デフ・レパード with エクストリーム@O2アリーナ ― 2026/07/02 23:59

2026.07.02 The O2 Arena (London)
DEF LEPPARD: Live 2026 with special guest EXTREME
Extreme:
Gary Cherone (vocal)
Nuno Bettencourt (guitar)
Pat Badger (bass)
Kevin Figueiredo (drums)
Def Leppard:
Joe Elliott (vocal)
Phil Collen (guitar)
Vivian Campbell (guitar)
Rick Savage (bass)
Rick Allen (drums)
初のO2アリーナ。2007年完成なので比較的新しいライブ会場です。かつての駐在時は、まだできて間もないこのO2アリーナでマイケル・ジャクソンが「THIS IS IT!」の連続公演をまさに行おうとしていたところだったのを思い出しました。こういった大きなアリーナ系や屋外会場は音とビジュアルのどちらも楽しめないという先入観があり敬遠していたのですが、他ならぬデフ・レパードということで、残りわずかになっていたチケットを思わずポチッと。デフ・レパードのライブは1993年の来日公演「Adrenalize Tour」を日本武道館で観て以来、実に33年ぶりです。さらに後になって、オープニング・アクトがエクストリームという予想外のビッグネームであることに驚きました。
3月の高中のライブが、開場時間を過ぎたころに着いてみたら長蛇の列が会場を一周半回るような状態で入場までかなり時間がかかってしまったので、その反省で早めに出発したら、18時半開場の1時間くらい前に着いてしまいました。それでもすでに数十人並んでいましたが、長蛇には程遠かったし、O2アリーナは入り口が多数あるので、これなら開場時間ギリギリでも全然余裕だったかと。中に入ると、ちょうどドーム球場のようにゆったりと広々した空間があり、アーティストのグッズ売り場も人が少なく余裕でツアーTシャツを買えました。
アリーナの中は、東京ドームほどにはバカデカくないけど日本武道館よりははるかに大きい感じです。実際にキャパを調べてみると、東京ドーム5万5千人、武道館1万4千人に対してO2アリーナは2万3千人、まあそんなところです。同じロンドンで比較すると、ウェンブリー・スタジアムの9万人は屋外会場なので除外するとして、ウェンブリー・アリーナの1万2千人からは倍近くになり、実際に屋内のライブ会場としてはヨーロッパ最大級だそうです。今回、一番安い席はどのみちステージから遠いので、できるだけ正面側の席を選びましたが、それにしても遠い。オペラグラスでLEDスクリーンを見るとちょうど良い、くらいの距離でした。
エクストリームは19時30分過ぎに始まりました。彼らのライブを見るのは初めてでしたし、聴き込んだバンドではないのであまり曲がわからなかったのですが、ゲイリー・シェローンとヌーノ・ベッテンコートはどちらも遠目に見た限りでは老けた感じは全くなく、若いころと変わらずスリムな体型で、動きもシャキシャキとした躍動感があり、現役バリバリ感がハンパなかったです。ゲイリーは今年65歳、ヌーノも60歳の還暦になりますが、歌もギターも衰えを感じさせず、いやー、さすがエクストリーム、カッコ良かったです。また彼らならではの遊びとして、曲のイントロで「We Will Rock You」ライブバージョンをちょろっとやってみたり、アコースティックタイムで「天国への階段」をちょろっと弾いてみたり、最後はオジー・オズボーン・メドレーで締めるというサービスぶり。フレディー・マーキュリー追悼コンサートでクィーン・メドレーを時間いっぱいやったその気骨は、今なお健在でした。
Extreme Set List:
Decadence Dance
#REBEL
Rest in Peace
Play With Me (With Queen's 'We Will Rock You' intro)
Hole Hearted
Midnight Express
More Than Words
Get the Funk Out
RISE
Flight of the Wounded Bumblebee
I Don't Know / Bark at the Moon / Crazy Train (Ozzy Osbourne cover)
少し休憩を挟んで、メインのデフ・レパードは21時きっかりに開始。1993年のライブと全く同じメンバーが今なおステージに立っているのは、よく考えると凄いことです。最年少のリック・アレンが62歳、最年長のフィル・コリンが68歳、とりあえず皆身体は元気そうです。元々短髪だったフィルはもうしっかりとハゲになり、1993年当時は加入したばかりだったヴィヴィアン・キャンベルも、チャラいカーリーロングヘアはもうありません。隻腕のドラマー、リック・アレンは若いころと比べるとずいぶん顔つきがイカツくなりましたが、ミドルテンポの曲を中心に、一発一発ビートを深く叩き込んでいく安定感は健在というかますます進化していました。ドラムセットを取り囲む円形のレールにはドラマー専用のカメラが設置されていて、遠隔操作でレールに沿って行ったり来たりで撮影された動画は時折そのままバックの大スクリーンに投影されます。不屈の精神力はもちろんのこと、技術の進歩にも支えられた、唯一無二のドラマーです。もし自分が右腕だけでドラムを続けたらと想像すると、片腕だけにかかるアンバランスな負荷は尋常じゃないハードワークになり、とても40年は身体が持たず、早々に頼みの綱の右腕も壊してしまってジ・エンド、という未来しか思い浮かびません…。
