デュッセルドルフ響/A・フィッシャー/ファウスト(vn):ハンガリー三昧2026/02/22 23:59



2026.02.22 Tonhalle Mendelssohn-Saal (Düsseldorf)
Adam Fischer / Düsseldorfer Symphoniker
Isabelle Faust (violin-2,3)
Lisztes Jenő (cimbalom-4)
1. Bartók: Romanian Folk Dances for Small Orchestra
2. Kurtág: Signs, Games and Messages (excerpts)
    Hommage à J.S.B. / für den, der heimlich lauschet / féerie d'automne / In Nomine – all'ongherese
3. Bartók: Concerto for Violin and Orchestra No. 2
4. Kodáy: Seven movements from »Háry János«

デュッセルドルフは以前出張で何度も来ているのですが、演奏会には一度も行く機会がありませんでした。初めて訪れるトーンハレは旧市街のちょっと外れにありますが、中央駅から地下鉄で10分程度とアクセスは非常に良いです。この建物は元々プラネタリウムだったそうで、完全な円形が特徴。中に入ると古代ローマの円形劇場のようなロビーを取り囲むようにクローク、カフェ、バー、CDショップがあり、メンデルスゾーン・ホールはその頭上に作られています。ホール内もロイヤル・アルバート・ホールを小ぶりにしたような完全円形で、どこからでもステージがよく見えそう。本日は幸いかぶりつき席が取れたので、先月のコパチンスカヤのときと同様、奏者と自分の間に遮る物は何もありません。



デュッセルドルフ響を聴くのは全く初めてで、多分CDでもラジオでも聴いたことはなかったかと。諸説あるものの、ドイツの中でも5本の指に入る長い歴史を誇るオーケストラで、古くはメンデルスゾーンやシューマンも音楽監督を勤めています。2015年からアダム・フィッシャーが首席指揮者に就任しており、契約はアダムが80歳になる2030年まで延長されたそうで、非常に良好な関係にあることが伺えます。実を言うと、アダムの指揮を聴くのはこれで3回目。元々同じ指揮者を集中的に聴くよりも、いろんな人を幅広く聴きに行くタチなのですが、弟のイヴァーンを18回(これは自分の中では最多)聴いているのに対して、アダム兄さんの3回は、自身で振り返っても驚くほど少ないです。アダムがハンガリー国外での活動が中心で、自分が住んでいたブダペストやロンドンに来ることがそもそも少なく(ハンガリー国立歌劇場の音楽監督もオルバーン政権との対立ですぐに辞めてしまったし)、巡り合わせが悪かったからだと思います。今回はたまたまデュッセルドルフに用事があり、ついでに何か演奏会はないかと探したところ、まさに自分の好みドンピシャのプログラム、しかもアダムとイザベル・ファウストの共演という垂涎のコンサートがあるのを発見、喜び勇んでチケットを取りました。今年はトーンハレの開設100周年記念イヤーですが、それに加えて「ハーリ・ヤーノシュ」が初演から100年、さらにはクルターグ・ジェルジュが先の2月19日で100歳を迎えたという、やや無理矢理めな数字の符合が強調されていました。ハンガリー現代音楽の巨匠クルターグ、まだ存命とは認識していましたが、100歳とは驚きです。

本日のプログラムはハンガリー音楽でも知名度の高い、かつ玄人受けもする、ある意味「王道」の選曲です。オンラインのプログラム冊子を英訳しつつ読んでいてまず意外に思ったのが、「ルーマニア民族舞曲」と「ハーリ・ヤーノシュ」はデュッセルドルフ響として初の演奏、ヴァイオリンコンチェルトも前回演奏は1988年まで遡る(ソリストは往年の巨匠ギトリス)という事実。アダムにとって得意中の得意であるはずのこれらレパートリーが首席に就いてからの10年間で一度も取り上げられなかった、ということをたいへん興味深く感じました。確かにアダムの専門性について世界の認識は、まずはオペラ、次にハイドンであって、「ハンガリー音楽の伝道師」というイメージはイヴァーンと比べても薄いですし、祖国との関係が良好と言えないだけに、ハンガリー音楽に対するモチベーションが下がっているのかもしれません。

