ロイヤルオペラ:ピーター・グライムズ(最終日)2011/07/03 23:59

2011.07.03 Royal Opera House (London)
Sir Andrew Davis / Orchestra of the Royal Opera House
Royal Opera Chorus
Willy Decker (Original Director), François de Carpentries (Revival Director)
Ben Heppner (Peter Grimes), Amanda Roocroft (Ellen Orford)
Jonathan Summers (Captain Balstrode), Matthew Best (Swallow)
Jane Henschel (Mrs Sedley), Catherine Wyn-Rogers (Auntie)
Roderick Williams (Ned Keene), Stephen Richardson (Hobson)
Martyn Hill (Rector), Alan Oke (Bob Boles), Orlando Copplestone (John)
Rebecca Bottone, Anna Devin (Auntie's Nieces)
1. Britten: Peter Grimes

ハンガリーに住んでいたころ、「ご当地モノ」の音楽はある種特別な存在だったように感じられました。具体的にはバルトーク、コダーイ、リスト、エルケル等を(多少マニアックなところではドホナーニ、リゲティ、クルターグも)指しますが、これら作曲家の音楽はハンガリー国民の誇りであり、時には偏狭的に愛され、大切な観光資源でもありました。まあ、リストがハンガリー人の音楽かというと異論も多々ありますが。振り返ってイギリスの場合、ご当地出身の作曲家と言えばパーセル、ヘンデル、エルガー、ホルスト、ブリテン、ヴォーン・ウイリアムズ、ウォルトン、ディーリアスと名前はいろいろ挙がりますが、国民が熱烈に指示しているとか、世界に対して誇っているとかいう話は聞いたことがなく、扱われ方は極めてクール。唯一、プロムス・ラスト・ナイトでの「威風堂々」などは例外と言えるでしょうが、あれはお祭りなので音楽が音楽としてリスペクトされているわけじゃないし。

ということで、「ご当地モノ」としてイギリスにいるうちに一度は見ておきたいと思っていたのがこの「ピーター・グライムズ」でした。比較的有名とは言っても、予備知識は有名な「4つの海の間奏曲」のみで、DVDも含めて全く初めて見るオペラです。オペラとバレエは家族揃って見に行くのが我が家の掟なのですが、あらすじを読み、さすがに考えてしまいました。数ある悲劇オペラの中でも「救われない度」では比類を見ない上、子供が虐待され死んでしまう(しかも2人も)話で、演出家によってはペドフィリアに深く踏み込みかねない内容ですから、子供向けとはとても言えません。

幸いペド趣味的演出はなく、とても娘に見せられないものではありませんでしたが、やっぱり救いのない、心に刺し傷を残すような演出でした。黒を基調としたダークな舞台装置はシンボリックで、床にかなり傾斜がついています。登場人物が多い上に全員喪服のような画一的に黒い衣装を着ており、誰が誰だか最後までよくわからない人が何人もいました。主役のグライムズを歌ったベン・ヘップナーはプロレスラーのような巨漢で、外見は全くバスかバリトンです。途中声が裏返ったり、鼻詰まりだったり、明らかに調子は悪そうでしたが、必死に声を張り上げて何とか最後まで歌い切りました。とても上手いとは思えませんでしたが、追いつめられた男の表現としては、ある意味ハマっておりました。後で調べたら、彼は一昨年の「トリスタンとイゾルデ」を口パクでしのいだ人ですね。その顛末を最初に聞いたときは、何でもありいなオペラの世界に軽いショックを受けたのでした。他の歌手も、破綻はありませんでしたが、特段良かった人もおらず。合唱は雑ながらも迫力はありました。

オケは上着を脱いで演奏している人が一部おり、だらしなく見えました。いくらピットが正面からは見えないと言っても、上から見たらよく見えるのだから、ロイヤルはロイヤルらしく常に凛として欲しいと思いました。もちろんしっかりした音を出すためだったら上着の有無など問題ではありませんが、結局こういった規律の緩みは音の緩みにも繋がり、案の定、金管はいつにも増してブカブカとデリカシーのない音に終始していました。アンドリュー・デイヴィスは多分CDも含めて初めて聴いたのですが、オケをがんがん鳴らすのは得意だが繊細さに欠けるという印象です。縦の線は基本ユル系だけど、締めるところは締めていたので、ホルストの「惑星」などには向いてそうですね。全般的には、演出と美術の先鋭さは認めるものの、歌手もオケも琴線に触れるものはなく、ストーリーも重苦しく、とてもまた見たいと思うようなパフォーマンスではありませんでした。すいません。



オケピットに向けて投げキッスをするアンドリューさん。うーむ、そんなに良かったっけなあ…。

ところで、サーの称号を持つ現役指揮者は、思いつくところだとコリン・デイヴィス、アンドリュー・デイヴィス、エリオット・ガーディナー、ロジャー・ノリントン、ネヴィル・マリナー、マーク・エルダー、サイモン・ラトルの7人ですが、他にいらさいましたっけ?この中だとエルダーだけ未聴、かな。

コメント

_ 守屋 ― 2011/07/07 06:56

こんばんわ。おそらく、数少ないヘップナーのファンですが、今回は新聞のレヴューを読んで重いでは綺麗なままにしておきたく、やめました。これでロイヤルも最後になるかなと思うとちょっと悲しいですが。

 2013年はブリテンの記念の年だそうです。いろいろ変わった演出が見られるのではないかと思っています。

_ Miklos ― 2011/07/07 08:00

守屋さん、こんばんは。私も、ヘップナーは良い声を持っているな、とは思ったんですよ。でも、長丁場をワクワクしながら聴ける歌手かというと、残念ながら私には全くそうではありませんでした。この歌劇の2時間半の間ですら、好不調の波がはっきりと感じられましたから、相当にムラがある人なんでしょうね。2013年は、さすがに私はロンドンにいないと思います…。日本で何か面白い企画があることを期待します。

_ つるびねった ― 2011/07/11 07:15

ふふふ、ジャケットに気がつきましたね。
あれいつもやってますよ〜。でもちゃんと上着は持ってて、終演後拍手を受けるときはみんな着てます。省エネルックです。
メトはもっとひどくて、ジャケットは着てるんですが、オペラが終わると初日以外はみんなさっさと帰っちゃって、指揮者が空白のオーケストラ・ボックスを讃えるという事態も。これもなんだかなぁです。

_ Miklos ― 2011/07/12 07:20

我が家のオペラ座ファンドもついに底をつき、もっぱら上のほうから見るようになったのは最近なので、気付かなかったです。歌劇場つきのオケって、ブダペストでも思ったんですが、規律はえてして緩みがちですね。まあ、来る日も来る日も狭い暗がりの中で同じ曲を演奏し続けるんですから、そうそう毎日ハツラツとはできないのもわかるんですが。最低限のプロの仕事をやはりしてもらいたいと。

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_ miu'z journal *2 -ロンドン音楽会日記- - 2011/07/11 07:10

01.07.2011 @royal opera house

britten: peter grimes

ben heppner (peter grimes), amanda roocroft (ellen orford),
catherine wyn-rogers (auntie), jane henschel (mrs sedley),
stephen richardson (hobson), metthew best (swallow),
roderick williams (ned keene), alan oke (bob boles), etc.

wil...