Happy New Yearと、2012年の演奏会総括2013/01/01 00:00

皆様、新年あけましておめでとうございます。本年もどうかよろしくお願い申し上げます。

さて、私もfelizさん椿姫さんを見倣い、2012年のコンサート総括などをしてみようかと思います。

2012年に行った演奏会の数は79回でした。2011年は74回でしたがそれを抜き、自分としては新記録です。79回のうち家族で出かけたのが36回あります。ロンドンブログ仲間の方々に比べたら総数は全然少ないですが、家族持ちとしては目一杯がんばった数字と思います。今年はここまでは行けない気がします。

ジャンルで分けると、オペラ8.5回、バレエ9.5回(オペラ&バレエのミックスビルは各々0.5回とカウント)、オーケストラ51回、室内楽4回となります。さらに去年はミュージカルに2回(We Will Rock You、West Side Story)、ポピュラー系のコンサートに4回(Queen 2回、Level 42、Chilly Gonzales)行ったのが私としては目新しいところ。

楽団・アーティスト別でカウントすると、主だったところは以下のような感じです。

ロンドン:
ロンドン響 16
コヴェントガーデン王立歌劇場 15(オペラ7、バレエ8)
BBC響 4
ロンドンフィル 3
フィルハーモニア管 3

ロンドン以外+外タレ:
コンセルトヘボウ 4
ニューヨークフィル 3
ウエスト・イースタン・ディヴァン 3
ウィーンフィル 2
チェコフィル 2
ブリテン・シンフォニア 2

2011年はマーラーとバルトークの記念イヤーシリーズを組んだフィルハーモニア管にたくさん通いましたが、昨年は興味を引くプログラムがあまりなかったため激減しました。コンセルトヘボウとNYPはバービカンのインターナショナル・アソシエイツ・シリーズ、WEDOはBBCプロムスのおかげですね。

演奏会場ではダントツでバービカンホールの31回。続くロイヤルオペラハウス(メインホール)が14回、ロイヤルフェスティバルホールとロイヤルアルバートホールが各々10回となっております。なお全79回のうち7回は国外(プラハ2、アムステルダム・パリ・フィレンツェ・ウィーン・ブダペスト各1)でした。

どちらかというと私は、特に生の音楽会では、特定のアーティストを集中的に繰り返し聴くよりはいろんな人を数多く聴いてみようと思うほうなので、指揮者・ソリストで分類するとばらけてしまってあまり面白くないです。指揮者で回数が多かったのは、ゲルギエフが5回、ギルバート、ユロフスキ、バレンボイム、パッパーノ、ハイティンク、MTTが各々3回でした。サロネン、ビエロフラーヴェクは各々2回で、去年は意外と伸びなかった。しかし、実のところ2012年で最も数多く聴いた指揮者は、バリー・ワーズワースの6回。ロイヤルバレエの指揮をほとんど一手に引き受けていたような人でした。なおソリスト(楽器)では、テツラフの3回を筆頭に、カヴァコス、ヴェンゲーロフが各々2回。ヴァイオリニストばっかりだ(苦笑)。しかし、ヴァイオリンをかぶりつきで聴くのは、実際病み付きになりますね。

79回の中でベストを挙げるとすれば、うーむ、2012年はどれも小粒と言うか、これはっ!というのがなかった年ではありましたが、あえて選んだベスト5(順不同)は以下の通りです。

[2012.10.27] ブリテン・シンフォニア: 20周年記念ガラコンサート
[2012.09.07] ウィーンフィル/ハイティンク: アルプス交響曲, ハイドン104
[2012.06.03] フィレンツェ歌劇場: 青ひげ公の城, 中国の不思議な役人
[2012.04.01] ロンドン響/ビシュコフ: マーラー3
[2012.03.24] サンクトペテルブルグフィル/テミルカーノフ/ヴェンゲーロフ(vn)

ということで、オチはありません。以前から自分が行った演奏会の統計資料は備忘録の付録として公開しておりますので、さらなる詳細にご興味ある奇特な方がいらっしゃいましたら、備忘録のページをご参照ください。

