シェーンブルン動物園2011/06/01 07:54


先日のバンクホリデーの連休に、ウィーンまで小旅行してきました。またウィーン?と思われるかもしれませんが、その通り、出張を除くと、これがちょうど20回目のウィーン旅行でした。ただし、この「白アスパラの季節」に行くのは実に5年ぶりになります。


今回は結果的に娘サービスの旅行になりました。5年生にもなって動物園に行きたいと主張するので、シェーンブルン宮殿の一角にある動物園へ。1752年にはコレクションを始めたという世界最古の動物園です。入り口まで行く途中、庭園の中にある温室の横を通ります。ここも大規模温室としては世界最古とのこと。


物理的な中心ではないですが、動物園の「へそ」に位置するパビリオンは、シェーンブルン宮殿と同じ色に塗装されており、現在レストランになっています。ディズニーランドしかり、こういったアミューズメントパーク内のレストランはたいがい食えたもんじゃないのですが、ここの料理はけっこう侮れません。この季節にはちゃんと旬の白アスパラがあり、しかも町中のヘタなレストランよりずっと美味しい!すごく久しぶりに行きましたが、レベルを維持していたので安心しました。


「ふれあい広場」のやる気なさそうな山羊さん。


あまりに多数の動物がいるのですが、珍しいところではニホンカモシカがおりました。


その隣りにはタンチョウヅルの家族が。

娘は一点集中リピーター型なので、今回もふれあい広場と爬虫類館にほぼトラップされ、この広大な動物園の実質1/4くらいしか見れませんでした。まあ、娘サービスだから、いいか。

プラター遊園地とマダム・タッソー・ウィーン2011/06/02 08:06


動物園の翌日、娘が今度は遊園地にまた行きたいなどとぬかし、これまた5年ぶりくらいにプラター遊園地に行ってみました。「第三の男」にも登場したレトロな大観覧車はウィーンの観光シンボルの一つになっています。


かつては移動遊園地の寄せ集めのようで、極めてシャビーな雰囲気を漂わせていたのですが、この5年の間にまるでディズニーランドのように整備され、小奇麗になっていたので驚きました。


娘がここに来たがった最大の理由はこの生馬メリーゴーランド。かつてブダペストに住んでいたころ、ウィーンまで買い出しに来る度にここを訪れ、娘は大喜びで乗馬体験をしておりました。馬の数は3頭に減ったものの、今でもやっていたのでほっと一安心。しかも値段は5年前から据え置きの1回2.5ユーロ。


今回初めて乗ってみたのは、円形のボートに乗って水流の中を下っていく急流滑りのようなアトラクション。似たようなのにどこかで乗ったことがあるぞ、と思い、後で記憶を辿って調べてみましたら、アナハイムのDisney California AdventureにあったGrizzly River Runですね、これは。かなり高いところまで上り、途中とんでもない早さで回転して振り落とされそうになるので、意外と怖いです。


今回は乗りませんでしたが、回転系の絶叫コースター。よく見ると、今年死亡事故を起こした後楽園遊園地の「スピニングコースター舞姫」とほぼ同一タイプのコースターですね。以前乗った際は固定バーが甘くて飛び出そうに感じたので、それ以降危ないので避けていました。くわばらくわばら。


ヨーロッパの遊園地は日本とは造形のセンスが相当違うので、細部を見ていると飽きません。下なんかもなかなかいい味出しています。




日本の子供向け遊園地だったらまずあり得ないエグさです。ちなみにこれはバイキングのような振り子系の乗り物でした。



怖そうでちっとも怖くないお化け屋敷も健在でした。

今回最も驚いたのは、プラター遊園地内にマダム・タッソーの蝋人形館ができていたこと。全く知りませんでした。ロンドンの本家はいつも大行列ができていて、並ぶのを躊躇してしまいますが、ウィーンは平日ということもあってすいていたので、ものは試しと入ってみました。入場料は大人18.5ユーロ。ロンドンの28ポンドというぼったくり値段よりはずいぶんと良心的です。


エリザベス女王、オバマ大統領、メルケル首相、マイケル・ジャクソン、レディ・ガガといった定番中の定番はもちろんロンドンにも置いてあるのでしょうが、オーストリアならではの蝋人形も多数ありました。ウィーンと言えば、やっぱりシシー(エリザベート皇后)は欠かせないでしょう。


これはグスタフ・クリムト。


誰だろうと思ったら、Der KommissarやRock Me Amadeusが世界的にヒットしたオーストリアの歌手、Falcoでした。渋い!この人形があるのは世界でもここだけでしょうね。

他にもフランツ・ヨーゼフ1世やモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトのような歴史上の人物に加え、オーストリア人のスポーツ選手・タレントが多数いましたが、ほとんどは知らない人なのでよくわからず。


