エリーナ・ガランチャ@バービカン2012/10/02 23:59

2012.10.02 Barbican Hall (London)
Elina Garanča (Ms)
Karel Mark Chichon / London Symphony Orchestra
Gordon Nikolitch (Vn-3)
1. Glinka: Overture to "Ruslan and Ludmila"
2. Tchaikovsky: "Yes, the time has come" from "The Maid of Orleans"
3. Massenet: Meditation from "Thaïs"
4. Saint-Saëns: "Mon coeur s’ouvre à ta voix" from "Samson et Dalila"
5. Saint-Saëns: Bacchanale from "Samson et Dalila"
6. Gounod: "Plus grand, dans son obscurité" from "La Reine de Saba"
7. Pascal Marquina Norro: España Cañí
8. Santiago Lope Gonzalo: Gerona
9. Manuel Penella: Pasodoble from "El gato montés"
10. Bizet: Extracts from "Carmen"
 1) Prélude     (Act I)
 2) Habanera  (Act I)
 3) Entr’acte   (Act III)
 4) Séguedille  (Act I)
 5) Entr’acte   (Act IV)
 6) En vain, pour éviter  (Act III)
 7) Entr’acte    (Act II)
 8) Chanson bohème (Act II)

このように歌手を前面に立てた「オペラアリアの夕べ」みたいなのは、器楽志向の私は最も避けてきた部類の演奏会ですが、一度は見たいと思っていたエリーナ・ガランチャを今シーズンもオペラ座で見ることはできなさそうだというのが判明してから、ちょうど頃合よく目に付いたこのチケットを思わず買ってしまいました。何でもこのコンサートはドイツ・グラモフォンから先月発売されたばかりの新譜「Romantique」のプロモーション・ツアーの一環だそうです。それにしてもバックがLSOとは豪勢な話。指揮者は聞いたことがない名前でしたが、ガランチャのダンナさんなんですね。

1曲目の「ルスランとリュドミラ」序曲が終わり、入場してきたガランチャは、今まで見たどのプロモーション写真とも違う(笑)、シックなグレーのドレスに身を包んだ、がっしりとした体格の飾りっ気ない中年女性でした。もっと細身で色気たっぷりのお姉ちゃんを想像していた私は思いっきり肩すかし。30代半ばにしてはちょっと老け顔だし、身体の線も、ちょっと…。

いや、だってね、





こんな美女が出てくるのかっ、とワクワクしていたら、この中の誰とも違う人が出てきたので…。(失礼)

オケの間奏を挟みながら進行するプログラムの前半は、チャイコフスキー「オルレアンの少女」、サン=サーンス「サムソンとデリラ」、グノー「シバの女王」から各々メジャーなアリアを取り揃えます。前半はお腹で手を組み、品格高い歌唱を心がけていました。LSOがよく鳴るのでオケがうるさ過ぎのところもありましたが、それにも負けずによく通る美声でした。メゾソプラノの太さはそのままに、ソプラノのように突き抜けたロングトーンの伸びは、天性のものがありますね。私はこのへんのオペラアリアはさっぱりわからないのですが、声の特質をよく活かした、じっくり聴かせる選曲になっていました。


後半はスパニッシュ特集。黒いドレスと深紅の口紅にお召し替え、前半よりもくだけた感じで小芝居の入ったシアトリカルな歌唱にイメチェン。「カルメン」はさすがのオハコで、自信たっぷり、余裕たっぷりのコロラトゥーラ・メゾ。技巧に長けていてやけに健全なカルメンという印象でした。もっと場末でヘタウマのくずれた感じもあったほうが、全くのアウトローである本来のカルメンのキャラクターには合う気もしますが、それはそれとしてもガランチャは是非ともオペラ座で見たかった。3年前にアラーニャとのコンビでROHの「カルメン」に出演したとき、我が家はまだROHデビュー前だったので見てないのです…。

ダンナさんのチチョンは、オペラ指揮者にはありがちな、カリスマはないけど仕事きっちりのタイプで、結構若いのに手慣れた棒さばきでLSOを鳴らし、安定感がありました。愛妻のためとは言え、この雑多なプログラムを全部暗譜でやってたのは立派。ガランチャも後半は終始リラックスした表情で上機嫌、アンコールではスペイン系をさらに3曲歌ってくれました。


ロシア・ナショナル管/ユロフスキ:「戦争と平和」にまつわる英露のシンフォニー2012/10/04 23:59

2012.10.04 Royal Festival Hall (London)
Vladimir Jurowski / Russian National Orchestra
1. Vaughan Williams: Symphony No. 6 in E minor
2. Prokofiev: Symphony No. 5 in B flat