二重帝国で骨髄食いまくり2013/01/03 23:59

と、たいそうに書く話でもないのですが、クリスマスはウィーンとブダペストに小旅行してきました。ウィーン市庁舎近くのレストラン(うかつにもカードを取ってくるのを忘れた…)でなにげに頼んだ骨髄のコンソメスープ。


たっぷりと入った骨髄にまずびっくり。骨髄は牛脂の固まりみたいなもんですから、かなり脂っこい料理なんですが、何という旨味の宝庫。イギリスでも日本でも決して味わえない、掘り出し物のスープでした。


ブダペストではいつものKehliに行き、ここでもつい勢い余って、前菜に骨髄を注文してしまいました(こいつからはもう足を洗おうと思っていたのに…)。こちらは自分で骨髄を掻き出し、生ニンニクを擦り付けたトーストに乗せ、塩をふって食べます。うーん、濃いいが、この脂っこさに慣れるとヤミツキに。

こんなもんばかりを食べていたので、当然のごとく体重が増強されて帰宅、そのまま年末年始の食いだおれに突入したため、年明け体重計に乗ったらとんでもないことになっていました…。

しかし、それにしても牛骨髄の美味さよ。以前読んだ米国ファーストフード業界の本で、マクドナルドはその昔、フライドポテトを牛脂のみで揚げていたのが人気の秘密だった、という記述があって、それはさぞ美味しかろう、是非食べてみたいものだ、と読んでてよだれを垂らしたのを思い出しました。

ブダペストでは別の日、超久々にSir Lancelotへ行きました。


地下の酒蔵を改造した風のレストランは、中世にタイムスリップしたかのよう。




ここの名物料理は、お肉てんこ盛りのプレート。この写真は二人前なのでかわいいものですが、大人数で行くと、山のように積まれた骨付き肉に圧倒されます。中世にはまだ発明されてなかったという理由で、この店にフォークはありません。ナイフとスプーンと手づかみでこれらお肉と格闘するのが醍醐味です。

ブダペストにいたころ、ここはお客さんと会食するのに何度利用したことか。途中でベリーダンスや火食い男のパフォーマンスもあり、単純にワイワイと楽しめます。当時は食べても食べても皿からなくならない(気がした)このお肉が、胃袋が欧州化した今ではペロっと平らげてしまえるから、困ったもんです。いいかげん、ダイエットせねば…。ズボンが苦しい…。

英国ナショナルユース管/ウィルソン:爆演系「海の間奏曲」「惑星」2013/01/06 23:59

2013.01.06 Barbican Hall (London)
John Wilson / National Youth Orchestra of Great Britain
CBSO Youth Chorus
1. John Adams: Guide to Strange Places
2. Britten: Four Sea Interludes
3. Holst: The Planets

2013年最初の演奏会は、昨年末にクイーンメダルを受賞した英国ナショナルユースオーケストラ。13〜19歳の若き音楽学徒が毎年秋のオーディションで選抜され、定員は165名と規定されているみたいです。弦だけでも90人いる大所帯であり、繊細な味わいは求めるべくもありませんが、勢いで押し切る人海戦術は若いアマチュアならではのもの。それとこのオケは、いつも難曲ばかりやっているという印象です。以前聴いたときはヴァレーズでしたし、私は聴いてませんが昨年のプロムスではトゥーランガリラ交響曲をやってました。普通はとてもユースがやる曲じゃないですね。音楽を志す人とはいえ、年齢を考えたら驚異的な技術力です。

