マゼール/フィルハーモニア管のマーラー交響曲シリーズ第2弾2014/05/25 23:59


没後100年の2011年にロンドンのロイヤルフェスティバルホールにてライブ録音されたマゼール/フィルハーモニア管のマーラー交響曲全集。4、5、6番の3曲を収めた第2弾のCDセットが届きました。第1弾から7ヶ月、このペースだと第3弾(おそらく7〜9番)、第4弾(おそらく10番、Erdeと歌曲集)までたどり着くのは来年でしょうかね。

まだざっと一通り聴いただけですが、豪快に音を外していた第6番のトランペットは、やっぱり直ってる(^^)。アンディ師匠のティンパニの破壊力、特に第5番の3楽章ですが、しっかりディスクに収められてます。

当時書いたレビューを見ながら、貴重な体験を懐かしく反芻したいと思います。

マゼール/フィルハーモニア管のマーラー交響曲シリーズ2013/09/21 23:59


2011年の記念イヤーに結局全部聴き通したマゼール/フィルハーモニア管のマーラー全交響曲シリーズ、いくつか事故のあった演奏だったのでオクラ入りかなと思っていたら、タワーレコードのサイトでCD発売の情報が出ていました。やったー。第一弾は1番&2番&3番で、10月20日発売。ゆっくりと懐かしく聴き直してみたいと思います。

自分の便宜のため、当時のブログへのリンクを下にまとめときます。

第1番&若人:2011年4月12日
第2番:2011年4月17日
第6番:2011年4月19日
第4番&リュッケルト:2011年4月28日
第5番&角笛:2011年5月5日
第3番:2011年5月8日
第7番:2011年5月26日
第10番&大地の歌:2011年9月29日
第9番:2011年10月1日
第8番:2011年10月9日

フィルハーモニア管/サロネン:初演から100年の「春の祭典」2013/05/30 23:59


2013.05.30 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / Philharmonia Orchestra
1. Debussy: Prélude à l'après-midi d'un faune
2. Varèse: Amériques (version 1927)
3. Stravinsky: The Rite of Spring

2012/13シーズンもついに終盤戦。元々音楽監督の出番が少ないフィルハーモニア管は今日がシーズン最後のサロネン登板日です。先の日本ツアーでたいへん評判の良かった「ハルサイ」をやっと聴けるのが嬉しい。

しかしその出端を挫くかのごとく、隣席のおじいちゃんが困ったもので。まず、臭い。それだけなら非難もしにくいですが、オケが無料で配布しているメンバー表を四つ折りにして袋を作り、その中に痰を吐いて、さらに折り曲げて上着の内ポケットに入れてました…( ゜Д゜)。この不潔感漂う老人は、演奏中も終始口を開閉してニチャニチャと音を立て、時々咳をして、上のように痰を吐く。気に障ることこの上ない災厄でした。周囲は静かな人ばかりでしたが、皆内心で「このくそじじい」とイライラを募らせていたに違いない。こんなわけで「牧神の午後」は全く台無しでした。

次の「アメリカ」は、3年前にSouthbankの「ヴァレーズ360°」という全曲演奏会の企画で聴いて以来でした。「牧神の午後」を思わせるフルートのソロから始まり、「春の祭典」の不協和音と変拍子をさらに鮮烈にしたような展開が続く、まるで「牧神」と「春の祭典」が結婚してできた子供のような曲です。音量的にもようやく隣のじじいが気にならないレベルまで上がってきたので、何とか演奏に集中できました。これがまたキレキレの凄演で、私がこの難曲を理解しているとはこれっぽっちも思わないのですが、それでも万人の心を打つ、説得力抜群の演奏でした。最後は顔を文字通り真っ赤にして畳み掛けたサロネンの迫力に、惜しみない拍手大喝采が贈られていました。

前日が初演から100年の記念日だった「春の祭典」は、バルトークチクルスのときにもサロネンが取り上げていましたが、そのときは確かLSOとバッティングしていて聴けませんでした。もちろんサロネンの真骨頂、リズムの鋭いシャープな演奏ではあったのですが、前の曲で燃え尽きたのか、オケがちょっとお疲れ気味でした。冒頭から木管はしっかりしていたのですが、金管がどうしてもリズムの足を引っ張り、演奏にキズもありました。フィルハーモニア名物アンディ・スミス先生のティンパニは前半控え目で後半に爆発する戦略でしたが、生贄の踊りで原始的なリズムが炸裂する私の一番好きな箇所になると、アンディ先生、あろうことかリズムを間違える大暴走。珍しいものを見ましたが、これに象徴されるように、オケのほうが何となく「気もそぞろ感」というか、倦怠ムードが少しあったのは確かでしょう。もちろん、ベストとは言えないまでもハイレベルな演奏だったのは確かですが。お客の拍手は正直です。なおホルンの美人プリンシパル、ケイティ嬢は今日はワーグナーチューバを吹いていました。ちょうどチェロ奏者の影で姿がほとんど見えなかったのがたいへん残念です。フィオナ嬢もサロネンにがっちりブロックされて見えなかったし、最後のフィルハーモニアにしては、ちょっと淋しい…。


