LSO/ドナテッラ・フリック欧州指揮者コンクール ― 2012/09/30 23:59
2012.09.30 Barbican Hall (London)
Donatella Flick LSO Conducting Competition 2012: Final
Finalists:
A. Ben Gernon British, Age 23
B. Stamatia Karampini Greek, Age 34
C. Alexandre Bloch French, Age 27
London Symphony Orchestra
1. Weber: "Der Freischütz" Overture
Performed three times, conducted in turn by each finalist
2. Debussy: La mer
2-1) De l'aube à midi sur la mer (From dawn to noon on the sea)
Stamatia Karampini (Conductor)
2-2) Jeux de vagues (The play of the waves)
Alexandre Bloch (Conductor)
2-3) Dialogue du vent et de la mer (Dialogue of the wind and the sea)
Ben Gernon (Conductor)
3. Prokofiev: Romeo and Juliet – Suites Nos 1 & 2
3-1) Suite 1, No. 4: Minuet
3-2) Suite 2, No. 6: Dance of the Antilles Girls
3-3) Suite 1, No. 7: Death of Tybalt
Alexandre Bloch (Conductor)
3-4) Suite 1, No. 2: Scene
3-5) Suite 2, No. 2: Juliet the Young Girl
3-6) Suite 1, No. 5: Masks
Ben Gernon (Conductor)
3-7) Suite 2, No. 4: Dance
3-8) Suite 2, No. 7: Romeo at Juliet's Grave
3-9) Suite 2, No. 1: Montagues and Capulets
Stamatia Karampini (Conductor)
27日のデイヴィス85歳記念コンサート第1弾は肝心要のデイヴィス翁と、さらには内田光子まで体調不良でキャンセルになってしまったため当然の如くチケットをリターン(目当てはルプーだったので彼さえ出てくれれば良かったんですがねえ、何で一緒にキャンセルするんだか)、今日が今シーズンのLSO開幕になります。
我ながら物好きとは思いつつも、この日は通常の演奏会ではなくDonatella Flick指揮者コンクールの最終選考会。1990年以来隔年で開催されており、パトロンはチャールズ皇太子です。応募資格はEUに国籍を持つ35歳以下の若者で、優勝者は賞金15000ポンドとLSOのアシスタントコンダクターのポジションを得ます(1年間)。不勉強ながら私はこのコンクールを知らなかったのですが、過去の優勝者の顔ぶれを見ても正直知らない人がほとんどです。
審査委員長はLSOチェアマンのマッケンジー。今年の審査員はコリン・デイヴィス(病欠しましたが)、パッパーノ大将、ニコラス・ズナイダー、イモゲン・クーパーに、LSOの首席奏者2名、聖チェチーリア音楽院の芸術スタッフが加わっています。審査員の顔ぶれは他の指揮者コンクールと比べても豪華なほうだと思います。まず、ビデオ選考で選抜された20名がロンドンで3日に渡り行われる最終選考会に進みますが、最初の2日間はギルドホール音楽演劇学校のオケを相手にリハーサルおよび指揮する様子を審査されます。初日はモーツァルトのプラハ交響曲、シューベルトの未完成などが課題に出され、そこで10名がふるい落とされます。2日目は協奏曲(ヴァイオリン)、オペラのレチタティーヴォ、コンテンポラリーの新作といったより幅の広い対応が求められ、勝ち抜いた3名がバービカンでLSOを振る最終選考会に臨みます。ファイナリストは23歳イギリス人のベン・ジャーノン、34歳ギリシャ人の紅一点スタマティア・カランピニ、27歳フランス人のアレクサンドル・ブロッホ。若いベン君はともかく、他の二人はすでに国際プロ指揮者としてのキャリアをそれなりに積んでいるようです。
1曲目は「魔弾の射手」序曲を順番に3回演奏するという趣向。そう言えばこの曲は昔部活でやったっけなあ、と懐かしく思い出しました。指揮者コンクールというものを見るのは実は初めてだったのですが、これはなかなかジャッジの難しい競技会です。ファイナリストに残るくらいだからバトンテクは皆さんもちろん一様に申し分なく、解釈においても著しく個性的な人はいません。指揮者が交代してさっきとは音が変わったなという引っかかりは感じても、それが指揮者の所業なのか、オケの演奏のムラなのか、素人には見通す力が足りません。多分プロはプロの見方があるんでしょうけど。
