東京フィル/渋谷の午後のコンサート。はお祭り騒ぎとちょっぴりノスタルジー2023/09/18 23:59

2023.09.18 Bunkamura オーチャードホール (東京)
「第19回渋谷の午後のコンサート。」
角田鋼亮 / 東京フィルハーモニー交響楽団
園田隆一郎, 三ツ橋敬子 (piano-2)
1. ベルリオーズ: 序曲『ローマの謝肉祭』
2. サン=サーンス: 組曲『動物の謝肉祭』
3. レスピーギ: 交響詩『ローマの祭』
4. 外山雄三: 管弦楽のためのラプソディ

東フィルも、オーチャードホールも、実に7年ぶりです。東フィルのこの「午後のコンサート。」シリーズは、オペラシティかオーチャードホールで年に12回程度開催されている、リスナーの裾野を広げる目的のファミリーコンサートのような催しですが、選曲やコンセプトを見る限り、ターゲット層は子連れというよりもうちょっと大人向けに設定されているようです。実際今日の聴衆も、子連れファミリーもいましたがシニア層のほうが多かったように思います。

ファミリーコンサートは卒業してもう長く経ちますが、この演奏会に行こうと思い立ったのは何よりレアな選曲。「動物の謝肉祭」と「管弦楽のためのラプソディ」は有名にも関わらず普通の定期演奏会などでは逆にプログラムに上がることが極めて珍しい演目ですし、「ローマの祭」も仕掛けが大きいからか「松」や「噴水」より聴く機会が圧倒的に少ないです。

1曲目の「ローマの謝肉祭」、これは演奏会でもわりとよく聴くですが、切れ味鋭く幸先の良いスタート。続く「動物の謝肉祭」では本職は指揮者の園田氏、三ツ橋氏がピアニストとしてゲスト参加。この贅沢なキャスティングの意味は曲の後のトークで明らかになったのですが、今日の指揮者の角田氏と三ツ橋氏、それと東フィルコンマスの近藤薫氏を加えた3人は東京芸大の同級生で、園田氏も彼らの少し上の先輩だそうで、皆さん親しい旧知の仲ということでこの出演が実現したそうです。演奏前に簡単な説明があったものの、1曲ごとに止めて解説をするというスタイルではなく、さらっと一気に最後まで流したので、余韻を楽しむ間もなくあっという間に終わってしまいました。第11曲の「ピアニスト」では、2台のピアノで向かい合った園田、三ツ橋両名が曲の趣旨に合わせてわざとズッコケたヨタヨタ演奏を披露。小編成のオケなので弦楽器はピアノの後ろに隠れてしまい、著名な第13曲「白鳥」はどうするのだろうと思っていたら、川藤幸三似と青木功似のチェリストのうち、青木さんのほうが楽器を持ってすくっと立ち上がり、三ツ橋さんの座っていたピアノの長椅子に、お尻で彼女を押しのけるようにずんと座って笑いを取った後に、たいへん美しい「白鳥」を聴かせてくれました。さすがプロのチェリスト、この曲はしっかり押さえてますね。

前半のアンコールとして角田、園田、三ツ橋の3名が一つ椅子に狭しと並んで、ラフマニノフの「6手のためのワルツ」を演奏。この後、ゲストの二人は「ローマの祭」でもピアノパートを担当。本当に仲良さそうな人達でした。

休憩後の「ローマの祭」は、「別格に好きなクラシック曲」の一つなのですが、実演で聴くのは9年ぶり。だって、なかなかやってくれないんだもの。生涯でもまだ5回目くらいかな。いやー、やっぱりこの音の洪水は、後腐れなく楽しめて良いですね。ホルンがちょっとヨレってたのを除けば、この難曲をさらっとやってしまった東フィルは今がけっこう充実期にあるのかもしれません。マンドリンは隠れ屋バーの寡黙なマスターみたいに渋いおじさんが異彩を放っていました。エンディングのSosutenutoの金管コラールからStringendo moltoで一気に加速し、コーダのPrestoに繋いでいく箇所は、スコア通り徐々に加速していく人と、初演者のトスカニーニに倣ってStringendo moltoから急に倍速にする人がいますが、角田氏は前者でした。タヴォレッタは小洒落た楽器化されたものではなく、大きな木の板を吊るしてガンガン叩いていたので、まあよく響くこと。打楽器がどんどん増えていって畳み掛けるように終わるラストでも、タヴォレッタがこんなに鳴っていたのかと、新鮮な発見がありました。

最後の「管弦楽のためのラプソディ」は、くしくも7月に亡くなった外山雄三氏の追悼になってしまいました。今日はこの曲を生で聴くためにはるばる渋谷にやって来たと言っても過言ではありません。元々がN響の海外公演のアンコールピース用に作曲された曲であり、国内の定期演奏会でわざわざこの曲をプログラムに上げるオケは見たことがなく、かと言って海外で聴いた日本のオケが演奏してくれた体験もなく、このようなファミリー系の演奏会が数少ないチャンスになります。

実はこの曲は大昔に部活のオーケストラで演奏したことがあり、非常に思い出深い曲でもあります。入部してまだキャリアも浅かった私の担当は「団扇太鼓」。その名の通り団扇のような木枠に皮を張った胴なしの太鼓で、左手で支えて右手に持った撥で叩きます。当然片手だけでリズムと強弱を刻むしか手がない楽器なのですが、冒頭から「トントコトントントコトコ」の繰り返しで16分音符の5連打が出てきて、先輩にどうやるんですかと聞いたところ、薬指と小指を駆使してダブルストロークからさらに3つ足すのだ、という返答。ダブルストロークのオープンロールは基礎練習のメニューにあるものの、片手だけでそんな超人的なことできるかい、と疑念を持ちつつも夏休みに来る日も来る日もひたすら練習していたら、一人では厳しくても二人でユニゾンしていたら何となく形になるようになってきました(スコア上では団扇太鼓は3つ必要)。うんうんあの時は苦労したよなあ、でもプロの打楽器奏者はどれだけ鮮やかな5連打を見せてくれるのだろうかと楽しみにしていたら、何と、団扇太鼓の柄の部分を股に挟んで、両手で皮を叩いているではありませんか!両手使っていいなら全く何てことはないフレーズなので、あの苦労は何だったんじゃー、と肩透かし。

