ロイヤルバレエ・ライブシネマ:ロミオとジュリエット2015/11/08 23:59


2015.11.08 Live Viewing from:
2015.09.22 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Romeo and Juliet
Koen Kessels / Orchestra of the Royal Opera House
Kenneth MacMillan (Choreography)
Sarah Lamb (Juliet), Steven McRae (Romeo)
Alexander Campbell (Mercutio), Gary Avis (Tybalt)
Tristan Dyer (Benvolio), Ryoichi Hirano (Paris)
Christopher Saunders (Lord Capulet), Elizabeth McGorian (Lady Capulet)
Bennet Gartside (Escalus), Lara Turk (Rosaline)
Genesia Rosato (Nurse), Sian Murphy (Lady Montague)
Alastair Marriott (Friar Laurence, Lord Montague)
Itziar Mendizabal, Olivia Cowley, Helen Crawford (Harlots)
1. Prokofiev: Romeo and Juliet

昨年もギリギリまで興業体制がはっきりせず、やきもきさせられたROHのライブシネマシーズンですが、今年はとうとう開幕に間に合わず、その代りというか、本国上演の24時間以内に1度きりの上演という今までの「準ライブ」方式ではなく、METのように2か月ほど前の演目を1週間上映するスタイルになりました。見に行けるチャンスが増えるという意味では一回ポッキリよりむしろ良いかもしれません。ただし劇場数は激減し、千葉県の上映がなくなってしまったので、日曜日に新日本橋のTOHOシネマズまではるばる家族で出かけました。周辺県からも集まったためか、土日の上映回は早々に満席になっていました。

以前は本国の書式を踏襲した配役表が入館の際配られていましたが、今回は幕間のインタビューで字幕が出ない部分の対訳がチラシとして配られました。元々台本にないインタビューのやりとりは翻訳が間に合わないから字幕が入らないのだと思っていましたが、たっぷり時間はあったはずの今回も途中字幕が抜けていたのは、どうやら契約の問題だったもようです。

昨年見た複数の千葉県の上映館と比べ、TOHOシネマズ日本橋はスクリーンの大きさ、音響共に圧倒的に良かったです。その分オケのアラがよく聴こえて、特にトランペットは相変わらずひどかったけど、ロンドンで聴いていた時も、まあだいたいいつもこんなもんだったかなと。

このマクミラン版ロメジュリは、今でも妻が自宅で繰り返しDVDを見ているのでいいかげん食傷気味なのですが、それでも大スクリーンで見ると、緻密に練り上げられ、歴史のふるいにかけられたその舞台はやっぱり感動的。何度も見たマクレーのロメオ、始めて見るサラ・ラムのジュリエット、どちらもこの上ない安定感で、パーフェクトと言うしかない素晴らしい演技でした。特に終幕でラムの凛とした決意の表情から、最後に爆発する悲痛な叫びまでの感情表現は渾身の名演技で、わかっちゃいるのに不覚にもウルっと来てしまいました。

ギャリーさんのティボルトは以前も見ましたが、さらに渋みが増し、哀愁が漂う大人の演技です。動きの激しい役はもうあまりやってないと思いますが、衰えを見せない剣さばきは流石。キャンベルのマキューシオは道化が足りず、ちょっと真面目過ぎでしたか。ベンヴォリオは初めて見る人です。悪友3人の息はピッタリで、ロメオの引き立てに徹した感じです。一方、強烈に違和感を感じてしまったのは、平野さんのパリス。せめてこの中なら、金髪に染めて欲しかったです。

ロイヤルバレエ・ライブビューイング:リーズの結婚2015/05/06 23:59


2015.05.06 Live Viewing from:
2015.05.05 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: La Fille Mal Gardée
Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
Frederick Ashton (choreography)
Natalia Osipova (Lise), Steven McRae (Colas)
Philip Mosley (Widow Simone), Paul Kay (Alain)
Christopher Saunders (Thomas), Gary Avis (village notary)
Michael Stojko (cockerel, notary's clerk)
Francesca Hayward, Meaghan Grace Hinkis,
Gemma Pitchley-Gale, Leticia Stock (hens)
Christina Arestis , Claire Calvert, Olivia Cowley,
Fumi Kaneko, Emma Maguire, Kristen McNally,
Sian Murphy, Beatriz Stix-Brunell (Lise's friends)
1. Ferdinand Hérold: La Fille Mal Gardée (orch. arr. by John Lanchbery)

半年ぶりのROHライブビューイングは古典バレエの名作「リーズの結婚」。原題は仏語で“La Fille Mal Gardée”(下手に見張られた娘=しつけの悪い娘)、英語では“The Wayward Daughter”(御しがたい娘)というタイトルですので、邦題で通用されている「リーズの結婚」は、以前から違和感を持っていました。最後のシーンが「結婚」という印象はなく、せいぜい「婚約」であろう、ということと、リーズとコラスの結婚に向けた道のりが話の本筋ではない(実質的な障害はほとんどなく、ずっといちゃいちゃしているだけ)、というのが理由です。「じゃじゃ馬娘」とか「おてんばリーズ」のほうが邦題として適当ではないかしらん。