トップバッターのベン君はテンポにメリハリを付けた熱い演奏でしたが、アインザッツの乱れがあって多少荒いという印象。「肝っ玉母さん」という雰囲気のスタマちゃんは(実際に母親なのか、既婚かどうかも知りませんが)、落ち着いた進行に柔らかい肌触りの、経験を感じさせる中庸の演奏。最後のアレックス君は細身の身体に肘の高い腕の振りがダイナミックで、実際にはベン君とさほど身長は変わらないのにかなり長身に見えます。3番手という有利もあったのでしょうが、この人が一番自然な音をオケから引出し、ドライブも上手く、完璧なプロポーションで曲の起伏を作っていました。面白かったのは、3人が3人とも、序奏の後やコーダ手前ではテンポ前のめりで突っ込んでいたことで、これなどは1番手のベン君のドライブをオケのほうが後の人にも引きずってしまった結果ではなかろうかと。何にせよ、同じ曲を連続して演奏するときは気持ちの上でも最初と最後が得、真ん中はちょっと損ですね。
2曲目のドビュッシー「海」は、3つの楽章を分け合って一人ずつ指揮します。今度は逆に、曲想的には第2曲が一番盛り上げやすくて得だったんじゃないかと個人的に思いましたが、まあそのへんのくじ運の差異はもちろん考慮しつつ審査されるんでしょう。しかし、フェアな感想として2番手のアレックス君が最も多彩な色彩感を持っていたのも事実で(というより他の二人はカラフルとは言い難い演奏だった)、フランス人の彼にとって「ご当地もの」だったのも良かったでしょう。最後の「ロメオとジュリエット」でもくじ運の当たり外れがありそうでした。最初と最後の要所を2曲も含む3番手スタマちゃん、最も劇的なクライマックスの「ティボルトの死」をゲットした1番手アレックス君と比べて、2番手のベン君は音楽だけで聴かせるにはちときつい場面ばかり、割を食いました。
全員の演奏終了後、審査員が結論を出すまでの間に、初日から3日目のLSOとのリハに至るまでの様子をインタビューを交えて編集した20分くらいのビデオが上映され、その後さらに10分ほど待たされて、ようやく結果発表と表彰の式典が始まりました。私の評価では、全ての曲において演奏にしなやかさとしたたかさが最もあったのは鉄板でアレックス君。この中から一人選べと言われたら彼しかないと思ったら、審査結果もやっぱりその通りでした。モジャモジャ頭がどこかドゥダメルを髣髴とさせる明るく朴訥な雰囲気は、使いようによっては面白いキャラかも。今後ロンドンで是非活躍してもらいたいものです。ベン君はいろんな意味でまだ若かった。スタマちゃんは後で調べると、昨年の有名なブザンソン国際指揮者コンクールでも3人のファイナリストに残った実力者でしたが、垣内悠希さんに優勝をさらわれました。今回またしても後一歩のところで優勝を逃し、年齢的に言ってもさぞ悔しかったと思いますが、すでにプロ指揮者としてのキャリアは重ねているわけだから、これをバネに一皮向けてくれたらと思います。
Donatella Flick LSO Conducting Competition 2012: Final
Finalists:
A. Ben Gernon British, Age 23
B. Stamatia Karampini Greek, Age 34
C. Alexandre Bloch French, Age 27
London Symphony Orchestra
1. Weber: "Der Freischütz" Overture
Performed three times, conducted in turn by each finalist
2. Debussy: La mer
2-1) De l'aube à midi sur la mer (From dawn to noon on the sea)
Stamatia Karampini (Conductor)
2-2) Jeux de vagues (The play of the waves)
Alexandre Bloch (Conductor)
2-3) Dialogue du vent et de la mer (Dialogue of the wind and the sea)
Ben Gernon (Conductor)
3. Prokofiev: Romeo and Juliet – Suites Nos 1 & 2
3-1) Suite 1, No. 4: Minuet
3-2) Suite 2, No. 6: Dance of the Antilles Girls
3-3) Suite 1, No. 7: Death of Tybalt
Alexandre Bloch (Conductor)
3-4) Suite 1, No. 2: Scene
3-5) Suite 2, No. 2: Juliet the Young Girl
3-6) Suite 1, No. 5: Masks
Ben Gernon (Conductor)
3-7) Suite 2, No. 4: Dance
3-8) Suite 2, No. 7: Romeo at Juliet's Grave
3-9) Suite 2, No. 1: Montagues and Capulets
Stamatia Karampini (Conductor)
27日のデイヴィス85歳記念コンサート第1弾は肝心要のデイヴィス翁と、さらには内田光子まで体調不良でキャンセルになってしまったため当然の如くチケットをリターン(目当てはルプーだったので彼さえ出てくれれば良かったんですがねえ、何で一緒にキャンセルするんだか)、今日が今シーズンのLSO開幕になります。
