2012プロムス71:らしくないベートーヴェンと、スイングしないガーシュイン2012/09/04 23:59


2012.09.04 Royal Albert Hall (London)
BBC Proms 2012 PROM 71
David Robertson / St Louis Symphony
Christian Tetzlaff (Vn-2)
1. Brahms: Tragic Overture
2. Beethoven: Violin Concerto in D major
3. Schoenberg: Five Orchestral Pieces, Op. 16
4. Gershwin: An American in Paris

テツラフ目当て一点張りで来ました。セントルイス響はNYPに次いで米国で2番目に古いオケだそうですが私的にはマイナーで、「スラットキンのオケ」という情報の記憶が残っているくらいで、演奏を聴くのは多分初めてです。現在の首席指揮者はロバートソン。この人のプログラムのセンスはちょっとビミョーで、今日のブラームス、ベートーヴェン、シェーンベルク、ガーシュインというセットも多分「ドイツ音楽本流→新ウィーン楽派からアメリカ移住→アメリカ音楽の元祖」という流れを頭に描いたのだと思いますが、だとしたらシェーンベルクはもっと別の選曲になるべきだろうし、結局ごちゃごちゃして何だかわけがわかりません。

1曲目の「悲劇的序曲」、ロバートソンの明快な指揮から導かれるのは想像通りアメリカンな、軽くて明るい音。弦のアインザッツはきちんと合っていて、良いトレーナーぶりが伺えます。ブラスは時々外しますが、日本のオケに比べたら全然馬力があってまともです。今年聴いたブダペスト祝祭管のある種ぶっ飛んだ演奏と比べると、危なげない、でも普通過ぎて面白みのない演奏でした。

続いて待望のテツラフ。ベートーヴェンのコンチェルトは元々馴染みのない曲で、2004年にブダペストフィルの演奏会を聴いて以来、多分一度も聴いていません。ですので世間的な良し悪しは全然語れませんが、その私にしても何とか理解できたのは、テツラフのベートーヴェンがかなり異色なこと。いつものようにと言えばそうなんですが、極めて繊細にコントロールされたフレーズが独自の呼吸を持ち、時空を超えて、20、いや、21世紀の音楽のように耳に響いてきます。オケは相変わらず軽いし、ドイツ的質実剛健からは全然「らしく」ないベートーヴェンでした。第1楽章のカデンツァはティンパニとの掛け合いが物珍しくて新鮮でしたが、後で調べると、これはピアノ編曲版からの転用なんですね。何にせよ、このだだっ広いホールにテツラフのデリケートなヴァイオリンは合わないなあと。アンコールはバッハのソナタからの選曲。息をするように自然に音を紡いでいくテツラフ節に、すっかり参りました。というわけで、今月のウィグモア・ホールのソロコンサートへ期待は益々高まるのでした。


休憩後のシェーンベルク「5つの管弦楽曲」は全く初めて聴く曲でした。もう無調の作風に突入している年代の作曲ですが、この曲はまだ調性に名残を持っていて、無調を装った後期ロマン派音楽の様相で、ヴェーベルンの「6つの管弦楽曲」を先取りしたような感覚も覚えます。今のところ、好きでも嫌いでもない、あまり尾を引かない曲、としか言いようがない。もっと繰り返し聴かないと身体にすっと入ってこないかな…。

最後の「パリのアメリカ人」は、昔部活でオケをやってたとき、いつもベートーヴェン、ブラームス、ドヴォルザークばかりじゃなくて、せめてこのくらいの曲にチェレンジしてみないかと周囲の説得を試みたがあえなく却下された思い出深い曲ですが、あらためて聴いてみると、めちゃめちゃたいへんな曲やん。若気の至りとは言え相当無謀なことを主張していたのだなと、今更ながら反省しました。しかし今日の演奏は、音楽が全然スイングしてなくて、いただけなかった。ロバートソンは真剣な顔つきで終始まるでシンフォニーのように棒をカクカクと振りまくり、この曲からスイングの要素を取り去ってしまったのは、ある意味画期的にユニークな演奏だったのかも(笑)。極めて真面目な人なんでしょうねえ。でも、こんなのはガーシュインじゃねえ、とちゃぶ台をひっくり返す自分をつい思い浮かべました。そんな中でもがんばって気を吐いていたのが、布製の変わったミュートを駆使していたトランペット。アンコールは「キャンディード」序曲でアメリカらしく能天気に(偏見か?)シメました。


奏者を讃えるロバートソン。この人も微妙だなあ…。