過去ROHで観た2回はいずれもマクレー、マルケスの当時の定番ペアでしたが、最近マクレーはラムやオーシポワにペアを組み替えられたようで(近年は隈なくキャスト表を見ていないので、間違っていたらごめんなさい)、今日のリーズはオーシポワ。彼女をロンドンで観たときは、ボリショイ(コッペリア)、ペーター・シャウフス(ロメジュリ)、マリインスキー(ドンキホーテ)と毎回違うカンパニーでしたが、ロイヤルで踊っているオーシポワを観るのは初めてです。

過去に見た印象通り、今日の彼女も相変わらず躍動感が凄い。回転の加速とか、バランスの揺るぎなさとか、アスレチックな動きは抜きん出たものがあります。それだけで十分金を取れるダンサーであることは間違いない。一方、かつて見たマルケスを思い出しながら第1幕を見ていてすぐに感じたのは、この人、足技は凄いけど、手の動きがしなやかさに欠け、結果として全身の造作がぎこちなく見える場面が少々。実は意外と身体が硬いのでは、と思いました。また、マクレーと息を合わせて見栄を切ってほしいほんの一瞬で、客席への一瞥もなく、何だか自分の演技に没頭し過ぎている余裕のなさも垣間見られました。このバレエは小道具がたくさん出てきますが、長いリボンであや取りのように格子模様を作ったあとで、ほどくとリボンの中央に結び目が残ってしまうというミスも(まあこれはどちらのせいかわかりませんが)。資質的にはマクレーとはキレキレどうしで相性が良さそうにも思えますが、特にこの演目では、踊りの鋭さはなくとも、ラブラブ感をぷんぷんと匂わせていたマルケスに分があったでしょう。

幕間にビデオが流れた司会のダーシー・バッセルとバレエコーチのレスリー・コリア(我が家にあるDVDのリーズはこの人が踊っていました)の対談で、コリアが「オーシポワは技術的には完成されたものを持っているが、英国式のポール・ド・ブラ(腕の動かし方)を習得するのに苦労している」というようなことを言っていて、自分の感覚があながち外れていないことを確認できました。言い換えれば、こういう苦手な(というか向いてない)役をも乗りこなせば、オーシポワは無敵のプリンシパルになれるのではないでしょうか。

マクレーさんは今回も余裕で180度超の開脚を見せ、この人は相変わらず凄いです。マクレーファンの妻も大満足。何も言うことはございません。未亡人のフィリップ・モーズリーは、前に観たときも全てこの人が同じ役でした。木靴の踊りのキレはもう一つで(DVDで見る昔の人のほうが凄いです)、そのうちマクレーさんがこの役をやってくれないかなと真面目に思ってます。

幕間のオヘアへのインタビューでは、次シーズンのROHライブビューイングのバレエは、ロメジュリ(キャストはペネファーザーとラム)、くるみ割り人形、ジゼル、フランケンシュタイン(スカーレットの新作)、アコスタのミックスビル、アシュトンのミックスビルと、6本も予定されていることが告げられました。多分猟奇的なものになるであろうスカーレット新作は、是非見てみたいかな。その前に、来シーズンもライブビューイングを近場で上映してくれることをただただ祈るばかりですが。

ロイヤルバレエ・ライブビューイング:不思議の国のアリス2014/12/17 23:59


2014.12.17 Live Viewing from:
2014.12.16 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Alice’s Adventures in Wonderland
David Briskin / Orchestra of the Royal Opera House
Christopher Wheeldon (Choreography)
Sarah Lamb (Alice)
Federico Bonelli (Jack/The Knave of Hearts)
Alexander Campbell (Lewis Carroll/The White Rabbit)
Zenaida Yanowsky (Mother/The Queen of Hearts)
Christopher Saunders (Father/The King of Hearts)
Steven McRae (Magician/The Mad Hatter)
Eric Underwood (Rajah/The Caterpillar)
Philip Mosley (The Duchess)
Paul Kay (Vicar/The March Hare)
James Wilkie (Verger/The Dormouse)
Kristen McNally (The Cook)
Sander Blommaert (Footman/Fish)
Marcelino Sambé (Footman/Frog)
Meaghan Grace Hinkis, Beatriz Stix-Brunell (Alice's Sisters)
Michael Stojko (Butler/Executioner)
Luca Acri, James Hay, Solomon Golding (Gardeners)

今シーズンは日本におけるロイヤルオペラハウスのライブビューイング上映館がギリギリまで決まらずやきもきしたのですが、蓋を開けてみれば昨シーズン以上の館数で、選択肢が増えたのはたいへん良かったです。

さて久々に見るアリス(とは言っても最後に見たのはまだ去年の話か)、「美味しいキャラ」の双璧、ヤノウスキーとマクレーが揃い踏みしているのが嬉しい。ロンドンでは、初演の年は見に行けず、翌年はヤノウスキー降板、その翌年はマクレー降板と、二人揃った公演は(DVD以外で)始めて見ます。やっぱりこの二人のどちらが欠けても、何か損した気分が残ってしまうでしょう。一つ残念だったのは、これまた初演の定番メンツ、エドワード・ワトソンの怪我による降板。代役はセルヴィラとアナウンスされていて、結局アレックス・キャンベルになったのですが、長身でクセモノのワトソンと比べたらずんぐりむっくりで動きもどん臭いキャンベルは、やっぱり残念だったとしか言いようがない。

そういえば昨年ROHで見た公演でもマクレーの代役がキャンベルで、かなりがっかりしたものでした。そのマクレー様ですが、今日はもう完璧バリバリのマッドハッター、タップのキレがさすがに凄かった。タップと言ってもかかとだけじゃなくつま先でも自由自在に蹴りまくり、そのいちいちがくっきり際立つ名人芸。生じゃないのは残念ですが、今年もこれが観れて良かったです。