1曲目の「ルーマニア民族舞曲」は、意外と実演で聴くのは2回目、前回は2013年のカンブルラン/読響でした。この曲は元々ピアノ曲ですが、バルトーク自身による管弦楽版は弦が中心の小編成オケ用で、ピアノ版とは同じ曲ながらもずいぶん雰囲気が違います。笑顔で登場したアダム、前回見た2013年と比べると髪はすっかり白くなりましたが、弟と違い、まだふさっとしてます。デュッセルドルフ響の弦は太くてちょっと田舎臭い音。譜面台は置いてあっても全く楽譜に目を向けず、暗譜でハンガリーの呼吸を丁寧に仕込むアダム兄さんでした。舞曲の勢いでツッコミ気味に走るのを抑え、民謡のアクセントを慎重に紡ぐことに重きを置いた感じです。

続いて登場したイザベル・ファウスト、見るのは2014年の新日本フィル(指揮はハーディング)でブラームスのコンチェルトを聴いて以来の3回目です。まずはイザベルのソロで、クルターグの「サイン、ゲームとメッセージ」から4曲を抜粋。この曲は一昨年のクリスティアン・テツラフの無伴奏ヴァイオリン演奏会で聴いて以来ですが、テツラフの選曲とは「J.S.B.へのオマージュ」のみカブっていました。2回聴いたくらいで理解できる曲では到底ありませんが、この至近距離で聴くつかみどころのないヴァイオリンは、それ全体がバルトークへのオマージュとして書かれているようにも感じられ、露払いとして最適でした。ただ、100周年と100歳のマリアージュとして無理矢理プログラムに入れてみた感はあり、意外と長かったし、普段ならこの時間は別になくても良かったのでは、とも思いました。

拍手の隙もなく間髪入れずにハープのメジャーコードが鳴り、私の大好物、コンチェルト第2番に続きます。先月コパチンスカヤの衝撃的な快演ならぬ怪演を聴いたばかりですが、レパートリーは結構似ていても個性がまるで違うイザベルはあくまで正統ど真ん中を目指します。音がしっかりと太く男性的で、わざとらしい掠れ音とか一切なく全てにわたってちゃんと音を鳴らす、予想通りストレートに理想的な演奏でした。一歩一歩時間をかけて丁寧に前に進めるスタイルはアダムと相性良いかもしれません。メリハリも大事な要素なのでダイナミックレンジを広く取ることを忘れず、そのためか時間を追うごとにどんどん音がいい感じに荒れてきて、こういう「魔法の粉」みたいなものが音符に練り込まれているのもこの曲のユニークな魅力です。アダムもここでは流石にスコアをめくりながらの指揮で、常にヴァイオリンが引き立つよう縁の下の力持ちに徹していました。充実度の高い演奏はやんやの喝采で、アンコールでは後半から登場のはずのツィンバロンを呼んできてデュオの曲(これもたぶんクルターグ)を披露。そういえばコパチンスカヤもアンコールはクルターグでした。

休憩後はメインの「ハーリ・ヤーノシュ」組曲ですが、コダーイ自身がセレクトした6曲に、元のオペラでは第3幕終盤のクライマックスで歌われる「募兵の歌」を加えた7曲構成になっているのが珍しいです。確かにメインとしてはちょっと短いので1曲足しただけなのかもしれませんが、そのコンセプトや、誰の発案か、合唱のない管弦楽用編曲は誰がやったのか、などの詳細はプログラムにも書かれておらず、真相は謎です。個人的には、「募兵の歌」はいかにもなハンガリー民謡調アンセムっぽい歌で、ツィンバロンも入って盛り上がる一方、やはり元の組曲構成が染み付いているので、どうしても浮いた感じが否めないです。それはさておき、アダムはもう譜面台も置かず、当たり前のようにこの複雑なスコアを暗譜で指揮します。幼少期からみっちり叩き込まれて、また自分自身でも繰り返し吟味・研究してきたのだろうと思います。アダムはここでも決して急がないテンポで、今更気を衒う必要もないナチュラルなハンガリー魂を粘っこく聴かせてくれます。また、ここにきて確信したのですが、このデュッセルドルフ響の演奏が実に頼もしく、高度に磨き上げられています。管楽器の音が綺麗かつ馬力があり、弦も何層にも厚みがあり、さらにソロを取るトップ奏者の技量も一流プロフェッショナルで(特にこの曲ではチェロが素晴らしい)初演奏とは思えない充実ぶり。オケの年齢層は若いメンバーとベテランが程よく同居しており、デュッセルドルフという土地柄か、日本人奏者も何人か見られました。終演後は控えめにガッツポーズを作り、オケを上から目線ではなくフレンドリーに鼓舞するその姿は、まさにアダムの人柄が出ていたと思います。少なくともアダムが率いるこのオケは、安定した好演を期待できると認識したので、機会があれば是非ともまた、何度でも聴きたいと思いました。

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