東フィル/井上/コヴァーチ(bs)/メラート(ms):青ひげ公の城(コンサートオペラ)2013/09/13 23:59


2013.09.13 東京芸術劇場コンサートホール
東京芸術劇場コンサートオペラ vol. 1
井上道義 (指揮・企画演出) / 東京フィルハーモニー交響楽団
Kovács István (Kékszakállú/bass-2)
Meláth Andrea (Judith/mezzosoprano-2)
仲代達矢 (吟遊詩人-2)
1. オッフェンバック (ロザンタール編): バレエ音楽「パリの喜び」より抜粋
2. バルトーク: 歌劇「青ひげ公の城」

多少涼しくはなっても蒸し暑さはまだまだ続く熱帯ニッポンですが、毎日3枚のタオルを常備して汗をふきふき、何とか生きてます。

さて、新生活も徐々に慣れてきて、やっと帰国後初の演奏会に行けたこともあって、ぼちぼちブログを再開しようと思います。もう住んでないのに「ロンドンの退屈な日々」もなかろうと、タイトルを思いつきで「Mind The Goat Cheese」に変えました。

東京芸術劇場のコンサートオペラシリーズ第1弾「青ひげ公の城」。芸術劇場の主催公演なので東フィルのWebサイトには情報が全然載ってなくて、ホールのサイトをたまたま見に行って見つけたのはラッキーでした。それにしても日本で早速「青ひげ公の城」を聴けるとは。思えば、以前ハンガリーから日本に帰って最初に行った演奏会はラ・フォル・ジュルネでバルトークでした。その後ロンドンに引越し、最初に聴いたのもプロムスでバルトーク。節目にはやっぱりバルトークですね。

東京芸術劇場は駅の真ん前にあって、どの席からもステージが見やすい作りなので割と好きなホールでしたが、もう10数年ぶりですか。改装のためここ数年閉鎖されていたようです。シンボルだった、一気に最上階まで上がる直線エレベータがなくなっていたのは驚きました。トイレに行こうとしてふと目に止まったのが、ブダペストのドナウ川沿いにあるものと同じ「小公女」の像。こんなのがあるとは知りませんでしたが、前にここに来た時はまだブダペストのことなど何も知らない時期でしたから、致し方なし。ともあれ、この「小公女」との思いがけない再会で、開演前から気分はもうハンガリーです。


芸術劇場の「小公女」像。作者はMarton Laszloです。


こちらは同じ作者による本家本元の「小公女」像。ブダペストの観光シンボルにもなってます。

1曲目「パリの喜び」は、まあ埋め草のようなもので、どうでもよかったんですが、まずは長過ぎるホールの残響に面食らいました。音が直線的なロンドンのホールに耳が慣れ切ってしまったんでしょうか、かなり前のほうで聴いたにもかかわらず彼方響いてくるような分離の悪さ。まあ、これはすぐに耳が慣れましたが、演奏自体は何ともテンションの低いもの。井上さんも小気味良く振り込んではいますが、何となくお仕事モードで強引にペースに引き込む気概はなかったようです。破綻はないので、まあバレエの伴奏にはROHのオケよりナンボかマシかも。

さて本題の「青ひげ公」ですが、何度も聴いたこの曲を日本語字幕付きで見るのは新鮮な体験です。最初の吟遊詩人の前口上は、名優、仲代達矢。もちろん日本語の前口上はCDラジオ含めても初めて。完全に暗転した客席後方から誘導員の小さい灯りを頼りにトボトボと歩いてきた仲代達矢、ステージに腰掛けると早速聴衆に「暗いね」「指揮者はどこ行った」などとぶつぶつ語りかけるメタ演劇っぽい演出(元々が「旦那様方、奥樣方」と語りかける前口上なのでメタフィクションとは言えませんが)。本来のテキストはかっちり決まっていますが、今回の日本語訳は、先の楽屋オチのようなものも含め、かなり自由に創作していました。後半盛り上げて幕開けを宣言するあたりではさすが一流舞台俳優の貫禄でしたから、最初の付け足しは余計。私的には、あくまでフォーマルに通して欲しかったです。

前口上の途中ですっと出てきた、頭の禿げ具合はフィッシャー兄弟そっくりな井上さん、出だしの民謡旋律がさっきとは一転して「おっ」と思わせる繊細さだったので期待が高まったのですが、出だしだけでした。私が持っていた東フィルのイメージは相変わらずで、終始キレが悪く自信なさげな演奏は、聴衆の心を掴むには力が全然足らないんじゃないかと。第2の扉の軍隊トランペットや第4の扉のフルートなど、ソロの見せ所でことごとく真っ向勝負を避けたかのようなごまかし演奏には、贅沢言っちゃいけないとは思いつつも、脱力してしまいました。もちろんやり慣れた曲ではない上に、リハの時間も十分に取れなかったのだろうとは思いますが、だから冒頭だけは念入りに仕込んだんかな。