通信障害か、第3幕ハートの庭園の最後クライマックスで何度も映像が止まり中断されたのが残念でした。それよりも、気になったのは客入り。ほとんどガラガラでした。「アリス」にしてこの客入りでは、他の上演はどうなることやら。採算が悪いので来年はまた大幅撤退、ということにならなければよいのだけど。

ロイヤルバレエ・ライブビューイング:ウィールドン新作長編「冬物語」2014/04/29 23:59


2014.04.29 Live Viewing from:
2014.04.28 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: The Winter's Tale
David Briskin / Orchestra of the Royal Opera House
Christopher Wheeldon (Choreography)
Edward Watson (Leontes)
Lauren Cuthbertson (Hermione)
Zenaida Yanowsky (Paulina)
Federico Bonelli (Polixenes)
Sarah Lamb (Perdita)
Steven McRae (Florizel)
Joe Parker (Mamillius)
Bennet Gartside (Antigonus)
Thomas Whitehead (Polixenes' steward)
Gary Avis (father shepherd)
Valentino Zucchetti (brother clown)
Beatriz Stix-Brunell (young shepherdess)
1. Joby Talbot: The Winter's Tale

2011年の「不思議の国のアリスの冒険」以来の、ウィールドン&タルボットによる長編物語バレエです。ロイヤルバレエの新作を日本に居ながらほぼリアルタイムで見ることができるとは。ライブビューイング様様です。

「アリス」では特殊効果の映像を多用してファンタジーの世界へ誘う演出でしたが、今回は原点に立ち返り、できるだけ人の動作でストーリーを伝えようとしています。序曲で話の前段をテンポよく表現していったのは、上手いと思いました。振付けは全般的にユニークで、前衛舞踏のように変な動きも入っていて、心に引っかかりを残します。特に第1幕で妊婦のカスバートソンが執拗にいたぶられるのは、あえて不快感を残すまで狙ってやってると思いました。ワトソンの狂気とヤノウスキの忠心はどちらも素晴らしくハマっていて、これらの役は彼らの色があまりにも濃く付いてしまうので、他のダンサーを寄せ付けなくなってしまうのがちょっと危惧されました。プリンシパル6人はもちろん皆さん超一流でしたが、重みで言うと、あとの4人の役は誰がやってもできそうな「軽さ」で、コントラストがありました。

暗くて暴力的な表現が多かった第1幕と比べ、第2幕は明るい農村で助かりましたが、民族音楽に乗せて躍動的な群舞が延々と続くわりには第1幕よりも退屈しました。まず、音楽が単調。はっきり言って長かった。東欧風民族音楽ベースで押し通すには、バリエーション(のリサーチ)が足りなさ過ぎでしょう。また、慣れのせいかもしれませんが、変拍子リズムにオケがついていけてない。この幕でようやく登場、マクレー・ラムのペアは美男美女で相変わらず全てが美しいのですが、この二人は何度見ても「燃え上がる男女」には見えません。クール過ぎてパッションがないのです。素人の見方なので的外れだったらすいませんが、マクレーはこのくらいのパドドゥだったら余力十分、身体能力を持て余していたんではないでしょうか。

第3幕はシェークスピアの原作通りに話を拾っていって終結に向かいますが、納得いかないことが多々。エメラルドの首飾りは、ボヘミア王もシチリア王も、すぐ気付けよ。そもそも、盗品かもしれないんだし、これだけで何故に王族?隠れてた王妃は16年経っても同じ容姿なの?だいたい、娘が生きてて、王妃も生きてて、めでたしめでたしって、ちょっと待て、両親の諍いに心痛めて死んでいった息子ちゃんの立場は?などなど、突っ込みどころ満載の話を「喜劇」としてまとめるならまだしも、このように悲劇性を強調した演出にしてしまったら、また何度でも観たいかと言われたら、当分はいいや、という気になります。ということで、なかなか見応えのある新作バレエではありましたが、また観たいなと思うのは「アリス」や「レイヴン・ガール」のほうですね。

ロイヤルバレエのライブビューイングもこれで3回目ですが、前の2回とは違って今日は一人で見に来ている人が多かったように見えました。2014-15シーズンの予定も発表になってまして、家族としての注目は12月の「アリス」と来年5月の「ラ・フィユ・マルガルデ」、個人的にはまだ観たことが無い「マホガニー市の興亡」くらいですか。でも一番楽しみなのは来年2月のMETライブビューイング、「青ひげ公の城」です。

ロイヤルバレエ・ライブビューイング:眠れる森の美女2014/03/20 23:59


2014.03.20 Live Viewing from:
2014.03.19 Royal Opera House (London)
Valery Ovsyanikov / Orchestra of the Royal Opera House
Marius Petipa (Choreography)
Frederick Ashton, Anthony Dowell, Christopher Wheeldon (Additional Choreography)
Sarah Lamb (Princess Aurora), Steven McRae (Prince Florimund)
Christopher Saunders (King Florestan XXIV), Elizabeth McGorian (His Queen)
Kristen McNally (Carabosse), Laura McCulloch (Lilac Fairy)
Yuhui Choe (Princess Florine), Valentino Zucchetti (The Bluebird)
1. Tchaikovsky: The Sleeping Beauty