ご存知、クィーンのフレディ・マーキュリー。20年前初めてロンドンに旅行で来たときは、マダムタッソーの姉妹館としてロックサーカスというミュージシャンばかり集めた蝋人形館がピカデリー・サーカスにあり、フレディ人形とツーショットで写真を撮ったのがよい想い出でしたが、その後ロックサーカス自体がなくなってしまい悲しい思いをしました。

あっという間に見終わってしまったという印象です。やはり値段なりの内容しかないのでしょうか。もちろん蝋人形のクオリティは相当なものですが、何だか著名人ばかりでお茶を濁しており、ロンドンの本家では最も見応えがある(と私が思う、何せマダム・タッソーの原点ですから)、処刑と犯罪に関する展示が一切なかったのが残念でした。というわけで、ロンドンのマダム・タッソーも久々に見たくなってしまいました。

LSO/K.ヤルヴィ:キャンディード(演奏会形式)2011/06/05 23:59



2011.06.05 Barbican Hall (London)
Kristjan Järvi / London Symphony Orchestra
Andrew Staples (Candide), Kiera Duffy (Cunegonde)
Kim Criswell (Old Lady), Marcus Deloach (Maximilan, Captain)
Jeremy Huw Williams (Pangloss, Martin), Kristy Swift (Paquette)
David Robinson (Governer, Vanderdendur, Ragotski)
Jeffrey Tucker (Bear Keeper, Inquisitor, Tzar Ivan)
Matthew Morris (Cosmetic Merchant, Inquisitor, Charles Edward)
Jason Switzer (Doctor, King Stanislaus)
Michael Scarcelle (Junkman, Inquisitor, Hermann Augustus, Croupier, Señor I)
Peter Tantsits (Alchemist, Inquisitor, Sultan Achmet, Crook, Señor II)
Rory Kinnear (Narrator), Thomas Kiemle (Director)
London Symphony Chorus
1. Bernstein: Candide

このところフィオナちゃん、いやいや、マゼールチクルスのおかげでサウスバンクばかり行っていたので、バービカンもLSOも何と3ヶ月ぶりです。

本日はバーンスタインの代表作「キャンディード」の全曲演奏会。序曲は飽きるほど聴いていますが、全体のあらすじを実はよく知りませんでした。しかし、佐渡裕のヤング・ピープルズ・コンサートでも取り上げていたくらいだし楽勝で子供向けだろうと思っていたら、昔NHK BSから録画して放置していたDVD(NYPのコンサートパフォーマンス)を予習のためどれどれと見てみて、超びっくり。何と言う不道徳で、支離滅裂荒唐無稽なお話であることよ。まあ明らかに寓話ですが、とても子供に進んで見せるような内容ではないので、案の定会場に子供の姿はうちの子以外ほとんど見かけませんでした。

指揮はクリスチャン・ヤルヴィ。彼の家系はユロフスキ家と同じく、お父ちゃん(ネーメ)もお兄ちゃん(パーヴォ)もみんな現役指揮者なんですね。ユロフスキ家はなんとか3人とも実演に接しましたが、ヤルヴィ家は今回のクリスチャンが初めてです。サロネンの弟子だそうですが、確かに指揮している後ろ姿はよく似ています。それに、何と言っても若い!高速のテンポで勢いよく開始しましたが、オケがちょっとまだエンジン暖まってない感じ。序曲はバランスが悪く、ぎこちなかったです。アンバランスに感じたのは、もしかしたらマイクがオケの音も拾っていたからかも。

今日はコンサートパフォーマンスですが、一応演出家がいて、歌手やコーラスは小芝居を交えて歌い、ナレーターは軽妙にアドリブギャグを飛ばして笑いを取ります。アマチュアとは言え天下のロンドン交響合唱団も、年齢層の高いメンバーがちょっと照れながらも楽しそうに演技していました。歌手はマイクを使っていましたが、かぶりつき席だったので生声もよく聴こえました。キャンディード役のステイプルズは若々しく色のついてない美声のテナーで、容姿はともかく、歌は非常にハマっていました。マクシミリアンのデローチはナルシストのいっちゃってる感じがよく出ている危ないキャラクターで、この二人は多分マイク要らないくらいの声量でした。パケット役スィフトは声が弱くよく聴こえませんでしたが(そもそも出番も極端に少ない)、クネゴンデとパングロス博士の声量はまずまず。オールドレディ役のキム・クリスウェルは一人だけミュージカル畑のようで、確かに声がハスキーだし、他の歌手とは歌の土俵がそもそも違うという感じです。喉の調子がちょっと悪そうでしたので、いずれにせよマイク必須でしたね。歌手陣はマイクのおかげで音が割れるくらいにうるさく感じましたが、全体的にオケも合唱もがんがん鳴っていたので、後方の席だったらマイクがないと歌手の声だけよく聴こえなかったかもしれません。

