BBC響/ビエロフラーヴェク/ピエモンテージ(p):マーラー「復活」ほか2012/12/01 23:59


2012.12.01 Barbican Hall (London)
Jiří Bělohlávek / BBC Symphony Orchestra
Guildhall Symphony Chorus
Francesco Piemontesi (piano-1)
Chen Reiss (soprano-2)
Katarina Karnéus (mezzo-soprano-2)
1. Schumann: Piano Concerto in A minor
2. Mahler: Symphony No. 2 in C minor (‘Resurrection’)

今シーズンからチェコフィルの首席指揮者に返り咲いた御大ビエロフラーヴェクは、BBC響のほうは桂冠指揮者(Conductor Laureate)に退きましたが、この6年で築いたオケおよび聴衆との信頼関係が何ものにも代え難い成果でしょうか、BBC響にしては珍しくソールドアウトの人気でした。

今日はシューマンのピアノ協奏曲とマーラー「復活」というヘビーなプログラム。いつも思うのですが、「復活」やる時はそれ1曲だけで十分じゃないのかなあと。それはともかく、今日のソリストはスイス人の若手ピアニスト、ピエモンテージ。まだ20代のわりにはずいぶんと落ち着いた佇まいです。ピアノも余裕のある演奏で、完成されたスタイルをすでに持っている様子。柔らかいタッチがちょっとルプーのようかなと思いました。ただし、上手いけどパンチがありません。曲によっては深い演奏を聴かせてくれそうだし、そういうのが好みの人もたくさんいるでしょうけど、私は若いなら何が飛び出すかわからない感じのピアニストのほうが好みですかね。あと気になった懸念は、オケが冒頭の木管からして音がくたびれていたことです。オケがハードスケジュールでお疲れなのか、それともビエロフラーヴェクがプラハとの行き来で忙しく、じっくり積み上げる時間がなかったか。


うーむ、ピンボケしかありませんでした…。

続く「復活」はロンドンで聴くのがこれで4度目ですが、過去3回はなぜか全てフィルハーモニア管(インバル、マゼール、サロネン)でした。ビエロフラーヴェク/BBC響のマーラーは昨年2月の第6番がたいへん良かったので期待していたのですが、ちょっと期待度が大きすぎたようです。冒頭から、予想通りゆったりとしたテンポで丁寧な進行でしたが、先ほどの懸念が的中、やっぱり各楽器の音に伸びがない。あえて朗々と弾かせず、ぶっきらぼうとも取れる表現に終始している印象でした。前の第6番のときは、何も足さない、何も引かない、あくまでスコアを丁寧に、忠実に、集中力を持って再現して行った結果、最後はまるで天からマーラーが降臨したような感動を覚えたのですが、第2番で同じようなアプローチだと結局曲の冗長さが際立ってしまってました。ぎくしゃくした進行に聴こえたのは、元々そういう曲だからであって、やはりそこは6番と比べては円熟度が違うんでしょうね。オケはうるさいくらいによく鳴っていましたが、ともかくテンポが遅かった。オケは途中で力尽き、終楽章では管楽器のピッチがずれてしまって痛々しかったので、もう早く終ってくれと思いながら聴いていました。

メゾのカルネウスは今年のプロムスの「グレの歌」にも出ていましたが、あまり印象に残ってません。音程が不安定であまり関心はしませんでした。ソプラノのレイスはイスラエル出身の若手で、すらっとした細身の美人系。終楽章のデュエットはカルネウスの調子も上がってきて、普通に良かったです。

コーラスはギルドホール音楽院の学生合唱団でしたが、これがなかなか侮れない完成度。コーラスの奮闘が救いとなり、後半はしっかり盛り上がりました。まあ、最後の一音はティンパニが飛び出しちゃいましたけど。それにしてもこの学生合唱団、ソプラノ、テナー、バス、アルトという並びでしたが、男女の境で接している若者達は例外なく舞台上でもおかまいなしにリラックスして談笑。うーむ、オジサンはうらやましいぞ。あと気になったのは、ソプラノに一人どう見ても男性が混じっていて、見た限りテナーがたまたまソプラノに混じって座っていたのではなくて、歌もソプラノパートを歌っているようでした。確かに、「ソプラノは女性に限る」という法律はないので、ソプラニスタとかカウンターテナーというのもあることですし、声さえ出れば男性がいても問題はないんでしょうけど、こんなのは初めて見ました。ソプラノでは、終楽章の途中で気分が悪くなったのか座り込んでしまってその後最後まで歌えなかった人がいたかと思えば、出番が来ても起立せず座ったままずっと歌い続けていた人もいて、プロの合唱団ではあり得ない光景が新鮮でした。


うーむ、ビエロさんの顔がまともに撮れてない…。カメラ代えようかな…。

LSO/ティッチアーティ/ヴェンゲーロフ(vn):女王陛下に大接近2012/12/05 23:59

2012.12.05 Barbican Hall (London)
Robin Ticciati / London Symphony Orchestra
Timothy Redmond (conductor-1)
Maxim Vengerov (violin-2)
1. Maxwell Davies: Fanfare - Her Majesty's Welcome (LSO commission)
2. Tchaikovsky: Violin Concerto
3. Elgar: Enigma Variations