昨年末の「くるみ割り人形」に続き、ロイヤルバレエのライブビューイングを見に行ってみました。妻のお目当てはもちろんマクレー様。2011年にオペラハウスで見た際はマクレー&マルケスのゴールデンコンビだったんですが、芸術監督がオヘアに変わってからマルケスはちょっと冷遇されているようで、栄えあるライブビューイングのオーロラ姫はクール・ビューティーのサラ・ラム。マクレーとのペアは、どちらも本当に佇まいの美しい、ある意味よく似たお二人なのですが、あまりにもクールで完璧過ぎて、暖かみに欠ける気がしました。たとえローズアダージョが少々危うくても、マルケスのあの明るさと過剰な顔芸が、実はマクレーとの相乗効果でお互いよく引き立っていたんだな、と今更ながら思いました。そう言えば、サラ・ラムも今回のローズアダージョは意外と余裕ないなと思ったのですが、そんなことより、「不思議の国のアリスの冒険」を見て以来、ローズアダージョの音楽を聴くとハートの女王の爆笑パロディがどうしても瞼に浮かんできます、どうしてくれよう。

ライブビューイングの司会進行は前回と同じく元プリンシパルのダーシー・バッセル。休憩時のオヘアのインタビューでは日本語字幕がなくなるのも前と同じなので、ここだけは台本なしでやってるんでしょうね。ライブビューイングの映画館は千葉県の田舎でも6割くらいの客入りで、ほとんど女子。バレエスクールから団体で来ているっぽい集団もいましたが、引率の白人先生以外は皆女の子で、なるほど、日本ではかのように男性バレエダンサーの層は薄いのだな、とあらためて認識しました。次のライブビューイングは「不思議の国のアリスの冒険」のウィールドン/タルボットのタッグが手がける新作「冬物語」。ロイヤルの新作が日本に居ながらリアルタイムで見られる機会などそうそうないし、プリンシパルをずらりと揃えたキャスティングも非常に楽しみです。

ロイヤルバレエ「くるみ割り人形」のライブビューイング2013/12/13 23:59


2013.12.13 Live Viewing from:
2013.12.12 Royal Opera House (London)
Tom Seligman / Orchestra of the Royal Opera House
Peter Wright (choreography, production & senario)
Marius Petipa (original scenario)
Laura Morera (The Sugar Plum Fairy), Federico Bonelli (The Prince)
Gary Avis (Herr Drosselmeyer), Francesca Hayward (Clara)
Alexander Campbell (Hans Peter/The Nutcracker), Yuhui Choe (Rose Fairy)
1. Tchaikovsky: The Nutcracker<BR>

初ライブビューイングです。日本に居ながらもほぼリアルタイムでロイヤルバレエが見れる貴重な企画だし、昨年の「くるみ割り人形」はブダペストで見たのでロンドンでは見ず、今年は見に行く予定がなく年末恒例の「くるみ割り人形」が途絶えてしまうところだったので、ちょうどよい機会でした。

ライブとは言っても時差があるので実際は中継録画ですが、前夜のパフォーマンスを1回限りの上映ですから貴重なワンチャンスです。19時15分に上映開始ですが、ダーシー・バッセルを司会に据えて、15分ほど前ふりが続きます。日本語字幕付きでギャリーさんの作品解説や、バレエスクールの様子、オリジナルの振付け師ピーター・ライトがレッスンを見に来たシーンなど、なかなか興味深い映像でした。

その後カメラはオペラハウスのオーディトリウムに切り替わり、指揮者が登場してようやく開演です。ライブビューイングの日はさすがにオケも手堅い演奏をしていましたが、これは映画館のせいなんでしょう、音響があまり良くなかったので音は不満でした。まあ、もちろん生と比べるのは無い物ねだりですが…。一方、バレエはだいたいオーケストラストールかストールサークルの最前列で見ることが多かったので、普段見たことがなかったアングルのシーンがいっぱい見れたのは新鮮でした。ただ、好きなときに見たいところをオペラグラスでアップで見る、というのができないのはちょっともどかしかった。

第1幕が終わるとちゃんと20分間の休憩があり、またバッセルの司会でチェレスタ奏者とケヴィン・オヘアへのインタビューがありました。このインタビューのところだけ、ふと気付くと字幕が出てなくて、見に来ていた大勢の子供さんは戸惑ったのではないかな。インタビューが終わって第2幕のあらすじに戻るとまた字幕が復活していたので、最初から台本で決まっている部分だけ、各国語の字幕が用意されているんでしょう。

本日のプリンシパルはモレラとボネッリ。モレラは上手い人なんですがクセのある役専門なので、シュガープラムにはちょっと違和感が…。身体も筋肉質で重量感があり、リフトではボネッリの顔が歪んでましたので(こういうのがアップになるから面白い、いやいや、辛い)実際重いんでしょう。花のワルツのユフィちゃんは相変わらず可憐です。足ワザの技巧は大したものだと素人目にも思いましたが、モレラと比べたらやっぱりスケール感がないなあと、前にも思った感想をまた感じてしまいました。平野さん、小林さん、高田さんも健在のご様子。クララを踊ったフランチェスカ・ヘイワードという人は記憶になかったんですが、ロイヤルのバレエスクールを出たばかりの若手とのこと。若いわりには女の色気があって、やけに艶っぽくなまめかしいクララが面白かったです。是非、お色気路線を突っ走って欲しいと思います。

