2012プロムス75:ハイティンクが引き出した、本流のウィーンフィル2012/09/07 23:59


2012.09.07 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 75
Bernard Haitink / Wiener Philharmoniker
1. Haydn: Symphony No. 104 in D major, 'London'
2. R. Strauss: An Alpine Symphony

今年のプロムス最後は、6月にもラトルと来たばかりのウィーンフィル。指揮はロンドンではお馴染みのハイティンクですが、レパートリーが硬直化していて(若くしてコンセルトヘボウの常任だったころは、もっと節操なく何でもやってレコード出していたと思うんですけどねえ)、どのオケを振ってもブルックナー、マーラー、ベートーヴェン、シューベルトばかり繰り返しやってる気がするので、今日の「アルプス」みたいな機会はなかなか貴重です。

コンマスはキュッヒル。やはりこの人が座っているとウィーンフィルの音も一段ときりっとしてる気がします。1曲目のハイドン「ロンドン」は、実はほとんど初めて聴く曲でした。仕掛けも何も無い直球勝負は実はハイティンクの決め球で、いかにもウィーンフィルらしい、きめ細かく柔らかい音が素晴らしいです。楽友協会という普段から残響の長いホールで演奏しているからか、アルバートホールみたいな箱でも響かせ方をちゃんと心得ているように見受けられました。


メインの「アルプス交響曲」は先ほどのハイドンと違い、いくらウィーンフィルと言えど放っておいても勝手に演奏してくれる曲ではありません。ハイティンクはその点、道を見失わないしっかりとした足取りで、ストレートにオケを牽引していました。冒頭からして金管の弱音が渋過ぎ、先日同曲を聴いたシモン・ボリバルとはやっぱり雲泥の差です。木管のソロも余裕で惚れ惚れする素晴らしさで、ウィーンフィルの「楽器」としての優秀さを再認識しました。それに、ハイティンクの動じない風林火山ぶりはタダモノではなく、大きなエンヴェロープの中で細かく揺れ動く起伏が過不足無く配置され、俯瞰した登山の全体像をパーフェクトに表現していました。見たことないようなどでかいサンダーシート(要は大きい鉄板ですが、狭い楽友協会のステージにこのサイズは乗らないのでは?)をガタガタと揺らす様は、ビジュアル的にも見物でありました。さすがのウィーンフィルも最後はちょっと息切れ気味でしたが、こないだのラトル以上に、ウィーンフィルらしい音楽を聴けたなあという満足感でいっぱいでした。

ハイティンクとしては珍しくアンコールがあり、ウィーンらしくシュトラウス二世の「春の声」。これなんか、ハイティンクは実質ほとんど何も指示してないですよね。どこの一流オケを振っても皆協力的で一緒に音楽を作ってくれる、晩年のハイティンクは今一番幸せなポジションにいるのではないかと思いました。


でかいサンダーシート。