フィルハーモニア管/アシュケナージ/ガベッタ(vc):ショスタコの酢の物2013/02/21 23:59


2013.02.21 Royal Festival Hall (London)
Vladimir Ashkenazy / Philharmonia Orchestra
Sol Gabetta (cello)
1. Britten: Suite from "Death in Venice" (arr. Steuart Bedford)
2. Shostakovich: Cello Concerto No. 2
3. Shostakovich: Symphony No. 15

日曜にサウスバンクとバービカンをハシゴした後、月曜早朝から水曜まで出張、木曜金曜と再び連チャンという、なかなかキツいスケジュールでした。アシュケナージは好きな指揮者じゃありませんが、それでも聴きたかったのは、チャレンジングなプログラムだったので。しかしあまりにチャレンジングなため、疲れの溜まった身には苦行のように堪えました。

1曲目のブリテン「ヴェニスに死す」は、同名オペラから抜粋して小編成オケの組曲に仕上げたものですが、ちょうど「パゴダの王子」みたいなアジアンテイストを感じます。編曲のベッドフォードは確かこのオペラの初演を指揮した人ですね。私の耳にはブリテンらしい煮え切らない曲で、結局よくわかりませんでした。

続くショスタコのチェロコンチェルト第2番は、2年ほど前にプラハで聴いて以来です。そのときのソリスト、イケメンのミュラー=ショットと比べて今日のガベッタのほうがずっと男勝りの力強さを感じました。この若き美人チェリストは一見華奢に見えて、二の腕など実はなかなか筋肉質でパワーがあります。その分繊細さや透明感に欠ける気がして、ミュラー=ショットのときとは全く別の曲のような印象でした。やはりこれもまたつかみどころのない曲ですわな。アンコールはチェロ奏者4人を伴奏に弾きましたが、休憩時に観客がチェロ奏者に「今のは何て曲?」と聞いたら、「えーと、何だっけ」と応えられなかったのが微笑ましかったです。


あー、動いてしまって写真撮れませんでした…。


速攻で着替えてサイン会に臨んでいたガベッタさん。

メインのショスタコ15番はその昔、タコというとまだ5番と9番しか知らなかった頃にFMラジオで初めて聴いて、第一印象は「何て変な曲」だったけど何故かハマり、エアチェックしたテープを勉強のBGMによく聴いていました。実演は初めて、すごーく久々に聴きましたが、やっぱり何て変な曲(笑)。思い出しましたけど、第1楽章の「ウイリアム・テル」の他にもワーグナーや自作からの引用がいっぱいあるサンプリングミュージックなんですね。アシュケナージはN響と一緒にブダペストに来たのを聴いて以来。とにかくこの人のギクシャクとした指揮はどうにもいちいちカンに触っていけません。棒振りが杓子定規であえて手の内を見せないような指揮者は他にもいますが、この人の場合は本当にずっとスコアに目を落としながら、オケに合わせて腕を振り回しているだけに見えてしまうので、指揮者としていかがなものか、という思いを禁じ得ません。そんな感じでリズムは重たかったものの、日本公演から帰ったばかりのフィルハーモニア管は好調を維持して上手かっただけに、ちょっと無理が続いてしまった自分の体調と、今日の指揮者がサロネンじゃないという事実をちょっぴり残念に思いました。


指揮棒をくわえたり、やっぱり指揮者らしくない人です。


本日のフィオナちゃん。

フィルハーモニア管/サロネン/ツィマーマン(p):ルトスワフスキと「ダフニスとクロエ」2013/01/30 23:59



2013.01.30 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Krystian Zimerman (piano-2)
Philharmonia Voices
1. Lutosławski: Musique funèbre
2. Lutosławski: Piano Concerto
3. Ravel: Daphnis et Chloé (complete)

ポーランドを代表する作曲家ルトスワフスキは、今年生誕100年、来年没後20年と記念イヤーが続くので、演奏される機会が当分増えてくるでしょう。記念イヤーに目がない?フィルハーモニア管は今シーズン早速「Woven Words」と名打ったチクルスを組んでいます。しかし私、実はルトスワフスキをほとんど聴いたことがありません。今日のピアノ協奏曲も以前LSOで一度聴いているのですが、意識を失っていたためどんな曲だったかほとんど覚えていませんでした。

最初の「弦楽のための葬送音楽」は、東日本大震災の後、ベルリンフィルが追悼の意を込めて定期演奏会で演奏したことでも近年注目されました。実際聴くのは初めてだったのですが、バルトークをもっと無調にしたような音楽で、つまりは音列技法的な仕掛けがよりはっきりと現れています。けっして聴衆を突き放した音楽ではなく、素朴な民謡的風土が根底を貫いていることを感じさせ、ある意味心地良い音楽です。