つい半年前まで日常あたり前に目の前に広がっていた舞台が、もうスクリーンの向こう側、はるか遠くにしかないんだなあとしみじみ思い、ちょっと淋しくなりました。何にせよ、日本に居てもこうやって最新の舞台を見れるというのは有り難いことです。また行きたいと思います。ROHライブビューイングの今後の予告で、3月の「眠れる森の美女」のキャストにマクレー様の名前を見て、妻の目が眼鏡の奥でキラリと光ったのを、私は見逃しませんでした…。

ロイヤルバレエ/ベンジャミン/アコスタ/ヤノウスキー/モレラ:「うたかたの恋」はベンジャミンの引退公演2013/06/15 23:59

2013.06.15 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Mayerling
Martin Yates / Orchestra of the Royal Opera House
Kenneth MacMillan (choreography), Gillian Freeman (senario)
Carlos Acosta (Crown Prince Rudolf), Leanne Benjamin (Mary Vetsera)
Laura Morera (Countess Larisch), Meaghan Grace Hinkis (Princess Stephanie)
Zenaida Yanowsky (Empress Elisabeth), Brian Maloney (Bratfisch)
Christopher Saunders (Emperor Franz Joseph), Laura McCulloch (Mitzi Casper)
Genesia Rosato (Helene Vetsera), Ursula Hageli (Archduchess Sophie)
Gary Avis (Colonel 'Bay' Middleton), Philip Cornfield (Alfred Grünfeld)
Alexander Campbell, Bennet Gartside, Valeri Hristov, Johannes Stepanek
(Four Hungarian Officers), Fiona Kimm (Katherina Schratt/mezzo-soprano)
1. Liszt (arr. by John Lanchbery): Mayerling

マイヤーリンクは、邦題は「うたかたの恋」と言うそうですが、ハンガリー国立バレエでもレパートリーに定着していて、見るチャンスはいくらでもあったはずなのです。結局最後の最後になってやっと観賞の機会となったのは、元々バレエのために作曲された曲ではない「編曲ものバレエ」は音楽とダンスの融合度において格下である、という(私の勝手な)偏見から、観賞の優先度を下げていたからです。

本日はマイヤーリンクの最終日で、吉田都さんより年長のリーン・ベンジャミンのROH引退公演であるため(でもシーズン発表当初、最終日はマルケスとなっていた記憶があるんですが)チケットはもちろんソールドアウト、ダンサー仲間も多数見に来ていたようです。近隣の客席を見渡すと、ボネッリ・小林ひかる夫妻を見つけました。小林さん、正直ファンというわけではないのですが、オフステージの髪を下ろしたドレス姿は華のあるスレンダー美人でした。

今シーズンのマイヤーリンクは、序盤でガレアッツィ、中盤でコジョカル、そして最終日でベンジャミンという、3人ものプリンシパルが一挙に退団するという因縁の演目になりました。くしくも、我が家にとってもこの日がロンドンでの最後の観劇ということで、感慨深いものがあります。ロンドン最後の演目に選ぶにはちょっと暗過ぎだし、子供に見せるものじゃないんじゃないかという危惧もありましたが、蓋を開けてみれば、退廃的な雰囲気の中にも人間ドラマが凝縮された密度の濃いいバレエで、たいへん楽しめました。思えばもっとドギツい演目も今まで子供に見せてましたし、不倫と自殺はオペラ・バレエの基本アイテムですしね。

ストーリーは、マザコンのドラ息子である王子が親の敷いたレールを踏み外す自由がない自分の境遇にスネまくって、妻をいじめ、クスリに溺れ、最後は未成年の愛人と心中するという救われない話です。アクロバットな技を競い合うバレエではもちろんなく、各々屈折したキャラクターにリアリティを持たせる演技力が命と言えるわけですが、アコスタはさすがにベテラン、ナイーブなドラ息子が身を持ち崩していく様を見事に演じ切っていました。パドドゥの力技も見応えがありましたし、アコスタはまだエースを下りる気はないな、と、ちょっと見直しました。相手役のベンジャミンも卓越した表現力。最初に登場する場面では立ち振る舞いがマジで「くるみ割り人形」に出てきそうな無垢な10代の少女に見えたので、別の人なのかなと思わずオペラグラスで確認しました。その後のファム・ファタールへの変貌ぶりも見事なもので、バレエがジムナスティックである以前にボディ・ランゲージであることを再認識させられました。

これら老獪な説得力抜群の主役を脇で固めるのが、これまた芸達者な人達ばかり。ヤノウスキーは長身で芯の強い女という皇女エリザベートのイメージにぴったし。アコスタとの絡みで、お互い腕を取りグルグル回る回転が、あっという間に見てる自分がGを感じるくらいの高加速度。あまり組む相手でなくてもこういうのがしれっとできてしまうのは、さすがに百戦錬磨のプリンシパル。それ以外にもモレラ、エイヴィスといったクセのあるプリンシパルが脇役ながらも要所を締める贅沢なキャスティングでした。マクミランの作品なので舞台の隅にも目をやると、小芝居がいつにも増して芸が細かく、ヤノウスキーとアンダーウッドの談笑など、声は出さずとも話が弾む様子がめちゃめちゃリアルで、一体何を話しているんだろうとついオペラグラスで覗き見したくなるくらいでした。群舞では金子さん大忙し。去りゆくプリンシパルを皆が温かく、最大限の敬意と集中力を持って支えたこのマイヤーリンクは、一生のうちにそうそう見れるものではない充実した公演でした。