セットリストはやはり驚異的に売れたアルバム「Hysteria」からの選曲が多く、シングルカットされた7曲のうち6曲がセレクトされてました。他のアルバムからは多くても2曲で、個人的には「Foolin'」もやって欲しかったですが、概ね満足のセットリストでした。特にラスト、「Armageddon It」以降の畳み掛けるヒット曲波状攻撃は、古い曲ばかりとはいえ、バンドがここまで築き上げた実績があってこそできることで、大いに盛り上がりました。ただちょっと残念だったのは、ジョー・エリオットのボーカルが調子悪く、高音域がかなり苦くなっていた状況で、「Rock of Ages」から「Photograph」にかけての最高潮の場面ではもうサビが裏声しか出なくなってしまっていたことです。コーラスがしっかりしていたので曲としてはなんとか聴けましたが。ジョーも今年67歳、まあ高音域が出なくなるのは自然の摂理で仕方がないことですが、ほぼ同世代のゲイリー・シェローンがまだまだ現役感を出していたのと対照的に、ジョーについてはだいぶ「老い」を感じてしまいました。
11時手前まで、ほぼ2時間のショーが終わると怒涛の人数が会場を出て一斉にノース・グリニッジ駅に向かうので、大混乱と大混雑を避けるためにアンコールラストの「Pour Some Sugar On Me」が終わるや否や会場を飛び出し、一目散に駅にダッシュしました。O2アリーナはロンドン西側から行くにはちょっとアクセスが悪いうえに、ライブの終了時刻も遅いのがネックですね…。
Def Leppard Set List:
Rejoice
Animal
Let's Get Rocked
Personal Jesus (Depeche Mode cover)
Bringin' On the Heartbreak
Switch 625
Just Like '73
Rocket
Rock On (David Essex cover)
White Lightning
Slang (with Nuno Bettencourt)
Promises
Armageddon It
Love Bites
Rock of Ages
Photograph
Encore:
When Love and Hate Collide
Hysteria
Pour Some Sugar on Me
パット・メセニー@バービカン・サマー・ジャズ・シリーズ ― 2026/07/18 23:59

2026.07.18 Barbican Hall (London)
Pat Metheny: Side-Eye III+ Tour 2026
Pat Metheny (guitar)
Chris Fishman (piano, keyboards)
Joe Dyson (drums)
Jermaine Paul (vocal, bass)
Leonard Patton (vocal, percussion)
30年ぶりに生で聴くパット・メセニーです。自分のバンドで過去に何曲か取り上げた関係で、パット・メセニー・グループ(PMG)の初期のアルバムをいくつか持っているものの、1996年の来日公演@パシフィコ横浜を観て以降は、その間の動向をつぶさに追いかけていたわけではなかったのですが、バービカンに来るとなれば聴きに行かないという選択肢はありません。チケットが予想外に高かったのでバルコニー席でがまんすることにしたのですが、直前になってストール最前列ど真ん中の席がリターンされているのを発見、これはプライスレスだと思って即ゲットし、バルコニーのチケットはリターンしました。
世の中は30年前と比べるとずいぶん便利になっていて、ファンサイトながら「The Pat Metheny Database (PMDB)」という極めて充実したデータベースを公開されている奇特な方がいらっしゃいまして、それを参照すると1996年の横浜公演のメンバーとセットリストを確認することができました。
PMGの「James」や、ミルトン・ナシメントの「Vera Cruz」をやっていた他はカバー曲が多く、バンドというよりもジャムセッションだった、という自分の記憶を追認できました。2012年のバービカン公演も聴きに行くチャンスはあったのですが、他の予定とクラッシュしたので断念していました。