最初はジョン・アダムズの「奇妙な場所への案内人」という初めて聴く曲。作曲文法は全くミニマルミュージックの範疇ですが、構成が複雑でめちゃめちゃ難しそう。25分くらいの曲ですが、最後は繰り返しがしつこく、終わりそうでなかなか終わらないなーと半ばうんざりしていたら、ブツリと唐突に終焉。まさに奇妙場所で放り出されたような後味の曲でした。オケはやはり若さ故か各楽器のソロが弱く、それに管楽器の音程が悪いのが気になりましたが、全体的にはしっかり練習を重ねて最後は力技で押し切るという感じでした。続く「4つの海の間奏曲」も簡単な曲ではありませんが、メジャーなレパートリーだけに、先の曲よりはよっぽどこなれた感があり、よくまとまっていました。メインの「惑星」は、「火星」「木星」「天王星」あたりでは人海戦術が期待通り功を奏し、ド迫力の爆演。一方の「金星」「土星」といった緩除楽章のほうが、間が持たなくて苦しそうでした。こんなときは、コンマス、金管、木管の名人芸があればまだ助かるんでしょうけどねえ。「海王星」の女性コーラスを担当したのはバーミンガム市響のユースコーラス。こちらはさらに若く、9〜13歳の女の子だそうです。途中で音が取れなくなる危ない箇所がありましたが、まあ細かいことを言うのはちょっと酷でしょうか。

聴衆は多分ほとんどがメンバーの家族や関係者ばかりだと思いますが、満員御礼の超人気で、ぴーぴーと盛り上がっていました。もちろん一流プロと肩を並べるレベルではないものの、こういった勢いのある若いアマチュアの演奏は、こちらも熱いものが身体に沸き起こるのを感じ、なかなか心打たれるものです。

指揮者のジョン・ウィルソンは自分のオーケストラを持ち、プロムスでよくミュージカルナンバーをやってるクロスオーヴァーの人ですが、このような本格的クラシックコンサートもきっちり振れるんですね。キレのある指揮ぶりとパッションある音楽作りは好感が持てました。今月フィルハーモニア管の定演にも立つようで、活動に注目したいと思います。




OAE/アダム・フィッシャー:やっとロンドン上陸、ハイドン「天地創造」2013/01/09 23:59


2013.01.09 Royal Festival Hall (London)
Adam Fischer / Orchestra of the Age of Enlightenment
Sophie Bevan (Gabriel, Eve/soprano)
Andrew Kennedy (Uriel/tenor)
Andrew Foster-Williams (Raphael, Adam/bass)
Schola Cantorum of Oxford
1. Haydn: Die Schöpfung (The Creation)

イヴァン・フィッシャーは手兵のブダペスト祝祭管を引き連れてこのところ毎年ロンドンに来ていますが、お兄さんのアダム・フィッシャーは相当ご無沙汰。筋金入りアダムファンのHaydnphilさんのサイトで調べると、アダム兄さんのロンドン登場は5年ぶりのようです。私自身、イヴァンは何十回と聴いていますが、アダムは6年前にブダペストでマーラー「千人の交響曲」を聴いただけで、これが2回目。そういえば、OAEを聴くのも一昨年(ラトル/ラベック姉妹)以来の2回目です。

私はハイドンも宗教音楽も普段ほとんど聴かないので、この「天地創造」も名前だけで、演奏様式とか曲の解釈の相場はよくわかりません、ということは最初に言い訳しておきまして。OAEはバロック・古典に留まらずマーラーやドビュッシーまで幅広いレパートリーをカバーするのが売りですが、元々は古楽器集団だけにハイドンなどオハコのはず。しかし、チューニングのときから少しヘンな予感がした通り、出だしはどうも音が定まらない様子でした。そこはさすがベテランのオペラ指揮者にしてハイドンスペシャリストのアダム兄さん、指揮棒を逆手に持ったり左手に持ち替えたり、拳を握り締めて足を踏みしめたり、突然指揮をやめてみたかと思うと、ティンパニを指差して「次、来るからな」とアイコンタクトして直後にえげつないクレッシェンドを叩かせたり、あの手この手でオケ、コーラス、ソリストをリードし、すぐに軌道に乗せました。嬉々として音楽にのめり込んでいるようでいて、その実、目配りが凄いです。指揮の引き出しが極めて豊富で、音楽もさることながらアダムを見ているだけで飽きませんでした。多分毎年年始に振っている曲だけあって熟知していて、譜面台も立てずに、歌手に優しい目線を送りながら自分もずっと歌っています。また、ソリストに顔を向けるついでに、さりげなく、しかしよく客席も見ています。このベテランF1ドライバーばりに目まぐるしい視線の移動は、やっぱりオペラ指揮者の習性なんでしょうか。あとは、オックスフォード・スコラ・カントルムは本当に透き通るように美しいコーラスでした。