続くピアノ協奏曲のソリストはこの曲の初演者でもあるクリスチャン・ツィマーマン。私がクラシックを聴き始めのころ、ハンガリー三羽烏(ラーンキ・コチシュ・シフ)を追い落とす超テクの若手としてちょうどブイブイいわしてたところでしたが、ようやく生で聴ける機会となりました。まだ60歳よりは全然手前のはずですが、すっかり白髪の枯れた風貌になってしまって、でも個人的には若いころよりちょっとかっこ良くなったと思います。曲のほうは切れ目無しに演奏される4楽章構成で、これもまた無調が基調の曲ですが、いろんな要素が凝縮している、一言では表現できない不思議な曲です。聴きやすいかどうかと言えば、耳に素直に入ってくるのでセンスの良い曲と思います。ツィマーマンは初演者だけに、全く自分のレパートリーとして弾きこなしています。テクニシャンらしい切れ味鋭い打鍵、色彩感豊かなアルペジオ、繊細なタッチ、どこをとっても非の打ちようがない、パーフェクト系のピアニストですね。そういえばこの人はピアニストとしては珍しく、自分の楽器を持ち歩くのでも有名でしたか。今年の予定を見ると、記念イヤーだけあってパリ管やベルリンフィルなどいろんなオケとこの曲を共演するもようです。

メインの「ダフニスとクロエ」全曲版は、20年以上前にここロイヤルフェスティヴァルホールを初めて訪れたとき聴いた曲ですので、思い出深いものがあります。しかし正直言うとこの曲、私はちょっと苦手。第2組曲ならまだ聴けるんですが、全曲版となると音楽は冗長だし、バレエ付きで観たいものだと思います。一つ良い点はコーラスが入っていることで、これは演奏会用の組曲ではめったに聴けないシロモノです。今日のフィルハーモニア管は「当たり」の日だったようで、フルートを筆頭に、管楽器のソロが抜群に素晴らしい。ホルントップのケイティ嬢もすっかり貫禄のプリンシパルです。サロネンもまた期待に応え、オケをこれでもかとガンガンに鳴らす鳴らす。このダイナミックレンジは久々に堪能しました。フィオナ嬢は定位置、第2ヴァイオリンの二番手。半年ぶりのフィルハーモニアだというのに、今日はいつになくドアガールのお姉ちゃんが写真撮ってる人をいちいち注意していたので、冒頭の以外、あまり写真が撮れませんでした(泣)。新手ではコントラバスパートに、楽器に似つかわしくない小柄な若い女の子(Ana Cordovaという名のようです)がいて目を引きました。

この演奏会の後、彼らはすぐに日本に行きツアーをやるそうですね。今日の演奏を聴く限り指揮者、オケ双方ともバイオリズムは上昇機運のようですので、日本の皆様は是非期待してください。

フィルハーモニア管/サロネン:スタイリッシュ系、マーラー「復活」2012/06/28 23:59


2012.06.28 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Kate Royal (S-2), Monica Groop (Ms-2)
Philharmonia Chorus
1. Joseph Phibbs: Rivers to the sea (London premiere)
2. Mahler: Symphony No. 2 (Resurrection)

個人的には今シーズン最後のフィルハーモニア管、最後のロイヤル・フェスティヴァル・ホールです。チケットの束をチェックしたら、フィルハーモニア管は何と今年一杯はもう聴きに行く予定がない!フィオナちゃん、ケイティちゃんも当分ご無沙汰です、しくしく。ところで、ロンドンでマーラーの「復活」を聴くのはこれで3回目ですが、指揮者は違えどオケは全てフィルハーモニア管というのが面白い。3シーズン連続で取り上げているということでもありますね。昨年4月のマゼールのマーラーシリーズで聴いた「復活」で、初めてフィオナちゃんを認識したのでしたっけ。月日の経つのは早いものです。


おさらいに余念のないフィオナちゃん。今日は三番手でした。


こちらはクールな余裕のプリンシパル、ケイティちゃん。

1曲目はフィブスの新曲で、先週のアンヴィルでの「世界初演」に続き、今日は「ロンドン初演」です。ゆったりと流れる川そのものの、穏やかなトーンの写実的音楽で、前衛的なところはみじんもなく、ドキュメンタリー映画のBGMとしてそのまま使えそうです。一度聴いたくらいでは引っかかりがなく、さらーと身体を通り過ぎる感じで、あれ、今のは何だったかなと。あまり心に残りませんでした。

さてメインの「復活」。サロネンのマーラーを聴くのはCDも含めて実は初めて。マーラー指揮者というイメージも正直なかったのですが、Wikipediaを読むと、サロネンの指揮者としてのキャリアはマーラーから始まっているんですね。今日の演奏の印象を一言で言うと「スタイリッシュな"復活"」。最初快活なインテンポでサクサク飛ばしたかと思えば、遅いところでは止まりそうなくらいにまでテンポを落とし、またダイナミックレンジもかなり広く取って、メリハリの利いた演奏でした。ある意味極端なことをやってるのですが、どろどろとした情念や汗臭さはなく、あくまで理知的でスマートです。時々ありがちな突貫工事の匂いはなく、多忙なサロネンにしてはいつになく丁寧に積み上げられているなあと感じました。オケはしっかりとサロネンに着いて行き、コケてしまった箇所も無いではありませんでしたが、総じて演奏の完成度は高く、木管、特にコールアングレの素晴らしい音色や、骨太だが角が取れているホルンなど、管楽器の妙技が光っていた演奏でした。コンマスのヴァイオリンソロだけはちょっと虚弱でしたが…。あと、スミスさんのティンパニは、相変わらずカッコいいんだけど、前の時も思ったけどチューニングがやっぱり変です。

