ロイヤルオペラ:「連隊の娘」は笑いと涙の松竹新喜劇2012/04/21 23:59


2012.04.21 Royal Opera House (London)
Yves Abel / Orchestra of the Royal Opera House
Laurent Pelly (Original Director), Christian Rath (Revival Director)
Wendy Ebsworth (Interpreter to British Sign Language)
Patrizia Ciofi (Marie), Colin Lee (Tonio), Alan Opie (Sulpice Pingot)
Ann Murray (La Marquise de Berkenfeld), Donald Maxwell (Hortensius)
Ann Widdecombe (La Duchesse de Crackentorp), Jonathan Fisher (Corporal)
Luke Price (Peasant), Jean-Pierre Blanchard (Notary)
1. Donizetti: La Fille du Régiment

デセイとフローレスが出演した一昨年の公演は、一般発売日にはもう碌なチケットが残ってなくて断念しました。今年はそのリベンジでしたが、歌手陣がガラっと変わってしまって(正直ダウングレード)ちと残念。ロンドンブロガーの方々でもほとんど話題に上らないのは、皆さん2年前にきっちりご覧になっていて今年はパスされてるからなんですかねー。

こないだ数えてみたら、オペラ・バレエ鑑賞を合わせてようやく生涯100本目を超えたところですが(まだまだヒヨッコです…)、意外にもドニゼッティのオペラを生で見るのは初めてです。「連帯の娘」はロンドンに来るまで名前すら知りませんでしたが、笑いあり涙あり、ストレートでどこかほのぼのとしたストーリーは、まさに松竹新喜劇の世界。台詞に唐突に英語(しかもオリンピックなど時事ネタ)やドイツ語が混じってきて面食らいますが、それも爆笑を取る計算のうち。無邪気に笑える素敵なプロダクションでした。

マリー役のパトリツィア・チョーフィは特に出だしの調子が上がらず。高い声は出ているものの、いかにも声が弱く、オペラの歌になっていませんでした。風邪が治ったばかりのような、芯のない声でした。これはやっぱり、DVDで見たデセイにかなうものではありません。ただ妻に言わせると、「ジャガイモの皮むきはデセイより上手かった」。軍曹のアラン・オピーも、いい体格をしているわりには声は意外と細く、というか繊細で、ちょっと舞台の奥に引っ込むと途端に声が通らなくなるのはどうしたものかと。演技は面白かったですが。

このオペラの真の主役、トニオを歌ったコリン・リーは、たいへん立派な歌唱で感心しました。そりゃフローレスと比べたらスターのオーラは薄いし、ゴツめの身体は二枚目役には似合わないけど、ハイCはよく出ていたし、演技も達者でした。指揮者のイヴ・アベルは確か2年前のゲオルギューの「椿姫」で聴いていますが、オケの出来はまずまずといったところ。あの荒れがちなオケを手堅くまとめたという点では、よい仕事をしたと言えましょう。

今日の公演はBSLというイギリスの手話に通訳する女性が舞台袖にずっと出ずっぱりで、ほとんど全ての歌・台詞を身振り手振りで訳していました。まさかフランス語の歌を同時通訳でBSLに訳していたわけではなく、脚本はあったんでしょうが、長丁場に渡り全身を優雅にかつダイナミックに使った熱演で、今日一番大変だったのは間違いなくこの人でしょう。


拍手喝采、熱唱のコリン・リー。


チョーフィはどうしてもデセイと比べられてしまう宿命なので、ある意味気の毒。


カーテンコールでは手話通訳のウェンディさんも一緒に。