この演奏会、ホールのWebサイトでは「オールスターソリスト」という触れ込みだったのですが、私には初めて聞く名前の歌手ばかりでした。皆さんイギリス出身の若手歌手のようで、経歴を見ても、この方々を「オールスター」と呼ぶのはちょっとどうかと。ただし歌唱は総じて立派なものでした。ソプラノのソフィー・ベヴァンはまだ20代で若く、肌も声もつやつや。愛らしいキャラクターです。グラマラスな豊満ボディは、しかし太りすぎの数歩手前で留まっており、人気のためには是非このまま維持して欲しいところ(笑)。テナーのアンドリュー・ケネディはちょっと優しすぎる声質ですが、穴がなく、硬軟自在で完璧な歌唱に感心しました。一緒に歌う表情などを見ていて、今回のソリストの中では特にアダムのお気に入りではないのかなー、と感じました。バリトンのアンドリュー・フォスター・ウイリアムズは多少歌が荒い感じもしましたが、歌手の中では最も活躍する役所でもあり、徐々に調子を上げてきていました。3人とも舞台上手の椅子に座り、出番のたびに指揮者の横まで歩いてきて、歌い終わるとまた上手に戻るというのを繰り返していましたが、特にソプラノはヒールの靴音がいちいちカツカツと響いたので、このスタイルはどうかと思いました。オケの人数が少ないので、指揮者の真横に椅子を3つ置くスペースはいくらでもあったはず。

長い曲なので、全三部のうち第二部までやったところで休憩でした。残った第三部はテナーとソプラノの役所が各々アダムとイブに変わります。最初の二重唱では仲良く手をつないで歩いてくるという小芝居がたいへんウケていました。はっ、これがやりたかったからわざわざ上手に椅子を置いたのか?それはともかくアダム兄さん、最後まで好々爺の表情で、忙しく気配りのリード。どこまでも飾らない素朴なキャラクターでいて、瞬発力のあるバトンから導かれる音楽は常に躍動しており、大人気なのもうなづけます。オペラでもコンサートでも、もっと頻繁にロンドンに来てそのワザを披露してくれないものかと、切に思います。


ロイヤルバレエ/コジョカル/レイリー/高田/マクレー:オネーギン2013/01/19 23:59


2013.01.19 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Onegin
Dominic Grier / Orchestra of the Royal Opera House
John Cranko (choreography)
Kurt-Heinz Stolze (orchestration)
Alina Cojocaru (Tatiana)
Jason Reilly (Eugene Onegin)
Akane Takada (Olga)
Steven McRae (Lensky)
Bennet Gartside (Prince Gremin)
Genesia Rosato (Madame Larina)
Kristen McNally (Nurse)
1. Tchaikovsky: Onegin (orch. by Stolze)

チャイコフスキーには「エフゲニー・オネーギン」という立派なオペラ作品がありますが、このバレエの「オネーギン」はチャイコフスキーがバレエ作品として作曲したものではありません。シュトゥットガルト・バレエ団の芸術監督だったジョン・クランコが台本を書いてバレエ化するにあたり、音楽はチャイコフスキーのピアノ曲などから素材を集めてシュトルツェが編曲を施したものですが、同じストーリーであるのに歌劇の「エフゲニー・オネーギン」からは1曲も取材していないのがミソと言えばミソです。

初日の今日はAキャストとしてコジョカル、コーボー、高田茜、マクレーが主役にクレジットされていましたが、コボーが怪我のためキャンセル、代役は本家のシュトゥットガルト・バレエ団からプリンシパルのジェイソン・レイリーを呼んできました。もちろん初めて見る人ですが、すらっと上背があり、均整の取れたシルエットがいちいち美しく、これは期待以上の上玉。よどみなくしなやかな踊りと細やかな足さばきは、私には全く完璧に見えました。ロイヤルの旬ダンサー、マクレーのレンスキーを手玉にとってその上手をいくように(演技上とはいえ)見せてしまうのは、並の人ではないですね。ゲストでこの存在感はたいした適応力です。