この8月で72歳になるメセニー、若手ミュージシャンを採用したユニット、Side-Eye III+で新譜を2月末にリリースしたばかりですが、3月から早速全米とヨーロッパを廻るワールドツアーを鋭意敢行中です。ほぼ毎日、日によっては昼夜2回のライブをずっとこなしていて、ヨーロッパではポーランド、スロヴェニア、ハンガリーの東欧圏を含む11カ国を歴訪するという移動もたいへんそうなツアーで、若いメンバーは良いとして、70歳を超えてもこれだけ精力的にドサ周り的な活動ができるメセニーの情熱と体力にまず脱帽です。
開演のセレモニーで、メセニー以外のメンバーは客席後方からマーチングドラムで入場。今回のユニットはメセニーに加えてドラムとキーボードがコアメンバーですが、ツアーではサポートとしてベースとパーカッションが加わった5人編成になります。キーボードはオタクっぽい白人メガネ、ドラムはドレッドヘアの黒人ヒゲ男で、72歳のメセニーと比べたら若いとはいえ、どちらも見たところ30代半ばの中堅セッションプレイヤー。サポートベースも同世代に見えましたが、パーカスはだいぶ年齢がいってそうで、このサポートの黒人ふたりはソウルフルな美声を活かしてボーカルも担当します。メセニーはトレードマークのもじゃもじゃヘアが変わらず健在で、年齢的にはもしかしてヅラかな、とも勘ぐりましたが、ジャズギタリストがあえてヅラにする理由も思いつかないので、幸せな地毛であろうと結論しました。
ドラムセットはワンタム、ツーフロアのシンプルなジャズのセットですが、ツースネアと多彩なシンバルが特徴です。キーボードはグランドピアノ、オルガン、シンセにぐるっと囲まれて、いかにもなオタク風。ベースはほとんどダブルベースで弾いていて、ときどきエレキベース、という感じ。
セットリストはざっくり言うと、新譜である「Side-Eye III+」の曲と、パット・メセニー・グループ(PMG)時代の曲を交互に演奏する構成でしたが、これが驚くほどスムースに繋がって、違和感がない。今回の新譜はPMG時代への回帰という評判が一部で言われているのもうなづけます。新譜を聴いた限りドラムはもっと尖った人の印象だったのですが、実演のプレイはそんなにアグレッシブではありません。スネアの抜けた音が気持ちよく、手は速いけれども変態的ではなく、シンバルワークを中心に、普通に上手いジャズドラマーの感じ。メセニーのギターおよびギターシンセは全く衰えを感じさせない、枯れるどころか瑞々しいパッション溢れるもので、しかも難曲の「First Circle」を含むPMG時代の曲を期待以上にやってくれたので、非常に盛り上がったライブになりました。「Phase Dance」はピアノとギターのデュオでしたが、構成はほぼ原曲通りだったので、だったらなぜドラム、ベースも入れたフル編成でやってくれないのだろうかと、不思議に思いました。アンコールは二回に分けて、どちらもアコギソロに続きPMGの曲という構成。休憩なしで2時間半のライブを難なくこなすメセニーは、まだまだ現役感満載でした。隣席で終始ノリノリ、キャーキャーと黄色い歓声を投げていたおばさんから、終了間際に「本当は息子と一緒に聴きに来る予定だったけど、息子は調子が悪かったのでその席のチケットを手放したのよ、あなたはラッキーね」と声をかけられ、おっしゃる通り、期せずして絶好の良席で生メセニーを堪能することができ、たいへん満足です、ありがとう。
Set list:
Opening drum intro
In On It
Bright Size Life
Don’t Look Down
Better Days Ahead (Pat Metheny Group song)
Timeline (Michael Brecker cover)
Make a New World
The First Circle (Pat Metheny Group song)
Urban and Western
The Red One (John Scofield & Pat Metheny song)
Más allá (Beyond) (Pat Metheny Group song)
Phase Dance (Pat Metheny Group song) (guitar and piano duet)
Round Trip / Broadway Blues
Zenith Blue
Encore:
America The Beautiful / The People United Will Never Be Defeated / Last Train Home (solo acoustic guitar)
Are You Going With Me? (Pat Metheny Group song)
Minuano (Six Eight) / As It Is / James / September Fifteenth / This Is Not America / Antonia (solo acoustic guitar)
Song for Bilbao (Pat Metheny Group song)
最高!新しい学校のリーダーズ:ロンドン降臨@ラウンドハウス ― 2026/07/19 23:59
2026.07.19 The Roundhouse (London)