普段聴きに行くクラシックのコンサートやオペラは原則生音勝負なので、マイクを通した歌には多少違和感を感じてしまいますが、この演目だったらこれはこれで良いのかなとも思いました。「キャンディード」の音楽はやっぱり、オペラ側よりむしろ相当ミュージカル側に寄っています。これをオペラと見立ててマイクなしで上演することもできたでしょうが、その場合はオケを相応にコントロールしなくてはならないし、歌手陣が皆意識してオペラチック、ドラマチックな歌い方になってしまい、喜劇とはいえ雰囲気は別ものに変わっていたでしょうね。そういえば予習で見たNYPのコンサートパフォーマンスでも、パングロス博士兼ナレーターのトマス・アレン卿以外はブロードウェイのミュージカル系歌手を揃えていましたっけ。

クネゴンデ役のアメリカ人ソプラノ、キーラ・ダフィーはヒロイン向きの細身の美人で、METでも活躍してるそうな。ただしこの役にしては雰囲気が生真面目過ぎる印象。この劇のハイライトとなる第1幕終盤の難曲「Glitter and a gay」はコロラトゥーラらしい高音をきれいに響かせ、たいそう立派な歌唱でした。ちょっと線が細い感もありましたので、「夜の女王」には物足りないかも。

パングロス博士のジェレミー・ヒュー・ウイリアムズは、役のイメージにしては繊細すぎる気もしましたが、もう一つの役であるマーティンの「Words, words, words」(別名MartinのLaughing Song)では性格俳優の一面をいかんなく発揮。ねちねちとした熱唱のあまり、最前列までツバが飛びまくりでした。お前は永源遥か、と(わかる人がどれだけいるか…)。

さて、たいへんアダルトな劇および歌詞の内容は、あのスピードのナレーションだったら娘もちんぷんかんぷんなので、ほぼ杞憂に終わりました。まあ、抱き合ってお尻を触ったり等のキワドいシーンはありましたけど。単純に笑える小芝居が満載で、長丁場も退屈せず喜んで見ておりました。

大団円はオケも歌もぐっと力が入って、感動的に幕を閉じました。高揚したコンマス(今日はシモヴィッチさん)から主役のステイプルズに握手を求める姿も見られました。これだけ楽しい気分でうきうきと帰路につけるコンサートは、シーズン通してもそう何度も出会えるものではありません。しばらくはキャンディードの音楽が頭から離れそうにありません…。



右からステイプルズ、ダフィー、クリスウェル、ロビンソン。

プラハ響/コウト/ミュラー=ショット(vc):プラハの初夏2011/06/15 23:59


2011.06.15 Smetana Hall, Municipal House (Prague)
Jiří Kout / Prague Symphony Orchestra
Daniel Müller-Schott (Vc-2)
1. Wagner: Tristan und Isolde, "Isoldes Liebestod"
2. Shostakovich: Concerto for Cello and Orchestra No. 2 in G major, Op. 126
3. Brahms: Symphony No. 1 in C minor, Op. 68

出張のおりに当日券で聴いてきました。プラハは観光中心がコンパクトにまとまっている町で、著名な演奏会場であるスメタナホールもドヴォルザークホールも、めっちゃ中心地にあるのでアクセスが便利です。プラハ市民会館内にあるスメタナホールは、箱形で天井が高く、アール・ヌーヴォー調の装飾がちりばめられた、少しひなびたホールです。天窓から日の光が射し、演奏会専用ではなく講演会やパーティーにも使うことを想定された多目的な会場に見えました。椅子の形といい固さといい、ブダペストのリスト音楽院ホールを思い出させます。この椅子の固さでは、マーラーやブルックナーの長丁場はちょっとご勘弁願いたいです。

イルジー・コウトはよくN響に客演してたりするので名前のみ記憶にありましたが、1曲目の冒頭から、あーこの人は「ゆるキャラ」じゃないな、とわかりました。タイトな音作りで手堅くまとまった演奏です。イルジーつながりというわけでもないのでしょうが、ビエロフラーヴェク同様に職人肌の指揮者と見えました。チェコのオケは5年前にブダペストでチェコフィルを1度聴いたくらいですが、そのときは強烈に感じた「土臭さ」は今日のプラハ響になく、音自体はずいぶんとモダンな響きのオケでした。しかし、じれったく上昇下降する音楽を聴いているうちに、早朝起床で長距離ドライブもあった出張の疲れから、ついウトウトと…。