コジョカルも他所からゲストプリンシプルを迎えるということで張り切ったのでしょう、全く危なげない堂々のパフォーマンス。ウブな少女が恋に舞い上がり、失恋で失望する思春期のアップダウン、妹を気遣う姉の顔、侯爵夫人になってからのクールさと、それでもよろめいてしまう女心、各々の場面で感情の移り変わりがリアルに滲み出て、さすがは演技巧者のベテランプリンシパルと感心しました。派手な跳び技などありませんが、見た目以上に体力的にはキツい演目なんでしょうか、第1幕の寝室で鏡から出てきたオネーギン(面白い演出です)とデュオを踊る場面では、終始はーはーと荒い息で喘いでいたのがちょっとセクシー(笑)。主役二人の踊りは、第3幕最後のクライマックスが特に素晴らしかったです。

マクレーさん、今回は敵役というか、彼には多分役不足な単細胞薄幸キャラクターでしたが、この人は本当に何を踊っても上手いので言うこと無し。奔放な妹役の高田茜さんはようやく怪我から復帰したところで、まだ身体が重そうに見えました。あるいは安全運転を心がけていたのかもしれません。オーセンティックな演出と舞台セット、周りはほとんど美形の白人ばかりという中で、思いっきり東洋人なお顔立ちの彼女は、一人だけ異色で浮いてます。肌の色や人種の違いは全然気にならない演目のときもあるんですが、この「オネーギン」ではコジョカルの妹が高田茜というのにどうしても違和感を禁じ得ず、生理的に受け入れられませんでした。すいません。

音楽に関しては、チャイコフスキーの曲を使い、チャイコフスキー風のオーケストレーションを付けてはいても、やはり最初からバレエを目的として作曲されたものとは違って、長丁場聴き続けるには退屈に感じました。音楽には魂が入っていないという印象を禁じえない。オケはまあいつも程度の水準で、トランペットはもう総入れ替えしちゃってください、と投書します。


主役の4人。こうやって見ると、高田茜さんもお人形さんみたいでかわいらしいんですけどねえ。


OAE/ラトル:モーツァルトの「ラスト3」シンフォニー2013/01/29 23:59


2013.01.29 Royal Festival Hall (London)
Sir Simon Rattle / Orchestra of the Age of Enlightenment
1. Mozart: Symphony No. 39 in E-flat major, K. 543
2. Mozart: Symphony No. 40 in G minor, K. 550
3. Mozart: Symphony No. 41 in C major, K. 551 (Jupiter)

モーツァルトの三大シンフォニーにサイモン・ラトル指揮とくれば、人気が出ないわけがありません。実際フェスティヴァルホールは満員御礼で、立見席も売れていました。モーツァルトは守備範囲ではないので、有名な「ラスト3」も実演ではほとんど聴いた記憶がありません。特に39番は、音源は持っていましたけれど、今日あらためて聴いてみて、ほとんど初めて聴く曲だということに気付きました。そんな状態ですので、一くくりに「ラスト3」と言っても各々楽器編成が微妙に違うことを今更のように発見し、「へぇ」と喜んでいました。39番は珍しくオーボエを欠く編成で(こういう場合、チューニングはクラリネットから始まるんですね)、40番ではオーボエが入ってきた代わりにトランペットとティンパニが退場、41番はトランペットとティンパニが戻り、晴れて勢揃いかと思いきや、今度はクラリネットが退場してしまいました。

