ブダペスト祝祭管/フィッシャー:バルトーク「青ひげ公の城」2011/01/21 23:59

2011.01.21 Konzerthaus (Dortmund)
Iván Fischer / Budapest Festival Orchestra
István Kovács (Bluebeard-2), Ildikó Komlósi (Judith-2)
1. Haydn: Symphony No. 102 in B-flat major
2. Bartók: Bluebeard's Castle

先週に続きBFZです。今週ドルトムントでハンガリー人演奏家が集うバルトーク・フェスティヴァルが開催されており、折よく近くまで来る出張があったので、2週続けてBFZを聴くという幸運を得ました。BFZは実は、ブダペストでバルトークをあまり演奏してくれなかったので(ツアーでいつも演奏するから奏者のマンネリを防ぐためでもあるんでしょう)、その意味でも念願がかないました。全く余談ですけど、チェコフィルも「新世界」はツアーの定番ですが、プラハで演奏することはまず、ないそうですね。

客席はほぼ満員。先週とは違って今日はハンガリー語を聞くことがなかったので、ほとんど地元のドイツ人ということでしょうか。ドイツの一地方都市でバルトークに対する関心がここまで高いとは、正直意外でした。

1曲目はハイドン102番。先週と同じくトランペット、ホルン、ティンパニは古楽器を使用していました。フルートとオーボエを定位置よりも前に出し、チェロとヴィオラで挟み込むように配置していたのが先週との違いです。出だしで少し乱れて「ん?」と思った箇所はありましたが、後は先週と同じく完璧な造型のハイドンでした。やはりノンビブラートにはせず大らかに弾かせています。このホール独特の長い残響は、最初こそ違和感があったものの、慣れるとそのふくよかな質感が何とも心地よい。

メインの「青ひげ公の城」はバルトークで最も好きな曲の一つですが、過去に実演を聴いた5回は全てオペラの舞台で、演奏会形式では初めてです。BFZがこの曲をやるときはポルガール・ラースローとコムローシ・イルディコのコンビが無二の定番でしたが(録音も残っています)、昨年9月にポルガールが亡くなったため、青ひげ公はステージごとに違う人が召集されているようです。今日はコヴァーチ・イシュトヴァーンという初めて聴く若い人でした。

冒頭の前口上は従来ならポルガールが渋い声で語っていたそうですが、彼の死後、指揮者自らが客席に振り向き、語りかけながら後ろ手に指揮棒を振り始めるというアラワザでしのいでいました(YouTubeにアップされている、10月にフィッシャーがコンセルトヘボウを振ったときの映像でも同様のワザが確認できます)。

青ひげ公は、バスにしては細身の身体で声質も軽めなから、若いにもかかわらずごまかしのないほぼ完璧な歌唱でした。この歌は素人目にもたいへん難しく、歌いこみの浅い人だとすぐに声が上ずったり、にちゃにちゃと気持ちの悪い歌になってしまったりもしますが、コヴァーチは実に丁寧に、威厳を失わずに声をぶつけていきます。もちろん、できればもっと腰の太い声と、感情を押し殺しながらも微妙な機微を表現し分ける巧妙さがもうちょうっとあればと思わないでもなかったですし、超ベテランだったポルガールにはかなうべくもないですが、誠実に全力を尽くしていたと思います。

一方のコムローシも絶好調。ユディットは数限りなく歌ってきた十八番ですので、全てを知り尽くし、完全に自分のものにしています。感情表現が演技過多のようにも取れ、ユディット像の役作りとしては多少の異論もあるかもしれませんが、つぶやきから狂乱を自在に行き来する歌唱力と、一貫して堂々とした立ち振る舞いは、数いるユディット歌いの中でも突出していると思います。

そして、この日は何よりオケが凄かった。非の打ち所がない素晴らしさで、それを伝えるに私の文章力では全く力及びません。丹念な語り口であせらず一歩一歩進み、繊細さと馬力を兼ね備えるこのオケの特質が存分に発揮されて最後はとんでもない広さのダイナミックレンジになっていましたが、ホールの音響のおかげで爆音も耳に障らず、音の洪水にただただ身を委ねるのみでした。この大音響は演奏会形式ならではのもので、歌劇場付きのオケだったら歌手に配慮してこんな大音量は絶対に出さないし、出せないでしょうね。ソロ楽器も今日は皆さん冴えに冴えていて個人プレーも完璧。終演後は満員の客席が誇張でなく総立ちの拍手喝采になり、指揮者も独唱者も、疲労困ぱいしながらも充実した笑顔で拍手に応えていました。

後で聞いたところでは、ロンドンも良かったけれど、オケのメンバーにとっても今日はまた特別に満足のいく演奏会だったということで、わざわざドルトムントまで聴きに来たかいは十分にありました。無いものねだりですが、もし今日が最初の発表通りポルガール・ラースローの青ひげ公だったら、もうどれだけ素晴らしかったことかと想像すると、まだ63歳の若さで急死されてしまったのは残念でなりません。

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