次のコンチェルトはイケメンチェリストのダニエル・ミュラー=ショット、今年のLPOでも聴いたばかりですが(余談ですがこのときもメインはブラ1でしたなー)そのときはムターとの競演でしたので影が薄かったのは否めません。ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第2番は全く初めて聴く曲で、つかみどころがわかりにくい大曲でしたが、調性感のない中に時おり出てくるロマンティックな旋律と、何やら意味深なエンディングが印象的でした。それにしてもミュラー=ショットは、上手い!音がちょっと軽いので深みに欠けると思わせてしまうかもしれませんが、テクニック的には文句のつけようがなく、全くキズの見当たらない達者な演奏でした。

メインのブラームスは、冒頭からオルガンのようにフラットな厚みのある音塊が迫ってきました。ここまで聴いていると、このホールの音響特性があまり自分の好みでないということに気付きます。まず天井が高いせいで残響が長く、輪郭をぼやかしています。コウトの導く音はいつまでもタイトですが、引き締まった演奏に長い残響という摩訶不思議な空間が生まれていました。また、これも天井とステージの作りがあるのでしょうが、弦楽器に対して舞台後方に位置する菅楽器群の音が素直に前方に響いて来ないアンバランスさを感じました。舞台の真ん中に透明なスクリーンが1枚下がっているようなイメージです。結果的に時々中音域が落ち気味のドンシャリ系の音になっており、だいぶクセのあるホールだなと思いました。

変わったことをやるでもなく、どの楽章もスピーディにサクサクと進んで行ったブラ1ですが、終楽章の有名な主題部ではむしろさらにサクサク度を増していました。パートバランスは常にほどよく整えられ、流れに澱みもありません。面白みはないかもしれませんが、スコアに内在される音楽の力は過不足なく発露された、全く模範的なブラ1です。コウトのように、地味だけど厳格な指揮をして、経験豊富でオケの統率力に優れた指揮者に、日本の楽団を是非鍛えて欲しいものだ、と思いました。

スメタナホールの内装写真を少し。



LSO/ハイティンク/ピレシュ(p):ロマンティックが止まらない2011/06/16 23:59

2011.06.16 Barbican Hall (London)
Bernard Haitink / London Symphony Orchestra
Maria João Pires (P-1)
1. Mozart: Piano Concerto No. 27, K595
2. Bruckner: Symphony No. 4

LSOおよびバービカンは、今シーズンはこれで見納めです。元々はマレー・ペライアを一度聴いてみたくて買ったチケットですが、病気のため4日前にキャンセル。前週のロイヤルフィルでアルゲリッチ、今週のLSOでペライアが各々シューマンのコンチェルトを弾く予定だったので、絶好の聴き比べ機会だったのですが、残念ながら結局二人ともキャンセルとなってしまいました。ロイヤルフィルのほうは代役がすでに2度聴いているルガンスキだったし、デュトワの「ハルサイ」を是非聴きたい気分でもなかったのでチケットをリターンしました。一方のLSOは何と大御所のピレシュをリプレイスに引っ張って来て、ピレシュはまだ聴いたことがなかったので(ブダペストで1度キャンセルを食らって以降縁がなく)、十分納得の対応です。

しかし今日は、出張から戻ったばかりで疲労が蓄積していたのと、最近変えた花粉症の薬のせいか、開演前からもう眠くて眠くてしょうがない。瞼をしゃきんと開けていられない状態で、モーツァルトとブルックナーという、私にとっての二大睡魔巨匠が控えているこの状況では、戦わずして負けが見えてました。

登場したピレシュはとても小柄で、庶民的だけど品性はすこぶる良さそうなおばさん。長い序奏の後に入ってきたピアノは、極めてくっきりと粒の揃った真珠のような、何とも言えぬ渋い輝きを感じました。音ははっきりと立っていますが、力強く打鍵するのでもなく、かといって軽やかに上滑りするのでもなく、力の入り具合が絶妙で、トリル等の装飾音にも一切ごまかしがなく、最上質の「お手本」のような演奏に思いました。しかし集中して聴いていられたのも最初のほうだけで、寝ていたつもりはないのですが、途中断続的に意識が飛んでしまい、気がつけば曲が終っておりました。うーむ、もったいない。けど、私がモーツァルトのピアノ協奏曲を聴くときの集中力は多かれ少なかれこんなもんかも。

