ロシア・ナショナル管/ユロフスキ:「戦争と平和」にまつわる英露のシンフォニー2012/10/04 23:59

2012.10.04 Royal Festival Hall (London)
Vladimir Jurowski / Russian National Orchestra
1. Vaughan Williams: Symphony No. 6 in E minor
2. Prokofiev: Symphony No. 5 in B flat

今シーズン最初のフェスティヴァル・ホールです。これは「War and Peace」と題する3日間のミニシリーズで、前日の初日がLPOでブリテン「鎮魂交響曲」、ウォルトンVa協奏曲、プロコフィエフ「戦争と平和」抜粋、この日がRNOによるプロコフィエフ5番とヴォーン・ウィリアムズ6番、翌日の最終日はLPOとRNOの合同オーケストラによる1812年序曲に「レニングラード」という、ロシアをメインに据えながらイギリスものを添えるというプログラム構成です。指揮は全てウラジーミル・ユロフスキ。これが誤解の元だったのですが、RNOすなわちロシア・ナショナル管弦楽団は20年前プレトニョフが自分のために作ったオケのほうですね。ロシアにはもう一つ、似た名前でロシア国立交響楽団(旧ソヴィエト国立交響楽団)というスヴェトラーノフとの膨大な録音で世界的に著名なオケもあって、ここの首席指揮者が現在ユロフスキなので、私はてっきり今回のロシア側のオケはロシア国立響だとすっかり思い込んでおりました。ユロフスキはRNOの指揮者リストにも入っていますが、扱いは客演指揮者の一人であって、RNOの首席は今でもプレトニョフです。だとすると逆に、今回の企画でユロフスキがどうして自分のオケではなくRNOをブックしたのだろうかという疑問が頭に浮かびましたが、どちらにしろ私は初めて聴くオケですし、RNOはグラモフォン誌が2008年に選出した「世界最高の交響楽団トップ20」で15位にランクインしており興味があったので、ロシアに行かずとも聴く機会ができてラッキーでした。

ところが、今日の演奏会はどうも気持ちが乗っかれない。このところ忙しくて疲れ気味というのを差し引いても、心に響いてくるものが少ない演奏会でした。1曲目のヴォーン・ウィリアムズ第6番は第二次世界大戦末期に着手され、ショスタコーヴィチばりの金属的な不協和音のおかげで「戦争交響曲」とも呼ばれている作品。よく考えたらイギリスに住んでいながらヴォーン・ウィリアムズの曲を演奏会で聴くのは初めてです。演奏はユロフスキの気配りが隅々まで行き届いたもので、標題音楽ではないけれども、戦争の激しさと愚かさ、結果として残された焼け野原に平和の希望の火が灯る様がストレートに表現されていました。ただ、冒頭からして今日はちょっと乗れないなと思ってしまったのは、金管とティンパニの音が汚いこと。弦は力強く、木管もオーボエを筆頭になかなか滋味溢れる音を出しており、野暮ったい音がしないという点では優秀なオケではあるんでしょうが、取り立てて目を引く個性があるわけでもなく、金管はデリカシーのない音で、特にトランペットは体調が悪いのか、ステージの上で思いっきり咳をしていました。

メインのプロコフィエフ第5番も同じく戦争末期に作られた曲で、戦争の悲愴さが影を落としてはいるものの、内容はずいぶんと祝賀的で官能的です。私はLPOをあまり聴きに行かないのでユロフスキもまだそんなに聴いてないですが、生真面目にちょっとヘンテコな演奏をする人、という印象でした。今日はそのヘンな部分はほとんど感じられず、コツコツと細部を磨き上げた直球勝負。おかげでやっぱり心に引っかからない演奏でした。濁った金管がなりを潜めている第3楽章前半が相対的には良かったです。私的にはとにかく金管が足を引っ張り、評価を下げた感じです。残念ながら、次回公演があってもまた聴きに行きたいとは正直思わないオケでした。

なお、初日のことはわかりませんが、今日の客入りはイマイチで、ストールの後ろとバルコニーでは空席が目立ちました。


トランペットを立たせるユロフスキ。


ティンパニはともかく、その他の打楽器は音に気遣い、がんばっていました。