マリインスキー劇場バレエ:シェヘラザード(ヴィシニョーワ)他2011/07/29 23:59


2011.07.29 Royal Opera House (London)
Mariinsky Ballet: Homage to Fokine
Boris Gruzin / Orchestra of the Mariinsky Theatre
Mikhail Fokine (Choreography)

マリインスキー劇場バレエのロンドン公演、2つめの演目は「フォーキンへのオマージュ」と題したトリプルビル。ミハイル・フォーキンがバレエ・リュスのために振り付けた代表作をまとめて見れるおトクなプログラムです。舞台で見るのはどれも初めてでした。


1. Chopin (arr. Glazunov & Keller): Chopaniana
 1) Polonaise No. 3 in A major ("Military"), Op. 40/1
 2) Nocturne No. 10 in A-flat major, Op. 32/2
 3) Waltz No. 11 in G-flat major, Op. 70/1
 4) Mazurka No. 23 in D major, Op. 33/2
 5) Mazurka No. 44 in C major, Op. 67/3
 6) Prelude No. 7 in A major, Op. 28/7
 7) Waltz No. 7 in C-sharp minor, Op. 64/2
 8) The Brilliant Grand Waltz in E-flat major, Op. 18
Agrippina Vaganova (Revived Choreography)
Yana Selina (Waltz #11), Ksenia Ostreikovskaya (Prelude)
Alexander Parish, Maria Shirinkina (Mazurka, Waltz #7)

最初の「ショパニアーナ」は、ショパンのピアノ曲をグラズノフが編曲した管弦楽組曲にバレエの振り付けをしたもので、「レ・シルフィード」というタイトルで上演されるほうが多いようです。言い訳から入りますと、私はショパンの音楽に何も思い入れはなく、正直、好きなほうではありません。編曲は、ただオーケストラにしてみました、というだけで鮮烈さのかけらもないもの。オケの演奏も先日の「白鳥」初日からさらにヌルくなっており、舞曲らしいシャッキリ感がまるでなく。退屈な音楽、退屈な編曲、退屈な演奏と、見事な「トリプルビル」のおかげで、昼間の仕事の疲れも重なり、とても目を開けておられませんでした。ストーリーは特になく、ひたすら踊りの美しさを見せるバレエだったのも敗因で、あーやっぱり上手だなあと感心はしたのですが、睡魔には勝てず。ということで、これはごめんなさいです。


誰がだれだかわかりませんが、一応写真を。


2. Stravinsky: The Firebird (1910)
Isabelle Fokine / Andris Leipa (Reconstructed Choreography)
Ekaterina Kondaurova (The Firebird), Andrei Ermakov (Ivan-Tsarevich)
Evgeniya Dolmatova (The Beautiful Tsarevna), Soslan Kulaev (Kostchei the Immortal)

気を取り直して、個人的な本日のお目当て「火の鳥」です。トリプルビルなので組曲かなと思っていたら、全曲版でした。先ほどと一転して、これは見応えのあるプロダクションでした。火の鳥を踊ったエカテリーナ・コンダウローワは、背が高く、凛としていて、めちゃかっこ良かったです。ジャンプは高く躍動的で、身体能力は非常に優れてそう。欲を言えば、あまり軽々と飛ばないで、ジャンプの滞空時間にあと少しだけタメがあれば、せっかくの長身なんだからもっとスケール感が出るんじゃないかなとは思いましたが、何にせよ抜群に光っていました。カーテンコールではひときわ大きい拍手をもらっていましたが、一貫して冷徹な表情を緩めず、火の鳥になり切っていたのが、またクール。火の鳥の前にかすんでしまいましたが、若者イワンとお姫様も穴のない奇麗な踊りで、安心して見ていられました。魔王カスチェイはよたよたした演技のみで踊りらしい踊りはなし。クライマックス「魔王カスチェイの凶悪な踊り」では音楽に合わせてズンズンと足を踏み鳴らす群舞が、所謂クラシックバレエにはないプリミティブな迫力で、新鮮でした。残念ながら、オケは相変わらず調子上がらず。私の席は特にトランペットの音が直接向かってくる位置だったので、バアバアと耳に触る音がとっても不愉快。褒めるところは木管の音くらいで、こんだけキレのない火の鳥は聴いててつらかったです。2008年グラモフォン誌選出の世界のオーケストラ・ベスト20ではマリインスキー劇場管は14位で、サンクトペテルブルグフィルやメトロポリタン歌劇場よりも上位に着けていましたが、この目の前のオケはいったいなんなのでしょう?主力がごそっと抜けてるんですか?


一番右が火の鳥のコンダウローワ。(見りゃわかるって)


3. Rimsky-Korsakov: Schéhérazade
Isabelle Fokine / Andris Leipa (Reconstructed Choreography)
Diana Vishneva (Zobeide), Igor Zelensky (The Golden Slave)
Vladimir Ponomarev (Sultan Shakhriar)
Karen Ioanissiyan (Shah Zemen), Stanislav Burov (The Chief Eunuch)
Evgenia Dolmatova, Yulia Stepanova, Alisa Sodoleva (Odelisques)

最後は看板プリンシパルのヴィシニョーワ、ゼレンスキーがいよいよ登場する「シェヘラザード」。これも基本的には全曲演奏でした。第1楽章がまるまる幕前の序奏に当てられており、相当間延びしました。目の覚めるような演奏だったらまだよかったのですが、もう期待してなかったとは言え、予想通りアップアップのアマチュア級ヴァイオリンソロに、早く幕を開けてダンサーを出さんかい、とイライラしました。ストーリーはアラビアンナイトの序章から取っていて、サルタン王の愛妾ゾベイダが不貞をしているという弟の密告を確かめるため、狩りに出るフリをしてあえて留守にしたところ、早速ゾベイダは愛人である金の奴隷を解放して快楽の時を過ごすが、ほどなく戻ってきたサルタン王に一同皆殺しにされ、一人残ったゾベイダは短剣で自害する、というお話です。これもなかなか見応えのあるバレエでした。最初のオダリスクの艶かしい大人向け踊りが、うちの子供にはちょっと早かったかもしれませんが、オジサン的には何とも目の覚めるものでした。その後に出てきた真打ちのヴィシニョーワは、さらに輪をかけてしなやかな身体のくねりと(いったいどんな関節をしてんだ?)、色気抜群の腰の動きに、参りました。逞しいゼレンスキーとのパ・ド・ドゥも実に官能的。踊りは全体的に素晴らしいパフォーマンスでしたが、これでオケがもっとしっかりしてくれていれば…。


ヴィシニョーワとゼレンスキー、やらしかったです。


初日もそうでしたが、開演時間になってもなかなか演奏が始まらず、休憩を経るごとにどんどん時間が押して行きました。終演は10時30分の予定が、ハウスを出たらもう11時、長い公演でした。今回のマリインスキーは、うちはここまでです。後の演目は別の指揮者も出てくるようなので、手綱を引き直してくれたらよいのですが。