Atarashii Gakko! (新しい学校のリーダーズ): “LONDON 降臨” AG! 11th Anniversary Show
クラシックの2025/2026シーズンがほぼ終了し、BBCプロムスが始まるまでの束の間の休息であるここ1ヶ月は、スティーブ・スミス、デフ・レパード、パット・メセニーときて、今日の新しい学校のリーダーズまでのこの流れは、我ながら節操ない雑食だなと思いました。
本日の会場Roundhouseは、地下鉄Northern LineのChalk FarmからCamden Townへ少し戻ったところに位置し、文字通り機関車の扇形庫だった施設をコンサート、演劇、映画等に使うため改装したものです。このクラスの会場では入口が一箇所のため入場に時間がかかり、行ってみたら案の定長蛇の列で、並んでから入るまで1時間近くかかりました。客層は若者中心で、原宿カワイイ系、ゴスロリ系、スーサイドスクワッド系など個性的なコスプレの人々が多数。中年、老年の人もそこそこおり、腕にびっしりと刺青している兄ちゃん姉ちゃんがセーラー服を着ているのはシュールながらどこか微笑ましいです。
中は円形のホールの一方にステージがあり、残りはオールスタンディング。着席の座席は上階になりますが、数はそんなに多くなく、結局全体でキャパは約3000人とのこと。上階の席は10列ほどしかなく、どこで見てもステージが結構近いのがこのホールの利点と思いました。元からあったと思われる柱が邪魔と言えば邪魔ですが、見通しは良かったです。
新しい学校のリーダーズはSUZUKA、KANON、MIZYU、RINの女性4人から成るダンスボーカルユニットで、全員20代後半の若い人々ですが、メンバー交代もなくすでに11年のキャリアがあります。自分のバンドのレパートリー探しで新しめのJ-POPを常々追いかけている中で、「オトナブルー」が流行った2023年ごろからウォッチはしていましたが、ライブを見るのはもちろん初めて。そのルックス、キャラ設定、音楽性から、海外志向があるとはとても思えなかったのですが、実のところ2020年から米国のレーベルと契約して、「Atarashii Gakko!(通称AG!)」の名称で積極的に海外展開しているのが非常に意外でした。しかも主戦場は中国・アジアではなく、欧州、北米、南米の西洋文化圏。日本独特のセーラー服仕様の女子制服に、全て日本語歌詞で五音階スケールを多用した楽曲、ガニ股で腰を折り重心を低くしたコミカルな振付など、どこにも外国に媚びた様子が見当たらないそのスタイルは、実は一周回って正解だったのかと思いました。
満員御礼のスタンディング客から「AG!」コールが湧き上がる中、日本人にはお馴染みの学校のチャイム音(この音階のオリジナルはビッグ・ベンの時鐘だそうですね)が鳴り、4人がすっと登場。生バンドはなく音源を使うパフォーマンスで、クラブイベントの様相でした。狭いステージも4人だけなら十分な広さがあります。ステージ後方のスクリーンはプリメイドの映像を流すのみで、ライブ中継の投影はありません ただ、ステージが近いのでスタンドから肉眼でも十分見えたし、オペラグラスだと表情までくっきりと見えたので良かったです。
キャラ設定が全く異なる4人ですが、11年もやってるからダンス・パフォーマンスは完成されていてたいへん上手く、息もぴったり。知らない曲がほとんどでしたが、激しいダンスナンバーありーの、アイドルチックな曲もありーの、韓流ともAKB・坂道系とも違う独自の個性が存分に発揮された、とても面白いライブでした。全部日本語の歌詞なのに、イギリスの若者はノリノリで歌います。一方のAGメンバーのMCは、さすがに原稿丸暗記の英語でしたが、時々飛んでたのが微笑ましい。「Our English is not good enough」と言い訳をして笑いを取ってました。「Tokyo Calling」では、ライブの定番だそうですが、SUZUKAがオールスタンディングの客を突っ切って反対側まで行き、フェンスのヘリに立って歌った後に、クラウドサーフでお客に持ち上げられながらステージに戻ってきました。もちろんずっとガードの人は付いていましたが、危なっかしくて見ていてハラハラしました。ウェーブの途中で方向がずれ、なかなか戻れないSUZUKAは「プリーズ」と叫びながら軌道修正し、無事時間内でステージに戻ってこれたので一安心。
アンコールではSUZUKAとRINが黒、KANONとMIZYUが白の「ロンドン降臨」限定のライブTシャツに着替えて、リリース間近の新曲と、SAIKO!で盛り上がる「One Heart」で締め。前座もなく全部で1時間20分という単独としては短めのライブでしたが、自分的にはちょうどいい長さで、十分満足しました。
2026/07/19 set list:
Go Wild
Toryanse
Chanka Chanka
Otona Blue
Arigato
TTTTOKYO
Catch That Train (Kanon solo)
Kore de E (Mizyu solo)
Waiting for Good Time (Rin solo)
Dance Dance
Oi AG!