メゾソプラノは当初エカテリーナ・グバノヴァが出演の予定が、スケジュールのコンフリクトのため(要はダブルブッキングということ?)降板、代役のモニカ・グループはメゾというよりはアルトの声で、急で時間がなかったということでもないのでしょうが、だいぶ安定度に欠ける歌唱でした。ソプラノのケイト・ロイヤルも声質は低めでメゾソプラノ向きにも思いますが、こちらはそつなく手堅い歌唱。ロイヤルはレコード会社の宣伝文句によれば「日本人好みの正統派癒し系シンガー」とのことですが、私の印象は全く違って、長身で見た目筋肉質の体格は「癒し系」どころかスポーツ選手のようです。

それにしてもサロネンさん、今日はいつもにも増してオケを鳴らす鳴らす。まるで一昨日のシモン・ボリバル響を聴いて対抗心を燃やしたかのような鳴らしっぷりでした。男女同数の低音を利かせた厚みのあるコーラスの健闘もあって、クライマックスの音量では実際負けてなかったと思います。マゼールのように最後は自然体にまかせるのではなく、最後まで力技を使ってピークに持って行くよう焚き付ける、そんな感じの「復活」でした。ロンドンでの最後の定期演奏会にふさわしく、音の洪水の大盤振る舞いに、聴衆の拍手喝采も相当なものでした。

一昨日に続き、連続して「音響浴」に身をあずけることになりましたが、今日は正直、プロフェッショナルの演奏にちょっとホッとした自分がいます。やっぱりシモン・ボリバルの圧倒的な「スタジアム系」には、楽しんだと同時に違和感を覚えていたということですか…。



フィルハーモニア管/グリーンウッド:謎の演奏会「カルミナ・ブラーナ」2012/05/18 23:59

2012.05.18 Royal Festival Hall (London)
Raymond Gubbay presents: Carmina Burana
Andrew Greenwood / The Philharmonia Orchestra
Sophie Cashell (P-2), Ailish Tynan (S-3)
Mark Wilde (T-3), Mark Stone (Br-3)
London Philharmonic Choir
Trinity Boys' Choir
1. Mendelssohn: Overture, The Hebrides (Fingal's Cave)
2. Grieg: Piano Concerto
3. Orff: Carmina Burana

チケットリターンのついでに当日買いでふらっと聴いてみました。この演奏会の存在に気付いたのは最近の話なのですが、フィルハーモニア管やSouthbankのシーズンプログラム(昨年出たもの)には載っておらず、そもそもフィルハーモニア管は17日、19日に各々全く別プログラムで定期演奏会が入っているので、その中日にさらに別の大曲プログラムを入れてくるとは無茶するなあと。指揮者も聞いたことない名前だし、少なくともレギュラーの定期演奏会に出てくる人じゃない気がする、もしかしたらオケも二軍メンバーのパチモンコンサートか、と多少訝っておりましたら、ふたを開けてみるとオケはいつものフィルハーモニア管フルメンバーでした。ホルンのケイティちゃんは降り番だったのが残念ですが、コンマスはいつものジョルト氏だし、フィオナちゃんが今日はセカンドヴァイオリンのトップ。合唱団が前半の演奏を聴くために最初からコーラス席に座っていました。


久々に見たフィオナちゃん。今日はセカンドトップの大役ですが、リラックスした表情。


ケイティちゃんはいませんでしたが、チェロのヴィクトリアちゃんも久々。


アンディ・スミスさんは今日も健在でした。


フルートのゲストプリンシパル、くいだおれ太郎、ではなくてトム・ハンコックス君。

開演前、ステージに出ている団員のほとんどが隣りの人と私語を交わしていて、緊張感が薄いのが気になりました。もしかして指揮者舐められてる?登場したグリーンウッドは人の良さそうなオジサンで、明快でストレートな棒振りは、いかにも中堅ベテラン指揮者という感じ。前半の2曲はどちらもかつて部活で演奏したことがあり、特にグリーグはたいへん久々に聴いたので、まずは懐かしかったです。「フィンガルの洞窟」序曲は流れのよい弦と、抑制の利いた管がなかなかいい感じ。今日のフルートはThomas Hancoxという若いゲストプリンシパルで、道頓堀のくいだおれ太郎そっくりの顔ながら、中間部で美しいソロを聴かせてくれました。