今シーズン最初のフェスティヴァル・ホールです。これは「War and Peace」と題する3日間のミニシリーズで、前日の初日がLPOでブリテン「鎮魂交響曲」、ウォルトンVa協奏曲、プロコフィエフ「戦争と平和」抜粋、この日がRNOによるプロコフィエフ5番とヴォーン・ウィリアムズ6番、翌日の最終日はLPOとRNOの合同オーケストラによる1812年序曲に「レニングラード」という、ロシアをメインに据えながらイギリスものを添えるというプログラム構成です。指揮は全てウラジーミル・ユロフスキ。これが誤解の元だったのですが、RNOすなわちロシア・ナショナル管弦楽団は20年前プレトニョフが自分のために作ったオケのほうですね。ロシアにはもう一つ、似た名前でロシア国立交響楽団(旧ソヴィエト国立交響楽団)というスヴェトラーノフとの膨大な録音で世界的に著名なオケもあって、ここの首席指揮者が現在ユロフスキなので、私はてっきり今回のロシア側のオケはロシア国立響だとすっかり思い込んでおりました。ユロフスキはRNOの指揮者リストにも入っていますが、扱いは客演指揮者の一人であって、RNOの首席は今でもプレトニョフです。だとすると逆に、今回の企画でユロフスキがどうして自分のオケではなくRNOをブックしたのだろうかという疑問が頭に浮かびましたが、どちらにしろ私は初めて聴くオケですし、RNOはグラモフォン誌が2008年に選出した「世界最高の交響楽団トップ20」で15位にランクインしており興味があったので、ロシアに行かずとも聴く機会ができてラッキーでした。

ところが、今日の演奏会はどうも気持ちが乗っかれない。このところ忙しくて疲れ気味というのを差し引いても、心に響いてくるものが少ない演奏会でした。1曲目のヴォーン・ウィリアムズ第6番は第二次世界大戦末期に着手され、ショスタコーヴィチばりの金属的な不協和音のおかげで「戦争交響曲」とも呼ばれている作品。よく考えたらイギリスに住んでいながらヴォーン・ウィリアムズの曲を演奏会で聴くのは初めてです。演奏はユロフスキの気配りが隅々まで行き届いたもので、標題音楽ではないけれども、戦争の激しさと愚かさ、結果として残された焼け野原に平和の希望の火が灯る様がストレートに表現されていました。ただ、冒頭からして今日はちょっと乗れないなと思ってしまったのは、金管とティンパニの音が汚いこと。弦は力強く、木管もオーボエを筆頭になかなか滋味溢れる音を出しており、野暮ったい音がしないという点では優秀なオケではあるんでしょうが、取り立てて目を引く個性があるわけでもなく、金管はデリカシーのない音で、特にトランペットは体調が悪いのか、ステージの上で思いっきり咳をしていました。

メインのプロコフィエフ第5番も同じく戦争末期に作られた曲で、戦争の悲愴さが影を落としてはいるものの、内容はずいぶんと祝賀的で官能的です。私はLPOをあまり聴きに行かないのでユロフスキもまだそんなに聴いてないですが、生真面目にちょっとヘンテコな演奏をする人、という印象でした。今日はそのヘンな部分はほとんど感じられず、コツコツと細部を磨き上げた直球勝負。おかげでやっぱり心に引っかからない演奏でした。濁った金管がなりを潜めている第3楽章前半が相対的には良かったです。私的にはとにかく金管が足を引っ張り、評価を下げた感じです。残念ながら、次回公演があってもまた聴きに行きたいとは正直思わないオケでした。

なお、初日のことはわかりませんが、今日の客入りはイマイチで、ストールの後ろとバルコニーでは空席が目立ちました。


トランペットを立たせるユロフスキ。


ティンパニはともかく、その他の打楽器は音に気遣い、がんばっていました。

ロンドンフィル&ロシアナショナル管/ユロフスキ:英露融和の影で、一杯のコーヒー2012/10/05 23:59

2012.10.05 Royal Festival Hall (London)
Vladimir Jurowski / London Philharmonic Orchestra & Russian National Orchestra
Lawrence Power (Va-2)
1. Tchaikovsky: '1812' Overture
2. Britten: Lachrymae 'Reflections on a song of Dowland' (arr. for viola & strings)
3. Shostakovich: Symphony No. 7 in C 'Leningrad'

前日の続き、「War and Peace」の最終日はLPOとRNOの合同オーケストラです。どちらもユロフスキのオケかと誤解していたのは前に書いた通り。今日は開演前にトラブルが。チケットカウンタの奥側にあるカフェで小腹ごしらえにエスプレッソとブラウニーを買い、ミルクを入れて、砂糖を取ろうと左手を伸ばしたところ、手前にフィルターコーヒーが置いてあり、邪魔で砂糖が取れなかった。持ち主のおばさんと目が合い、砂糖を取りたいと言おうとしたら、何やらぎゃーぎゃーと早口で文句を言ってきます。反対側から右手を伸ばして取れ、というようなことを言っているようで、もしかしてそのおばさんのコーヒーに自分の手や袖が触ってしまったかなと確認するも、どこも濡れていない。触れてないし、ましてやこぼれてもいない、私の手が近づいただけのそのコーヒーを、おばさんは「こんなものもう飲めないわ」と言って私の買ったブラウニーの上に全部ぶちまけて、すたすたと去って行きました。一瞬の、あまりの出来事に唖然。人が買ったものの上にわざわざ熱いコーヒーをぶっかけて行くなんて、何が原因だったとしてもあり得ない仕業です。一見白人のレディだったのに、やっぱり「紳士の国」イギリスには紳士も淑女もおらん、との認識をあらたにしました。