前半戦は39番と40番。強調した低音にノンビブラートのドライな弦が乗っかる、やはりこう来るかというストレートな音色。ティンパニが硬質過ぎて、余計に乾いた印象を与えます。雄弁でモノローグ的な第2楽章は決してさらさらとは進まず徹底して作りこんであり、ここに重点を置く戦術であったかと納得しました。一見流れを遮るかのような「ため」が効果的で、適当な例えかはわかりませんが、内田光子さんのピアノを聴いているような感覚をおぼえました。40番でも同様に、第2楽章だけやたらとニュアンス豊か。やっぱりラトルはただの古典、ただの古楽器では終わらせない「いじくり」を仕掛けてきます。

休憩後の後半戦は41番「ジュピター」。これは第1楽章冒頭から変態モード全開で、テンポを揺さぶる独特の語り口が意表をつきます。音は前半より低音を引っ込め、予想外に軽くなっていましたが、ティンパニは相変わらず超硬質に叩き込みます。私自身そんなにいろいろと聴いたわけでもないですが、これは相当に個性的なジュピター、個性的なモーツァルトと思いました。前半とは違って41番の山場は第1楽章だったようで、第2楽章以降はわりと素直にインテンポのまま盛り上げていました。古楽器を使って、なおかつ新しいアイデアをどんどん試していこうとするラトルの姿勢は、毎回ファンの期待を裏切らず(あるいは「裏切って」と言うべきか)楽しませてくれますね。

今回はラトルを抱えたOAEの欧州ツアーの一環で、同一プログラムでケルン、フランクフルト、ザルツブルク、ウィーン、ブダペストと渡ってきて、最終日がこのロンドンだったようです。道理で、多忙なラトルにも関わらず、やけに完成された仕上がりだったわけだ。個人的には前週の寒いドイツ出張で風邪を引いてしまい、体調が劣悪だったのですが、何とか最後まで聴けて良かったです。


フィルハーモニア管/サロネン/ツィマーマン(p):ルトスワフスキと「ダフニスとクロエ」2013/01/30 23:59



2013.01.30 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Krystian Zimerman (piano-2)
Philharmonia Voices
1. Lutosławski: Musique funèbre
2. Lutosławski: Piano Concerto
3. Ravel: Daphnis et Chloé (complete)

ポーランドを代表する作曲家ルトスワフスキは、今年生誕100年、来年没後20年と記念イヤーが続くので、演奏される機会が当分増えてくるでしょう。記念イヤーに目がない?フィルハーモニア管は今シーズン早速「Woven Words」と名打ったチクルスを組んでいます。しかし私、実はルトスワフスキをほとんど聴いたことがありません。今日のピアノ協奏曲も以前LSOで一度聴いているのですが、意識を失っていたためどんな曲だったかほとんど覚えていませんでした。

最初の「弦楽のための葬送音楽」は、東日本大震災の後、ベルリンフィルが追悼の意を込めて定期演奏会で演奏したことでも近年注目されました。実際聴くのは初めてだったのですが、バルトークをもっと無調にしたような音楽で、つまりは音列技法的な仕掛けがよりはっきりと現れています。けっして聴衆を突き放した音楽ではなく、素朴な民謡的風土が根底を貫いていることを感じさせ、ある意味心地良い音楽です。

続くピアノ協奏曲のソリストはこの曲の初演者でもあるクリスチャン・ツィマーマン。私がクラシックを聴き始めのころ、ハンガリー三羽烏(ラーンキ・コチシュ・シフ)を追い落とす超テクの若手としてちょうどブイブイいわしてたところでしたが、ようやく生で聴ける機会となりました。まだ60歳よりは全然手前のはずですが、すっかり白髪の枯れた風貌になってしまって、でも個人的には若いころよりちょっとかっこ良くなったと思います。曲のほうは切れ目無しに演奏される4楽章構成で、これもまた無調が基調の曲ですが、いろんな要素が凝縮している、一言では表現できない不思議な曲です。聴きやすいかどうかと言えば、耳に素直に入ってくるのでセンスの良い曲と思います。ツィマーマンは初演者だけに、全く自分のレパートリーとして弾きこなしています。テクニシャンらしい切れ味鋭い打鍵、色彩感豊かなアルペジオ、繊細なタッチ、どこをとっても非の打ちようがない、パーフェクト系のピアニストですね。そういえばこの人はピアニストとしては珍しく、自分の楽器を持ち歩くのでも有名でしたか。今年の予定を見ると、記念イヤーだけあってパリ管やベルリンフィルなどいろんなオケとこの曲を共演するもようです。