Fantastico
Forever Sisters
UTAGE HIKARU
Pineapple Kryptonite (remix)
Fly High
Tokyo Calling
Encore:
Take Me with You
One Heart
BBCプロムス:ウィルソン/SOL:新世代の究極「ローマ三部作」 ― 2026/07/24 23:59

2026.07.24 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms: John Wilson Conducts Respighi’s ‘Roman Trilogy’
John Wilson / Sinfonia of London
Jonathan Aasgaard (cello-2)
1. Verdi: The Force of Destiny – overture
2. Walton: Cello Concerto
3. Respighi: Roman Festivals
4. Respighi: Fountains of Rome
5. Respighi: Pines of Rome
14年ぶりのBBCプロムス、ただただ感慨深いです。しかし、チケットが高〜い!このコンサートは特に人気が高かったようで、希望していたクラスよりも2ランクも上の席になってしまいました。もとより音響も視界も総じて悪いこのホールで、気合を入れて聴きたいものは良席で、そうでもないものは安席で、というメリハリを効かせる余地もなく、「高い」か「超高い」か「鬼高い」しか選択肢がない、世知辛い世の中です。え?アリーナで立ち見しろって?全くもってごもっともです、自分も若いころなら…。
さて今年最初のプロムスは、謎の楽団、シンフォニア・オブ・ロンドン。特に今日の演目であるローマ三部作を収めたディスクが「新世代の名盤」として数年前に極めて高い評価を得ていたので、ぜひ一度生演奏を聴きたかったところでした。楽団の公式ホームページによると「英国及び国外のオーケストラの首席奏者、著名なソリスト、著名な室内楽グループのメンバーなど、優れた音楽家を集めて、年間通してレコーディングやコンサートのプロジェクトを敢行するスーパー・オーケストラ」とのことです。ルツェルン祝祭オケのようなコンセプトかと思いきや、趣旨はだいぶ異なるようです。歴史を辿ると、まず1955〜1969年に活動した第一期のシンフォニア・オブ・ロンドンがあり、これはフルート奏者のゴードン・ウォーカーがギャラの良い映画音楽の録音を行うために、ロンドン響から多数の奏者を引き連れて結成したとのこと。1982年にチェリストのピーター・ウィルソンと作曲家のハワード・ブレイクが、ウォーカー家から「シンフォニア・オブ・ロンドン」の命名権を買い取って、ブレイクが作曲したTVアニメ「スノーマン」のサウンドトラックを録音するため結成されたのが第二期になります。2002年までに「バットマン」「ヴァーチャル・ウォーズ」「ロボコップ」など数多くのハリウッド大作映画のサウンドトラックを手掛けました。そして時は流れて2018年に、映画音楽、ミュージカルなどライト・クラシック系の指揮やアレンジを得意とするジョン・ウィルソン(ピーターの血縁者ではなさそう)が、英国の独立系クラシック・レーベルChandosのバックアップを得て立ち上げたのが現在の姿になります。ホームページには音楽監督のジョン・ウィルソンを筆頭に、運営側の人は顔と名前が出ていますが、プレイヤーの具体的な情報が、コンサートマスターを含め一切公表されていません。年代から言っても第一期、第二期のメンバーが含まれているとは思えないし、実を言うと自分はCDを持っていないので、レコーディングごとのメンバー表が存在するのかどうかも不明です。プレイヤーの顔が見えず、今日目の前にいる人々が普段どこの楽団で演奏している人なのか、CDや去年の演奏会と同じなのかどうか、よっぽどの楽団員マニアならともかく、私にはお手上げの世界です。