そんなわけでのっけから超悪い気分で望んだ演奏会。気のせいではなく、満員御礼ながらも今日は客筋が悪いというか、演奏中に携帯鳴らすヤツはいるし、楽章の合間でいちいち拍手は出るし、隣席のおっさんは終始すーすーと寝息をかきながら夢ごこち(うるさいっちゅうねん)。とっても落ち着かない演奏会でした。

合同オケは通常の1.5倍はありそうな大編成で、さすがに第一線のプロオケが合体しているので音圧は大したものでした。総練など直前しかやってないでしょうが、弦のボウイングがちゃんと合っていたのは立派です。昨日はヘタレぶりが気になった管楽器も、今日は両者の精鋭トップが肩を並べ競い合う図式になっていたので、打って変わって熟達堅牢なプレイに感心しました。LPOとRNOは元々個性が似ているのか、対立したり火花が散ったりすることもなく、誰がどっちだか区別のつかないくらいに見事に融合していました。

「1812年」は、プロオケで聴いたのはもしかしたら初めてかも。有名だけど取り立てて面白いところもなく、正直つまらん曲です。コージー・パウエルも、何でまたこんな曲に合わせてドラムソロをやってたんだか。この曲のハイライトは最後のほうで出てくるカノン砲ですが、野外コンサートでもない限り録音か電子音で済ませるのが普通です。今日も録音を使ってましたが、スピーカーが貧弱なのか、つぶれてしまって何だか全然分からない音になってました。これなら大口径の大太鼓を思いっきり叩くとかで代用したほうがよっぽど良かった気がします。

ブリテン「ラクリメ」は初めて聴きます。ローレンス・パワーのヴィオラもお初ですが、並外れた技巧を持っていながらもガチガチに整えた感じではなく、あえてユルさも残した、ある意味ヴィオラらしい懐の深い演奏でした。メインの「レニングラード」は、私の印象では前日同様にクソ真面目な演奏。元々冗長な曲なので、息が詰まって、つい眠気も…。前日ひどかった金管も、今日は両者の精鋭がお互いを意識しながら全力を尽くしていたので完成度は高く、この音圧勝負の曲を最後までトップギアで吹き抜いていました。終演後、指揮者が最初に立たせたのは第1楽章で小太鼓の若者、次に打楽器群。もちろん大拍手です。各楽器でLPO、RNO各々のトップがいちいちがっしりと握手する姿はなかなか感動的でした。

前日が短めの演奏会だったのに対し、今日は終演10時の長丁場。1812年かブリテンのどちらかは、正直なくてもよいプログラムだったのでは。それよりも、英露融和をうたうなら、アンコールで威風堂々第1番でもやってお祭り騒ぎのうちにシメて欲しかったです。


コンセルトヘボウ管/ブロッホ/ハルテロス(s):悪魔の夢、死と変容2012/10/11 23:59


2012.10.11 Concertgebouw (Amsterdam)
Alexandre Bloch / Royal Concertgebouw Orchestra, Amsterdam
Anja Harteros (S-2)
1. Johan Wagenaar: Overture 'De getemde feeks' (The taming of a shrew)
2. Richard Strauss: Songs
 1) Allerseelen
 2) Die heiligen drei Könige aus Morgenland
 3) Waldseligkeit
 4) Wiegenlied
 5) Morgen!
 6) Zueignung
3. Jörg Widmann: Teufel Amor, a Symphonic Hymn after Schiller
4. Richard Strauss: Tod und Verklärung

ついについに、念願のコンセルトヘボウに初見参です。RCOはロンドンとブダペストで過去に5度聴いていますが、やはり本拠地で聴けていなかったのが長年の心残りでした。

今回は直前になってヤンソンスが病気のため降板、代役に抜擢されたのが、なんの偶然か、先日見に行ったドナテッラ・フリック指揮者コンクールで優勝したばかりのアレクサンドル・ブロッホ君でした。このはっきり言ってドマイナーなプログラムを変更無しで、短期間でモノにしなくてはならないのですから、よくぞ受けたと思います。そのアグレッシブ姿勢に拍手。聴衆も温かい人が多いのか、指揮者変更にもかかわらずほぼ満員に近い入りでした。


初めて中に入るコンセルトヘボウは、ウィーン楽友協会と同じく反響板無しの靴箱型ホール。ここの特徴はステージがやたらと高い位置にあることと、指揮者の花道がコーラス席の間を通る階段になっていることです。私が好んで買う最前列ど真ん中などという席は首が疲れる上に指揮者の足下くらいしか見えない悪席ということをあらかじめ聞いていたので、今回はバルコニーの席にしました。余談ですがここは歴史的建造物にもかかわらず、トイレは新しく奇麗でした。ロンドンのホール、特にバービカンは是非とも見習って欲しいものです。