この演奏会は今シーズンのチケット発売開始後あっという間に売り切れになっていて、さすがヴェンゲーロフは人気者、と思っていたのですが、実はThe Queen's Medal for Musicのガラコンサートということで、女王陛下も臨席されるスペシャルイベントだったんですね。当初はサー・コリン・デイヴィスが指揮の予定でしたが、例によってドクターストップでキャンセル。今シーズン目玉の一つであったはずの一連の「デイヴィス卿85歳記念コンサート」は、結局ここまで一つも振れてません。このままカムバックしなかったら、シャレにならんよ。

物々しいセキュリティチェックを覚悟していたら、いつも通りコート着たまま、リュック担いだまますんなりと会場に入れたのでちょっと拍子抜け。しかし、女王は全員が着席してからの入場のため、普段よりも早く席に着かされました。最初はLSO on Trackという教育プログラムの若者管楽器奏者も加わっての短いファンファーレがあり、続く国歌斉唱の後、今回の委嘱新作であるマックスウェル・デイヴィスの「女王陛下歓迎のファンファーレ」が演奏されました。しかしこのファンファーレ、しゃきんとしたところが一切ない屈折したヘンテコな曲で、このシニカルさはイギリス音楽としては意味があるのかもしれませんが、女王陛下はこの曲で歓迎されて果たして嬉しいのか、とちょっと気になりました。なお、ここまでの指揮はティモシー・レッドモンドです。

次のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、正直苦手な曲。チャイコフスキーは好きですが、この曲はやっつけ仕事に見えてならず、皆が崇めるほど、そんなに名曲かなあと常々疑問に思っています。それはともかく、第1楽章の特に前半は、ヴェンゲーロフの隙のない完璧さに感服しました。じっくり分析して積み上げたという感じはなく、天才が腹八分目で弾いているような、衒いのないナチュラルな上手さ。ところがそのうち雲行きが怪しくなって、「ん」と思ってしまう箇所がちらほら耳に残ってきます。カデンツァも「ボロボロ」とは言わないまでも「ボロ」くらいは言ってしまえる不調ぶり。もちろん、彼にしては、という但し書きはつきますが。どうしちゃったんだろう、ソリストとして復帰してまだ日が浅いので、リハビリ途中なのかもしれません。それにしてもこの人は終始直立不動、第2楽章でかかとが少し浮いた以外は、足なんかほとんど動きません。また肩をいわさなければ良いのですが。終楽章は曲芸のようなスピードで激しく駆け抜け、ヴァイオリン・ヴィルトゥオーソの面目躍如で圧巻した。オケは女王臨席だとさすがに集中力極大で、切れのあるリズムにふくよかな音色、完璧なパートバランスと三拍子勢ぞろい。サー・コリンの代役のティッチアーティも伸び伸びとオケを引っ張り、良い仕事でした。


休憩後、実はこのイベントの予備知識を何も仕入れていない私は、今年の受賞者の発表も当日行われることをその場になってはじめて知りました。女王陛下も舞台に出てこられて、ホストのマックスウェル・デイヴィスより今年の受賞者である英国ナショナルユース管弦楽団(NYO)の名が読み上げられました。個人でなく団体に賞が与えられるのは初とのことです。女王臨席の演奏会で御大デイヴィス卿の代役に超若手のティッチアーティはちょっと軽すぎるんじゃないかと思っていたのですが、なるほど、NYOの受賞が決まっていたのでその出身者を持ってきたのね、というのはうがった見方でしょうか。ともあれNYOは来年早々にバービカンで演奏会がありますので、よい凱旋公演となることでしょう。それにしても今日は前から二列目の席だったので女王陛下とは5mもない至近距離。特に女王ファンと言うわけではありませんが、こんなに近づけることも今後二度とないと思うので、貴重な経験でした。



NYOを代表して5人の若者が登壇、女王と握手していました。

最後のエニグマ変奏曲がこれまた素晴らしい演奏で、気合の入ったときのLSOの音が何と豊かで艶やかなことよ。節度を守りつつも仄かに感傷を漂わせる絶妙の「ニムロッド」で、まさに時が止まりました。指揮者も若いのに余裕たっぷりの指揮ぶりで、とんでもない大器かもしれません。

全部終わったらもう10時。混雑する前に会場を出ようとしたら階段が閉鎖されていて、仕方なしに駐車場のほうから外に出ると、ちょうど裏口から女王がロイヤルカーで帰宅するところでした。周囲は通りがかりの車も全て足止めされていて、やっぱりやんごとなきお人が動くのはいろいろたいへんやなあと。


シャッターチャンスを逃し、女王の顔が見えない…。

BBC響/ポンス/アヤン(t)/ブランドン(s):シンフォニアはホラー系2012/12/07 23:59


2012.12.07 Barbican Hall (London)
Josep Pons / BBC Symphony Orchestra
Synergy Vocals (voices-1), Atalla Ayan (tenor-2)
Sarah Jane Brandon (soprano-3)
BBC Symphony Chorus
1. Berio: Sinfonia for orchestra and eight amplified voices
2. Verdi: 8 Romanze for tenor and orchestra (orch. Berio)
3. Verdi: Four Sacred Pieces