終演後は退団するダンサーを送り出す恒例のフラワーシャワー。舞台では男性プリンシパルがずらりと並び、花束を渡しました。カーテンコールではベンジャミンの息子ちゃんも登場。一旦場内が明るくなった後もまだ拍手は鳴り止まず、最後に引っ張り出されたときの充実した笑顔が、今日の公演の全てを物語っていました。


満足そうな表情のベンジャミン。



ヤノウスキーとヒンキス。


ベンジャミンとモレラ。


アコスタ。


ブライアン・マロニー。この人もこの日が引退公演だったようで、盛大な拍手と花束が飛び交っていました。


正装した息子ちゃんとハグするベンジャミン。


照明が点いても鳴り止まない拍手の場内。


さて、ロンドンに来てから260回を数える演奏会通いも、とうとうこれでおしまい。この趣味に関しては、ロンドンほど恵まれている土地は他にないでしょう。日本に帰ったら、どうしましょうかねえ…。外タレは高くて手が出ないので、在京オケと新国立劇場中心にローカルものを見ていくことになると思います。次のシーズンのプログラムで、これは何としても聴きたい、と思えるものがあまりないので数はそんなに行かないと思いますが、何か聞いたら随時備忘録としてブログとHPにゆるゆるとアップします。

ロイヤルオペラ/ディドナート/フローレス/バルチェローナ:ロッシーニ「湖上の美人」2013/06/07 23:59

2013.06.07 Royal Opera House (London)
Michele Mariotti / Orchestra of the Royal Opera House
John Fulljames (director)
Joyce DiDonato (Elena), Juan Diego Flórez (Uberto/King of Scotland)
Daniela Barcellona (Malcom), Michael Spyres (Rodrigo)
Simon Orfila (Douglas), Justina Gringyte (Albina)
Robin Leggate (Serano), Pablo Bemsch (Bertram)
Christopher Lackner (a bard)
Royal Opera Chorus
1. Rossini: La donna del lago

ロッシーニはブダペストのころに「理髪師」と「チェネレントラ」を1度ずつ見ただけで全く守備範囲外だし、この「湖上の美人」も名前すら知りませんでした。フローレスとディドナートじゃなければパスしていたことでしょう。

フローレスは、3年前の「連隊の娘」を一般発売で買おうとしてあえなく撃沈し、それ以降まだ聴けてませんでした。やっぱりROHはフレンズに入らなきゃチケット取れないのか、と思い立つきっかけにはなりましたが。実物のフローレスは、DVDで見た通りの甘いマスクに、甘ったるくない軽妙なクリアボイスが心地良い、まさにスーパーテナーでした。序盤でちょっと声が裏返りそうになったり、調子はベストじゃなかったかも。一方のディドナートはCD・DVDでもまだ聴いたことがなかったのですが、太くて野卑な声はたいへん個性的。評判のコロラトゥーラの技巧は、確かに速弾きギタリストと違って生身の肉体だけを駆使してあのトリルを声でやるのは凄いものの、私には文字通り「技巧」だと認識するのみで、音楽的な凄みを感じなかったのもまた事実。自分がロッシーニを好んで聴かなかった理由が今わかった気がします。

ベストとは言えないものの期待を裏切らない歌唱を聴かせてくれた主役二人の、さらに上を行っていたのがダニエラ・バルチェローナ。長身でがっしり体型は、メゾソプラノながらもまさに男の中の男、兵士の中の兵士。さらにこの人の歌が群を抜いて完璧で、今日一番の拍手喝采を浴びておりました。ロドリーゴ役のマイケル・スパイレスは、この中では割りを食ったのか、もうひとつ冴えない印象。フローレスと同じ旋律を追いかけて歌うという酷な場面がありまして、やっぱり並べて聴いては差が歴然なのが気の毒でした。バルチェローナよりも背が低くてデブに見えたのもマイナス。

この「湖上の美人」は、緊迫したり悲しかったりする場面でも徹底して能天気でヌルい音楽が続くという、ある意味開き直った楽観主義が貫く曲でしたが、演出は凄惨さを前面に打ち出したもので、スコットランド人反乱軍をことさら野蛮人に描いたのが、何とも意味不明なカリカチュア。図書館だか博物館の中で、ショーケースに入った標本が突如として動きだし、おそらく学者さんたちの空想中の物語を展開して行きますが、最後はまたショーケースに戻るという入れ子の構造で、これは自分の思想じゃなくて登場人物の空想の話なんですよ、という逃げの言い訳を演出家が用意しているだけのような。また、全体的に突っ立って歌うばかりで動きが少ないのは、歌が難しいからかもしれませんが、初めて見る私にはちょっと退屈な演出でした。


男より凛々しいバルチェローナ。後ろはスパイレス。


フローレス。


ディドナート。


敵役だった後ろの二人が、何だかとっても仲良さそうなのです…。

ロイヤルバレエ:レイヴン・ガール/シンフォニー・イン・C2013/05/24 23:59


2013.05.24 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Raven Girl / Symphony in C
Koen Kessels / Orchestra of the Royal Opera House

ロイヤルバレエのダブルビル。ウェイン・マグレガーの新作にして久々の(初の?)ストーリーものである「レイヴン・ガール」と、バランシンがビゼーの名曲に振付けた著名作「ハ調の交響曲」の新旧二本立てです。