1曲目は名前も知らなかったオランダのロマン派作曲家ワーヘナールの、序曲「じゃじゃ馬ならし」。当然シェークスピアを題材にしているわけですが、ロマン派バリバリの明るい曲でした。ブロッホはこのマイナー曲を暗譜で指揮。暗譜が必ずしもえらいわけではないですが、勉強熱心な姿勢は評価できます。棒振りは、気負いが勝っているのかちょっとアクセクしすぎてやり過ぎの感がないでもありません。

続いて、ロンドンではキャンセル魔として知られているアーニャ・ハルテロスのリヒャルト・シュトラウス歌曲集。定番の「4つの最後の歌」かなと思っていたら、全然知らない曲ばかりでした。ハルテロスはブロッホよりも長身で貫禄があり、あまり指揮や伴奏を気にすることなく、自分の世界に没頭するような入り込み歌唱でした。声量は抜群でしたが時々音が怪しく、ビブラートかかり過ぎの歌は正直私の好みではありませんでした。ミドルからスローテンポばかりの歌曲が連続すると、昼間の仕事疲れもあって、つい眠気が…。どうもピンと来なかったので、見栄えが活かせるオペラの舞台で見てみたいものです。

元々はここで休憩が入るはずでしたが、指揮者変更のついでに、何故だかわかりませんが休憩の位置が歌曲選集の後からその次の曲の後に変更になっていました。次のヴィトマン「悪魔の夢」は昨年完成し、今年パッパーノ/ウィーンフィルで初演されたばかりのホヤホヤな新曲。ショートピースかと思いきや、30分以上かかる長丁場の曲でした。冒頭はオケの低音限界を試すかのようなチューバが地鳴りのように響き、脅かしありーの、特殊奏法ありーの、微分音ありーの、何だかやたらといろいろ詰め込んだようなエネルギッシュな曲でした。こんな複雑な新作まで振らされて、アレックス君の対応能力もたいしたもんです。ヤンソンスだったらここまで細かく振ってないだろうから、オケとしてはアレックス君が代役で、やりやすかったかも。

休憩後のメインとしてはちと短い「死と変容」。CDは持っていますが、実はほとんど聴いたことがない…。先入観だけで暗くて地味な曲だと思い込んでましたが、あらためて聴いてみると、ドラマ満載のたいへん美しい曲ですね。オーボエ、クラリネット、フルート等、コンセルトヘボウの木管の名人芸と極上の音色を堪能させてもらいました。オケが協力的だったことも後押しして、ブロッホのバトンテクは相当立派なもので、指揮の技術も度胸も、すでに完成されたものを持っているようです。あとは経験値だけなので、こうやって天下のコンセルトヘボウに代役のオファーが来るくらいだったら、こないだの指揮者コンクール優勝の特典である「1年間のLSO副指揮者待遇」なんて、別に今更やらなくてもいいんじゃないですかねえ。

コンセルトヘボウの聴衆は皆さん優しく、ハルテロスにもブロッホにも、いちいち会場総立ちのスタンディングオベーションでエールを送ります。言わば喝采のインフレ。呼ばれるたびに花道の階段を上り下りする指揮者、ソリストはたいへんですね。何にせよこのホールの音響は素晴らしく、機会があったらまた何度でも来てみたいものです。


どこかドゥダメルを思い出させる風貌のアレックス君。

ROHヤングアーティスツ:バスティアンとバスティエンヌ、モーツァルトとサリエリ2012/10/17 23:59

2012.10.17 ROH Linbury Studio Theatre (London)
Meet the Young Artists Week: Performance
Pedro Ribeiro (Director)

ROHの若手アーティスト達によるミニオペラ2本立て。オペラハウスの地下にあるリンベリー・スタジオには初めて入ります。普段はバレエにしろオペラにしろモダンな演目ばかりやってる印象だったので敬遠していたのですが、今回はモーツァルトがキャリア最初期の12歳で作曲したオペラと、そのモーツァルトの死を題材にしたオペラという面白い取り合わせだったし、これなら18禁ということはなかろうと安心し、家族揃って見に行きました。最初に会場の印象を言うと、ステージが近くて見やすいし、音の通りもよいので、小規模作品の上演にはちょうどよいんではないでしょうか。


1. Mozart: Bastien und Bastienne
Michele Gamba / Southbank SInfonia
Paul Wingfield (Continuo)
Dušica Bijelic (Bastienne), David Butt Philip (Bastien), Jihoon Kim (Colas)

このオペラは6年前にウィーン国立歌劇場の子供向けオペラで観ました。元は太陽が降り注ぐコルシカ島の農村が舞台ですが、この演出では何故か深夜の線路上。羊飼いの娘バスティエンヌはみすぼらしい格好で羊の乗ったトロッコを押して出てきます。歌はくぐもっていて、音程もちょっと危うい。ソプラノよりはメゾに向いてる太さの声です。続いて登場する魔法使いのコラはこれまた浮浪者のような風貌の酔いどれ電気技師。バスティエンヌにちょっかいを出しては肘鉄を食らうという「泉谷しげるキャラ」でしたが、この韓国人は非常に良い声でした。バスティアンも含めて、皆その若さがこの若書きオペラにはマッチしていました。一方のオケはどの場面も淡々と演奏していて、ちっとも盛り上がらない。若いのに熱いものがないのは問題で、技量的にもまだまだ未熟という印象でした。