グリーグの独奏はソフィー・ケイシェルという若手の美人ピアニスト。デッカの肝いりで2008年にCDデビューしたものの、ネット上のレビューはあまり芳しくなく、その後が続いていないもよう。確かに、天才性を発揮するとか聴き手をハッとさせるとかの領域にはまだ遠いものの、ピアノは非常に立派なものでした。マネージメントの思惑に振り回されず、腕を高めて行く余地は十分にあるのかなと思いました。ちょっとイラッとしたのはいちいち入る聴衆の拍手。慣れてない人が多いんでしょう、第1楽章が終ると満場の大拍手。第2楽章の終わりにも、すかさず拍手。ここは普通アタッカで繋げてもいいくらいなので、よっぽど身構えてないと拍手入れるのがむしろ難しいです。せっかく良い演奏だったのにいちいち流れが中断されるので、弱りました。終演後はもちろん、スタンディングオヴェーション。しかし2回くらいコールで呼ばれた後はすぐに拍手は止み、奏者が引き上げようとすると、また拍手。何だか私の知らないビギナー向けマニュアルでもどこかで配布されているんでしょうか。

メインの「カルミナ・ブラーナ」は、実演は初めてです。さすがにこの大げさな曲、生で聴くと格別の迫力がありますね。コーラスはちょっと荒いかなと思いましたが、むしろ曲想には合っていたかも。オーケストラは手抜きのない普段通りの(むしろ良いほうの)レベルの演奏で、アンディさんのティンパニも冒頭から期待通りの打ち込み。何のための「カルミナ・ブラーナ」かと言い、今日はこのティンパニを聴きに来たと言ってもいいくらいです。歌手もちゃんとした人達で(アイリシュ・タイナンは何度か聴いてますし)、テナーの小芝居も面白かったです。この長い演奏会、寝不足と仕事疲れもあって途中夢心地になりましたが、演奏は危惧したようないいかげんなものではなく、満足できました。ちょっとチケット高いけど。なお、この曲にしても、途中でちょっと拍手が起こりかけました。いったい誰がどんなマナーを教えているんでしょうね。別に曲の合間に拍手が起こること自体はそういうこともあるのでとやかく言いませんが、流れを分断するだけのKYな拍手は嫌いです。

ところで、この「謎の演奏会」が何なのかを知るために£3.5払ってプログラムを買ってみたところ、Raymond Gubbayという音楽プロモーターの主催であることがわかり、納得。Royal Albert Hallでよく「Classical Spectacular」などと銘打って著名曲ばかりを揃えたビギナー向けコンサートをよく興行しているところです。オーケストラだけでなくRAHの「蝶々夫人」「アイーダ」「カルメン」、カウフマン/ネトレプコ/シュロットのオペラスターコンサート、O2アリーナのバレエ「ロメオとジュリエット」など、とにかくでかい箱を使ってバンバン広告を打ち、普段演奏会に足を運ばない非マニア層を大量動員してちょっと高めのチケットを買ってもらう、というビジネスモデルに見えます。オケは主にロイヤルフィルを使っているようですが、RFHでも演奏会を開催し、フィルハーモニア管など他のオケも使うことがある、というのは今回初めて知りました。ふむ、フィルハーモニア管としても良い副収入になるのでしょうね。


ふと目の前を見ると、Raymond Gubbayがスポンサーの席でした…。

フィルハーモニア管/サロネン/ハーグナー(vn):カラッと明るい「英雄」2012/03/15 23:59

2012.03.15 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Viviane Hagner (Vn-2)
1. Beethoven: Symphony No. 1
2. Unsuk Chin: Violin Concerto
3. Beethoven: Symphony No. 3 (Eroica)

ベートーヴェンの交響曲は「第九」以外、わざわざそれを目当てにチケットを買うことがないので、2003年に「備忘録」を書き始めて以降、未だに聴いてない番号がいくつもあります。中でも「英雄」は元々苦手中の苦手であるため、前に実演で聴いたのはそれこそ30年ではきかない遥か昔、朝比奈/大阪フィルの演奏会で聴いたっきり、ずっと避けてきました。しかし、苦手な曲もトッププロの演奏で聴いたら印象が変わるかもしれないなー、とふと思い立ち、急きょ行くことにしました。まあ一番の理由は、ブダペスト祝祭管の後、珍しく3週間も演奏会の予定が入ってなかったので、こりゃーいかん禁断症状が出る、と思ったことなんですけどね。

ストールB列の席を買ったので前から2列目と思っていたら、A列が撤去されており、最前列で見ることになってしまいました。うーむ、ここだと第1ヴァイオリン以外は奏者がほとんど見えないなあ…。会場では内田光子さんが聴きにいらしてました。サロネン/フィルハーモニア管のベートーヴェンシリーズでは先日共演もしてましたし、ヴィヴィアン・ハーグナーはデュオのパートナーなんですね。


