マエストロ・ルイージとN響による「ローマ三部作」は予想を超えた凄演2024/05/12 23:59

2024.05.12 NHKホール (東京)
Fabio Luisi / NHK交響楽団
1. パンフィリ: 戦いに生きて[日本初演]
2. レスピーギ: 交響詩「ローマの松」
3. レスピーギ: 交響詩「ローマの噴水」
4. レスピーギ: 交響詩「ローマの祭り」

大管弦楽の作品が何よりも好物な私に取って、レスピーギのローマ三部作は正真正銘のど真ん中なのですが、毎年どこかでやってる、三部作を全部やってしまう演奏会には今まで食指が動いたことはありませんでした。理由は二つあって、一つ目は、このように安直な名曲プログラムを振る(振らされる?)人はたいがい「一流の指揮者」には見えないから、二つ目は、パワープレイが苦手な日本のオケにこの3曲を一晩でやり切る体力があるとは思えないからでした(バテバテの「祭り」なんて聴きたくない!)。ですので、一昨年N響の主席指揮者に就任したばかりの「マエストロ」ルイージをまだ生で聴いてなかったこともあり、お国モノのローマ三部作を惜しみなく一気にやってくれるというこの演奏会は千載一遇のチャンス。

天候も良くタイフェスティバルで大盛況の代々木公園の喧騒を掻き分け、NHKホールに到着。日曜マチネだったので客層が比較的若く、満員御礼でした。1曲目のパンフィリ「戦いに生きて」は2017年のまさに同時代の作品で、初演の指揮者は他ならぬルイージ。解説を読むと、「ベートーヴェンとヴェルディを結ぶ《戦い》をイメージ」したと、ちょっと意味不明なことが書かれておりましたが、実際に聴いた印象も、ベートーヴェンとヴェルディを結ぶ線上のどこにも当てはまらない、もっと先の時代のレスピーギを連想させる、派手な色彩感が特徴の曲でした。ここはまあ、日本初演ということもあり、軽くジャブ。

続く「ローマの松」は、出だしからしてルイージのマジックが炸裂して、非常に見通しのよい音場をホール最上階にまで届けます。低弦からヴァイオリン、さらに木管、金管と目まぐるしく推移していく音列がくっきりと重奏的に響き、ぐしゃっと混ざった濁りが全くありません。これが終始一貫続くのでたいへんに心地よく、ルイージが巨大オケの整理に極めて優れているのはすぐにわかりました。「ジャニコロの松」エンドの鳥の鳴き声は、明らかにスピーカーではない方向からこれまた非常に立体的に聴こえてくるので「レコードもここまで進化したのか」と思ったら、奏者は見えませんでしたが客席で鳥笛を吹いていたとのこと。

それにしてもこの日のN響の集中力の高さは特筆もので、「松」だけでなく「噴水」「祭り」まで一貫して、数多くの難所が待ち受ける管楽器のソロを皆が皆、ほとんど外すことなく吹き切ったのには驚きました。バンダ(多分ゲスト)がたくさんいたのでその効果もあるのでしょうが、普段なら必ず途中でヘタってしまう金管も全く破綻せず、凄みのある音圧を最後までキープ。こんなに気合の入ったN響は聴いたことがなく、他にはキュッヒルがコンマスの時の東京春祭「ワーグナー・シリーズ」くらいです。三部作はどれも良く知っている曲なのでむしろ細かいところなどもうどうでもよく、予想を良い意味で裏切り、これだけ上質の音響空間をホールに終始満たしてくれたことに感謝です。

今日の収穫として、ルイージ/N響は「当たり」の期待値がたいへん大きいと感じました。来シーズンもマーラーを中心にぜひチケットをゲットしたいと思います。こんなことなら昨年末の「千人の交響曲」も無理して聴きに行けばよかった…。