2. Rimsky-Korsakov: Mozart and Salieri
Paul Wingfield / Southbank SInfonia
Michele Gamba (Continuo)
Pablo Bemsch (Mozart), Ashley Riches (Salieri)
Jette Parker Young Artists (Offstage chorus)

映画「アマデウス」でもお馴染みの、サリエリによるモーツァルト暗殺説は、元をたどればプーシキンの戯曲がルーツだそう(もちろん噂話はサリエリ存命中から存在しました)。その戯曲を原作にしたこのリムスキー=コルサコフのミニオペラも「都市伝説」を流説するのに一役買っています。前半に輪をかけて、大道具のほとんどないシンプルな舞台美術に、登場人物は二人ともスーツにネクタイのビジネスマンルック。彼らを「モーツァルトとサリエリ」だと言われても、やっぱり違和感は思いっきり残ります。また、今日のキャストだとサリエリのほうが全然若くてハンサムに見え、嫉妬する説得力が薄いのも難点でした。歌はどちらもよく通る美声で良かったです。マリオネットを使ってみたり、レーザービームで指だけ光らせる演出は、お金がない中で工夫してがんばっているという感じ。殺風景ですが、よく出来た演出ではありました。

チェコフィル/ビエロフラーヴェク/マルティニーク(Bs):ペトルーシュカ組曲、聖書の歌2012/10/18 23:59


2012.10.18 Dvořák Hall (Prague)
Jiří Bělohlávek / Czech Philharmonic Orchestra
Jan Martiník (Bs-2)
1. Janacek: The Excursions of Mr. Broucek, suite from the opera (arr. J. Smolka)
2. Dvorak: Biblical Songs
3. Stravinsky: Petrushka, suite from the ballet

今年の1月以来、2度目のドヴォルザーク・ホールです。プラハにはしょっちゅう出張で来ているのに、なかなかタイミングは合わないものです。

チェコフィルは今シーズンからビエロフラーヴェクが20年ぶりに首席指揮者の座に返り咲きました。BBC響の首席を今期限りで退くことが決まっているビエロフラーヴェクは、私もロンドンで初めて実演を聴くまで正直地味な指揮者とナメていましたが、バランスよいオケのコントロールとスコアへのリスペクトに加え、熟練の成せる技で音楽を自在に広げられるスケール感に感服いたしました。

1曲目のヤナーチェク「ブロウチェク氏の旅」は全く初めて聴く曲です。そもそもこのオペラの名前すら知りませんでしたが、あらすじを読む限り、月に行ったり、15世紀にタイムスリップしたりと、家族で楽しめそうなファンタジーでありながらも相当にぶっ飛んだストーリー。今回の6曲(導入〜夕暮れ、月のワルツ、夜明け前、夢と現実の狭間、フス派の合唱曲、勝者の凱旋)から成る管弦楽版組曲を聴いても音楽は円熟していてたいへん親しみやすいので、これは是非オペラの公演を見てみたいものだと思いました。

続くドヴォルザーク「聖書の歌」は全10曲で構成される歌曲集。チェコ語の旧約聖書の詩編から歌詞を取った宗教音楽でありながら畏まった雰囲気はなく、ボヘミア民謡牧歌集と呼んでも違和感のない素朴な曲調でした。最後の曲などは「雪やこんこ」のメロディにしか聴こえません。バスの若者ヤン・マルティニークは、そのパヴァロッティのような巨体から、実に良い声を深く響かせていました。歌はまだ未熟なところがあるかもしれませんが、とにかく声が素晴らしい。一瞬でとりこになってしまうような声は天賦のもの、会場総立ちの大拍手も納得です。是非世界の大舞台でどんどん経験を積んでもらいたい(ビエロフラーヴェクがBBC響とチェコのオペラを上演するときにもロンドンまで呼んでいたみたいです)。

メインのペトルーシュカは1947年の版でしたが(1911年版とは管・打楽器の編成が異なり、ティンパニの3連装飾音等に特徴があります)、第4部のクライマックス、ペトルーシュカとムーア人が決闘する場面で唐突に終ったのでガクンと肩透かし。全曲版ではなく、珍しい組曲版だったのでした。当然ラストのトランペットの掛け合いもありません。盛り上がるところでブツっと切ってしまうのは、「中国の不思議な役人」の組曲版と同じですね。ビエロフラーヴェクは淡々とオケを引っ張りますが、変拍子の箇所では聴いていてヒヤヒヤするくらいぎこちがなく、この人変拍子が実は苦手かも、と思ってしまいました。チェコフィルもちょっと後乗りというか反応の重いオケに見えるので、まるで風呂場のように残響の豊かなホールと相まって、分離が悪く切れ味にはいまいち欠ける演奏でした。肝心のピアノもよく聴こえなかったし。ただしチェコフィルの各ソロパートの名人芸は素晴らしいものがあり、特にホルンの力強いことと言ったら。

