フィルハーモニア管/サロネン:バルトーク「地獄のダンス」開幕はちょっと突貫工事?2011/01/27 23:59

2011.01.27 Royal Festival Hall (London)
Esa-Pekka Salonen / The Philharmonia Orchestra
Yefim Bronfman (P-2), Philharmonia Voices (Chorus-3)
1. Bartók: Kossuth
2. Bartók: Piano Concerto No. 1
3. Bartók: The Miraculous Mandarin, complete

今年、フィルハーモニア管がシーズンをまたいで敢行する「Infernal Dance - Inside World of Béla Bartók」(地獄のダンス、とはまた大仰なタイトルですが)という、バルトークの主要管弦楽作品と弦楽四重奏曲全曲を一挙に演奏する企画のオープニングです。2011年はバルトーク生誕130年というちょいと半端な記念イヤーで、バルトークをライフワークのように好んで取り上げてきたサロネンらしいプロジェクトです。そういえば5年前の生誕125年では、折よくモーツァルトが生誕250年だったので「125」という中途半端な数字も意味を持ち、抱き合わせで多くの企画演奏会がブダペストで開かれていました。

1曲目は最初期の作品、交響詩「コシュート」。1848年革命を主導した政治家コシュート・ラヨシュを題材にしたバルトーク版「英雄の生涯」です。ただし本家のR.シュトラウスとは違い、ここの英雄を最後に待っているのは挫折ですが。ハンガリー民謡調の旋律は出てくるものの、作風が確立するはるか以前の後期ロマン主義色が強い作品です。若書きとは言っても曲の完成度はハイレベルなので、もっと演奏・録音されてもよい曲だと思います。サロネンは特に小細工を使ってくることなく、必要以上に劇的な盛り上げをするわけでもなく、普通にロマン派の交響詩として流していたように感じました。出だしからどうも弦などに迷いながら弾いている感じが見られ、アンサンブルの乱れも少し気になりましたが、まあここはジャブということで次に期待。

2曲目、ピアノ協奏曲第1番は昨年LSO(独奏コチシュ)で聴いて以来。私は何故か、バルトークのピアノ協奏曲というとこの第1番ばかり実演で聴く巡り合わせになっています。一般的には第3番が一番人気がありそうなのに、何ででしょうね。ブロンフマンは昨年のNYフィル公演で始めて聴き、切れ味の鋭いピアノに圧倒されました。バルトークはサロネンとのコンビで録音もあり(オケはロスフィル)、こういう尖った曲は絶対得意なはず。果たして期待通り、ブロンフマンは重戦車がガシガシと進行するようなピアノでした。一音一音インパクトが太く、全体重で切り込むような叩き方は、ピアノを完全に打楽器の一種のように扱っているこの曲にはまさに打ってつけのピアニスト。即物的に楽譜の音を紡いで行くと、かえって曲に内在する民謡の息づきが躍動感となって浮かび上がってくる、バルトークの演奏様式としては一つの理想かと感じました。ただ、キレキレのピアノに比べてオケのキレがなく、着いて行くのがせいいっぱいの感があったのは少し不満でした。

メインの「マンダリン」は当初「Semi-staged Performance」と発表されていましたが、直前になってただの「演奏会形式」に変更しますとの連絡がありました。どんな演出のステージになるのか楽しみにしていたので、ちょっと肩すかしです。代わりにパントマイムのプロットが字幕で投影されていましたが、タイミングがギクシャクしていてその場しのぎの感がありました。演奏の方は、この曲はさすがにオープニングの目玉ですからリハーサルを入念に積み重ねたのか、大都会の裏通りの喧噪を表す冒頭のクロマチックフレーズから、さっきまでとは打って変わって線の太い弦が鋭く駆け上がる木管と怪しくからみ合います。その後の客引きをするクラリネットのフレーズもいかがわしさがよく出ていました。金管はちょっと馬力不足ではありましたが、マンダリンが暴れ出す箇所の難しいトランペットはがんばって耐え凌ぎました。パントマイムよりも一つの管弦楽作品としての性格が強い演奏で、最初早めのテンポでぐいぐい押すのかと思ったら、後半はぐっとテンポを落として不安定感を煽り、多分バレエだと非常に踊りにくい演奏だったのでは。「演奏会形式」にしたのは正解だったか、あるいは、この演奏に乗せるパフォーマンスのアイデアが結局出て来なかったのかも。最後はやけにあっさりと終って、早すぎるブラボーで余韻を反芻する間もなく現実に引き戻されました。

サロネンということで期待は非常に高かったのですが、オケがもう一つ慣れてない印象で、突貫工事のにおいが少ししました。せっかくの企画なので、じっくりと時間を割いてもう一段上の完成度を目指して欲しいです。