1. Gabriel Yared: Raven Girl (world premiere)
Audrey Niffenegger (author), Wayne McGregor (choreography)
Sarah Lamb (raven girl), Edward Watson (postman)
Olivia Cowley (raven), Mirabelle Seymour (raven child)
Paul Kay (boy), Thiago Soares (doctor)
Eric Underwood (raven prince)
Beatriz Stix-Brunell, Tristan Dyer (19th-century couple)
Camille Bracher, Fernando Montaño, Dawid Trzensimiech (chimeras)

アメリカの童話作家オードリー・ニッフェネッガーがこのバレエのために書き下ろした新作ストーリーだそうで、あらすじはこんな感じです。郵便配達夫が岩場のカラスに恋をし、二人(?)の間に翼がない女の子が生まれる。女の子は成長して親元を離れ大学に行くが、キメラの研究を発表していたマッドな医者と出会う。女の子は彼に誘惑されて手術を受け、ついに翼を手に入れるが、親にバレて翼を手放す。医者は転落死し、女の子を密かに好いていた男の子は絶望して岩場に姿を消す。最後は女の子とカラスの王子が結ばれ、一件落着(?)。うーむ、自分でも書いていて、特に最後の展開がよくわからないストーリーです。

舞台も照明も衣装も、全体的に一貫して暗い上、「アリス」のようにビデオを多用するために半透明スクリーンがずっと下りていて、ビジュアルが常にぼうっとしていたのがまずマイナスでした。もちろんそれは承知の上でその効果を狙ったのかもしれませんが、あそこまでビデオで何でもかんでも説明しなくても良かったのでは、と思います。言葉の力を借りずに音楽と踊りだけで全てを表現しつくす芸術がバレエだったのじゃないかと。ある意味言葉以上に饒舌なビデオという媒体に頼り、また音楽も生演奏に加えてサウンドエフェクトや打ち込み演奏を多用して、安易な反則ワザが多いように思えました。それがなくても、音楽はB級映画のサウンドトラックみたいで正直安っぽかったです。これは音楽だけで独り立ちはできないでしょう。

振付は、皆さんポワントシューズで踊ってましたし、コンテンポラリーよりは多少クラシックバレエに近い感じ。パドドゥ(特に最後の)はなかなか密度の濃いものでした。主役のラムは柔軟な身体を余すとこなく駆使し、少女の幼さと大人の色気がほどよくミックスされた、今まで見たことがない境地にたどり着いていたと思います。脇を固める人々もエース級でしたが、ふと、主役の出来に対する依存度が高い演目なのかなと見受けました。逆に、ラムの他はあまり見所がなく、カラスの飛翔を模した群舞はひたすら退屈で間延びしました。バレエではなく一つの舞台作品として見れば、それなりに楽しめた部分も多々ありました。ただし一幕で70分もある尺は、もうちょっと短くしたほうがよいのではないかと。


左から2人目、母親ガラス役のカウリーはずっと黒覆面をつけて踊っていました。美人がもったいない…。


右は振付けのマグレガー。


ラムのすぐ後ろが、原作者のニッフェネッガーさん。


2. Bizet: Symphony in C
George Balanchine (choreography)
1st movement:
Zenaida Yanowsky, Claire Calvert, Fumi Kaneko
Ryoichi Hirano, Johannes Stepanek, Fernando Montaño
2nd movement:
Marianela Nuñez, Tara-Brigitte Bhavnani, Olivia Cowley
Thiago Soares, Nicol Edmonds, Tomas Mock
3rd movement:
Yuhui Choe, Akane Takada, Elizabeth Harrod
Steven McRae, Brian Maloney, Kenta Kura
4th movement:
Laura Morera, Yasmine Naghdi, Emma Maguire
Ricardo Cervera, Tristan Dyer, Valentino Zucchetti

一方の「ハ調の交響曲」は、ストラヴィンスキーにも同名の曲があるので要注意ですが、これはビゼーのほうです。ジョージ・バランシンの代表作で、特にストーリーはなく、4つの各楽章を各々男女3組ずつのグループで踊り、最後は全員で大団円となる、華やかで単純に楽しいダンスの饗宴です。主役級はプリンシパル中心の豪華な布陣で、まず第1楽章はヤノウスキー・平野亮一のペア。筋肉の逞しいヤノウスキーを支えるのに、ガッシリ体格の平野さんはなかなか良いペアなのではないかと。長身を活かしたダイナミックかつ安定感抜群のダンスに感服しました。それにしても、ヤノウスキーは白いチュチュが似合わないなあ…(私的感想)。第2楽章はヌニェス・ソアレスの夫婦ペア。アダージョの楽想に合わせて優雅さの機微をしっとりと表出する、余裕のベテランペアでした。ソアレスは「レイヴン・ガール」とダブルの出演お疲れ様です。スケルツォの第3楽章はマクレー様とユフィちゃんによる飛び技連発。この人達ならではの躍動感がうまくハマっていました。この楽章は他に高田茜・マロニー、ハロッド・蔵健太と、一番スキのないキャスト。しかも日本人率が高いです(笑)。トリの終楽章はモレラ・セルヴェラのちょっと地味なペア。モレラが白いチュチュを着て古典を踊っているのは初めて見たのでたいへん新鮮でした。見慣れてないせいか、破綻はないものの、何だかよそ行き感を覚えてなりません。最後の大団円まで来ると、やっぱりヤノウスキーとヌニェスの存在感は別格。この凄い人達と並んでプリンシパルになるかもしれないユフィちゃんは、これからたいへんかも。舞台装置はなく、衣装は皆同じ、ダンサーの身体能力だけで表現し尽くしたこの30分間は、どんなバレエよりもむしろ豪華絢爛に見えました。それにしても、オケは相変わらずのていたらくで、トランペットとホルンが酷いのはいつものこととして、今日は木管も酷かった。堕落が慢性化してますね。