世界的に名を馳せたチェコ人マエストロの凱旋ですから当然ですが、ビエロフラーヴェクに対する聴衆の高揚度は相当なものでした。終始にこやかで楽団員とも良い雰囲気そうだし、機会がある限りまた聴きに行きたいと思います。

チリー・ゴンザレス/BBC響:ラッパー・ピアニストのエンターテイメント2012/10/20 23:59


2012.10.20 Barbican Hall (London)
Chilly Gonzales (P)
Jules Buckley / BBC Symphony Orchestra
Joe Flory (Ds)

チリー・ゴンザレスはカナダ出身のヒップホッパー、プロデューサー、ソングライターにして、ピアニストでもある多彩な人です。自ら「音楽の天才」を標榜しているようです。会社の同僚が私の誕生日にプレゼントしてくれた「Solo Piano」というCDを聴くまで、実は名前すら知りませんでした。欧米では人気者のようでチケットは早々にソールドアウトでしたが、ある日たまたま1席だけリターンが出ているのを見つけて、面白そうだから思わずゲットしました。

スタインウェイのピアノにはマイクが取り付けられ、ピアノとドラムはPAを通した音になりますから、これは純然たるクラシックの演奏会とはやはり趣きが異なります。最初はスポットライトの下、ナイトガウンにスリッパ履きというリラックスした装いでゴンザレス登場、ピアノソロの曲を数曲弾きました。ボサノバ調の曲では合いの手のように鍵盤の蓋をカツンと胴体に当てたり(スタインウェイが・・・)、右手で和音を上昇させていくときC8の鍵を越えて鍵盤のないところまであえて叩いたり、床に座り込んで鍵盤を見ないで弾くとか、遊び放題。CDを聴いたときも感じたのですが、ピアノ自体は無味無臭で、ジャズの匂いもほとんどありません。「サティの再来」とか言われることもあるようですが、曲はどう聴いてもやっぱりポピュラーの範疇を出るものではなく、サティやショパンと言うよりも、ラテンの入ったリチャード・クレイダーマン。くさすつもりは毛頭ありませんが、ピアニストとしての技量も、真っ当なクラシックのプロ奏者と同じ土俵で論じるものではないでしょう。ただ、自分の表現手段としては自由自在にピアノを駆使していて、演奏は常にインプロヴィゼーション混じりで、それこそがこの人の持ち味かと。従ってCDよりもライブが真骨頂なのでしょうね。

続いてBBC響のメンバーとドラムの若者が登場。ドラムはアクリルの壁でぴっちり隔離されていて(真後ろでガンガン叩かれたら他の奏者がたまらんのでしょうね)、ちょっとかわいそうでした。オケが出てくるとちょっと肩の荷がおりたのか、ゴンザレスはマイクを握ってラッパーに転じます。ひとしきりエネルギーを発散させた後は、子供のころはひねくれていてメジャーの曲をあえてマイナーで弾いたりした、などと言いながら「ハッピー・バースデー」や「フレール・ジャック・マーチ」を短調にしてオケに演奏させてみたり、客席の女の子をステージに上げてスリーノートを弾かせ、それを元に即興してみたり、多彩なエンターテイメントを繰り広げます。

一応メインである彼の「ピアノ協奏曲第1番」は4楽章構成の20分くらいの曲でした。ニューエイジ系の癒される旋律で、形式はいたって単純なポップスの文法に則っていて、ピアノ協奏曲と名打つよりも「ゴンザレス組曲」とでも呼んだほうが内容的には適当でしょう。そうは言っても、前半に演奏してきた我が侭な自己表現と比べたら、すいぶんとよそ行きでかしこまった印象があり、正直あまり面白くなかった。終楽章、即興でやるカデンツが終りそうでなかなか終らず、オケがなかなか入れずに、指揮者も困った顔でいったん振り上げた指揮棒を下ろしてしまったり(実はこれも演出だったのかな?)、遊び心は忘れていませんでしたが。

この後はまたはしゃぐゴンザレスに戻り、チェロ、ヴィオラにクイーン「Another One Bites The Dust」のリフを弾かせて、マイケル・ジャクソン「Billy Jean」のベースラインを木管、ブリトニー・スピアーズ「Toxic」のフレーズをヴァイオリンで各々重ねて(やることのない金管は踊り担当)、自分はラップを歌うとか、客席まで出て行ってボディサーフィン(人ごみの上に乗って滑るように移動する)をやってみたり、普段のバービカンではなかなか見られない光景が新鮮でした。

ちょっと遅めの夜8時に始まったコンサートは、休憩無しのぶっ続け2時間で終ったらもう10時。ちょっと疲れましたが、本人はまだまだエネルギーが有り余っている感じでした。エンターテイナーとしての多才ぶりは確かに天才を自称するだけのことはあるなと。CDをくれた同僚は、彼のピアノソロは好きだけどラップは聴かない(聴きたくない)と言ってましたが、私的にはピアノソロだけではヒーリング過ぎて退屈、多分途中で寝ちゃったでしょう。