メインの「ダフニスとクロエ」全曲版は、20年以上前にここロイヤルフェスティヴァルホールを初めて訪れたとき聴いた曲ですので、思い出深いものがあります。しかし正直言うとこの曲、私はちょっと苦手。第2組曲ならまだ聴けるんですが、全曲版となると音楽は冗長だし、バレエ付きで観たいものだと思います。一つ良い点はコーラスが入っていることで、これは演奏会用の組曲ではめったに聴けないシロモノです。今日のフィルハーモニア管は「当たり」の日だったようで、フルートを筆頭に、管楽器のソロが抜群に素晴らしい。ホルントップのケイティ嬢もすっかり貫禄のプリンシパルです。サロネンもまた期待に応え、オケをこれでもかとガンガンに鳴らす鳴らす。このダイナミックレンジは久々に堪能しました。フィオナ嬢は定位置、第2ヴァイオリンの二番手。半年ぶりのフィルハーモニアだというのに、今日はいつになくドアガールのお姉ちゃんが写真撮ってる人をいちいち注意していたので、冒頭の以外、あまり写真が撮れませんでした(泣)。新手ではコントラバスパートに、楽器に似つかわしくない小柄な若い女の子(Ana Cordovaという名のようです)がいて目を引きました。

この演奏会の後、彼らはすぐに日本に行きツアーをやるそうですね。今日の演奏を聴く限り指揮者、オケ双方ともバイオリズムは上昇機運のようですので、日本の皆様は是非期待してください。

LSO/K.ヤルヴィ/スパッソフ/ステファノスキ/タディッチ:バルカン・フィーバー!2013/01/31 23:59

2013.01.31 Barbican Hall (London)
Kristjan Järvi / London Symphony Orchestra
Vlatko Stefanovski (guitar), Miroslav Tadic (guitar)
Theodosii Spassov (kaval)
1. Kodály: Dances of Galánta
2. Kodály: Variations on a Hungarian Folksong "The Peacock"
3. Enescu: Romanian Rhapsody No. 1
4. Jacques Press: Wedding Dance from Symphonic Suite "Hasseneh"
5. selected arrangements by Theodosii Spassov
 Iovka Kumanovka/Strange Occasion/Say Bob/
 Eleno/Kite/Yunus Emre/Scherzo/Fire Feast

「バルカン・フィーバー」と名打ったLSOの企画モノですが、事前のプログラムは前半の曲しか告知されてなくて、ハンガリーとルーマニアはバルカンじゃないじゃん、と訝しく思っておりました。もちろんこのネーミングのキモは後半のセッションにあるわけで、出演者・作曲者の出自を調べれば、

テオドシー・スパッソフ(カヴァル)はブルガリア
ヴラコ・ステファノスキ(ギター)はマケドニア
ミラスロフ・タディッチ(ギター)はセルビア
クリスチャン・ヤルヴィ(指揮)はエストニア
コダーイ(作曲)はハンガリー
エネスコ(作曲)はルーマニア
ジャック・プレス(作曲)はグルジア