まずはチン・ウンスク。ロンドンに来るまでは全く知らない名前でしたが、ロンドンでは名前と顔写真を見る機会がやたらと多い女性作曲家です。2001年作のヴァイオリン協奏曲はハーグナー(この人は独韓ハーフなんですね)の独奏で初演の後、世界各国で再演され、テツラフなども取り上げているそう。最初、何だかよくわからない打楽器群が所狭しと並べてあったのが、俄然興味を引きました。チェレスタ、チェンバロがある上にさらに木琴、マリンバ、グロッケン、ヴィブラフォンといった鍵盤打楽器勢揃い、加えてオケには珍しいスチールドラム、鉄板(サンダーシート)、ドラム缶などが見え、相当賑やかなことになってました。後で調べたら、他にもリソフォン(石琴)、サンザ、ギロなどのエスニック打楽器もあったようで(気付かなかった…)、もはや無国籍を超えて無節操。曲は4楽章構成ながらも緩徐楽章のないハイカロリーの熱い曲でした。第1楽章はポリリズムのダイナミックな曲で、何かがもぞもぞと蠢くような生理に訴えるイメージです。変拍子、不協和音、無調のいわゆる「現代音楽」ではありますが、全編通して何かしらヴィジュアルなイメージを喚起するので、耳にすんなりと入ってきやすい曲調でした。そのヴィジュアルイメージは決してヨーロッパのそれではなく、アジア的なものを強烈に感じました。もっと言うと、自然の景観ではなくて、鈴木清順の映画のように人工的に着色された東洋の風景のイメージ。このわかりやすい個性はチン・ウンスクの不可換な魅力でしょう。ヨーロッパで人気が高いのもうなづけます。終演後にサロネンに呼ばれてステージに出てきたウンスクさん、50歳には見えない、写真通りのかわいらしい女性でした。ハーグナーと手を繋いで出て来た女子ぶりが微笑ましかったです。

さて本題のベートーヴェン。古楽畑の人は言うに及ばず、ラトルみたいにモダンな指揮者もこぞってピリオド風の奏法を取り入れたりして、かつての巨匠の時代から比べると演奏様式がずいぶんと変わりました。若くてモダンで理屈をこねる人ほど、ベートーヴェンでは古楽器系アプローチにこだわったりするというある意味逆説的な流行になっているようにも思えますが、そこで私のイメージでは超モダンな指揮者、サロネンがいったいどんなベートーヴェン像を見せてくれるのか興味津々でした。まずオケはフル編成の現代オーケストラ、楽器も見たところ通常の現代のものでした。ティンパニがいつもと違う手回し式の小型のものでしたが、これとて見た目ピカピカで、バロック楽器とは言えないような。弦楽器の並び方もチェロを右に置くモダン配置で、奏者は普段の通りヴィブラートをかけまくって演奏していました。つまり、ピリオド系アプローチなどほとんど気にしない、あくまで普段着の自然体演奏だったのでちょっと拍子抜けしました。テンポも最近の傾向であるせかせかした速さではなく、速すぎず遅すぎずの中庸路線。「英雄」の第2楽章、有名な葬送行進曲などはバーンスタイン並みに遅いテンポでじっくりと歩みますが(このかったるさがこの曲の特に苦手な部分なんですが)、全体的な印象はカラッと明るい、スカッと晴れやか、後腐れのないベートーヴェン。サロネンならもっと理詰めで窮屈な演奏に持ってくるかと想像していたのですが、どういうベートーヴェン像を描き出したかったのか、拘り所がよくわからなかったです。意外とあまり深い考えはなく、ただ朗々と気持ちの良いベートーベンをやってみたかっただけなのかも。それはそれで十分納得できる話です。これで「英雄」の印象が変わったかというと…。演奏し甲斐のある難曲で、さすがにファンが多いだけあってなかなかかっこいい部分もある曲だというのはわかりました。好きになれるまでには、もっと修行を積まないといけませんねー。

今年最初のフィルハーモニア管でしたので、久々に見たフィオナちゃんは相変わらずのツンデレ系(デレのほうは見たことないので単なる想像ですが)。ホルンのケイティちゃんはメンバー表にはありましたが姿は見えず、残念。今日の発見は、ライブラリアンの女性がなかなかの美人だったこと。やっぱりこのオケは見応えがありますね!(何が?)いい味系ティンパニの大御所アンディ・スミスさん、今日はベートーベンでは手回しの旧式小型楽器を使用。ピリオド系で硬質な音を出すためかと思いきや、LSOのトーマスさんほどの突き抜けた固さはなく、もう一つ中途半端な印象で、本領が発揮できてませんでした。この演奏だったらいつものモダン楽器でいつもの通りガツンとやったほうがよかったのではないでしょうかねえ。

フィルハーモニア管/サロネン:バルトーク「青ひげ公の城」2011/11/03 23:59

旅行やら出張やらで更新の時間がなく、だいぶビハインドしてしまいましたが、徐々にキャチアップして行きます。


2011.11.03 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Yefim Bronfman (P-2)
Nick Hillel (Director-3), Juliet Stevenson (Narrator-3)
Sir John Tomlinson (Bluebeard-3), Michelle DeYoung (Judith-3)
1. Debussy: Prélude à l'après-midi d'un faune
2. Bartók: Piano Concerto No. 3
3. Bartók: Duke Bluebeard's Castle (semi-staged performance)

早いものでフィルハーモニア管のバルトークシリーズもロンドンではこれが最終日。気合いを入れて1年半前に買ったこのチケットも無事日の目をみることができて、よかったです。

1曲目はバルトークではなくドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。サロネンは指揮棒を使わず、重心の低いフルートを軸としてカラフルな粘土でやさしく肉付けしていくような幻想的な演奏でした。手馴れた感があったのでこのコンビの十八番なんでしょうね。まずはお洒落なアペリティフで軽くジャブ、といったところです。