ブリテン・シンフォニア:20周年ガラコンサート2012/10/27 23:59


2012.10.27 Barbican Hall (London)
Britten Sinfonia 20th Anniversary Birthday Concert
Britten Sinfonia Voices (1)
Thomas Gould (violin/director-1,2)
Alina Ibragimova (violin-3)
Pekka Kuusisto (violin/director-3,4,7)
Mark Padmore (tenor-4)
Jacqueline Shave (violin/director-5,6)
Joanna MacGregor (piano/director-8,9)
Andy Sheppard (saxophones-9)
Kuljit Bhamra (tabla-9)
Seb Rochford (drums-9)
Tom Herbert (double bass/electric bass guitar-9)
1. Purcell: Hear my prayer, O Lord, Z15
2. Nico Muhly: Looking Forward (world premiere)
3. J. S. Bach: Concerto for Two Violins in D minor, BWV1043
4. Britten: Les Illuminations
5. James MacMillan: One (London premiere)
6. Prokofiev: Symphony No. 1 ‘Classical’
7. Pekka Kuusisto: OMG HBD
8. J. S. Bach: Keyboard (Harpsichord) Concerto No. 5 in F minor, BWV1056
9. Louis 'Moondog' Hardin: Sidewalk Dances, 12 Moondog Pieces (arr. MacGregor)

ブリテン・シンフォニアは昨年12月に聴いて以来です。20周年記念コンサートということで、いったいどんなことになるかわからなかったのですが、ひとえにまだ見たことがないアリーナ・イブラギモヴァ目当てでチケット買いました。

パーセル作曲の賛美歌「我が祈りを聞きたまえ、主よ」で厳かに開始し、そのままニコ・マーリーの委嘱作品へ。マーリーは1981年生まれ、31歳のアメリカ人。パーセルを解体し、自由に展開していってますが、20世紀の「ゲンダイオンガク」の香りはもはやないんですね。聴きやすくてスマートな曲でした。

次のバッハは、待望のアリーナが登場。もう一人のフィンランド人ソリスト、ペッカ・クーシストも、私は知らなかったのですが人気のヴァイオリニストのようで、クラシックに留まらずジャズやクロスオーヴァーもやる人みたいです。指揮者がおらず、ソリストが身振りで合図します。先ほどの現代作品とはオケの音がガラリと変わり、澄んだ響きの端正なバロックになったので感心しました。27歳のアリーナと36歳のクーシスト、二人ともリラックスした演奏で、短調の曲ながら音楽が喜びに溢れています。特にアリーナは表情が目まぐるしくて面白い。二人とも初めて聴きましたけど、私が知らないだけで若手にも才能あふれる人はまだまだいるのだなあと、明るい未来を感じました。

続く「イリュミナシオン」は一昨年LPOで聴いて以来。その時はシェーファーのソプラノでした。17世紀のバッハから20世紀のブリテンまで時代が飛んで、またオケの音にふくよかさが纏わりついてきました。クーシストが一段高くなったコンマスの席に座り、弾き振りをしますが、バッハならともかく、複雑なブリテンまでも指揮者無しでやるとは、合奏にはよほどの自信があるんでしょう。テナーのパドモアは痩せたジャン・レノという感じのスマートなおじさん。取り立ててすごい声というわけではありませんが、表現力豊かな歌唱でした。

ここでコンマスが本来のリーダー、貫禄オバサンのジャックリーンに交代。ジェームズ・マクミランの新作「ワン」は一聴して日本の現代音楽風に感じましたが、実はスコットランドとアイルランド民謡のトランスクリプションがモチーフとのこと。日本とスコットランドは実際、古来の民謡が類似していると指摘されているみたいです。続くプロコフィエフも、シンプルに見えて意外と難しい曲だと思うんですが、指揮者なしでたいへん見事な合奏。相当練習もしてるのでしょうし、ガヴォットなんか、ノリ一発で合わせている感じ。クーシストも何気に最後尾で弾いていましたが、本当に演奏するのが楽しくてたまらないんでしょうね。

休憩を挟み後半1曲目はエレクトリックヴァイオリンのためのソロ曲。ディレイなどのデジタルエフェクトを駆使し、偶然性や即興も入った一期一会の曲ですが、作者でもあるクーシストは忙しくフットペダルを踏みつつ、時々ボリュームも調整しつつ、最後はヴァイオリンをウクレレのように抱えながら口笛で哀愁のメロディを吹くという、面白いけど何だかよくわからない作品でした。

次はマルチなピアニスト、ジョアンナ・マグレガー登場。わずかにウェーブのかかったブロンドヘアにシックな黒のスーツで、落ち着いた感じの彼女もなかなかかっこいい。バッハのハプシコード協奏曲第5番は第2楽章が「バッハのアリオーソ」として有名で、聴けば「あーこれか」と思い出しました。マグレガーの抑制のきいた端正なピアノと、ノンビブラートで本領発揮のオケが再び気分をバロックに引き戻します。