ハイティンクは久しぶりです。過去3度聴いたのは全てバービカンでLSOとのマーラー(4番、6番、大地の歌)でした。ブルックナーの4番を聴きに行くのもずいぶん久しぶりで、前回聴いたのは多分高校生のころまで遡ります。何を隠そうデートでした。「ロマンティック」という副題でだまくらかして、というような話だったかと思いますが、女子高生とのデートでブルックナーを聴きに行くとは、私もイタイ男だったんですなー。それはさておき、82歳のハイティンク御大は、出てくる足取りこそヨボヨボしていましたが、用意されていた椅子には結局座らずに、長丁場をずっとしゃんとした背筋でカクシャクと指揮しておりました。その姿もさることながら、出てくる音楽の力強いこと!この人は小細工なしの直球勝負と巨大なスケール感が持ち味で、私もその凄さは実演に接するまで認識できませんでした。フィリップスレーベルのちょっとモコモコした録音と、当たり障りなさそうなお顔立ちから、あえて選んで聴く価値もない中庸の人、と勝手に思い込んでおりました。実演に接してまざまざと感じた実直な説得力は、巨匠の時代の名残でもあり、もうこの先こんな人は登場しないのではないかと思うと、1歳下のマゼール御大と共に、いつまでもお元気で活躍してもらいたいものだと切に思います。この日のブルックナーはオケの集中力も素晴らしく、ホルンを筆頭とした管楽器の、必要にしてかつ十分な音圧で迫るアンサンブルが、厚みのある弦とからみあって、ドイツの森がどうのこうのといった表題性を超越した純音楽的な高みへと結像していました。身体は相変わらず辛かったので後半はなかなか集中力を維持できませんでしたが、寝る間もなく圧倒されっぱなしの1時間でした。前日聴いたプラハ交響楽団は、もちろん世界の一流の仲間ではありますが、こうやって連続して聴いてしまうと、やはりLSOは別格のクオリティを持っているのを再認識しました。それと、やっぱりバービカンは良いホール。私はたいへん気に入ってます。

Pivovarský Dům2011/06/19 23:59

先週また出張でプラハへ。プラハで大のお気に入りのビアレストランを紹介します。Pivovarský Důmの意味はまさに「ビール醸造所」。ここの無濾過・低温殺菌の地ビールは絶品です。ブダペスト駐在時代に家族旅行で泊まったNovotel Wenceslas Squareの人から教えてもらったのがきっかけでしたが、それ以降、チャンスがあればできるだけ訪れるようにしています。


店の外観はこのように看板や飾り気の一つもなく、知らなければレストランとは思えません。ロケーションも中心地からちょっと外れたローカルな場所にあるので、初めての人が行くにはちょっと勇気がいるかも知れません。

知る人ぞ知るマイナー店だと思っていたのですが、こないだFinnairに乗って雑誌を読んでいたら、プラハの特集記事があって、「本物のチェコビールを飲みたいならここ」ということでこの店が紹介してあったので、びっくり。


内装はこんな感じです。奥にも席があり、店内はわりと広いです。


レストランにある醸造タンクは、まあ飾りでしょう。


無濾過・低温殺菌の自家製ビールはピルスナー、ダーク、ミックスがありますが、オススメはダーク。もちろん好みはあるので、黒ビール系が苦手な人にもコーヒービール、バナナビール等のいろんな種類のビールがあり(私は試したことがありませんが8種のテイスティングセットもあります)、ビールのシュナップスもあって、酒飲みにはたまりません。なお、手前の料理は「ボヘミアンプレート」といって、ローストポーク、スモークポーク、クネドリーキ(チェコの蒸しパン)、ザワークラウトの盛り合わせの軽食です。

Pivovarský dům, s.r.o.
Ječná/Lípová 15, 120 44 Praha 2
Tel.: 296 216 666
http://www.gastroinfo.cz/pivodum/

OAE/ラトル/ラベック姉妹:ハイドンとモーツァルト2011/06/21 23:59


2011.06.21 Royal Festival Hall (London)
Sir Simon Rattle / Orchestra of the Age of Enlightenment
Katia Labèque, Marielle Labèque (P-2)
1. Haydn: Symphony No. 64 in A major (Tempora mutantur)
2. Mozart: Concerto in E-flat major for two pianos, K.365 (Piano Concerto No. 10)
3. Mozart: Symphony No. 33 in B flat major
4. Haydn: Symphony No. 95 in C minor

OAEことOrchestra of the Age of Enlightenmentは「啓蒙時代の管弦楽団」という意味の名称を持つ、ロンドンの古楽器楽団。当然普段のプログラムはバッハ、ヘンデル、ハイドン、モーツァルトの時代が中心で、新しめでもせいぜいメンデルスゾーン止まりなので私が食指をそそられることは基本的になく、今回ついに初体験です。妻にも「あなたがハイドンとモーツァルト?ホントに一人で行くんでしょうね?!」と怪しまれたくらいですが、思い立ったきっかけはサイモン・ラトル。昨年のPROMSおよび今年2月に聴いたラトルとベルリンフィルの充実ぶりに感銘を受けて、もっとラトルが聴いてみたくなり慌ててチケットを取った、というわけです。ラトル人気に加えてラベック姉妹も登場とのことで、ホールは満員御礼の入りでした。

