フィルハーモニア管/サロネン/テツラフ(vn):バルトークのエンディング二題2011/06/23 23:59

2011.06.23 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Christian Tetzlaff (Vn-2)
1. Kodály: Dances of Galánta
2. Bartók: Violin Concerto No. 2
3. Bartók: Concerto for Orchestra

サロネンのバルトークシリーズは、マゼールのマーラーシリーズと並んでフィルハーモニア管が今年敢行する目玉企画です。1月のオープニングの後、2月にもカンタータ・プロファーナ等の演奏会があったのですが、そちらはLSOとバッティングしていたため聴けず、皆勤は早々に断念していました。しばらく間を置いて、ロンドンでは今日が第三弾になります。テツラフのバルトークが聴けるということで、1年以上前からずっと楽しみにしていたコンサートでした。そう言えば、昨年はオケではLSOを聴きに行く機会が圧倒的に多かったのですが、今年はフィルハーモニアが逆転しています。もちろん俺のフィオナちゃんに会いに行くため、ではなくて、ひとえにマーラーとバルトークのシリーズのおかげです。そのフィオナちゃんですが、今日は降り番でした。残念。

今回のサロネンのシリーズで気に食わんのは、せっかくのシリーズなのに、選曲をバルトークで統一してくれてないことです。普段からプログラムを賑わすような評価の定着した曲ばかりを取り上げ、埋め草に使える佳曲もいろいろあるのに、コダーイやストラヴィンスキーの著名曲で埋めてしまうのは発想が安直です。まあ、集客力を考えてのことなのでしょうね。実際、今日もコーラス席には客を入れず、マーラーシリーズに比べると空席もちらほら目立ちました。やっぱりバルトークの人気はまだまだのようです…。

1曲目のコダーイ「ガランタ舞曲」は、ブダペスト時代「ガランタ通り」沿いに住んでいた我が家のテーマ曲であります。本来の由来は現スロヴァキア領で当時はハンガリー領だったGalanta市から来ていて、幼少期をそこで過ごしたコダーイが地方の民謡を題材に作曲した、代表作の一つです。最初哀愁を帯びたチェロの旋律から始まり、展開して行きますが、サロネンの大仰で明快な棒振りにもかかわらず、出てくる音はもう一つピリッとしません。このオケはエンジンのかかりがちょっと遅いと感じるときがありますね。メロディの歌わせ方がドライで、民謡色をあまり感じさせないクールな演奏でした。後半は曲芸的なジプシースタイルのチャールダーシュに突入しますが、これでもかというくらい高速にドライブし、オケも立派について行ってはいましたが、テンポを落としても良いのでチャールダーシュの裏ビートのノリがもっと出ていればと思いました。って、そういう解釈じゃないのか。

お待ちかねのヴァイオリン協奏曲、テツラフは期待通りさすがに上手いです。ワイルドな低音から伸びの良い高音を変幻自在に操り、全身をくねらせつつ非常に雄弁な語り口のヴァイオリンを奏でます。今日は特に汗が飛び散る熱演で、今まで見たような、めちゃめちゃハイレベルなんだけどいっぱいいっぱいにならず、余力を残して大芝居を打つ芸達者のテツラフとはちょっと違って、わずかですがミスタッチしながらも必死に音楽に食らいつく熱血漢の一面が意外な発見でした。サロネンの棒は相変わらず即物的でクール。オケにもっとシャープな反応が欲しいところでしたが、ティンパニのアクセントがいつものようによく効いていて、全体として良いサポートでした。

この曲のエンディングは2種類あって、両方ともスコアに載っているので奏者の好みで選択する余地があります。今日のは2nd Fine(初稿版)のほうでしたが、これを選ぶ人は少数派です。私の知る限り初稿版で演奏したCDはテツラフ&ギーレン、ムローヴァ&サロネン、ズッカーマン&スラットキン、ケレメン&コチシュの4種類(後者2つは初稿版終楽章をおまけで収録、というスタンス)しかありませんが、そういう意味では今日のテツラフ&サロネンという組み合わせが必然的に初稿版になることは予測済みでした。第二稿のコーダは、発注者のヴァイオリニスト、セーケイ・ゾルターンが「最後まで弾かせんかい!」とダメ出しをしたためにバルトークが書き直したものであり、それはそれでヤケクソ気味のヴァイオリンが面白かったりします。初稿版コーダではソロヴァイオリンはもう登場せず、トロンボーン、ホルン、トランペットのグリッサンド大競演という相当ハジケた音楽ですので、面白さは甲乙付けがたい。昨年聴いたバーミンガム市響の演奏会でも初稿版を採用していましたし、初稿版が見直されてきている傾向は最近あるんじゃないでしょうか。

なお、こんなのも珍しいことですが、テツラフがアンコールを弾いてくれることは開演前から会場ドア前のプログラムに書いてありました。曲はラフマニノフの幻想的小品集から第3曲「メロディ」。元々はピアノ曲ですね。


拍手に答えるクリスチャン・テツラフ。この人をかぶりつきで聴けるという、この幸せ。

メインのオケコンは昨年2月にも同じサロネン/フィルハーモニアの組み合わせで聴いていますが、高速演奏にさらに磨きがかかり、完成度が増していたと思います。第2楽章で一瞬入れたタメとか、第4楽章のトロンボーンの咆哮をとことん不格好にしてみたり(後ろのほうの男性が一人、大声で笑ったのでびっくり。いや、そこは確かに笑うとこなんですが、実際に演奏中に笑う人もそうおりませんよ)、細部のアイデアが活きていました。もちろんここでもサロネンは、ハンガリー系の指揮者がやるように民謡ベースの旋律をちょっぴり郷愁を匂わせて歌う、ということはせず、さっぱりと気持ちよく駆け抜けます。特に終楽章は記録に挑戦するかのような高速で、後でBBC Radio3のiPlayerで聴いてタイムを測ってみると、8分58秒でした。手持ちのCDを調べてみても9分を切る演奏は他にないので(チェリビダッケなんか11分以上です)、極めて速い演奏であったことは確かです。これを破綻なしでやり抜けた奏者の集中力に拍手です。昨年も同じことを思いましたが、ラストだけはティンパニを聴かせるため少しでもタメを作って欲しかったかなあ。そう言えば、オケコンのほうは通例に漏れず第二稿のコーダを採用していました。サロネンさん、ヴァイオリン協奏曲で初稿版にこだわったのなら、オケコンもそうすべきでは?(まあこれは冗談です。オケコンのコーダは作曲者自身が初演を聴いた後自発的に書き直したものですから事情が違いますし、初稿のコーダは、やっぱりショボい。)