最後はジャズのビッグバンド風組曲で、サックス、ベース、タブラ(インド鼓)がゲストで加わりますが、これらソリストが必ずしも主役というわけではなく、どちらかというとバンドの曲した。タブラが入っているせいでアジアンな香りも強烈に漂ってます。実は初めて名前を聞いたムーンドッグ(まだまだ知らないことだらけだなー、しゅん…)は盲目でありながらニューヨーク6番街で路上生活ミュージシャンをしていたというかなりユニークな人生を歩んだ人だそうです。気持ち良いスイングもあればブルージーなムード音楽もあり、アラブのオアシスも感じて、ごった煮のような組曲でしたが、私は気に入りました。すでにCDを買う気になってます。マグレガーはピアノも良かったですが、シックな装いで指揮する姿がまた異様にカッコ良かったです。ドレッドヘアーに派手なドレスよりも、このほうが絶対いい。

コンサートが終わったのは10時半。演奏会としては長かったけど、なかなか楽しいひとときでした。


上手く撮れませんでしたが、シックな装いがかっこいいマグレガー。

レヴェル422012/10/28 23:59

2012.10.28 Royal Albert Hall (London)
Level 42
Mark King (bass, vocal), Mike Lindup (keyboards, vocal)
Nathan King (guitar), Sean Freeman (saxophone), Pete Ray Biggin (drums)

レヴェル42は80年代にヒット曲を飛ばした、ジャズ・ロックの走りのようなバンドですが、中心メンバーだったマーク・キングとマイク・リンダップ以外はサポートメンバーで、今でも元気にライブ活動を続けております。去年、一昨年は日本にも行っているはず。

7時半開演でしたが、まずは前座でアコースティックギターをかき鳴らす元気のいいロックンロールおねえちゃんで出てきて数曲歌い、少し休憩を挟んで真打ち登場かと思いきや、もう一人のヘッドライナーは、これまたアコースティックギターを抱えたフォークソングのおにいちゃん。5〜6曲歌ってました。その後セットアップでまた時間が開いて、結局本チャンが始まったのはほとんど9時。前座は別に悪くはなかったけど、それを見に来たわけではないので、長過ぎです。

レヴェル42の生ライブを見るのは実は初めて。名物ベースのマーク・キングは、見た目はすっかり老けたオジサンですが、体力はまだまだ衰えていなさそうで、ぴょんぴょん飛び跳ね、声もしっかり出ていました。ベースを構える高さが低くなった(というより普通になった)かな。サポートメンバーは、オリジナルではないとは言え、ギターのネーザン・キング(マークの弟)、サックスのシーン・フリーマンはもう10年以上一緒にやってる人たちです。ドラムだけ比較的新しく、2010年から。みんなそれなりに老けているので、みんなオリジナルメンバーかと思ってしまったのは内緒です。

それにしても音がでかかった。こないだのクイーン+アダム・ランバートよりも大音量で、耳がジンジンしました。会場のロイヤル・アルバート・ホールは日本武道館を一回り小さくしたような会場ですが、音響は武道館よりもむしろ東京ドームに近く、特に今日の席は上のほうのサークルだったので、音がぐわんぐわんと回ってとんでもないことになってました。従って、音楽にじっくり耳を傾けるという環境ではなかったことを最初に宣言しておきます。スタジアムならともかく、何故レヴェル42でここまで音を大きくしないといけないのか。一方で、今はツアーが主な活動みたいなので、照明効果はよくこなれていました。バックに縦長3枚のスクリーンを置き、各種効果映像に混じって時折ヒット曲の当時のビデオクリップを流していましたが、30年近く前の自分らの姿とステージ上で生で対峙するというのは、相当に勇気の要ることではないかと。特にマークは、全然別人と言っていいかもしれない。

見たところ客の年齢層は高く、若い人はほとんど見ませんでした。最後のほうでSun Goes Down、Something About You、Hot Waterといったヒット曲が連発すると、オジサンオバサン踊りまくり。ディスコ世代なんですねえ。などと思いながらサークル席前列に座って下界を見下ろしておりました。ふと周りの客席を見渡すと、ベースのスラッピングを真似ている人の何と多いことか(笑)。ほとんどの人はマークのベースを見に来ているのですから、気持ちは分かります。何にせよ彼のベース弾き語りはまだまだ健在であることを確認できただけでも収穫でした。あと5〜6年は大丈夫でしょうけど、次はマークのソロプロジェクトをRonnie Scott'sあたりでじっくり聴くのが正解な気がします。

Set List:
Lessons In Love
Children Say
Running In The Family
It's Over
To Be With You Again
Two Solitudes
Fashion Fever
The Sleepwalkers
Freedom Someday
---
All I Need
Out of Sight Out of Mind
Guaranteed
---
Heathrow
The Sun Goes Down (Living It Up)
Starchild
Something About You
Hot Water
---
Love Games (Bass solo introduction)
Heaven in My Hands