ロンドンフィル/マッツォーラ:似て非なる、イタリアとスペインの夜の音楽2013/02/09 23:59


2013.02.09 Royal Festival Hall (London)
Enrique Mazzola / London Philharmonic Orchestra
Javier Perianes (piano-2), Maria Luigia Borsi (soprano-3)
1. Respighi: Fontane di Roma
2. Falla: Noches en los Jardines de España
3. Respighi: Il Tramonto (The Sunset) for mezzo-soprano & strings
4. Ravel: Pavane pour une infante défunte
5. Ravel: Rapsodie espagnole

去年のイースターにグラナダのファリャの家を訪れた後、ファリャの音楽を無性に聴きたくなって買ったチケットです。ずいぶんと時間が経ってしまって、待たされた気分。それによく見ると、スペインの曲と言えるのは2曲しかなくてしかもその一つはラヴェルですが。

今日がロンドンフィルデビューのエンリケ・マッツォーラは1968年スペインはバルセロナ生まれですが、イタリア人のようです。本人の公式HPにはスペイン生まれとしか書いてないし、Wikipediaにはスペイン人指揮者とありましたが、当日のプログラムではイタリア人と書いてあり、本人が演奏前のトークで「自分はイタリア人だ」とはっきり言ってたので、人種的にはイタリア人で間違いないんでしょう。実際、つるっぱげ頭ながらこだわりの赤ブチ眼鏡に、垢抜けたシャツを途中で着替えたりして、伊達男ぶりはイタリア人ですね。

まずは「ローマの噴水」でスタート。一聴してわかったのは、この人はオケの交通整理が上手く、繊細さを犠牲にしても各楽器を際立たせ、すっきりと見通しの良い音楽作りをする人だなあということ。今回の選曲は夜を思わせる曲ばかり並んでいるので(少なくとも昼の陽射しが似合う曲は一つもない)、この一貫した透明感はどれにもよくマッチしていました。反面、特に「トレヴィの泉」あたりだと弱い金管と相まってスケール感の欠如が如実に。大仰な音楽作りはキャラクターに合わないのかもしれません。

「スペインの庭の夜」は、いかにもスペインっぽいメロディ満載の印象主義的な曲。特に1曲目のアルハンブラ宮殿離宮ヘネラリフェは、極彩色の花壇と品の良い噴水の情景を思い出して、ノスタルジーを誘いました。協奏曲的でありながらピアノは終始控えめで、ペリアネスの力量はよくわからんかったというのが正直なところ。アンコールでもファリャのピアノ小曲を弾いてましたが、国外ではスペインもののスペシャリストとして振る舞わなければならないのでかえって窮屈なのかも。逆にスペイン国内ではベートーヴェンとか堂々と弾いてたりして、そっちのほうが面白いかもしれません。

休憩後、レスピーギの歌曲「黄昏」は、ソプラノのマリア・ルイギア・ボルシには音域があまり合わないのか、黄昏というより夜の帳が下り切ったようなローテンション。初めて聴く曲でしたし、ボケッとしている間に終わってしまった感じです、すいません。この人本職はオペラ歌手のようなので、個性的なお顔立ちもあって、是非オペラで聴いてみたいものです。

残りはラヴェルが2曲。「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、冒頭のホルンにもうちょっと味があればなお良かったと思いますが、音をきっちりと整理し、全体的に透明度の高いハーモニーが心地よい、なかなかの名演でした。「スペイン狂詩曲」は大管弦楽ながらもうるさい部分はちょっとしかなく、効率の悪い曲ですが、ここに至るまで抑えに抑えて溜め込んだエネルギーを最後に開放させ、オケが自発的に鳴りまくるままにしていました。今日のプログラムで派手にジャンと終わるのはこの曲だけだったので、ここまでちょっと醒めていた聴衆もようやく盛り上がって、やんやの大喝采に終わりました。

本日はセカンドヴァイオリンのトップにゲストプリンシパルとして船津たかねさんが座っていました。一昨年フィルハーモニア管で見て以来です。しかしそれよりも今日一番驚いたのは、ホルンにLSOトップのデヴィッド・パイアットが座っていたこと。プログラムを見ると確かに彼の名前が2番目のプリンシパルとして書かれてありました。道理で最近バービカンでは見かけないなと思っていたら、いつのまに移籍したのかなー。でも後でLSOのサイトを見てみたらまだ彼の名前も残ってたりして、本当にごく最近移ったんでしょうかね。今日の演奏でもホルンが弱いと思った「ローマの噴水」と「パヴァーヌ」は、パイアットは降り番でした。今後のLPOブラスセクションは大いに期待ができるかもしれません。