今日はどの曲もほぼ初耳の曲ばかり。ハイドン、モーツァルトの中でもどちらかというとマイナーな曲が並び、私には選曲のコンセプトがわかりません。1曲目、ハイドン64番は「時の移ろい」という表題がつけられているようですが、何となく角の取れたハイドンです。特徴は第2楽章のLargoで、たいへんギクシャクとした進行の長くて変な曲でした。あるいはラトルが変なのか?続く短いメヌエットでまた軽やかな雰囲気に戻り、終楽章まで一気に駆け抜けました。うーん、やっぱりハイドンはよくわからん、というか、あれとこれの区別が自分でちゃんとついているのかというと…。

2曲目はラベック姉妹の登場。生で見るのは初めてですが、デビューしてサントリーのCMに出ていたころのイメージしか記憶にないので、さすがに老いましたなー。もちろん60歳前後とは思えない美貌であることは確かですが。今日は古楽器オケなので、ピアノも古楽器のフォルテピアノが2台向かい合わせで並んでおりました。指揮台に上ったラトルが、これは交響曲のスコアだと言って自分でスコアを取り替えに戻るハプニングがありましたが、まあご愛嬌。曲は、オケとピアノがあまり絡み合わず、ほぼ交互に演奏して行く進行ですが、今日は席が遠かったからか、フォルテピアノの鳴りの悪さが如実にわかりました。楽器2台もあって、結構力強そうなタッチで打鍵しているように見えても、しかも相手が古楽器集団でも、フォルテピアノの部分になるとガクンと音量が下がりるので、勢い、集中力・緊張感が高まります。面白かったのですが、聴いてて肩が凝りました。もちろんやんやの大喝采で、アンコールでは二人で一つの椅子に寄り添いながら座り、連弾の曲を披露しました。バラ売りしているのを見たことがないし、いつまでも仲の良いパートナーなんですね。次は普通のモダンピアノでも聴きたいものです。


譜面台を撤去し、後半戦はラトル先生、暗譜で臨みます。最初のモーツァルト33番は、これまた軽くてこじんまりとした曲。あーモーツァルトらしいメロディだなあ、などと思いつつ、あっという間に終わってしまいました。最後のハイドン95番では編成が増え、木管フルート、管の長いナチュラルトランペット、手締め式バロックティンパニが入って多少にぎやかになります。この曲は、2楽章と3楽章のチェロのソロがチャームポイントですね。古楽器らしからぬビブラートで浪々と歌わせていたのが印象的でした。晩年のザロモンセットの一つですから、さすがに聴き応えのある堅牢な交響曲という感じで、飽きませんでした。

ラトル先生は例によっていろいろと仕掛けをかましていたのかもしれませんが、苦手分野の初耳曲ばかりなのでもちろん論評できるはずもなく。ただ、全体を通して退屈することなく、思った以上に楽しめた演奏会でした。

フィルハーモニア管/サロネン/テツラフ(vn):バルトークのエンディング二題2011/06/23 23:59

2011.06.23 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Christian Tetzlaff (Vn-2)
1. Kodály: Dances of Galánta
2. Bartók: Violin Concerto No. 2
3. Bartók: Concerto for Orchestra

サロネンのバルトークシリーズは、マゼールのマーラーシリーズと並んでフィルハーモニア管が今年敢行する目玉企画です。1月のオープニングの後、2月にもカンタータ・プロファーナ等の演奏会があったのですが、そちらはLSOとバッティングしていたため聴けず、皆勤は早々に断念していました。しばらく間を置いて、ロンドンでは今日が第三弾になります。テツラフのバルトークが聴けるということで、1年以上前からずっと楽しみにしていたコンサートでした。そう言えば、昨年はオケではLSOを聴きに行く機会が圧倒的に多かったのですが、今年はフィルハーモニアが逆転しています。もちろん俺のフィオナちゃんに会いに行くため、ではなくて、ひとえにマーラーとバルトークのシリーズのおかげです。そのフィオナちゃんですが、今日は降り番でした。残念。

今回のサロネンのシリーズで気に食わんのは、せっかくのシリーズなのに、選曲をバルトークで統一してくれてないことです。普段からプログラムを賑わすような評価の定着した曲ばかりを取り上げ、埋め草に使える佳曲もいろいろあるのに、コダーイやストラヴィンスキーの著名曲で埋めてしまうのは発想が安直です。まあ、集客力を考えてのことなのでしょうね。実際、今日もコーラス席には客を入れず、マーラーシリーズに比べると空席もちらほら目立ちました。やっぱりバルトークの人気はまだまだのようです…。