と、バルカン半島出身のソリスト中心に、立派な「東欧の祭典」になってます。東欧びいきの私としてはもう聴きに行くしかないでしょう、という演奏会でした。

1曲目「ガランタ舞曲」はコダーイの代表作で、ジプシーの音楽スタイルも取り入れた「狂詩曲」的賑やかさが魅力です。LSOのイロモノ担当(失礼)、クリスティアン・ヤルヴィは相変わらず両手の動きがほとんど左右対称(笑)。ノリノリに腰をふり踊りながら、楽しそうに指揮していました。次の「ハンガリー民謡『くじゃくは飛んだ』の主題による変奏曲」もコダーイの中ではよく演奏される有名曲ですが、実演で聴くのは初めてでした。この主題はハンガリー民謡の一つの典型であって、バルトーク「青ひげ公の城」冒頭の低弦による序奏でもこれとほぼ同じ旋律を聴くことができます。個人的には冗長に感じてあまり好きでない曲ながら、今日前半のLSOは素晴らしい集中力を見せて、感動的に上手い演奏でした。続く「ルーマニア狂詩曲」はさらにクレイジーな宴会踊りが繰り広げられ、リズムにうねりを持たせながら弾き切るLSOも見事でした。前半の曲はどれも久々に演奏したのでしょうか、しっかりと練習して臨み、高い集中力で慎重かつ大胆に取り組んだのがよくわかりました。こういうときのLSOは本当に凄いです。脱帽。


前半終わったところのクリスティアン。

休憩後、グルジアの作曲家プレスの「婚礼の踊り」で賑々しく始まった後半戦は、3人のフォーク・ジャズ・ミュージシャンをソリストに迎えて、即興性の高いパフォーマンスが繰り広げられました。曲は概ねスパッソフのソロアルバムからピックアップし、オーケストラのアレンジを加えてあるようです。個々の曲のタイトルはプログラムから拾いましたが、結局どれがどれだかよくわからなかったので個別の論評は差し控えます。

カヴァルはバルカン半島やアナトリア半島で伝承される木製の縦笛で、元々は羊飼いの笛だそう。リードはなく、音も奏法も尺八によく似ていますが、ちょっと斜めに構えて吹くのがスタイルみたいです。奏法の自由度は高く、普通のフルートのように奇麗な音色が出るかと思えば尺八のような破裂音やグリッサンドも自由自在、さらには横笛のように持って指孔を吹いてみたり、反対側から吹いてみたり、合いの手で声を入れたり、やりたい放題。まあ、これはスパッソフならではの個性なのかもしれませんが、本当にダンディで芸達者なオジサンです。アコースティックギターの二人はどちらもちょっと年配のベテランで、顔の系統も似ていたのでどっちがどっちだったか時々混同してしまいますが、演奏スタイルはくっきりと違いました。野球帽をかぶったステファノスキはアル・ディ・メオラばりの速弾きが得意なギタリスト(フレーズ自体は正直面白みがなかったけど)、一方のタディッチはもう少しクラシカルで、スパニッシュも入ったような落ち着いたスタイル。スパッソフを加えたトリオでもよく活動しているみたいで、なるほど、各人の個性が立った、なかなか魅力的なトリオだと思いました。

一般的にバルカン、特にブルガリアの民族音楽は奇数拍を多用した複雑なリズムが特徴で、バルトークにも「ブルガリアのリズムによる6つの舞曲」というピアノ曲がありますが、今日の曲も変態的なリズムが面白いものが多かったです。一つ苦言を言うと、オケパートは普通にストリングスを付けただけのようなつまらないアレンジで、演奏するLSOのほうも前半と比べて集中力の落差が大きく、後半はそもそもフル編成のLSOは必要なかったのでは。どうせ共演するならもうちょっと密度の高いアレンジで、「兵士の物語」みたいな少数精鋭でやったほうが絶対面白いと思います。そう言えば、今日のコンマスはプログラムではシモヴィッチとなっていましたが、実際はアラブっぽい顔立ちのラウリがコンマスでした。今日のプログラムでモンテネグロ出身のシモヴィッチがいないのは痛いと思いましたが、ラウリもマルタ出身で、実は同じ南欧でそんなに離れてないんですね。

後半は特に、演奏中でもかまわずスマホで写真を撮っている人が多数いて、普段のLSOとは客層が違う感じがしました。アンコールも含めると結局夜10時過ぎまで演奏していて、長い演奏会でした。トリオはこの後さらにバーの前のステージでアフターコンサートをやる予定だったのですが、風邪が久々に副鼻腔炎にまで悪化し、コンサートに行くには最悪な体調の中、よりによって3日間連続で買っていたチケットを何とか消化するだけでもう限界、さっさと帰宅しました。



元気なオジサン、ステファノスキと、ダンディなスパッソフ。