LSO/K.ヤルヴィ:キャンディード(演奏会形式)2011/06/05 23:59



2011.06.05 Barbican Hall (London)
Kristjan Järvi / London Symphony Orchestra
Andrew Staples (Candide), Kiera Duffy (Cunegonde)
Kim Criswell (Old Lady), Marcus Deloach (Maximilan, Captain)
Jeremy Huw Williams (Pangloss, Martin), Kristy Swift (Paquette)
David Robinson (Governer, Vanderdendur, Ragotski)
Jeffrey Tucker (Bear Keeper, Inquisitor, Tzar Ivan)
Matthew Morris (Cosmetic Merchant, Inquisitor, Charles Edward)
Jason Switzer (Doctor, King Stanislaus)
Michael Scarcelle (Junkman, Inquisitor, Hermann Augustus, Croupier, Señor I)
Peter Tantsits (Alchemist, Inquisitor, Sultan Achmet, Crook, Señor II)
Rory Kinnear (Narrator), Thomas Kiemle (Director)
London Symphony Chorus
1. Bernstein: Candide

このところフィオナちゃん、いやいや、マゼールチクルスのおかげでサウスバンクばかり行っていたので、バービカンもLSOも何と3ヶ月ぶりです。

本日はバーンスタインの代表作「キャンディード」の全曲演奏会。序曲は飽きるほど聴いていますが、全体のあらすじを実はよく知りませんでした。しかし、佐渡裕のヤング・ピープルズ・コンサートでも取り上げていたくらいだし楽勝で子供向けだろうと思っていたら、昔NHK BSから録画して放置していたDVD(NYPのコンサートパフォーマンス)を予習のためどれどれと見てみて、超びっくり。何と言う不道徳で、支離滅裂荒唐無稽なお話であることよ。まあ明らかに寓話ですが、とても子供に進んで見せるような内容ではないので、案の定会場に子供の姿はうちの子以外ほとんど見かけませんでした。

指揮はクリスチャン・ヤルヴィ。彼の家系はユロフスキ家と同じく、お父ちゃん(ネーメ)もお兄ちゃん(パーヴォ)もみんな現役指揮者なんですね。ユロフスキ家はなんとか3人とも実演に接しましたが、ヤルヴィ家は今回のクリスチャンが初めてです。サロネンの弟子だそうですが、確かに指揮している後ろ姿はよく似ています。それに、何と言っても若い!高速のテンポで勢いよく開始しましたが、オケがちょっとまだエンジン暖まってない感じ。序曲はバランスが悪く、ぎこちなかったです。アンバランスに感じたのは、もしかしたらマイクがオケの音も拾っていたからかも。

今日はコンサートパフォーマンスですが、一応演出家がいて、歌手やコーラスは小芝居を交えて歌い、ナレーターは軽妙にアドリブギャグを飛ばして笑いを取ります。アマチュアとは言え天下のロンドン交響合唱団も、年齢層の高いメンバーがちょっと照れながらも楽しそうに演技していました。歌手はマイクを使っていましたが、かぶりつき席だったので生声もよく聴こえました。キャンディード役のステイプルズは若々しく色のついてない美声のテナーで、容姿はともかく、歌は非常にハマっていました。マクシミリアンのデローチはナルシストのいっちゃってる感じがよく出ている危ないキャラクターで、この二人は多分マイク要らないくらいの声量でした。パケット役スィフトは声が弱くよく聴こえませんでしたが(そもそも出番も極端に少ない)、クネゴンデとパングロス博士の声量はまずまず。オールドレディ役のキム・クリスウェルは一人だけミュージカル畑のようで、確かに声がハスキーだし、他の歌手とは歌の土俵がそもそも違うという感じです。喉の調子がちょっと悪そうでしたので、いずれにせよマイク必須でしたね。歌手陣はマイクのおかげで音が割れるくらいにうるさく感じましたが、全体的にオケも合唱もがんがん鳴っていたので、後方の席だったらマイクがないと歌手の声だけよく聴こえなかったかもしれません。

普段聴きに行くクラシックのコンサートやオペラは原則生音勝負なので、マイクを通した歌には多少違和感を感じてしまいますが、この演目だったらこれはこれで良いのかなとも思いました。「キャンディード」の音楽はやっぱり、オペラ側よりむしろ相当ミュージカル側に寄っています。これをオペラと見立ててマイクなしで上演することもできたでしょうが、その場合はオケを相応にコントロールしなくてはならないし、歌手陣が皆意識してオペラチック、ドラマチックな歌い方になってしまい、喜劇とはいえ雰囲気は別ものに変わっていたでしょうね。そういえば予習で見たNYPのコンサートパフォーマンスでも、パングロス博士兼ナレーターのトマス・アレン卿以外はブロードウェイのミュージカル系歌手を揃えていましたっけ。

クネゴンデ役のアメリカ人ソプラノ、キーラ・ダフィーはヒロイン向きの細身の美人で、METでも活躍してるそうな。ただしこの役にしては雰囲気が生真面目過ぎる印象。この劇のハイライトとなる第1幕終盤の難曲「Glitter and a gay」はコロラトゥーラらしい高音をきれいに響かせ、たいそう立派な歌唱でした。ちょっと線が細い感もありましたので、「夜の女王」には物足りないかも。

パングロス博士のジェレミー・ヒュー・ウイリアムズは、役のイメージにしては繊細すぎる気もしましたが、もう一つの役であるマーティンの「Words, words, words」(別名MartinのLaughing Song)では性格俳優の一面をいかんなく発揮。ねちねちとした熱唱のあまり、最前列までツバが飛びまくりでした。お前は永源遥か、と(わかる人がどれだけいるか…)。

さて、たいへんアダルトな劇および歌詞の内容は、あのスピードのナレーションだったら娘もちんぷんかんぷんなので、ほぼ杞憂に終わりました。まあ、抱き合ってお尻を触ったり等のキワドいシーンはありましたけど。単純に笑える小芝居が満載で、長丁場も退屈せず喜んで見ておりました。

大団円はオケも歌もぐっと力が入って、感動的に幕を閉じました。高揚したコンマス(今日はシモヴィッチさん)から主役のステイプルズに握手を求める姿も見られました。これだけ楽しい気分でうきうきと帰路につけるコンサートは、シーズン通してもそう何度も出会えるものではありません。しばらくはキャンディードの音楽が頭から離れそうにありません…。



右からステイプルズ、ダフィー、クリスウェル、ロビンソン。