イタリアの新旧巨匠を繋げ、さらには前週のマーラー「復活」とも呼応した、地味ですがなかなか粋なプログラムです。

20年前に初めてウィーンを訪れた際、ベリオ本人の指揮するウィーン響でカレーラスが彼の歌曲のみを歌う演奏会をたまたま当日券で見たことがあります。三大テノールの一角としてすでに超スターであったカレーラスを讃えて、オケが引き上げた後もファンのおばちゃん達が舞台前まで詰め掛け、延々とスタンディングオベーションを続けていたのが印象に残っています(あらためてカレーラスの生年を調べてみると、当時の年齢は現在の私くらいであることに気付き、愕然・・・)。このときのベリオの歌曲がどんなだったか、記録も取っていないし全然思い出せないのですが、今日の「シンフォニア」みたいなポストモダンとは全然違う、全くイタリアン・ベルカントな曲だったような気がします。

思い出話はさておき、「シンフォニア」は一度聴いてみたかった曲で、確か昨年のLSOでもハーディングが取り上げていましたが、残念ながら都合が悪く行けませんでした。この曲の第3楽章は、マーラー「復活」の第3楽章スケルツォを中心に、全編他人の曲の引用で構成したという実験的試みで有名です。英語版のWikipediaに引用されている曲のリストがありますが、選曲はバーンスタインの「ヤング・ピープルズ・コンサート」で取り上げられていた曲から着想を得た、との説があるようです。曲はいわゆる現代音楽調の不協和音オンパレードで、突然ドカンと脅かしが入ったりします。引用の箇所では聴き覚えのある曲が聞こえてきたかと思えば、調子外れの鼻歌がそれをなぞり、雑然としつつもかなり不気味な雰囲気を醸し出しています。このホラーな感覚はどこかで記憶にあるぞと思ったら、そう、それはディズニーランドの「ホーンテッド・マンション」(パリのランドだとPhantom Manor)。音楽を聴くというより、何かポストモダンのアートを見ているかのような刺激でした。何度でも聴きたくなる面白い曲です。演奏は難しそうですが。


ここで休憩が入ったので、休憩後が長かったです。歌曲苦手な私には、ちょい退屈な時間が続きました。最初の「8つのロマンス」はヴェルディのピアノ伴奏歌曲をベリオがテナー独唱とオーケストラ用に編曲したもの。さっきの「シンフォニア」と比べたら当然ながら曲調はロマンチックだし、アレンジもポストモダンでは全然ない。ブラジル人テナーのアヤンはハツラツと歌い、甘くて軽い声質がアラーニャみたいです。歌はいっぱいいっぱいの感じで、深みと説得力を求めるにはまだまだ若いでしょうかね。

最後の「聖歌四編」は元々一つの曲として作曲されたわけではなく、個別の4曲「アヴェ・マリア」「スターバト・マーテル」「処女マリア讃歌」「テ・デウム」を寄せ集めたもの。宗教曲としては盛りだくさんの内容となってます。ソプラノ独唱付きですが出番は少なく、オケも寡黙で、あくまで合唱に重きを置いた曲です。でもその合唱にアラが目立ってあまり上手くなかったのが難点。うーん、自分のための曲ではないかなあ。最後は爆睡してしまいました、すいません。宗教曲は鬼門じゃ。レクイエムとか、絶対に寝てしまうんですよねえ・・・。


フィリップ・グラス75歳記念演奏会:コヤニスカッツィ2012/12/14 23:59


2012.12.14 Barbican Hall (London)
Philip Glass at 75: Koyaanisqatsi
Michael Reisman / Britten Sinfonia
Godfrey Reggio (director), Jeremy Birchall (bass)
Philip Glass Ensemble
Trinity Laban Chamber Choir
Stephen Jackson choir director
1. Phillip Glass: Koyaanisqatsi (1982) (Live film screening)

昨年のスティーヴ・ライヒに続き、今年はフィリップ・グラスの75歳記念イベントがバービカンで企画されました。ミニマルミュージックの両雄も、相次いで「後期高齢者」になられたわけですなー。フィリップ・グラスというと私の思い出は、高校生のころ「SONY MUSIC TV」という洋楽(一部邦楽も)ビデオクリップをひたすら流すという深夜番組が始まりまして、毎週欠かさず見ていたのですが、そこでフィリップ・グラス・アンサンブルのインスト曲(曲名忘れました)のビデオを見たのが初めての出会いでした。従って当時はクラフトワークかYMOみたいなテクノポップバンドの一種かなあと思っていて、グラスの本職は現代音楽の作曲家ということを知るのはもっと後になってからでした。しかしそれ以降特に追いかけたわけではないので、CD含めグラスの曲は、「あんな感じの曲」というイメージは頭の中にあるものの、ちゃんと通しで聴いたことがありません。