1曲目のコダーイ「ガランタ舞曲」は、ブダペスト時代「ガランタ通り」沿いに住んでいた我が家のテーマ曲であります。本来の由来は現スロヴァキア領で当時はハンガリー領だったGalanta市から来ていて、幼少期をそこで過ごしたコダーイが地方の民謡を題材に作曲した、代表作の一つです。最初哀愁を帯びたチェロの旋律から始まり、展開して行きますが、サロネンの大仰で明快な棒振りにもかかわらず、出てくる音はもう一つピリッとしません。このオケはエンジンのかかりがちょっと遅いと感じるときがありますね。メロディの歌わせ方がドライで、民謡色をあまり感じさせないクールな演奏でした。後半は曲芸的なジプシースタイルのチャールダーシュに突入しますが、これでもかというくらい高速にドライブし、オケも立派について行ってはいましたが、テンポを落としても良いのでチャールダーシュの裏ビートのノリがもっと出ていればと思いました。って、そういう解釈じゃないのか。

お待ちかねのヴァイオリン協奏曲、テツラフは期待通りさすがに上手いです。ワイルドな低音から伸びの良い高音を変幻自在に操り、全身をくねらせつつ非常に雄弁な語り口のヴァイオリンを奏でます。今日は特に汗が飛び散る熱演で、今まで見たような、めちゃめちゃハイレベルなんだけどいっぱいいっぱいにならず、余力を残して大芝居を打つ芸達者のテツラフとはちょっと違って、わずかですがミスタッチしながらも必死に音楽に食らいつく熱血漢の一面が意外な発見でした。サロネンの棒は相変わらず即物的でクール。オケにもっとシャープな反応が欲しいところでしたが、ティンパニのアクセントがいつものようによく効いていて、全体として良いサポートでした。

この曲のエンディングは2種類あって、両方ともスコアに載っているので奏者の好みで選択する余地があります。今日のは2nd Fine(初稿版)のほうでしたが、これを選ぶ人は少数派です。私の知る限り初稿版で演奏したCDはテツラフ&ギーレン、ムローヴァ&サロネン、ズッカーマン&スラットキン、ケレメン&コチシュの4種類(後者2つは初稿版終楽章をおまけで収録、というスタンス)しかありませんが、そういう意味では今日のテツラフ&サロネンという組み合わせが必然的に初稿版になることは予測済みでした。第二稿のコーダは、発注者のヴァイオリニスト、セーケイ・ゾルターンが「最後まで弾かせんかい!」とダメ出しをしたためにバルトークが書き直したものであり、それはそれでヤケクソ気味のヴァイオリンが面白かったりします。初稿版コーダではソロヴァイオリンはもう登場せず、トロンボーン、ホルン、トランペットのグリッサンド大競演という相当ハジケた音楽ですので、面白さは甲乙付けがたい。昨年聴いたバーミンガム市響の演奏会でも初稿版を採用していましたし、初稿版が見直されてきている傾向は最近あるんじゃないでしょうか。

なお、こんなのも珍しいことですが、テツラフがアンコールを弾いてくれることは開演前から会場ドア前のプログラムに書いてありました。曲はラフマニノフの幻想的小品集から第3曲「メロディ」。元々はピアノ曲ですね。


拍手に答えるクリスチャン・テツラフ。この人をかぶりつきで聴けるという、この幸せ。

メインのオケコンは昨年2月にも同じサロネン/フィルハーモニアの組み合わせで聴いていますが、高速演奏にさらに磨きがかかり、完成度が増していたと思います。第2楽章で一瞬入れたタメとか、第4楽章のトロンボーンの咆哮をとことん不格好にしてみたり(後ろのほうの男性が一人、大声で笑ったのでびっくり。いや、そこは確かに笑うとこなんですが、実際に演奏中に笑う人もそうおりませんよ)、細部のアイデアが活きていました。もちろんここでもサロネンは、ハンガリー系の指揮者がやるように民謡ベースの旋律をちょっぴり郷愁を匂わせて歌う、ということはせず、さっぱりと気持ちよく駆け抜けます。特に終楽章は記録に挑戦するかのような高速で、後でBBC Radio3のiPlayerで聴いてタイムを測ってみると、8分58秒でした。手持ちのCDを調べてみても9分を切る演奏は他にないので(チェリビダッケなんか11分以上です)、極めて速い演奏であったことは確かです。これを破綻なしでやり抜けた奏者の集中力に拍手です。昨年も同じことを思いましたが、ラストだけはティンパニを聴かせるため少しでもタメを作って欲しかったかなあ。そう言えば、オケコンのほうは通例に漏れず第二稿のコーダを採用していました。サロネンさん、ヴァイオリン協奏曲で初稿版にこだわったのなら、オケコンもそうすべきでは?(まあこれは冗談です。オケコンのコーダは作曲者自身が初演を聴いた後自発的に書き直したものですから事情が違いますし、初稿のコーダは、やっぱりショボい。)

Le Cercle(フレンチ)2011/06/25 12:30

娘が林間学校に出かけていた間、せっかくだから夫婦水入らずで食事でも、ということで、最近守屋さんのブログで紹介されていたのを読んで気になっていたSloane SquareのLe Cercleに思い立ってランチに出かけました。