ピアノ協奏曲第3番は、1番2番とはがらっと曲想の違うこの曲をブロンフマンがどう料理するか興味津々だったのですが、くっきりと切り立ったピアノがカツカツと前面に突出し、ここでもやはり妥協のない即物的な演奏に終始していました。バルトークなのでこういう解釈はありですが、コチシュほどの硬質さもなくちょっと中途半端なピアノ。展開がギクシャクとしていて乗りきれず、あまり好きな曲じゃないのかも。もちろんめちゃめちゃ上手いのですが、こういうテクニカル的には平易な曲だとかえってミスタッチが耳についたり、我らがアンディさんもティンパニのリズムを間違えたりして、面白いもんです。我らが全体の流れと起伏をうまく彫りだす説得力では、夏のプロムスで聴いたシフのほうが何枚か上手であるなあと感じました。

メインの「青ひげ公」はstaged performanceということで、実は演奏会の最初から、ビデオを投影するためのスクリーンと何だかよくわからないオブジェが設置されていました。団員が出てくるのと一緒に、よく見るとすでにサロネンもヴァイオリンの中に座って談笑しています。


照明が落ち、ナレーターが静々と出てきて「Once upon a time...」と英語で前口上を語り始めました。息子ペーター・バルトークによる完全版スコアに新版英訳が付いてから英語の前口上は珍しくないですが、 これは吟遊詩人という役どころなので女性のナレーターはたいへん珍しく、「青ひげ公」のCDは目に付けば手当たり次第買い集めている私も、初めて聴きました。本編の歌は原語なんだし、やっぱり私はハンガリー語でテンション高く「Hay rego reitem...」と始まってくれないと、どうも調子が狂ってしまいます。

前口上が終わると歌手の二人も左からそろりそろりと登場。トムリンソンは英国人なのに「青ひげ公」を得意としていて、CDも何種類か出ていますが、良く響く低音はさすがに貫禄十分。ただし、調子が万全ではなかったのか歌が多少粗っぽかったのと、演技過多なのはいただけません。また、外見があまりに「老人」なのもマイナスでした。青ひげ公はユディットを愛し、絶望し、血の涙を流し、最後は冷徹に葬るのですが、感情を表に出さず凛とした抑制がキャラの命です。 やけにはしゃいだような演出、やたらに芝居がかった歌は基本的にNGと私は主張します。しかし、粗いとは言え、ポルガール・ラースロー亡き後、これだけの自信と貫禄で青ひげ公を歌える人は他にいないのも事実。ハンガリーから誰か若手が奮起して出てくれることを期待します。


(ネットで拾ってきた写真ですが出所がどこだったか失念、すいません)

ユディット役は当初ミーシャ・ブルガーゴーズマンというクロスオーヴァー系の米国人黒人歌手が歌う予定でしたが(それはそれでどんなものになるか想像もつかず、是非聴きたかったですが)、妊娠が発覚したとのことでツアーはキャンセル。代役はマーラーシリーズで何度か登場したミシェル・デヤング。正直期待はしてなかったですが、意外とハンガリー語の発音もがんばって、よく歌っていました。トムリンソンが突出していた分、かえってバランスは良かったと思います。二人に共通するのは、歌のフレーズの立ち上がりにはもちろん気を使っているんでしょうが、時々アタックが弱くハンガリー語のリズムとして違和感のある箇所がいくつもありました。

ビデオはシンプルでシンボリックなものでしたが、正直、あまり出来が良くないと感じました。歌手を邪魔しないという意味ではよかったですが、もっと多数のアイデアをぶちこんでもよかったのではないかなあ。真ん中の意味不明オブジェは途中で動いて形を変えるのですが、モーター音がうるさく、こっちは明らかに邪魔になっていました。

サロネンのテンポは終始、極端に遅めで、歌手はさぞ歌いにくかったのでは。一方でサロネンの芸風らしからぬ粘りとポルタメント多用で、だいぶ濃厚な表現に なっていたのは、歌手の熱気に引きずられたところもあったのかもしれません。そのわりには、この曲で私の一番好きな箇所、最後の扉を開けて「一人目の妻は」「二人目の妻は」と歌ううちに二人の間に流れる空気がさっと変わっていく心理表現が、重苦しいだけで機微に乏しかったのはちょっと残念でした。

いろいろ文句も言いましたが、バルトークの最高傑作にして20世紀を代表するオペラ(は言い過ぎか)、「青ひげ公の城」を実演で聴く機会はそう多くないので、今年は2回も聴けて、もうそれだけで満足感いっぱいなのです。


フィルハーモニア管/サロネン/ブロンフマン(p):バルトーク三昧2011/10/27 23:59

2011.10.27 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Yefim Bronfman (P-1,4)
Zsolt-Tihamér Visontay (Vn-1), Mark van de Wiel (Cl-1)
1. Bartók: Contrasts (violin, clarinet and piano)
2. Bartók: Suite, The Wooden Prince
3. Bartók: Dance Suite
4. Bartók: Piano Concerto No. 2

