LSO/K.ヤルヴィ/スパッソフ/ステファノスキ/タディッチ:バルカン・フィーバー!2013/01/31 23:59

2013.01.31 Barbican Hall (London)
Kristjan Järvi / London Symphony Orchestra
Vlatko Stefanovski (guitar), Miroslav Tadic (guitar)
Theodosii Spassov (kaval)
1. Kodály: Dances of Galánta
2. Kodály: Variations on a Hungarian Folksong "The Peacock"
3. Enescu: Romanian Rhapsody No. 1
4. Jacques Press: Wedding Dance from Symphonic Suite "Hasseneh"
5. selected arrangements by Theodosii Spassov
 Iovka Kumanovka/Strange Occasion/Say Bob/
 Eleno/Kite/Yunus Emre/Scherzo/Fire Feast

「バルカン・フィーバー」と名打ったLSOの企画モノですが、事前のプログラムは前半の曲しか告知されてなくて、ハンガリーとルーマニアはバルカンじゃないじゃん、と訝しく思っておりました。もちろんこのネーミングのキモは後半のセッションにあるわけで、出演者・作曲者の出自を調べれば、

テオドシー・スパッソフ(カヴァル)はブルガリア
ヴラコ・ステファノスキ(ギター)はマケドニア
ミラスロフ・タディッチ(ギター)はセルビア
クリスチャン・ヤルヴィ(指揮)はエストニア
コダーイ(作曲)はハンガリー
エネスコ(作曲)はルーマニア
ジャック・プレス(作曲)はグルジア

と、バルカン半島出身のソリスト中心に、立派な「東欧の祭典」になってます。東欧びいきの私としてはもう聴きに行くしかないでしょう、という演奏会でした。

1曲目「ガランタ舞曲」はコダーイの代表作で、ジプシーの音楽スタイルも取り入れた「狂詩曲」的賑やかさが魅力です。LSOのイロモノ担当(失礼)、クリスティアン・ヤルヴィは相変わらず両手の動きがほとんど左右対称(笑)。ノリノリに腰をふり踊りながら、楽しそうに指揮していました。次の「ハンガリー民謡『くじゃくは飛んだ』の主題による変奏曲」もコダーイの中ではよく演奏される有名曲ですが、実演で聴くのは初めてでした。この主題はハンガリー民謡の一つの典型であって、バルトーク「青ひげ公の城」冒頭の低弦による序奏でもこれとほぼ同じ旋律を聴くことができます。個人的には冗長に感じてあまり好きでない曲ながら、今日前半のLSOは素晴らしい集中力を見せて、感動的に上手い演奏でした。続く「ルーマニア狂詩曲」はさらにクレイジーな宴会踊りが繰り広げられ、リズムにうねりを持たせながら弾き切るLSOも見事でした。前半の曲はどれも久々に演奏したのでしょうか、しっかりと練習して臨み、高い集中力で慎重かつ大胆に取り組んだのがよくわかりました。こういうときのLSOは本当に凄いです。脱帽。


前半終わったところのクリスティアン。

休憩後、グルジアの作曲家プレスの「婚礼の踊り」で賑々しく始まった後半戦は、3人のフォーク・ジャズ・ミュージシャンをソリストに迎えて、即興性の高いパフォーマンスが繰り広げられました。曲は概ねスパッソフのソロアルバムからピックアップし、オーケストラのアレンジを加えてあるようです。個々の曲のタイトルはプログラムから拾いましたが、結局どれがどれだかよくわからなかったので個別の論評は差し控えます。

カヴァルはバルカン半島やアナトリア半島で伝承される木製の縦笛で、元々は羊飼いの笛だそう。リードはなく、音も奏法も尺八によく似ていますが、ちょっと斜めに構えて吹くのがスタイルみたいです。奏法の自由度は高く、普通のフルートのように奇麗な音色が出るかと思えば尺八のような破裂音やグリッサンドも自由自在、さらには横笛のように持って指孔を吹いてみたり、反対側から吹いてみたり、合いの手で声を入れたり、やりたい放題。まあ、これはスパッソフならではの個性なのかもしれませんが、本当にダンディで芸達者なオジサンです。アコースティックギターの二人はどちらもちょっと年配のベテランで、顔の系統も似ていたのでどっちがどっちだったか時々混同してしまいますが、演奏スタイルはくっきりと違いました。野球帽をかぶったステファノスキはアル・ディ・メオラばりの速弾きが得意なギタリスト(フレーズ自体は正直面白みがなかったけど)、一方のタディッチはもう少しクラシカルで、スパニッシュも入ったような落ち着いたスタイル。スパッソフを加えたトリオでもよく活動しているみたいで、なるほど、各人の個性が立った、なかなか魅力的なトリオだと思いました。

一般的にバルカン、特にブルガリアの民族音楽は奇数拍を多用した複雑なリズムが特徴で、バルトークにも「ブルガリアのリズムによる6つの舞曲」というピアノ曲がありますが、今日の曲も変態的なリズムが面白いものが多かったです。一つ苦言を言うと、オケパートは普通にストリングスを付けただけのようなつまらないアレンジで、演奏するLSOのほうも前半と比べて集中力の落差が大きく、後半はそもそもフル編成のLSOは必要なかったのでは。どうせ共演するならもうちょっと密度の高いアレンジで、「兵士の物語」みたいな少数精鋭でやったほうが絶対面白いと思います。そう言えば、今日のコンマスはプログラムではシモヴィッチとなっていましたが、実際はアラブっぽい顔立ちのラウリがコンマスでした。今日のプログラムでモンテネグロ出身のシモヴィッチがいないのは痛いと思いましたが、ラウリもマルタ出身で、実は同じ南欧でそんなに離れてないんですね。

後半は特に、演奏中でもかまわずスマホで写真を撮っている人が多数いて、普段のLSOとは客層が違う感じがしました。アンコールも含めると結局夜10時過ぎまで演奏していて、長い演奏会でした。トリオはこの後さらにバーの前のステージでアフターコンサートをやる予定だったのですが、風邪が久々に副鼻腔炎にまで悪化し、コンサートに行くには最悪な体調の中、よりによって3日間連続で買っていたチケットを何とか消化するだけでもう限界、さっさと帰宅しました。



元気なオジサン、ステファノスキと、ダンディなスパッソフ。