バイエルン州立歌劇場:ヘンゼルとグレーテル2011/12/25 23:59


2011.12.25 Nationaltheater, Bayerisches Staatsoper (Munich)
Asher Fisch / Bayerisches Staatsorchester
Kinderchor der Bayerischen Staatsoper
Herbert List (Director)
Martin Gantner (Peter, broom-maker), Irmgard Vilsmaier (Gertrud)
Okka von der Damerau (Hänsel), Laura Tatulescu (Gretel)
Heike Grötzinger (Gingerbread Witch), Silvia Hauer (Sleep Fairy)
Iulia Maria Dan (Dew Fairy)
1. Humperdinck: Hänsel und Gretel

初見参のバイエルン州立歌劇場です。クリスマスに「ヘンゼルとグレーテル」という演目で、マチネとは言えないものの午後4時という早めの開始だったので会場は子供が多かったです。ヨーロッパ最高峰の一つなのでもっとゴージャスな内装を想像していたのですが、意外と質素。カフェやクロークは機能重視のモダンなものでした。ボックス席は舞台すぐ横以外にはなく、上のほうの階はどの席でも鑑賞しやすく設計されているように見えました。


まず感じたのは、この劇場の音響の素晴らしさです。今回はストール最前列左端で、反対側からトランペットがまっすぐこちらを向いているような席だったのですが、さしづめロイヤルオペラハウスなら汚い生音が直接差し込んで来るところ、非常にまろやかに響いて来て、至近距離だったホルンも、弦楽器も、どの楽器もワンクッション置いて角の取れた音で耳に届き、たいへん心地が良い。また、音響の助けがなくともオケの集中力は高く、特にこれぞビロードの肌触りと思える弦は久々に聴きました。これはオケだけでも一流です。対する歌手陣も、スターはいないもののドイツ人歌手を中心に劇場レギュラーの実力者揃いで、音楽的には非の打ち所のない好演でした。

難があったのは演出。モダンで過激な演出ばかりのドイツの歌劇場でも「ヘンゼルとグレーテル」だけは伝統的なスタイルを守るという話を聞いたことはあるのですが、オーソドックスと工夫がないのとは違います。おそらく100年前の舞台はこうであったろう、おとぎ話そのものの大道具、衣装に、歌を邪魔しない最小限の動き。今の感覚では全体的にヌルく、イケてません。もちろん、楽しい劇ではあるのですが。第1幕から第2幕は連続ではなく、珍しくいったん休止を入れたので「あれっ」と思ったのですが、後でスコアを確認すると、演出によってどちらでもかまわないんですね。第2幕以降は舞台にずっと半透明のスクリーンがかかっていて、第2幕だけなら夕暮れの森の中のもやがかかった情景を演出したいのかと解釈できるのですが、第3幕の最後まで引きずるのは意味不明で、はっきり言って余計でした。工夫が全くなかったわけではなくて、眠りの精や魔女はワイヤで空を飛ぶし、第2幕最後には天使が多数出て来て癒し系の踊りを踊り、魔女のオーブンからは本物の火が出ますが、緩和な雰囲気は最後まで拭えず、緊張感も目を引く特異性も何もありませんでした。子供向けと言ってもあれでは退屈するのではないでしょうか?

この劇場で一番新鮮だったのは、ピットの中にも観客席側壁沿いに一列分ベンチシートの席があったことでした。見ると子供とその保護者ばかりでしたので、この演目に限って特別に子供にだけ解放しているのでしょうか。これはしかし、指揮者の真横、奏者の目の前まで子供が座って視線を送っているということで、これだと奏者も張り切らざるを得ませんね。あとは、休憩時間になると聴衆は全員いったん外に出され、次の開演ギリギリまで入れないのも初めての体験でした。どうしてそんなシステムになっているのか、ロビーにそんなに広いスペースがあるわけではないので混み合って、これはいただけませんでした。


ピット内の客席。これは楽団にはプレッシャーでしょう。木のベンチシートで座り心地は悪そうです。ワーグナーだと死にそうですね。

さらに、劇場に置いてあったシーズンプログラムを見ていて凄いと思ったのは、そのレパートリーのとっても保守的なこと。今シーズンの演目を列挙すると、ボエーム、カルメン、ホフマン物語(新演出)、コシ・ファン・トゥッテ、愛の妙薬、子供と魔法/こびと、フィデリオ、こうもり、ヘンゼルとグレーテル、ばらの騎士、トスカ、トゥーランドット(新演出)、魔笛、セビリアの理髪師、ドン・カルロ、後宮からの逃走、エフゲニ・オネーギン、さまよえるオランダ人、マクベス、蝶々夫人、オテロ、ラインの黄金(新演出)、ロベルト・デヴリュー、椿姫、ワルキューレ(新演出)、カプレーティとモンテッキ、チェネレントラ、ルイザ・ミラー、フィガロの結婚、パルジファル、ジークフリート(新演出)、ヴォツェック、利口な牝狐の物語(新演出)、神々の黄昏(新演出)、先斗の王ミトリダーテ、と、書き写していてため息が出るくらいに超定番アイテムのオンパレード。これらをワンシーズンにやるのだから驚きです。ちょっと集客に苦労しそうな「ロベルト・デヴリュー」はグルベローヴァ、「カプレーティとモンテッキ」はカサロヴァとネトレプコを配置する布陣ですから、穴のない鉄壁のプログラムです。時々旅行に行くのなら、何時行ってもメジャーな演目が見れてよいですが、もしミュンヘンに住んで通うとなると数年で飽きて、刺激に飢えるようになる気がします。新プロダクションが多数あるのが救いですが、こうやってドイツの歌劇場はますます過激な読み替えに走って行くんですかね。

コメント

_ Wulf ― 2012/01/05 12:49

うわ!
入れ違いでしたね!!
私は12/29からミュンヘンに滞在しておりました。
劇場には年末の「こうもり」を聴きに行きました。

_ Miklos ― 2012/01/10 07:19

そうでしたか。私はてっきりWulfさんはミュンヘンご在住とばかり思っておりました。この冬はロンドンが暖かかった分、ミュンヘンは内陸の寒さが身にしみました。

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