ユフィちゃん、モレラにマクレー様。蔵さんも後ろに。今日は写真が取り辛い席でした…。


指揮者のケッセルズ。


蔵さんとペアを組んでいたのは、エリザベス・ハロッド。

ロイヤルオペラ/パッパーノ/カウフマン/ハロウトゥニアン/クヴィエチェン/ユリア=モンゾン/フルラネット/ハーフヴァーソン/ロイド:人類の至宝「ドン・カルロ」2013/05/11 23:59


2013.05.11 Royal Opera House (London)
Sir Antonio Pappano / Orchestra of the Royal Opera House
Nicholas Hytner (director)
Jonas Kaufmann (Don Carlos), Lianna Haroutounian (Elizabeth of Valois)
Ferruccio Furlanetto (Philip II), Mariusz Kwiecien (Rodrigo, Marquis of Posa)
Béatrice Uria-Monzon (Princess Eboli), Dušica Bijelic (Tebaldo)
Robert Lloyd (Monk/Carlos V), Eric Halfvarson (Grand Inquisitor)
Téo Ghil (Priest Inquisitor), Susana Gaspar (voice from Heaven)
Pablo Bemsch (Count of Lerma), Elizabeth Woods (Countess of Aremberg)
ZhengZhong Zhou, Michel de Souza, Ashley Riches,
Daniel Grice, Jihoon Kim, John Cunningham (Flemish Deputies)
Royal Opera Chorus
1. Verdi: Don Carlo

このロイヤルオペラ2008年のプロダクションはビリャソン、キーンリサイド、ポプラフスカヤのキャストですでにDVD化されていますが、我家にあったのはさらにその前のヴィスコンティ演出の映像でした。いずれにせよ生の「ドン・カルロ」は初めて見ます。ワーグナー並みに長くて登場人物も多いオペラなので、ヴェルディのほかの作品に比べて上演機会は少ないようです。

ロンドンではキャンセル魔として知られるアーニャ・ハルテロスが、今回は果たして何日歌うのか注目されていたようですが、初日に出た後は、大方の予想通り「病気のため」キャンセルとなりました…。代役は、元々後半戦にキャスティングされていたアルメニア人のリアンナ・ハロウトゥニアン。今回がロイヤルオペラデビューだそうです。見るからにおばちゃん体型で、王妃の気品と色気の点ではちょっと残念ではありましたが、代役もすでに2日目でしたので固さの取れた演技に、カウフマンと歌い合っても聴き劣りしない、ふくよかな美声が素晴らしく良かったです。

エーボリ公女のユリア=モンゾンは知らない人だったので調べると、カルメンに定評がある様子。言われてみれば確かにそんなジプシーっ気を匂わせている人で、逆に公爵夫人というにはあまりにも蓮っ葉なお顔立ち。私はあのテの顔がどうしても苦手で生理的に受けつけません。自分の「呪われし美貌」を切々と歌う場面など、もう違和感ありまくりで、すいません、いくら歌が上手くてもオペラはビジュアルもやっぱり大事だなあと思い知りました。なお、天の声のソプラノは、本当にオペラ座の天井から聴こえてきました。バルコニーからは姿もちらっと見えた気がしましたが、下のほうの人にはどうだったんでしょうか。

この作品は女声が相対的に影薄く、全く男声陣のためのオペラと言えましょう。タイトルロールのカウフマンは相変わらずテナーにあるまじき野太い声が健在で、スターの立ち振る舞いもたいへん良かったのですが、それをさらに食っていたのがロドリーゴ役のポーランド人、マリウシュ・クヴィエチェン。細身ながら低音のよく響く声に、ちょっと抑え目の演技が役所を捉えていてカッコいい。フルラネット、ハーフヴァーソン、ロイドのベテランバス3人組は、皆さん地響きのような低音の中にも声に各々個性があって、ここまでの人達が競演してくれる機会もそうそうないでしょう。歌手陣は総じて素晴らしい出来で、満足度の高い「ドン・カルロ」初生鑑賞でした。

演出は、シンプルでシンボリックな舞台ながらも衣装は中世スペイン風で奇抜な発想転換はなく、火あぶりの刑の見せ方など工夫があって感心しました。カルロス5世の墓はどう開くのだろうと思っていたら結局開かず、ドン・カルロは剣でやられて息を引き取るだけ、墓には引きずり込まれませんでした。ドン・ジョヴァンニの地獄落ちみたいなのを期待していたら、肩すかしでした。


大司教のエリック・ハーフヴァーソン。


エーボリ公女、ベアトリス・ユリア=モンゾン。


ロドリーゴのマリウシュ・クヴィエチェンは、大人気。


渋いベテラン、フルッチョ・フルラネット。


なかなか良かった、ハルテロス代役のリアンナ・ハロウトゥニアン。


ヨナス・カウフマンはスターですな。


真ん中はパッパーノ大将。今日もオケは熱演でした。