マリインスキー劇場バレエ:白鳥の湖(ロパートキナ)2011/07/25 23:59

2011.07.25 Royal Opera House (London)
Boris Gruzin / Orchestra of the Mariinsky Theatre
Marius Petipa, Lev Ivanov (Choreography)
Konstantin Sergeyev (Revised Choreography)
Uliana Lopatkina (Odette/Odile), Daniil Korsuntsev (Prince Siegfried)
Elena Bazhenova (The Princess Regent), Soslan Kulaev (The Tutor)
Alexei Nedviga (The Jester), Andrei Yermakov (Von Rothbart)
Yana Selina, Valeria Martinyuk, Maxim Zyuzin (The Prince's Friends)
1. Tchaikovsky: Swan Lake

昨年夏はボリショイ劇場(バレエとオペラ)のロンドン公演がありましたが、今年の夏はマリインスキー(キーロフ)バレエの来英です。初のロンドン公演から50周年の記念シリーズだそうです。初日の「白鳥の湖」は立ち見も出るほどの満員大盛況でした。

指揮者のボリス・グルージンはロイヤルバレエでも指揮をしている人ですね。全体的にスローペースで、しかもテンポを揺さぶる揺さぶる。ロイヤルとはちょっとスタイルが違うようです。マリインスキー劇場のオケは、オーボエを筆頭に木管は良い音を出していましたが、金管、特にトランペットとトロンボーンははっきり言ってイマイチ。指揮者の性向もあるのか、ちょっとパンチ不足感のある演奏でした。

あえて初日の「白鳥の湖」を狙ったのは、噂のロパートキナを見たかったから。しかし、正直な感想としては(的外れでしたら素人の戯言とお笑いください)、キレがないし、バネがない、ところてんのような印象でした。確かに、きめ細かい手先の表現とかポワントの軽さは飛び抜けており、ゆるぎなく完成された白鳥であったと思います。これは、例えるならピンと立った新鮮なイカ刺しよりも、かめばかむほど味が出てくるスルメの美味しさになりますでしょうか。って、私は実はイカ食べられないのでよくわからないんですが。贅肉の一切ないやせぎすな体格と無表情さが、近寄りがたい感じです。うーむ、黒鳥になったらガラっと転換して驚かせる作戦か、と思ったのですが、オディールでは確かにツンとした表情になり、仕草も違ったものの、踊りでは白と黒のキャラクター分けをあまり感じ取ることができませんでした。今まで何度となく見てきたオディット/オディールの中でも、コントラストの付け方は最も控えめな部類です。オディールのフェッテは多分30回も回っておらず、何かひっかかった感がありました。

他に、第1幕のパ・ド・トロワは回転が乱れたり、よろけたり、足を痛めたんじゃなかろうかと思うくらい変な音を立てて着地していたりして、バタバタとした印象。道化師もよく見ると高くは飛んでいるんですが、どこか黄昏れていて、ハツラツとしてない。魔王は、いちいち決めるポーズがブツ切れで流れるような運動感がない。最後に白鳥をリフトするときは一瞬手が滑ってハラハラさせました。うちにあるキーロフバレエの古い映像(1968年)のDVDで出てくる魔王のほうが、相当にはじけていて小気味よかったです。とにかく、全体的に躍動感が薄かったし、踊り以外の例えば歩く動作が緩慢で、スローテンポの伴奏と相まって、初日なのに何だかお疲れモード。王子を筆頭にみんな落ち着き払ってのっしりと歩いて登場してくるのが、昔日本で見たレニングラード国立バレエを思い出しました。ロシアのバレエ団の「白鳥の湖」はそういう伝統なんでしょうか。一方で群舞はさすが旧ソ連のバレエ、完成度の高いマスゲームでした。四羽の白鳥の踊りは感動的に上手かったです。

ラストで王子様が魔王からもぎ取った片方の羽で他ならぬ魔王をバシバシしばき倒すのがなかなかシュールな展開。魔王があっさり倒されたあとは、オディットも王子も天に召された様子もなく、魔法が解けてハッピーエンド。そんなのありかー、と思いましたが、そういう版もあることを後で思い出しました。ハッピーエンド版も、ロシアの伝統ですかね。