今日のコンサートは、1982年にグラスが音楽を付けたドキュメンタリー映画「コヤニスカッツィ/平衡を失った世界」を、ブリテン・シンフォニアとフィリップ・グラス・アンサンブルの生演奏をバックに上映するという趣向です。私は初めて知ったのですがこの映画、そこそこ有名なカルトムービーらしい。チケットは早々にソールドアウト、普段の演奏会とは客層が違う感じでした。映画の内容は、台詞・ナレーションは一切なしでアメリカの大自然や都会の風景をグラスの音楽に乗せて約1時間半の間延々と見せていくだけです。もちろん超簡単に言えばそうなのですが、最初砂漠や峡谷の雄大な自然風景から始まって、農業や鉱業といった人間の営みが徐々に見えてきて、後半は大都市の喧騒を猛スピードの早回し映像で強調し、最後は衛星ロケットの空中爆発(よく似ているので一瞬スペースシャトル・チャレンジャーの映像だと私も思いましたが、よく考えたらこの映画はチャレンジャー事故より前なのでした)からエンジンが焼けながら落下していく様子を黙々と追いかける映像で締めくくる、といういかにも含みを持った構成。作品の意味は見る人に委ねられているとは言え、テクノロジー批判の匂いは多分誰もが感じることでしょう。

極めて大雑把に言えば、リズム反復中心のライヒに対比して、グラスの音楽はアルペッジョのスケール反復(リズムは六連)というイメージです。和声と旋律的には全くの調性音楽なので耳にも脳にも優しい。最初のほうのスローな曲調に雄大な自然がゆったりと流れる映像は、あらがい難く眠気を誘いました。一方で終盤の低速撮影フィルムの早回しによるめちゃくちゃせわしない大都市文明の映像は、これまた頭がぼーっとしてくるトランス効果があり、どうしても視覚と聴覚両方からどっぷりと絡めとられてしまった様子です。ミニマル系を一歩引いて聴くというのはなかなかに難しい。映画としては、もちろん音楽も含めて、何だか病みつきになりそうな危険を感じました。冒頭と最後でバスが「こ〜や〜に〜す〜か〜ち〜」と、お経をつぶやくように単音で低く歌うのがいつまでも耳に残ります。この映画には「ポワカッツィ(1988)」「ナコイカッツィ(2002)」という続編もあって、合わせて「カッツィ三部作」と呼ばれるそうで、こうなったら他の二つも全部見てみます。


BBC響/ミンコフスキ/パーション(s):ペール・ギュント2012/12/15 23:59

2012.12.15 Barbican Hall (London)
Marc Minkowski / BBC Symphony Orchestra
BBC Singers
Alain Perroux (stage director), Johannes Weisser (Peer Gynt/baritone)
Miah Persson (Solveig/soprano), Ann Hallenberg (Anitra/mezzo-soprano)
Actors from the Guildhall School of Music & Drama:
Patrick Walshe McBride (Peer Gynt)
Grace Andrews (Solveig, the Girl in Green, Anitra, and other roles)
Evelyn Miller (Narrator), Melanie Heslop (Ase, and other roles)
Cormac Brown (Mads Moen, the King of the Trolls, and other roles)
Tom Lincoln (The Boyg, the Passenger, the Button-moulder, and other roles)
1. Grieg: Peer Gynt (concert performance)

前日に引き続き、12月はバービカンが続きます。「ペール・ギュント」は最も著名なクラシック曲の一つと言ってもよいくらいの有名曲ですが、なかなか全曲通して聴く機会はありません。本来はイプセン原作の戯曲のために作られた劇付随音楽というカテゴリ。音楽だけだと全部で85分くらいですが、途中の台詞を含めると2時間を越える長丁場となります。

あらすじは、「母と二人で暮らす放蕩息子のペール・ギュントは、村の結婚式で出会った清楚な乙女ソルヴェイグに恋をしつつも、花嫁のイングリッドをさらって逃亡、放浪のたびに出る。飽きたらイングリッドを捨て、魔王の娘(緑の少女)と結婚しようとして最後は逃げ出し、追ってきたソルヴェイグも山小屋に置いたまま、故郷に戻って母オーゼの死を見取る。怪しげな商売で財産を築くも妖艶な娘アニトラに騙し取られ、年老いて故郷に帰ると閻魔大王のようなボタン職人にボタンにされそうになり、最後は山小屋にたどり着いて、ずっとペールを待っていたソルヴェイグの子守唄を聴きつつ息を引き取る。」という、荒唐無稽な中にも寂寞な余韻が残る一大叙事詩です。

今日はミア・パーションを筆頭に北欧系の独唱者を揃え、歌は原語(ノルウェー語)で歌われますが、劇の部分は英訳版を使い、ギルドホール音楽演劇学校の学生6人によってプレイされました。ペールとナレーター以外は一人で何役もやらなければいけないのでたいへんでしたが、役者の卵さんたちは若いながらも皆芸達者で、笑かし、泣かせてくれました。特にペール役の男の子は熱演で、やんやの拍手を受けていました。個人的にはオーゼの子が可愛かったのと、ナレーターの女の子が多分一番若いのに滑舌は最も確かで頼もしかったです。

それにしても今日はオケが良かった。ミンコフスキは初めて聴きますが、元々はバロック系の人ながら、ロマン派も振れる芸域の広さを持った人の様子。きびきびとキレの良い劇的な表現がこの壮大かつはちゃめちゃなストーリーにマッチして、たいへん好ましかったです。合唱も今日はアマチュアのBBCシンフォニーコーラスではなく、プロ集団のBBCシンガーズ。少数精鋭で精緻な合唱を聴かせてくれました。独唱は、ソルヴェイグ以外はスポットで歌うだけですし、何故か舞台手前ではなく中ほどで歌う演出だったので声の通りも悪く、印象不足でした。ソルヴェイグ役のパーションは一人指揮者の横で歌ったかと思えば、舞台袖に引っ込んでまた歌い、再び指揮者の横に戻ってきて歌うという忙しさ。私の好みからするとちょっと線が細すぎる気もしましたが透き通る美声で、役にはぴったりでした。オペラでも聴いてみたいと思いましたが、声量はどうなんでしょうかね?


