ロンドン響/ハンニガン:慎重な弱音の上に積み重ねられた彼岸の世界2026/03/05 23:59

2026.03.05 Barbican Hall (London)
Barbara Hannigan (soprano-1) / London Symphony Orchestra
Bar Avni (conductor-1)
1. Laura Bowler: The White Book (LSO co-commission)
2. Ligeti: Lontano
3. Richard Strauss: Also sprach Zarathustra

ソプラノ歌手兼指揮者というユニークな活動形態で知られるバーバラ・ハンニガン。リゲティ「マカーブルの秘密」の弾き振りならぬ歌い振りをしている動画を見たことはありますが、実演を聴きに行くのは初めてです。歌手出身の指揮者はそもそも少ないうえに、女性となると彼女くらいしかいないのではないでしょうか?と思っていたら、備忘録を辿ると歌手としては2010年に一度聴いておりました…。すっかり忘却の彼方ですいません。しかしこのときもジェラルド・バリーの新作ミニオペラの英国初演だったので、そりゃあ覚えているわけがない。

1曲目はローラ・ボウラーという作曲、歌手、舞台監督をトリプルでこなす英国人がLSO、エーテボリ響、コペンハーゲンフィルの共同委嘱を受けて2025年に書いた新作。最初からハンニガンのために書かれていますが、どちらもマルチタレントの女性という意味では共感するものがあるでしょう。曲のモチーフは韓国のノーベル文学賞受賞者、ハン・ガン(韓江)の「すべての、白いものたちの」(邦題)という小説がベースになっているそうですが、いやー、久々に1ミリも理解できない曲に遭遇しました。この曲についてはハンニガンは歌に専念するため、指揮者を弟子でイスラエル出身の若手、バー・アヴニに任せます。指揮者が登壇し、指揮棒を構えてからやっと、中里唯馬デザインの白い衣装に身を纏ったハンニガンが登場。不協和音はないけれど、無調でゆったりと捉えどころのない歌が延々続きます。元の韓国小説にも全く興味がないのに加えて、200%苦手な部類の音楽でした。マイクで拾い、PAを使ってエフェクトをかけているため、席が離れていても声はよく聴こえました。緊張感はそれなりにあったのかとは思いますが、聴いていて次の展開に全くワクワクしない音楽。全ては自分の理解力欠如のせいですが、あまりに相性が悪いので二度目は要らないかな、という感じです。

休憩後の後半1曲目は、実演で聴くのは実にこれで4回目のリゲティ「ロンターノ」。その後に「ツァラトゥストラ」があるので、てっきり「2001年宇宙の旅」繋がりかと思ったら、それに使われているのは「アトモスフェール」であって、「ロンターノ」が使われているのは「シャイニング」でした。どちらもトーンクラスターの手法が特徴的な、よく似た曲ではありますが。指揮者としてのハンニガンの音作りは、繊細な弱音を軸に、楽器の重ね合わせをクリアに紐解くタイプのアプローチ。歌手出身というと、主旋律に歌心を込めるような勝手な偏見があったのですが、そこは現代音楽の専門家でもあるハンニガン、ともすればぐしゃっとした響きになりそうなこの曲を、チューニングの微妙なズレがワウって聴こえるくらいにごまかしなく、すっきりと整理して聴かせていました。

メインの「ツァラトゥストラかく語りき」は、本当はもっと頻繁に聴きたい好きな曲なのですが、プログラムで遭遇することが滅多になく、記録を辿ると前回聴いたのは2012年のヤンソンス指揮コンセルトヘボウ管、場所はここバービカンでした。備忘録をつけて以降で4回聴いたうち3回はロンドンのバービカンで(あと1回はウィーン)、著名曲なのになぜか日本では長年聴けていないということにも気づきました。1992年の京大オケ東京公演(芸術劇場)まで遡らないといけないです。今どきパイプオルガンがない大ホールは東京だと文化会館くらいだと思うのでそれがネックとは思えないですが、敬遠されがちな演目なのはなぜでしょうか?あるいは自分が知らないだけなのかな…。

あらためて見るハンニガンは、およそ歌手らしくない長身のスリム体型が非常にカッコいい。肝心の演奏のほうですが、ここでもハンニガンはテンポ遅めで、和声をいちいち掘り起こすような音作り。低音を利かせて重心低めに設定などという小細工はせず、バランスはあくまでフラットです。この曲の一貫した要になるトランペットは、破綻を避けるあまり、攻めずに無難にこなしていたのが不満といえば不満でした。天下のLSOなのだから、外してもいいから(いや本当はよくないけど)これぞ一流のプロ!とひれ伏すような圧巻の演奏が聴きたかったです。もう一つの要であるヴァイオリンソロは、新しいコンマスのギルモア君が特に気張るでもなく飄々とリラックスした演奏だったのですが、文句のつけようがない卓越したソロでした。
前の2曲と同様、この曲もエンディングは弱音になり、ハンニガンはたっぷりと溜めて手を下ろしていましたが、流石にここまできたら待ちきれずフライング気味の拍手が起こっていました。


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