とまあ団扇太鼓の思い出話はともかく、この曲は他にも拍子木、締太鼓、チャンチキ、鈴、キン(お経を上げる際にゴーンと鳴らす仏具)など和楽器満載で、しかもどれも小型なので確かに海外公演にも持って行ける便利さが配慮されています。日本人なら誰でも知っている「あんたがたどこさ」「ソーラン節」「炭坑節」「串本節」が恥も外聞もなく展開されますが、よく聴くとそれぞれの旋律が複雑に絡み合ったカオスっぷりは「ローマの祭」の「主顕祭」にも通じるものがあります。いったん落ち着いて、フルートがエオリアントーンで息を多めに漏らしながら尺八っぽく「追分節」を切々と奏で、静寂を破る拍子木の刻みの後、「ハッ」の掛け声から再び打楽器の祭囃子が始まり、盛大に「八木節」を歌い上げた最後はイントロの拍子木連打に戻ってジャジャジャン。いやー、くだらないと言えばそれまでですが、愛すべきニッポンの代表曲です。余談ですが「ハッ」の掛け声はスコアに記載はなく、昔の録音にもこんなのは入ってなかったと思うので、NAXOSの「日本作曲家選輯」(2002年)あたりが先駆けになりますかね。

アンコールでは祭のハッピを羽織った角田氏が登場し、拍子木の刻みから「八木節」を再演。盛り上げようと聴衆の手拍子を誘いますが、この曲はテンポもリズムも実は一定ではないので、ちょっと難しかったかな。ともあれ、今日は念願のラプソディが聴けただけで大満足、いろいろと思い出を反芻しつつ、明日からまたがんばるぞーと、前向きのパワーをもらった演奏会なのでした。

都響/レネス/タベア・ツィンマーマン(va):ロマンを忘れた無骨なロシア風ラフマニノフ2023/09/23 23:59

2023.09.23 東京芸術劇場コンサートホール (東京)
Lawrence Renes / 東京都交響楽団
Tabea Zimmermann (viola-2)
1. サリー・ビーミッシュ: ヴィオラ協奏曲第2番《船乗り》(2001) [日本初演]
2. ラフマニノフ: 交響曲第2番 ホ短調

コロナがあったのでたいがいのものはご無沙汰なのですが、東京芸術劇場に来るのも非常に久しぶりな気がして、記録を辿ると4年ぶりでした。それよりも、ひところは演目に見つけては足繁く聴きに出かけていたラフマニノフの2番も気がつけばすっかりマイブームが去り、6年前に出張中のライプツィヒで聴いたのが最後でした。

さて本日は指揮者、ソリスト共に初めての人々です。ドイツ人ヴィオリストのタベア・ツィンマーマンは、大御所ピアニストのクリスティアン・ツィンマーマン(ポーランド人)と関係がないのはわかるとしても、同じドイツ人のヴァイオリニストのフランク・ペーター・ツィンマーマンとは一緒にレコーディングをしているので兄妹かなと思ったら、特に血縁関係はないようです。

1曲目のヴィオラ協奏曲はタベアさんのために作曲された作品ですが、初演を指揮する予定だったタベアの夫、デヴィッド・シャローンが都響定期を振るために来日した2000年9月に不幸にも急逝してしまったという因縁のある曲だそうです。20年以上の時を経て(本来は2年前に上演予定でしたがコロナのため延期)、タベア本人の都響への客演という形で日本初演が叶ったのは喜ばしいことですが、正直、私にはこの昼下がりの時間帯に聴くのは辛すぎた。タイトルからして「さまよえるオランダ人」とか「ピーター・グライムズ」のように劇的で写実的な曲を勝手に想像していたら、一貫してたおやかな雰囲気の、シベリウス寄りのベルク、みたいな抒情的な曲でした。あえなく撃沈、すいません。ただ、アンコールを機嫌良く2曲もやってくれて(多分バッハとパガニーニだろうと思っていたら、ヴュータンとヒンデミットでした…)、これがどちらも凄い演奏で、楽団員全員が凝視。この人の途方もない技術力と表現力の幅がよくわかりました。

メインのラフマニノフはちょっと不思議な演奏でした。ローレンス・レネスも正直初めて聞く名前で、宣材写真からヒスパニック系かなと思っていたら、南方系ではありますがマルタ系オランダ人の白人で、すらっと背が高く、ハゲ具合がスティーブ・ジョブス風。オペラに長けた人のようで、言われてみると確かにオケにはあまり繊細なコントロールはせずに、冒頭の弱音から朗々と鳴らす無骨な演奏でした。野蛮さ、田舎臭さはなく、ストレートにひたすら前進していくイメージ。しかしこの曲は、甘ったるくやるにも、即物的にやるにも、いずれの場合でも何かしらの細やかな揺さぶりをやらないと長丁場持たない気がしますが、そんなの関係ねえと弱音欠如のまま重戦車のように太く突き進むのが、ある意味今どきのロシア風かもしれません。期待とは違う演奏でしたが、オケは普段通りのハイクオリティで楽しめました。やっぱりこの曲は、特に生で聴く時は甘い気分に浸れる方がいいかな。