ロンドン響/ゲルギエフ/マツエフ(p)/カヴァコス(vn):ブラームスとシマノフスキ2012/12/19 23:59


2012.12.19 Barbican Hall (London)
Valery Gergiev / London Symphony Orchestra
Denis Matsuev (piano-1), Leonidas Kavakos (violin-2)
1. Szymanowski: Symphony No. 4 ('Symphonie Concertante')
2. Szymanowski: Violin Concerto No. 2
3. Brahms: Symphony No. 4

このところLSOはシーズン毎に2人ずつくらいピックアップコンポーザーを設定しておりまして、2010/11はマーラーとシチェドリン、2011/12はチャイコフスキーとストラヴィンスキーが取り上げられていました。2012/13のシーズンはブラームスとシマノフスキという渋い取り合わせですが、あまりに渋過ぎて何となく気分が乗らず、私が聴く予定なのはこの演奏会だけです。今日はMEZZOというフランスのクラシック専門チャンネルで中継があるとのことで、多数のテレビカメラが入っており、照明を落としていたわけでもないのに譜面台にはいちいちライトが取り付けてあって、舞台上の配線がたいへんなことになっていました。

1曲目は実質ピアノ協奏曲ですので、今日はコンチェルトが2曲にシンフォニーという豪華プログラム。シマノフスキの交響曲第4番は昨年王立音楽大学のアマチュアオケで聴いて以来です。マツーエフは2年ぶり。鋭く差し込むようなインパクトの運指に派手なオーバーアクションは健在で、見ていて楽しいビジュアル系です(見た目は「太めのウィル・フェレル」ですが)。どちらかというと幻想的、叙情的なこの曲を、これだけガンガンバシバシと切り込んでいくのはかなり個性的な解釈だと思います。まあ、こういうのもアリでしょうか。テクニカルな凄さは、もう何も言うことありませんし。ゲルギーはいつもの爪楊枝指揮。今日はテレビが入っているからなのか、髭なんか奇麗に剃っちゃって、トレードマークの不潔な雰囲気が薄められ、何だかよそ行きの顔です。

次のヴァイオリン協奏曲は、同じカヴァコスのソロにロンドンフィルのバックで、ほぼ2年前に聴いたっきりです。もう見慣れてしまった宅八郎系風貌のカヴァコスは、やっぱり上手い。この人もどちらかというとテクニックでガンガン押すタイプと思いますが、ハヤビキではないものの重音を多用したいかにも難しそうなカデンツァをいとも自然にクリア。硬軟どちらもイケる懐の深さを見せつけられ、参るしかありませんでした。今日のソリストはどちらも我の強い系で、ひたすらプッシュする演奏スタイルは両者ともアッパレです。それにしてもシマノフスキという作曲家、名前は地味ですが作風はむしろ多彩で派手、なかなか深い世界があります。売りようによってはもっとメジャーになってもよいのかも、と思いつつ。

メインのブラ4。ブラジャー4枚ではありません(という「名曲探偵アマデウス」ネタは分かってくれる人がいるのか?)。この曲は、ええと、ちょうど3年前に同じバービカンでコンセルトヘボウの演奏を聴いて以来なので、比較的好きな曲にしてはずいぶん間が開いてしまいましたね。ずずずっと引きずるような出だしからして個性の強いゲルギーの棒(ならぬ爪楊枝)で導かれるのは、決してさらさらとは流れず終始ぎこちない不器用な演奏。もちろんこれは確信犯ですが、存在感が心に残る演奏でした。確かに、ブラームスはスタイリッシュに決めればよい音楽ではないにしても、ありふれた演奏なんかやってやるもんかという気概をひしひしと感じました。


ブレ御免。髭を剃ってさっぱりしたゲルギエフ。


おまけのサービスショット、チェロのミナ嬢。この人はやっぱり、LSOの中だとダントツの美人ですね。正面写真のチャンスもしつこくうかがったのですが、成功せず…。

ロンドンのニューウェーブとんこつラーメン三題2012/12/21 23:59

ラーメン不毛地帯のロンドンに、今年は立て続けに新しいお店がオープンしました。一点張は以前すでに紹介しましたが、今回は最近できた3店舗(何故か全て「とんこつラーメン」)をトライしてきましたのでご報告。

Shoryu
http://www.shoryuramen.com/
ピカデリーのジャパンセンターの道を挟んだ向かい側に先月開店したばかりのホヤホヤです。プレオープンの半額セールに妻が行ったときは1時間並んだとのことだったので、空いてそうな夕方5時ごろを狙って行ったらガラガラでした。本格的博多ラーメンがついにオープンというふれこみだったので、まずは「博多とんこつ」£8と、ついでに餃子£5を注文。



