ロイヤルバレエ/ベンジャミン/アコスタ/ヤノウスキー/モレラ:「うたかたの恋」はベンジャミンの引退公演2013/06/15 23:59

2013.06.15 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Mayerling
Martin Yates / Orchestra of the Royal Opera House
Kenneth MacMillan (choreography), Gillian Freeman (senario)
Carlos Acosta (Crown Prince Rudolf), Leanne Benjamin (Mary Vetsera)
Laura Morera (Countess Larisch), Meaghan Grace Hinkis (Princess Stephanie)
Zenaida Yanowsky (Empress Elisabeth), Brian Maloney (Bratfisch)
Christopher Saunders (Emperor Franz Joseph), Laura McCulloch (Mitzi Casper)
Genesia Rosato (Helene Vetsera), Ursula Hageli (Archduchess Sophie)
Gary Avis (Colonel 'Bay' Middleton), Philip Cornfield (Alfred Grünfeld)
Alexander Campbell, Bennet Gartside, Valeri Hristov, Johannes Stepanek
(Four Hungarian Officers), Fiona Kimm (Katherina Schratt/mezzo-soprano)
1. Liszt (arr. by John Lanchbery): Mayerling

マイヤーリンクは、邦題は「うたかたの恋」と言うそうですが、ハンガリー国立バレエでもレパートリーに定着していて、見るチャンスはいくらでもあったはずなのです。結局最後の最後になってやっと観賞の機会となったのは、元々バレエのために作曲された曲ではない「編曲ものバレエ」は音楽とダンスの融合度において格下である、という(私の勝手な)偏見から、観賞の優先度を下げていたからです。

本日はマイヤーリンクの最終日で、吉田都さんより年長のリーン・ベンジャミンのROH引退公演であるため(でもシーズン発表当初、最終日はマルケスとなっていた記憶があるんですが)チケットはもちろんソールドアウト、ダンサー仲間も多数見に来ていたようです。近隣の客席を見渡すと、ボネッリ・小林ひかる夫妻を見つけました。小林さん、正直ファンというわけではないのですが、オフステージの髪を下ろしたドレス姿は華のあるスレンダー美人でした。

今シーズンのマイヤーリンクは、序盤でガレアッツィ、中盤でコジョカル、そして最終日でベンジャミンという、3人ものプリンシパルが一挙に退団するという因縁の演目になりました。くしくも、我が家にとってもこの日がロンドンでの最後の観劇ということで、感慨深いものがあります。ロンドン最後の演目に選ぶにはちょっと暗過ぎだし、子供に見せるものじゃないんじゃないかという危惧もありましたが、蓋を開けてみれば、退廃的な雰囲気の中にも人間ドラマが凝縮された密度の濃いいバレエで、たいへん楽しめました。思えばもっとドギツい演目も今まで子供に見せてましたし、不倫と自殺はオペラ・バレエの基本アイテムですしね。

ストーリーは、マザコンのドラ息子である王子が親の敷いたレールを踏み外す自由がない自分の境遇にスネまくって、妻をいじめ、クスリに溺れ、最後は未成年の愛人と心中するという救われない話です。アクロバットな技を競い合うバレエではもちろんなく、各々屈折したキャラクターにリアリティを持たせる演技力が命と言えるわけですが、アコスタはさすがにベテラン、ナイーブなドラ息子が身を持ち崩していく様を見事に演じ切っていました。パドドゥの力技も見応えがありましたし、アコスタはまだエースを下りる気はないな、と、ちょっと見直しました。相手役のベンジャミンも卓越した表現力。最初に登場する場面では立ち振る舞いがマジで「くるみ割り人形」に出てきそうな無垢な10代の少女に見えたので、別の人なのかなと思わずオペラグラスで確認しました。その後のファム・ファタールへの変貌ぶりも見事なもので、バレエがジムナスティックである以前にボディ・ランゲージであることを再認識させられました。

これら老獪な説得力抜群の主役を脇で固めるのが、これまた芸達者な人達ばかり。ヤノウスキーは長身で芯の強い女という皇女エリザベートのイメージにぴったし。アコスタとの絡みで、お互い腕を取りグルグル回る回転が、あっという間に見てる自分がGを感じるくらいの高加速度。あまり組む相手でなくてもこういうのがしれっとできてしまうのは、さすがに百戦錬磨のプリンシパル。それ以外にもモレラ、エイヴィスといったクセのあるプリンシパルが脇役ながらも要所を締める贅沢なキャスティングでした。マクミランの作品なので舞台の隅にも目をやると、小芝居がいつにも増して芸が細かく、ヤノウスキーとアンダーウッドの談笑など、声は出さずとも話が弾む様子がめちゃめちゃリアルで、一体何を話しているんだろうとついオペラグラスで覗き見したくなるくらいでした。群舞では金子さん大忙し。去りゆくプリンシパルを皆が温かく、最大限の敬意と集中力を持って支えたこのマイヤーリンクは、一生のうちにそうそう見れるものではない充実した公演でした。

終演後は退団するダンサーを送り出す恒例のフラワーシャワー。舞台では男性プリンシパルがずらりと並び、花束を渡しました。カーテンコールではベンジャミンの息子ちゃんも登場。一旦場内が明るくなった後もまだ拍手は鳴り止まず、最後に引っ張り出されたときの充実した笑顔が、今日の公演の全てを物語っていました。


満足そうな表情のベンジャミン。



ヤノウスキーとヒンキス。


ベンジャミンとモレラ。


アコスタ。


ブライアン・マロニー。この人もこの日が引退公演だったようで、盛大な拍手と花束が飛び交っていました。


正装した息子ちゃんとハグするベンジャミン。


照明が点いても鳴り止まない拍手の場内。


さて、ロンドンに来てから260回を数える演奏会通いも、とうとうこれでおしまい。この趣味に関しては、ロンドンほど恵まれている土地は他にないでしょう。日本に帰ったら、どうしましょうかねえ…。外タレは高くて手が出ないので、在京オケと新国立劇場中心にローカルものを見ていくことになると思います。次のシーズンのプログラムで、これは何としても聴きたい、と思えるものがあまりないので数はそんなに行かないと思いますが、何か聞いたら随時備忘録としてブログとHPにゆるゆるとアップします。

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