場所はちょうどCadgan Hallの裏手の通り沿いになります。地味な入り口をくぐって地下への階段を下りると、意外に明るくお洒落な空間が。


テーブルクロスもなく、カジュアルで気取らないインテリア。店員も気さくな雰囲気です。お昼ということもあってか、他のお客さんも気取らず全くの普段着で、ジーンズにブーツの人や、幼児連れの家族もおりました。


ランチは3品コース£15、4品コース£19.5と、フレンチとしてはリーズナブル。守屋さんが一皿の量が少ないと書いてらしたので、我々は迷わず4品コースで。


前菜は二人とも白アスパラのローストを選択。ロンドンで白アスパラ料理に出会えるとは!下ゆでしてバターでソテーしたシンプルな一品です。素材の風味を活かしたあっさり味で、私はちょっと塩が欲しいと思いました。いきなり塩加減が足らない料理が出てきたので、もしかしたらここも「イギリス化したフレンチ」ではなかろうか、と少し不安がよぎりました。


2品目の魚料理、私はサーモンのコンフィ、ポテトサラダ添えを選択。コンフィというと塩鮭みたいなものかなと想像していたら、軽く塩をしてスモークしたお刺身感覚のサーモンでした。赤い普通の人参と紫人参をさいの目切りにして散らしてあったのがお洒落。


妻はColey(クロウオ)のなんちゃらソース(失念)を選択。魚もソースも味は良かったのですが、これもちょっと塩を足して欲しいところ。ここらで我々もやせ我慢せず「塩をください」とお願いしました。


3品目の肉料理、迷ったあげくに私のチョイスはホロホロ鳥のグリル、マッシュポテトとレンズ豆のトマト煮込み添え。ジューシーで噛み応えのある肉は、ジビエのようなクセがなく、それでいてほのかに野性味を感じさせます。あーもっと食べたい、という量でした。


妻のチョイスはビーフブレード(三筋肉)の蒸し煮、オリーブソースのタリアテッレ。肉がよく煮込んであって、ほろりと崩れます。そのまま食べるもよし、崩してパスタとからめるもよし、少ない量ながらもいろいろ楽しめます。メインの味付けは薄いということはなく、これなどむしろ濃いめでした。


デザートのアップルサプライズ。春巻きの皮のようなものにアメ焼きリンゴが入っており、添えてあるヴァニラアイスクリームと一緒にいただくのが百恵友和のゴールデンコンビですね。


こちらはチョコレートフォンダンとジンジャーアイスクリーム。かなりショウガ味の利いたアイスが、とろけたチョコレートソースの甘みをさっぱりと中和してくれます。

いわゆるバターと生クリームたっぷりのフレンチではありませんが、どの皿もシンプルでいてさりげない気配りを感じさせ、好感が持てました。食にうるさい人にもオススメできるレストランです。一皿の量は確かに少なめですが、ランチなら4品コースで男性でもまあ満足できるボリュームでしょう。ただし給仕はかなりスローペースなので、時間がないときのランチはやめといたほうがよいでしょう。逆に、会話の尽きない友人・恋人・家族との食事には、もってこいではないでしょうか。ランチと同様のプレ&ポストシアターディナーもあるようなので、カドガンホールに出かけられる際は、是非いかが?

一つ気になったのは、客入り。土曜日のランチタイムで客が我々を含めて結局6組でした。もっと賑わっていてもよいクオリティとキャパなのに、つぶれないで続けて行ってくれることを願ってやみません。

Le Cercle
1 Wilbraham Place, London SW1X 9AE
Tel: 020 7901 9999
http://www.lecercle.co.uk/

Kung Fu Panda 2 3D2011/06/28 07:34

娘との約束だったので、仕事帰りの夕方に一緒に見に行きました。

ハリウッドの3D CGアニメは見るたびに躍動感、浮遊感が凄さを増していて、技術の進歩は全くたいしたものです。それに対して、プロットは全然進化してません。アクションは香港カンフー映画へのオマージュ、との解釈も可能なのかもしれませんが、ストーリーがあまりに予定調和的でヌルいです。エンディングでパート3への布石を打っていたようですが、Dream Worksなんだから、次はもうちょっとヒネッた展開を期待します。

見ている間は気付きませんでしたが、エンドクレジットを見ると声優陣がとんでもないです。主役のジャック・ブラックはともかく、ダスティン・ホフマン、アンジェリーナ・ジョリー、ゲイリー・オールドマン、ジャッキー・チェン、ルーシー・リュー、ジャン=クロード・ヴァン・ダムなど蒼々たる顔ぶれ。もしこれだけ集めて実写映画を撮るとしたら相当たいへんだろうなと思います。