ロンドン響/ラトル/コパチンスカヤ(vn):至高の一夜、バルトークとファリャ ― 2026/01/18 23:59
2026.01.18 Barbican Hall (London)
Sir Simon Rattle / London Symphony Orchestra
Patricia Kopatchinskaja (violin-1)
Rinat Shaham (mezzo-soprano-2,3)
1. Bartók: Violin Concerto No. 2
2. Bartók: Five Hungarian Folksongs for Voice and Orchestra
3. Falla: The Three Cornered Hat – Ballet
何度でも生で聴きたくなる大好きなクラシック曲という意味では自分の中でトップ中のトップであるバルトークのヴァイオリンコンチェルトとファリャ「三角帽子」の組み合わせという、最初は目を疑った、願ってもないプログラム。しかも演奏はラトル/LSOにコパチンスカヤという豪華さ。間違いなく今シーズンのメインイベントなので、ここは躊躇せず久々の超かぶりつき席をゲットしました。しかし、こういったいわゆる民族楽派の音楽はラトルが得意とするところですが、ファリャまでレパートリーにしているとは知りませんでした。
バルトークのコンチェルトも三角帽子全曲版も、見つけたら積極的に聴きに行く曲ですので、前回はどちらも2年前と、そんなに久しぶりというわけではありません。コパチンスカヤはもう3年前になってしまいますが、大野和士/都響との協演でリゲティのアバンギャルドなコンチェルトを聴いて以来です。
さてコパチンスカヤは、トレードマークの裸足に加えて、今日はボロ切れで雑に作ったようなスカーレット色の変なコートを纏って登場。そのユニークな出立ちだけでなく、のっけからすごい音でカマしてくれます。これまで聴いた誰よりも芝居がかり力の籠った入りで、ここまでガツンとやられると逆に有無を言わさぬ説得力がありました。大小硬軟を自由自在に飛び越える色彩豊かな音色で、右足指と左かかとでリズム取っていたかと思いきや、興じてくるとピョンピョン飛び跳ね、ドシドシ足踏みしながらの余計な効果音まで入った熱烈なヴァイオリンは、まさに唯一無二。譜割やニュアンスは完全に我流で、四分音の取り方もわざと甘めで、正統派の端正なアプローチから見たら邪道でしかない超個性的なバルトーク。過去に聴いた中ではイブラギモヴァが方向性は近い感じでしたが、それよりはるかに突き抜けています。自己プロデュースの戦略もあるでしょうが、覚悟を持ってここまで極端を貫けるこの人だからこそ芸として許されるのであって、凡人が決して真似してはいけない境地です。前にリゲティのコンチェルトを聴いたときは音がちょっと雑だと感じたのですが、今日のように最前列かぶりつきで、自分と奏者の間に何も遮る物がない状態でその生音を聴くと、ラフに聴こえる箇所でも音色と音程は完全にコントロールされているのがよくわかりました。上手すぎる完璧な技術がまずあって、さらにその一段上の境地であえて自由に崩すという、まさにこの人しかできない芸当に、感服するよりほかありません。カデンツァの途中でばらけた弓のヒゲを切っていたのは、さすがに自由過ぎるだろと思いましたが。アンコールは自ら解説をして、クルターグ「カフカ断章」の超短いヴォイス付きの曲を披露。最後までブレない自由人でした。

後半1曲目は、あまり演奏されることがないバルトークの歌曲集。自分も初めて聴きます。登場したリナート・シャハムは、どこかで見た顔だと思ったら、昨年発売されたカネラキス指揮オランダ放送フィルハーモニー管の「青ひげ公の城」でユディットを歌ってた人ですね。この人も確かな技術に裏付けされた技巧的なメゾソプラノで、素晴らしい歌唱でした。スペイン人ですがハンガリー語も自然で、さすがユディット歌手です。

最後、メインの「三角帽子」ではシャハムは後列に移動。出番は少ないですが第一部の冒頭と第二部中間の重要な場面で要所を占めます。ラトルは元来細かいところで奇をてらった仕掛けをしてくる人ですが、ファリャについてはそのような形跡はなく、それよりもオケを解放して鳴らし切り、メンバー個々の卓越した名人芸を引き出すことに徹しているように見えました。アンサンブルはあえて整えないで、わざと乱れを残して、いかにもスペインの祭りらしい荒々しさを表現。ラトルの指揮なのでオケはもちろん本気度が高く、極上のLSOサウンドを享受する「三角帽子」は、次聴く機会はもうないかもしれないと感慨もひとしおでした。ただ肝心の終曲で二点、大太鼓の入魂の一発が落ちてしまったことと、ラストのカスタネット(元々スコアにはないが追加する指揮者は多い)が思い出したかのように遅れて入ってきたこと、打楽器でリハ不足かと思われるミスがあったのは残念でした。
ともあれ今日この演奏会をこのかぶりつき良席で聴く/観ることができた幸せを噛み締めると共に、この演奏会はBBC Radio 3で中継されていたので音源を手元に残すことができたのは重ね重ねラッキーでした。
by Miklos [ロンドン交響楽団] [バルトーク] [コメント(0)|トラックバック(0)]
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