クリスティアン・テツラフ(vn):バッハ「シャコンヌ」は、ひとり地球交響楽2012/09/19 23:59


2012.09.19 Wigmore Hall (London)
Christian Tetzlaff (Vn)
1. Sonata No. 2 in A minor for solo violin BWV1003
2. Partita No. 2 in D minor for solo violin BWV1004
3. Sonata No. 3 in C major for solo violin BWV1005
4. Partita No. 3 in E major for solo violin BWV1006

プロムスも終わり、2012/2013シーズンの幕開けです。今年の初っ端は自分でも意外なことに、昨年に引き続き室内楽。ロンドンに来てからすっかりお気に入り、クリスティアン・テツラフのソロヴァイオリン演奏会です。普段はめったに聴かないバッハです。しかも今日は、ロンドン在住3年を超えて、何と初のウィグモアホール。評判通り、大きさ、音響、客層、アクセス、どれを取っても小編成の楽隊には願ってもないホールでしょう。

今まで聴いた、コンチェルトを弾いているときのテツラフの印象は、技術は穴なく完璧で、呼吸をするかのように自然な(わざとらしさが一切ない)ヴァイオリンを弾く人だったのですが、ピアノ伴奏すらないソロのリサイタルを至近距離で聴くと、乗ってくれば意外と音は荒いし、音程も時々ビミョーに揺らぐ、人間らしい奏者なのだなあというのが新鮮な発見でした。元々この人は、もちろんめちゃめちゃ上手いので毎回舌を巻くのですが、決して技術の完璧さで勝負はしていません。全身を上下左右に揺らしつつ、雄弁に語るヴァイオリンの説得力と表現力は群を抜いているし、しかもたいへんユニークです。

前半の最後、パルティータ第2番終曲の有名な「シャコンヌ」は、とりわけ劇的としか言いようがない一大叙事詩。暗く悲痛な叫びで始まり、激しくひとしきり燃え上がった後は、焼け野原からオーラが立ち上り、人間の営みがまた復興して行く様が目の前にまざまざと広がりました。言うなれば、ひとり地球交響楽(ガイア・シンフォニー)。冗談抜きで、是非テツラフにはこの希望を与える音楽を震災被災地の人に生で聴かせてあげて欲しい、と思いました。

後半は明るく軽めに、卓越した技術を惜しげもなく披露し、速いパッセージはとことん速く、肩の力を抜いた演奏。ソナタ第3番のフーガなんかも、分身の術のように見事に弾ける人は他にもいるはずですが、テツラフは曲芸に走らず、男の筋を通すかのように「一奏者」にこだわった演奏。休憩はさんで2時間、こんだけ弾いたらさすがのテツラフでも披露困憊で、アンコール無しでした。



おまけ、Selfridgesデパートの入り口にそびえ立つ草間彌生。