スープは見たところ白濁の博多ラーメン風。臭みはなく、やけにあっさりした味わいです。まあ、こういうのが好きな人もいるでしょうが、博多の味ではないな。気になったのはミルク臭い味がしたこと。もしや、色を整えるために牛乳を加えている?あと麺は、妻から聞いていた通りヤワい縮れ麺で、全然博多の麺じゃありません。まあ、妻が「麺がダンゴ状で話にならない」とボロカスに言ってたほど食えないこともなかったですが、やっぱり「ロンドンのラーメン」の域は出ず。餃子はまあ普通でした。一点張の餃子よりは良いかも。テーブルに胡椒、ニンニク、ゴマ等を置いといて欲しいところです。でもリピートはないですかね。

Bone Daddies
http://bonedaddiesramen.com/
こちらはソーホーにちょっと前にオープンしていた、元NOBUで働いていたというオーストラリア人がオーナーのラーメン屋。店構えは全くモダンなバー風で、全然ラーメン屋らしくないので、最初気付かず通り過ぎてしまいました。ランチタイムでしたが日本人らしき客はゼロ、白人ばっかりでした。ジャパニーズな雰囲気はみじんもありません。ただし、すりゴマとニンニク潰しがテーブルにあるのは好感度大(胡椒はなし)。ここでもまずは「とんこつラーメン」£11にトライ。



非常にクリーミーなスープは見た目京都の「天下一品」系です。他のブログで「ダブルクリームが入っている」と書いている人がいましたが、Shoryuと違ってミルク系の風味はせず、正統的な骨髄系のスープでした。チャーシュー、煮玉子はちゃんと日本風に作ってあります。ただ、麺はやっぱり…。あと、量が少ないですね。これで£11はかなりの割高感です。

Tonkotsu
http://www.tonkotsu.co.uk/
最後はこれまたソーホーの新しいお店。「とんこつ一本で勝負する」というこだわりの店名と思いきや、メニューには東京醤油などもあり。ここも調理人、給仕共に白人ばっかりでしたが、店構えはここが一番日本のラーメン屋に近いかな。注文はもちろん「とんこつラーメン」£11。餃子£5も付けました(それにしてもロンドンのラーメン屋の餃子って、何でみんな高いんだ)。テーブルに胡椒はありましたが、生ニンニクはオプションで別料金でした。



スープはあっさり薄味、色も薄くて白濁度が低いです。MSGは一切使っていませんというふれこみ通り、確かに変な味はしないけど旨みも薄かったです。ちょっと加えた酸味がさらにさっぱり感を増していました。こういうのが好きな人もいるんでしょうけど、私の期待するとんこつでは全然ないなー。餃子がまたラーメン以上に薄味で、これはいただけなかった。一方、チャーシュー、煮玉子はBone Daddiesと似ていて、まともでした。麺はやっぱり残念な「ロンドン麺」。ただし、チラシに書いてあったニュースを読むと、現在製麺機を日本から取り寄せ中とのこと。機械があればいいってもんじゃないですが、店主が麺にもこだわるつもりがあるというのは重要です。製麺機の成果が出たころにまた行ってみるとしましょう。

まずは基本的なこととして、本当にちゃんとしたとんこつスープを取ろうとしたら、悪臭を撒き散らして近所から苦情が来るくらいが当たり前。ピカデリーとかソーホーみたいな一等地にお店を構えるのはそもそも無理があるというか、お店の本気度を問いたくなるところです。実際どの店のスープも濃厚な旨み、こってり感、とんこつ特有の獣臭さが物足りません。それにもまして問題なのは、麺。ロンドンにはなぜまともな麺が入ってこないんでしょうか。前に「一点張」の店長のインタビューを読んだときも、スープへのこだわりを延々としゃべっているわりには麺への言及はほとんどなく、こりゃーダメだ、麺が改善される日は来ないな、と思ってしまいました。ロンドンにも麺に目覚めるラーメン屋が早く出てきてくれないものかと、切に思います。

パリのジャパニーズラーメン二題2012/12/22 23:59

ちょっと前になりますが、パリに出かけた際、日本料理屋が並び立つピラミッド界隈でラーメン屋を2軒トライしましたのでそのお話を。

Naritake
31 rue des Perits-Champs 75001 Paris
Tel: +33 1 42 86 03 83

パリ初のこってり背脂系ラーメンとして昨年オープンした「なりたけ」は、行列の絶えない人気店としてその評判はロンドンにも漏れ聞こえてきています。津田沼の本店には行ったことがありませんが、そんなに人気のラーメンならこれは食いに行かねば、と開店時間ジャストを目指して気合い入れて出かけたのですが、祭日だったためお休み(日曜祝祭日は休業だそうです)。気を取り直して翌日再訪したところ、噂通り12時の開店前からすでに人が並び始めてました。一番乗りだったので問題なく席に着き、味玉醤油ラーメンを注文。


脂多めにしなくても十分過ぎる量の背脂が乗ってます(妻と子供は脂少なめのあっさりにしましたが、それでも背脂はそれなりに乗ってました)。久々に食べたギトギト背脂系は爽快な重量感で、たいへん美味しゅうございました。軽くちぢれた太めの麺もコシ、喉ごし共にこれぞジャパニーズラーメン。まともに美味しいラーメンがあるパリがうらやましくなりました。それにしても、私も学生のころは背脂系(も、と言うべきでしょうね)、大好きでした。ホープ軒とか白山ラーメンとか、夜中によくあんな高カロリー食を飽きもせず食べてたもんだと、恐れを知らぬ若さって、今から思うと凄いもんですねえ。