またまたバルトークシリーズです。1曲目のコントラスツはピアノ、ヴァイオリン、クラリネットの三重奏曲で、ジャズクラリネットの巨匠ベニー・グッドマンのために書かれた曲です。なので、私はてっきりアメリカ移住後の作品と思い込んでいたのですが、調べてみたら1938年、渡米前の作曲でした。バルトークとベニー・グッドマンという全く接点がなさそうな取り合わせが刺激的ですが、この二人を繋いだヨーゼフ・シゲティを加えて残した記念碑的録音が有名です(といいつつ実はまだ聴いたことがないんですが)。一種の変奏曲ですが、なかなかつかみ所がわからない曲です。特にピアノは地味〜に下支えするのみですが、対照にクラリネットは大暴れ。おどけた民謡調、激しいスケールの上昇下降、ジャジーでハスキーなロングトーンなど、色彩豊かに吹きまくります。オケの首席奏者マーク・ファン・デ・ヴィールが渾身のヴィルトゥオーソを聴かせてくれました。一方お馴染みのコンマス、ジョルトさんはハンガリー人なのに意外と控えめなバルトークへの取り組み方。調弦を変えた楽器を持ち替えつつも、でしゃばらず他の二人を引き立てることに徹していました。


続く「かかし王子」、ハンガリーではバレエの定番メニューとしてよく上演されていましたが、組曲版は初めて聴きます。CDでも多分Hungarotonくらいからしか出ていない珍しいバージョンです。組曲は全部で35分くらいのバレエを半分の20分に抜粋したもので、実際聞いてみると、あれがない、これがない、と面食らう箇所もあったものの、コンパクトに上手く仕上がっているという印象です。多分聴き込みが足らないせいでしょう、私は「かかし王子」の音楽は冗長に感じることが多かったのですが、これは飽きませんでした。カラフルなオーケストレーションはラヴェルというよりリヒャルト・シュトラウスを連想させ、指揮者のドライブやオケの力量が量れる佳曲と感じました。「かかし王子」組曲のスコアは息子ペーター・バルトーク氏による決定版編集作業の一環として、数年前ようやく初出版されたそうです。「中国の不思議な役人」の組曲同様に、今後フルオケのレパートリーとしてもっと普及すればよいなと思います。

休憩後の「舞踏組曲」はブダペスト市成立50周年記念祭で、コダーイの「ハンガリー詩篇」と共に初演された祝典音楽です。比較的初期の作品になりますが、バルトークらしいメタモルフォーゼされた民謡調スタイルはすでに確立されており、聴き手にストレスを強いる舞曲集です。演奏は先の「かかし王子」と比べると演奏頻度が高い分、変に手馴れているのか、どうも集中力がなくてリズムのキレも悪かったです。それとこの曲を聴いていてあらためて思ったのは、サロネンさん、昔からライフワークのようにバルトークをよく取り上げてきていますが、何か別世界からのアプローチのように感じてなりません。いったいバルトークの何に共感して取り上げるのかというと、純粋にスコアに書き込まれたアヴァンギャルドな作曲技法のみであって、ハンガリー民謡の歌わせ方とかにはまるで関心がないようにも見えます。ハンガリーとフィンランドは言語的には同族と言われているので音楽でも根底の部分で共振するものがあるのかもしれませんが、それにしてもサロネンは、多分ハンガリーの素朴な自然を歩いたり、ハンガリーの田舎料理をこよなく愛するような人ではないんだろうなと思いました。最後、コーダの前のブレークは異常に長く、エンターテインメント性に長けた解釈ではありましたが。

最後はブロンフマン再登場でピアノ協奏曲の第2番。第1楽章は私も初めて実演で聴いたとき「なるほどそうだったのか」と瞠目したのですが、弦楽器が一切出てこない、ピアノと金管、木管だけのファンファーレ的音楽です。待ちくたびれた鬱憤を晴らすかのように、体重増殖中ブロンフマンのピアノはよくまあ激しく叩きつけること。打楽器奏者もかなわないくらいに手首がよく回ってます。しかも音がシャープで、打鍵は機械仕掛けのように正確。相変わらず硬質の切れ味鋭いピアノでした。これを聴けただけで今日は大満足。終楽章、せっかくのティンパニ連打でスミスさんが大見得を切ってくれなかったのと、全体的にオケの音(特に金管)が荒れていたのがちょっと残念。しかしラストの畳み掛けは最初からトップギアで爆走し、凄いの一言。来週の第3番もどう料理してくれるのか、とっても楽しみになりました。


バルトークシリーズはマーラーとはやっぱり違って、客入りはまあまあ。コーラス席には客を入れず、なお空席が目立ちました。ところで今日は第2ヴァイオリンのゲストプリンシパルとして船津たかねさんが、フィオナちゃんの隣りに座っていました。20年前にバーンスタイン指揮の第1回PMFオーケストラでコンミスを勤めたことで、若手美人奏者として一躍人気を博した人だそうです。今はさすがに年齢なりの落ち着きでしたが、今なお笑顔がかわいらしい小柄でチャーミングな女性でした。


たかねさんとフィオナちゃんのツーショットもなかなか…。