前置きが長くなりましたが、見たところ奏者の年齢層は若く、女性が多め。今日のような大編成のプログラムでも、管楽器の数は必要最小限で、人海戦術で押し通すスタイルではなさそうです。1曲目の「運命の力」序曲はかつて部活のオケで演奏したことがあり、熟知した曲ですが、実演を聴いたのは2004年のコバケン指揮ブダペストフィル以来ですから相当のご無沙汰です。颯爽と登場したウィルソンは、気難しい芸術家風とは対極のビジネスマン風。記録をたどると過去に一度、2013年に英国ナショナルユースオーケストラで「惑星」を指揮した演奏会を聴いていました。冒頭のファンファーレは短く切り、キレの良い指揮で前ノリにオケを引っ張っていきます。ライト・クラシック系の人というと、どうしても「一流クラスではない」という先入観を持ってしまいがちですが、繊細なダイナミクスを上手くコントロールし、また奏者の演奏レベルも総じて高く、なかなかどうして、クラシック演奏として間違いなく上級クラスです。全体的にスマートな軽さがあり、今どきの人にはこういうのが受けるのかもしれません。
2曲目はウォルトンのチェロ協奏曲。家にCDはありましたが、ほぼ初めて聴く曲です。ソリストは、ノルウェー出身で普段はロイヤル・リヴァプール・フィルの首席奏者を務めるヨナハン・アースゴール。イタリアモノに挟まれて曲調も全く異なるこのご当地モノの選曲は、プログラムの意図がよくわからなかったのですが、昨年この顔合わせでCDが出たばかりなので、目的はプロモーションでしょう。緩急緩の3楽章構成で、無調に近い掴みどころのない曲。繊細で慎重な音出しは変わらず、こういう抒情的な曲も得意なんだよという自信の表れがある気もしました。
休憩後、後半にローマ三部作を一気に演奏するという、ある意味他で見たことがないチャレンジに、さらなる自信の表出を感じました。日本のオケなら、まず金管が鉄板で持たないから、もしこんな演奏会があったとしても怖くて聴きに行けません。演奏は、祭り、噴水、松の順。これは作曲順とは違いますが、CDと同じ流れとのこと。まず私の大好きな「ローマの祭り」は、サークル席の入口扉あたりに配置したバンダと、ステージ後方最上段にずらっと横並びした打楽器群がひときわ華やかな祝祭感を演出していました。やはりこのオケがただモノではないなというのがわかるのは、ほとんどブレない金管に、木管も一流のソロを聴かせ、タメを効かせた濃厚な味付けの弦アンサンブルも完璧で、どこを切っても立派な演奏。オルガンをことさらラウドに響かせていて、今まで聴いたことがない新鮮さもありました。なるほど、特に馬力が必要なこの曲を、オケが疲弊する前に最初にやってしまう曲順は、良い戦略かもしれません。
続く抒情的な「ローマの噴水」では、オケを上手くコントロールした繊細さが光りました。ここでもオルガンがはっきりと聴こえてきて、絶妙のパートバランスで、音圧をかけるところはこれでもかとかけ、繊細な箇所はとことんデリケートに、ダイナミックレンジが極端に広い演奏。これはやりたくても突然にできる話ではなく、単に優秀な奏者を揃えただけではないジョン・ウィルソンの統率力が透けて見えます。
最後の「ローマの松」では、オケの後方に配置した合計16人(のはず、数えた限りでは)のバンダが圧巻で、オケのメンバーも含めてこれだけの人数を集めて誰一人ヘタレないのがシンプルに凄いと思いました。「ジャニコロの松」のナイチンゲールのさえずり効果音ですが、一昨年聴いたルイージ/N響のように、昨今では打楽器奏者が鳥笛で対応することも多いのですが、今日はスコアに忠実にレコード(さすがにSP盤ではないでしょうが)を使っているようでした。終曲の「アッピア街道の松」はミドルテンポでひたすら山を上がっていく展開なので否が応にも盛り上がるためコンサートの最後に置くのはある意味定番ですが、それも最後までしっかりと鳴らし切れての話です。追加するバンダの力があれば乗り切りやすいのも確かとはいえ、オケ、特に金管がヘナチョコだと聴けたモノではないので、その意味でもこのシンフォニア・オブ・ロンドンはやはり噂通りタダモノではないハイクオリティの集団でした。まるで「ローマ三部作」をやるために結成されたと思えるくらい、ハマっていました。
帰りの足もあり、「松」が終わったらすぐに会場を出たのですが、後でBBC iPlayerを観ると、アンコールで「ウィリアム・テル」序曲のギャロップをやって笑いを取っていたもよう。三部作をやり切った後、さらにアンコールができる体力に感服します。現在の再結成後の体制ではまだ歴史が浅く、レコーディングもレスピーギの他はフランス界隈やラフマニノフ、コルンゴルドなど、オケの特質を活かしたレパートリーに絞っているようですが(確かに、このオケのベートーヴェン、ブラームスはちょっと怖い…)、今後もウォッチする価値は十分に感じました。セッション・オケなので当たり外れはありそうですが…。







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