Higuma
http://www.higuma.fr/
先述の「なりたけ」が休業だった日、仕方がないので近くで他を探したところ、「大勝軒」が目に入りましたが、ここは昔入ったことがあってたいして印象に残っていないし、かんとくさんの評価も悪かったので、パス。角を曲がると目に入った「ラーメンひぐま」に行ってみました。札幌ラーメン横町の老舗で有名な「ひぐま」には高校時代に一度行ったことがりますが、多分そこと資本関係があるわけではないでしょう。こちらも昼時は行列のできる人気店で、広い店内はほぼ満員でした。


これは塩ラーメン。


これは普通の醤油ラーメン。


これはネギ醤油ラーメン。

ふむ、どれも至って普通のラーメンです。なりたけと違ってまたわざわざ来たいと思わせる要素は何もありませんが、普通にも届かないロンドンラーメンよりは全然ましなので、それなりに満足はしました。

この界隈には他にも何軒かラーメン屋がありますが、旅行者の身で全てを試すのは難しい。また次回、機会があれば探検に来てみたいです。

ハンガリー国立バレエ:懐かしい、古き良き「くるみ割り人形」2012/12/24 23:59


2012.12.24 Hungarian State Opera House (Budapest)
Vaszilij Vajnonen (choreography, libretto after Hoffmann)
Gusztáv Oláh (set & costume design), András Déri (conductor)
Adrienn Pap (Princess Maria), Denys Cherevychko (Prince Nutcracker)
Blanka Katona (Marika/child Maria), Gyula Sárközi (child Nutcracker)
Csaba Solti (Drosselmeier), Jurij Kekalo (Mouse King)
1. Tchaikovsky: The Nutcracker

2004年から年末には「くるみ割り人形」を見にいくのを家族の恒例行事としておりますが、今年はクリスマス休暇旅行のおり、久しぶりにハンガリー国立バレエを見ることにしました。ここの演出はワイノーネン振付けの初版がベースで、主人公の少女の名はクララではなくマリア。にわか勉強によると、ドイツ人であるホフマンの原作では少女マリーが両親からもらう人形の名前がクララという設定だったのですが、初演のプティパ/イワーノフ版では少女の名前がクララに変えられており、ロイヤルバレエのピーター・ライト版などではこれを踏襲しています。一方のワイノーネン版では原作にならい少女の名はロシア語でマーシャに戻され、ハンガリー語ではマリアとなるわけです。また、イワーノフ版では他の子供と同様少女クララは子役が踊り、踊りの主役はあくまで第2幕に登場するお菓子の国の王子・王女であるのに対し、通常のワイノーネン版は主人公マーシャを最初から大人のダンサーが演じ、くるみ割り人形の王子と共におもちゃの国の王子・王女として迎えられるのが特徴でありながら、このワイノーネン初版では第1幕で子役ダンサーがマーシャとくるみ割り人形の王子を踊り、夢の世界に来たところから大人のダンサーに入れ替わります(ここのトリックが見所ですが)。最後は夢から覚めて、再び子役のマーシャがベッドで目を覚まし傍らのくるみ割り人形を抱きしめるところで幕となる、いわゆる「夢オチ」。私は最初に見たのがこのワイノーネン初版なので、「くるみ割り人形」というのは夢オチが基本だと擦り込まれてしまっておりましたが、原作はそんな単純ではないらしいし、バレエも演出によってお菓子の国で大団円を迎えておしまいというのもあれば、ライト版は最初から大人のダンサーが少女クララを踊り(他の子役と一緒に大人が子供のフリをして踊るのが、私がライト版に最も違和感を感じるところです)、お菓子の国ではただ見てるだけじゃなくて各国の踊りを一緒に踊ったり(昔のロイヤルバレエDVDを見ると一緒に踊るのはないので、近年付け加えられた演出だと思いますが)したあとに、最後は呪いの解けたくるみ割り人形(実はドロッセルマイヤーの息子)と一緒に現実の世界に戻る、というユニークな展開になっていて、本当に様々なパターンがあるようです。あとは細かいことですが、このハンガリー国立バレエの演出では元々の第1幕がパーティーが引けて夜になるところで分割されて休憩が入るので、全部で3幕になってます。


口裂け女みたいなアゴがちょっと気持ち悪い、ハンガリーのくるみ割り人形。

6年ぶりに見るこの「くるみ割り人形」は、ただただ懐かしかったです。極めてオーソドックスな演出に素朴な振付けは古き良き時代の絵本のようで、まさに子供に見せたいバレエでした。第1幕で開けられる子供たちへのプレゼント人形は、アルルカン、バレリーナ、ムーア人。ロイヤルバレエではアルルカン、コロンビーヌ、男女の兵隊ですが、やっぱり最後は土人がくるくる回って子供が興奮するのでなきゃー物足りない、と思ってしまいます。昨今では自主規制が働いていろいろと難しいのかもしれませんが。相変わらず子役で出てくる女の子は皆人形のようにかわいらしい白人のお嬢さんばかりで、見惚れてしまいます。

