OAE/アダム・フィッシャー:やっとロンドン上陸、ハイドン「天地創造」2013/01/09 23:59


2013.01.09 Royal Festival Hall (London)
Adam Fischer / Orchestra of the Age of Enlightenment
Sophie Bevan (Gabriel, Eve/soprano)
Andrew Kennedy (Uriel/tenor)
Andrew Foster-Williams (Raphael, Adam/bass)
Schola Cantorum of Oxford
1. Haydn: Die Schöpfung (The Creation)

イヴァン・フィッシャーは手兵のブダペスト祝祭管を引き連れてこのところ毎年ロンドンに来ていますが、お兄さんのアダム・フィッシャーは相当ご無沙汰。筋金入りアダムファンのHaydnphilさんのサイトで調べると、アダム兄さんのロンドン登場は5年ぶりのようです。私自身、イヴァンは何十回と聴いていますが、アダムは6年前にブダペストでマーラー「千人の交響曲」を聴いただけで、これが2回目。そういえば、OAEを聴くのも一昨年(ラトル/ラベック姉妹)以来の2回目です。

私はハイドンも宗教音楽も普段ほとんど聴かないので、この「天地創造」も名前だけで、演奏様式とか曲の解釈の相場はよくわかりません、ということは最初に言い訳しておきまして。OAEはバロック・古典に留まらずマーラーやドビュッシーまで幅広いレパートリーをカバーするのが売りですが、元々は古楽器集団だけにハイドンなどオハコのはず。しかし、チューニングのときから少しヘンな予感がした通り、出だしはどうも音が定まらない様子でした。そこはさすがベテランのオペラ指揮者にしてハイドンスペシャリストのアダム兄さん、指揮棒を逆手に持ったり左手に持ち替えたり、拳を握り締めて足を踏みしめたり、突然指揮をやめてみたかと思うと、ティンパニを指差して「次、来るからな」とアイコンタクトして直後にえげつないクレッシェンドを叩かせたり、あの手この手でオケ、コーラス、ソリストをリードし、すぐに軌道に乗せました。嬉々として音楽にのめり込んでいるようでいて、その実、目配りが凄いです。指揮の引き出しが極めて豊富で、音楽もさることながらアダムを見ているだけで飽きませんでした。多分毎年年始に振っている曲だけあって熟知していて、譜面台も立てずに、歌手に優しい目線を送りながら自分もずっと歌っています。また、ソリストに顔を向けるついでに、さりげなく、しかしよく客席も見ています。このベテランF1ドライバーばりに目まぐるしい視線の移動は、やっぱりオペラ指揮者の習性なんでしょうか。あとは、オックスフォード・スコラ・カントルムは本当に透き通るように美しいコーラスでした。

この演奏会、ホールのWebサイトでは「オールスターソリスト」という触れ込みだったのですが、私には初めて聞く名前の歌手ばかりでした。皆さんイギリス出身の若手歌手のようで、経歴を見ても、この方々を「オールスター」と呼ぶのはちょっとどうかと。ただし歌唱は総じて立派なものでした。ソプラノのソフィー・ベヴァンはまだ20代で若く、肌も声もつやつや。愛らしいキャラクターです。グラマラスな豊満ボディは、しかし太りすぎの数歩手前で留まっており、人気のためには是非このまま維持して欲しいところ(笑)。テナーのアンドリュー・ケネディはちょっと優しすぎる声質ですが、穴がなく、硬軟自在で完璧な歌唱に感心しました。一緒に歌う表情などを見ていて、今回のソリストの中では特にアダムのお気に入りではないのかなー、と感じました。バリトンのアンドリュー・フォスター・ウイリアムズは多少歌が荒い感じもしましたが、歌手の中では最も活躍する役所でもあり、徐々に調子を上げてきていました。3人とも舞台上手の椅子に座り、出番のたびに指揮者の横まで歩いてきて、歌い終わるとまた上手に戻るというのを繰り返していましたが、特にソプラノはヒールの靴音がいちいちカツカツと響いたので、このスタイルはどうかと思いました。オケの人数が少ないので、指揮者の真横に椅子を3つ置くスペースはいくらでもあったはず。

長い曲なので、全三部のうち第二部までやったところで休憩でした。残った第三部はテナーとソプラノの役所が各々アダムとイブに変わります。最初の二重唱では仲良く手をつないで歩いてくるという小芝居がたいへんウケていました。はっ、これがやりたかったからわざわざ上手に椅子を置いたのか?それはともかくアダム兄さん、最後まで好々爺の表情で、忙しく気配りのリード。どこまでも飾らない素朴なキャラクターでいて、瞬発力のあるバトンから導かれる音楽は常に躍動しており、大人気なのもうなづけます。オペラでもコンサートでも、もっと頻繁にロンドンに来てそのワザを披露してくれないものかと、切に思います。