピリオド系らしく硬質の撥を使っていましたが、全体的には控えめの演奏です。最後の曲で、ティンパニの皮に布を乗せてミュートし、小太鼓のスティックを使ってロールするという、見たことのない奏法をやっていましたが、あれは何だったんだろう…。

途中合間をゆっくり取ったりもしていましたが、トータルでゆうに90分は超えていた、スローペースの演奏でした。最後の音がふわっと終わり、いつものようにフライングでブラヴォーやるやつが誰かいるだろうと思っていたら、今日は珍しく、指揮者がゆっくりと腕を下ろし切るまで誰も拍手をしませんでした。今の日本ならこれがデフォルトでしょうけど、ロンドンにはあるまじき光景です。やっぱりロンドンでも、アーノンクールを聴きに来ようなどという聴衆は「ウルサガタ」の部類なんですねえ。興味深い発見でした。

なお、終演後、アーノンクールに対して王立フィルハーモニー協会のゴールドメダル授与式がありました。この栄誉は自分の力ではない、作曲家、演奏家の仕事があってこそのものなので、それらの人々と栄誉を分かち合いたい、というような殊勝なことをスピーチしていました。彼ももう82歳、いつまでもアンチテーゼの人かと思っていたら、すっかり「巨匠」になられてしまって…。


遠かったのでボケ写真のみでした。すいません。