我ながら物好きとは思いつつも、この日は通常の演奏会ではなくDonatella Flick指揮者コンクールの最終選考会。1990年以来隔年で開催されており、パトロンはチャールズ皇太子です。応募資格はEUに国籍を持つ35歳以下の若者で、優勝者は賞金15000ポンドとLSOのアシスタントコンダクターのポジションを得ます(1年間)。不勉強ながら私はこのコンクールを知らなかったのですが、過去の優勝者の顔ぶれを見ても正直知らない人がほとんどです。
審査委員長はLSOチェアマンのマッケンジー。今年の審査員はコリン・デイヴィス(病欠しましたが)、パッパーノ大将、ニコラス・ズナイダー、イモゲン・クーパーに、LSOの首席奏者2名、聖チェチーリア音楽院の芸術スタッフが加わっています。審査員の顔ぶれは他の指揮者コンクールと比べても豪華なほうだと思います。まず、ビデオ選考で選抜された20名がロンドンで3日に渡り行われる最終選考会に進みますが、最初の2日間はギルドホール音楽演劇学校のオケを相手にリハーサルおよび指揮する様子を審査されます。初日はモーツァルトのプラハ交響曲、シューベルトの未完成などが課題に出され、そこで10名がふるい落とされます。2日目は協奏曲(ヴァイオリン)、オペラのレチタティーヴォ、コンテンポラリーの新作といったより幅の広い対応が求められ、勝ち抜いた3名がバービカンでLSOを振る最終選考会に臨みます。ファイナリストは23歳イギリス人のベン・ジャーノン、34歳ギリシャ人の紅一点スタマティア・カランピニ、27歳フランス人のアレクサンドル・ブロッホ。若いベン君はともかく、他の二人はすでに国際プロ指揮者としてのキャリアをそれなりに積んでいるようです。
1曲目は「魔弾の射手」序曲を順番に3回演奏するという趣向。そう言えばこの曲は昔部活でやったっけなあ、と懐かしく思い出しました。指揮者コンクールというものを見るのは実は初めてだったのですが、これはなかなかジャッジの難しい競技会です。ファイナリストに残るくらいだからバトンテクは皆さんもちろん一様に申し分なく、解釈においても著しく個性的な人はいません。指揮者が交代してさっきとは音が変わったなという引っかかりは感じても、それが指揮者の所業なのか、オケの演奏のムラなのか、素人には見通す力が足りません。多分プロはプロの見方があるんでしょうけど。
トップバッターのベン君はテンポにメリハリを付けた熱い演奏でしたが、アインザッツの乱れがあって多少荒いという印象。「肝っ玉母さん」という雰囲気のスタマちゃんは(実際に母親なのか、既婚かどうかも知りませんが)、落ち着いた進行に柔らかい肌触りの、経験を感じさせる中庸の演奏。最後のアレックス君は細身の身体に肘の高い腕の振りがダイナミックで、実際にはベン君とさほど身長は変わらないのにかなり長身に見えます。3番手という有利もあったのでしょうが、この人が一番自然な音をオケから引出し、ドライブも上手く、完璧なプロポーションで曲の起伏を作っていました。面白かったのは、3人が3人とも、序奏の後やコーダ手前ではテンポ前のめりで突っ込んでいたことで、これなどは1番手のベン君のドライブをオケのほうが後の人にも引きずってしまった結果ではなかろうかと。何にせよ、同じ曲を連続して演奏するときは気持ちの上でも最初と最後が得、真ん中はちょっと損ですね。
2曲目のドビュッシー「海」は、3つの楽章を分け合って一人ずつ指揮します。今度は逆に、曲想的には第2曲が一番盛り上げやすくて得だったんじゃないかと個人的に思いましたが、まあそのへんのくじ運の差異はもちろん考慮しつつ審査されるんでしょう。しかし、フェアな感想として2番手のアレックス君が最も多彩な色彩感を持っていたのも事実で(というより他の二人はカラフルとは言い難い演奏だった)、フランス人の彼にとって「ご当地もの」だったのも良かったでしょう。最後の「ロメオとジュリエット」でもくじ運の当たり外れがありそうでした。最初と最後の要所を2曲も含む3番手スタマちゃん、最も劇的なクライマックスの「ティボルトの死」をゲットした1番手アレックス君と比べて、2番手のベン君は音楽だけで聴かせるにはちときつい場面ばかり、割を食いました。
全員の演奏終了後、審査員が結論を出すまでの間に、初日から3日目のLSOとのリハに至るまでの様子をインタビューを交えて編集した20分くらいのビデオが上映され、その後さらに10分ほど待たされて、ようやく結果発表と表彰の式典が始まりました。私の評価では、全ての曲において演奏にしなやかさとしたたかさが最もあったのは鉄板でアレックス君。この中から一人選べと言われたら彼しかないと思ったら、審査結果もやっぱりその通りでした。モジャモジャ頭がどこかドゥダメルを髣髴とさせる明るく朴訥な雰囲気は、使いようによっては面白いキャラかも。今後ロンドンで是非活躍してもらいたいものです。ベン君はいろんな意味でまだ若かった。スタマちゃんは後で調べると、昨年の有名なブザンソン国際指揮者コンクールでも3人のファイナリストに残った実力者でしたが、垣内悠希さんに優勝をさらわれました。今回またしても後一歩のところで優勝を逃し、年齢的に言ってもさぞ悔しかったと思いますが、すでにプロ指揮者としてのキャリアは重ねているわけだから、これをバネに一皮向けてくれたらと思います。
左からアレックス君、スタマちゃん、ベン君。
優勝者をハグで祝福するベン君。
左が創立者のドナテッラ・フリックさん。
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