一方で、自分の目が肥えてしまったのでしょうか、ロイヤルバレエと比べてどうも動きが大らかというか、大味な気がしてならない。アクロバティックな技が少ないし、主役も脇役もちょっと間があくと突っ立っているだけの瞬間が多々あり、スポットを浴びていない間でも小芝居を打つようなきめ細かさがないように思えました。体操のように飛び跳ねればよいってものではありませんが、ダンサーがその力量の幅を目一杯使って表現しているようにも見えなかった。これはやはり、世界のトップクラスに君臨し、世界中から猛者が集まりしのぎを削るカンパニーと、そうでないところのレベルの差なんでしょうかね。

あと気付いたのは、女性は出るところが出たというか、短く言うと巨乳系の人がけっこういました。走り回るとゆっさゆっさ揺れて、めちゃ踊りにくそう(苦笑)。逆にアラビアの踊りなんかは、ガリガリの人が踊るよりはそれらしい雰囲気が出ていて良かったです。ロイヤルバレエはペッタンコの人ばかり(失礼)ですが、他と比べて規律が厳しく消費カロリー(練習量)が多い、ということなんかな。

王子役の人は知りませんでしたが、マリア役のパップ・アドリエンは昔何度か見たことがありました。当時は学校を出たてくらいの若さながら、「白雪姫」や「かかし王子」のお姫様役を堂々と演じていました。今ではすっかり貫禄のソリストですが、まだまだ若いんだから、ちょっと落ち着き過ぎかも。ほぼ全員が東欧系白人顔の中、群舞の中に一人日本人らしき顔を発見、後で調べてみると2010年から入団しているAsai Yukaさんという人みたいです。

オケは、かつては特にバレエの時にひどい演奏をさんざ聴かされたものでしたが、そのときの記憶からしたら、思った以上にしっかりとした演奏で感心しました。速いパッセージでアンサンブルの乱れは多々ありましたが、金管は最後まで持ちこたえていましたし、花のワルツでの妖艶なうねりはなかなかのものでした。



ブダペストのハンガリー国立歌劇場は、今では数少なくなった、貴族時代のゴージャスな内装を徹底的に残している、古き良き劇場です。以下に写真を少々。


エントランスの階段。


エントランスの天井画。


ホール内の天井画。


カフェもゴージャスなままです。



吹き抜けとメインの階段。この日はマチネでしたが、ロンドンと比べて大人も子供も着飾った人が多かったです。

「なんでんかんでん」の思い出2012/12/26 23:59

とんこつラーメンのことを書いていて、いろいろと調べごとをしているうちにふと目に入ったニュース。

『環七沿いのラーメン店「なんでんかんでん」、25年間の営業に幕』

バブル期に行列のできるラーメン屋として名をはせた世田谷の「なんでんかんでん」本店が2012年11月5日をもって店を閉じたそうです。

先の日記で「本当にちゃんとしたとんこつスープを取ろうとしたら、悪臭を撒き散らして近所から苦情が来るくらいが当たり前。」と書いたとき、まずはこの店のことが頭にありました。

大学生時代、この店のごく近所で一人暮らししてました。風呂なしアパート(当時の学生はそれが普通でしたが)だったので毎日(よりは少ないか…)銭湯に通っていましたが、ある日、その通い道からちょっとずれた場所に新しいラーメン屋がオープンしているのをたまたま発見。お風呂帰りに興味本位で入ってみて、以来すっかりハマってしまいました。当時すでに熊本の桂花ラーメンは渋谷にありましたが、歯ごたえのあるストレートな細麺に、すぐに油膜が張ってくる脂っこい白濁スープは新鮮な感覚で、これはいいものを見つけたと九州出身の友人を連れて行ったら、これはほんまもんの博多ラーメンだと。

あたり前ですが開店当初はお客が少なくて、川原店長と、もう一人、確か何処かのホテルでコックをやってたという調理人の二人で作っていたと思うのですが、客はカウンターに私一人で、ひまなのでリンゴを剥いて食べていて、「リンゴ、どうですか」「あ、どうも」といただいたりして、あの店にもそんなのどかな時代がありました。

別の日、定期券入れをお店で落としてしまって、あちゃーなくしたと思っていたら、留守番電話に川原店長がオカマっぽいふざけた声で「お忘れになってるわよーん、取りにいらして〜」とメッセージを残していて、大慌てで取りにいった思い出もあります。よく通ってはいたけど個人的な付き合いはなかったので、一緒に入っていた身分証明書を見て電話してくれたのでした。

口コミで人気が出てきてお店も結構人が埋まるようになったころ、私は引っ越してしまいましたので、それ以降あまり行くことはできませんでした。特に「なんでんかんでん渋滞」と呼ばれるほどの異常な違法駐車と待ち行列ができるようになってからは、一度しか行ってません。最後に行った時、最初と比べてずいぶんと味が変わってしまったような気がして、もはやここまで待って食べるものでもないと、自分の中の「青春思い出箱」に封印してしまいました。

その後ブームも去り、フランチャイズ店はことごとく閉店し、本店にもかつてのような行列はできなくなったとのことでした。今回の閉店ニュースを読んで、もし自分がまだ東京にいたなら、最後に是非もう一度食べたかったものだと、しみじみ思いました。

あー、ほんまもんの博多ラーメンが食べたくなってきた…。