頼りにならないオケとは裏腹に、というより今日のほとんど全てだったのは、メラート・アンドレアとコヴァーチ・イシュトヴァーンの遥々ハンガリーから呼んできた歌手陣。どちらも別々には過去「青ひげ公」を歌ったのを聴いておりますが、このペアでは初めてです。この人達がブダペストでこの曲をオハコとしていて、安心して聴けるのはわかっており、チケットを買ったのもほとんどこの2人が目当てだったのですが、歌唱は期待以上に素晴らしいものでした。コヴァーチは若くて細身なのに低音の利いた深い声で、ブレなく丁寧に、青ひげ公の秘めたる悲哀を表現していきます。浮つかず質実剛健な青ひげ公像はハンガリー人名歌手の伝統であり、彼の師匠のポルガール・ラースローを彷彿とさせます(ポルガールの生歌で結局聴けなかったのが残念です)。今イチオシの「青ひげ公」バスと言えましょう。一方のメラート(プログラムには「メラース」と書いてましたが間違いですね)も、節度を守った模範的なユディットで、メゾでありながらも高音域も奇麗によく伸びるダイナミクスの広い歌唱。一貫した「ためらい」がつぶさに表現されており、ベテランの芸に感服しました。第5の扉で叫びがなかったのは、これはまあそういう演出でしょう。特筆すべきは2人とも、弱々しくて厚みに欠けるこのオケにはもったいないくらい、十二分にホールを揺さぶる豊かな声量。バランスが取れていて、ダイナミックレンジも申し分なく、昨年(フィレンツェ)、一昨年(ロンドン)に聴いた付焼き刃的ペアとは明らかに一線を画するものでした。やっぱりこの曲はハンガリー語を母国語とする歌手でないと出せないニュアンスがあります。ハンガリー人なら誰でもOK、というわけではもちろんありませんが。

今日のコンサートパフォーマンスは照明の演出もありまして、特徴的な造形のパイプオルガンを上手く活用しようという意図は伝わりましたが、青とか赤の原色がチカチカするばかりで物語がなく、歌手が素晴らしかった分、照明はそのうちどうでもよくなりました。

今年は何と年末にもインバル/都響が「青ひげ公」をやり、ユディットを歌いにコムローシ・イルディコがやってくるとのことで、もちろん聴きに行きますよー。青ひげ公役のマルクス・アイヒェは全然知らない人ですが、「ドイツ人」の「バリトン」というプロファイルに一抹の不安が…。

おまけ。


ユニークな造形のパイプオルガン。


青ひげ公の椅子。

休憩時間にホールの中でちょっとだけ上の写真を撮っていたら、さすがニッポン、係員が早速やってきて、「撮影の許可はお持ちですか?」と。そんなの一般市民が持ってるわけなかろうが、いやらしい言い方すんなよ、と、ちょいムカ。別に奏者を撮るつもりはないんだし、注意するならストレートに「No photo!」と言ってくだされや。

マゼール/フィルハーモニア管のマーラー交響曲シリーズ2013/09/21 23:59


2011年の記念イヤーに結局全部聴き通したマゼール/フィルハーモニア管のマーラー全交響曲シリーズ、いくつか事故のあった演奏だったのでオクラ入りかなと思っていたら、タワーレコードのサイトでCD発売の情報が出ていました。やったー。第一弾は1番&2番&3番で、10月20日発売。ゆっくりと懐かしく聴き直してみたいと思います。

自分の便宜のため、当時のブログへのリンクを下にまとめときます。

第1番&若人:2011年4月12日
第2番:2011年4月17日
第6番:2011年4月19日
第4番&リュッケルト:2011年4月28日
第5番&角笛:2011年5月5日
第3番:2011年5月8日
第7番:2011年5月26日
第10番&大地の歌:2011年9月29日
第9番:2011年10月1日
第8番:2011年10月9日

山羊チーズはお好き?ブログのタイトルについて。2013/09/23 22:29

別に山羊チーズが苦手ということではなく、むしろ好物なのです。

日本と比べると、場所によっては信じられないくらいホームと電車のギャップがあいている、ロンドンの地下鉄ではお馴染みの「Mind the gap.」というアナウンス。これをもじって何かタイトルをつけようかと思ったけど、「Mind the culture gap」じゃありきたりで、ググると実際そんなフレーズはゴマンと使われてました。「Mind the Jap」は品がないし、意味不明。「Mind the gallop」というのも考えたけど、これもナンセンス系。ということで、あまり妙案も思いつかず、「g」だけ合わせて「Mind the goat cheese」にしてみました。

山羊チーズはロンドン生活でハマったものの一つです。フランスのシェーヴルと違って、よく売ってるイングリッシュ・ゴートチーズはチェダーのようなハードタイプ。正直、これはそのまま切って食べてもあまり美味しいと思わなかったのですが、ある日チーズトーストにしてみたら、熱を加えることで花開く風味、ほどよいとろけ具合、浮き出る油脂分が含む絶妙の塩加減、それらの見事なアンサンブルがど真ん中でツボにハマりました。

以後チーズトーストを作るときは必ずゴートチーズを使っていたのですが、ハードタイプのゴートチーズは日本ではまずお目にかかることはなく、帰国後はとんとごぶさたしております。まあ、それは最初からわかっていたこと、過去を振り返っていてもしゃーない、前向きに行きましょう、という思いをこめたのがこの「Mind the goat cheese」です。

ハードのゴートチーズは予想通り入手困難ですが、もう一つ、日本に帰ったらなかなか手に入らないだろうと思っていた私の好物が、アイリッシュウイスキー。昔はそんなの見たことなかったと思うのですが、今やJamesonやTullamore Dewが近所のサミットやヨークマートにも普通に置いてあり、時代の変化に愕然としました…。

話はがらりと変わりますが、東京ステーションギャラリーで開催の「大野麥風展」、行こう行こうと思いながらもなかなか行けず、ふと気付けば今日がもう最終日でした…。がちょーん。ショック大魔神。ブログのネタを一つ逃してしまいましたよ…。