ブダペスト祝祭管/フィッシャー/ハフ(p):ビジュアル系「田園」2011/01/16 23:59

2011.01.16 Royal Festival Hall (London)
Iván Fischer / Budapest Festival Orchestra
Stephen Hough (P-2)
1. Haydn: Symphony No. 92 'Oxford'
2. Liszt: Piano Concerto No. 1 in E-flat
3. Beethoven: Symphony No. 6 'Pastoral'

一昨年のPROMSで聴いて以来のブダペスト祝祭管(BFZ)です。私が住んでいたころ、このオケの地元での人気は非常に高く、シーズン券で席はだいたいなくなってしまう上に、そのシーズン券も一般発売の初日には完売してしまうというプラチナチケットなのでした。そこまでシビアとは知らなかった最初の年は、発売開始時刻ちょっと前にBFZ事務所(近所だったのです)までのこのこ買いに行ったらすでに長蛇の列、3時間後に順番が回ってきたときには目当てのシーズン券はとっくに完売、垂涎の演奏会がたくさんあったのに、たいへん悔しい思いをしました。次の年、オンライン販売が本格的に始まったので、私は有給休暇を取って自宅のPC前で待機、念のため妻はBFZの事務所に整理券を取りに行って、万全の体制で臨みましたが、ちょっと危惧はしていましたがオンラインのほうは発売開始時間を待たずに回線がパンクし、にっちもさっちも繋がらない状態に。妻の整理券のほうも順番は相当後ろで、こりゃー今年もダメかなあと諦めかけていたところ、お昼過ぎにサーバが復活。どうも本格的にクラッシュしていたらしく、セールスがほとんど進んでいない様子でチケットがまだたくさん残っていて、PC前に張り付いて随時状況をうかがっていたかいあって、早いタイミングですかさず希望通りの席をゲットすることができました。翌年はBFZ事務所が移転したこともあってオンライン一本に絞ることにし、発売前夜の寝る前にちょっとサイトの様子を、と思って見てみたところ、日付が変わったとたんに何とチケットセールスがオープンになっている!担当者が前年のクラッシュに懲りたのか、発売開始予定時刻を待たずに夜中のうちにセールスを開けてしまったようでした。これ幸いとすかさず前年と同じ席のシーズン券をゲット、バカ正直に朝まで待たないで本当に良かったです。

長い思い出話の前フリはともかく、本日のロイヤル・フェスティヴァル・ホールは当時を思い出す大盛況ぶり。リターンチケット待ちには長い列ができ、普段演奏会場で聞くことはほとんどないハンガリー語がそこかしこで飛び交って、かつてのバルトーク・コンサートホールの熱気が偲ばれて非常に懐かしい気分になりました。

イヴァーン・フィッシャーは何かと小細工の好きな人で、まず1曲目のハイドン「オックスフォード」交響曲では、トランペット、ホルン、ティンパニにバロック式の楽器を持たせていました。よく見えなかったのですが、木管ももしかしたらそうだったのかも。序奏からもう完璧な弦楽アンサンブルで、精巧に仕上げられた彫刻のように隅々まできっちりと指揮者の手が入っています。その上に、あえて音程の危ういバロック楽器を乗せてくることで、合奏がキツキツにならずふくらみのある音楽に仕上がっていたと思います。普段ハイドンは苦手分野なのであまり語れませんが、弦をノンビブラートにしていないことからも、単に古典だからバロック楽器、という安直な思考ではなく、指揮者なりの完成像に向けたこだわりがありますね。(下写真:手前のペダル式ティンパニの奥に、小さいバロック式が一組置いてあります。)


次のリストでは、トライアングルを指揮者の目の前に座らせていましたが、これは多分そう来るだろうと予測していました。フィーチャーする楽器を指揮者の周りに配置する、というのは以前からよくやっていましたし、リストのこの曲は打楽器奏者の間では「トライアングル協奏曲」と呼ばれている曲ですから。ただ、今回私はChoir席でしたので奏者がよく見えましたが、前方の客席からはピアノの陰になって逆に見えにくくなってしまったのではないでしょうか。そのトライアングルですが、音が汚くて私はあまり関心しませんでした。楽団がもっと小型で澄んだ音の楽器も持っているのは知っているので、これも音楽が固くなるのを和らげる役割だったのかな。しかし、ここのChoir席の最大の難点は、ピアノ協奏曲の時にピアノがよく聴こえないこと。仕方がないことですが、ホールで一回反響した音しかやってこないので、別室で弾くピアノを聴いているような感じで、細かいニュアンスはわかりにくいし、手元も見えないし、どうしても興醒めしてしまいました。


休憩後、ステージの真ん中に背の高い植木が持ち込まれていました。田園だから「木」?ストレートな小細工ですが、それを実際にやる人もあまりいません。奏者が席に着くと、楽器の配置にも細工がありました。弦楽器の数は1st Vn 14、2nd Vn 11、Va 10、Vc 8、Cb 6と傾斜的な配分になっていましたが、さらに、木管奏者が見当たらないなと思ったら、フルートは1st Vn、オーボエは2nd Vn、クラリネット・ホルンはヴィオラ、ファゴットはチェロの中に混ざって、2人バラバラに座っています。一方、後から出番が来るティンパニとトロンボーンはあえて他の奏者と距離を置いて舞台の右隅に窮屈そうに固められていました。青青とした牧草の茂る丘陵の真ん中に1本の木が立っており、そこかしこから鳥の声が聞こえてきて、そのうち遠くのほうから雷鳴が響いてくる、というヴィジュアルイメージをそのまま体現したような配置がコンセプトでしょうか。これもユニークで面白いです。演奏は、終楽章頭の1st Vnをソロにしてしまって嵐の後の清涼感を際立たせるなど細かい演出が散りばめられており、やはり隅々まで指揮者の思惑が浸透した、たいへん語り口の豊かな演奏でした。全ての要求にきちんと応えていくオケの力も凄いものです。聞けば、フランス・イギリス・アイルランド・ドイツ・アメリカへの16日間に渡るツアーとのことで、そんなアウェーの条件でもこれだけのクオリティを聴かせてくれて、BFZ贔屓の私としてはたいへん満足です。

思えば2009年のPROMSでは少しよそ行きの顔だったのか、今日ほど本拠地でのレベルを再現してくれたとは思えませんでした。名前で損をしている面もあるかもしれませんが、このオケは本当に技術レベルが高いです。難しいバルトークのスコアをきっちり演奏できるオケをハンガリーに、というコンセプトでフィッシャー、コチシュらによって1983年に設立された比較的新しい楽団ですので、元々ヴィルトゥオーソ・オーケストラの性格を持っています。また、メンバーの大半はハンガリー人か、ハンガリーで音楽教育を受けた外国人で構成されていますので、バックグラウンドに均質な一体感があり、ただの名手の集まりではなく全体で優れた一つの楽器であるかのように鍛え上げられているオケです。私もけっこういろんなオケを聴きましたが、BFZを「一流」とすれば、これはさすがにBFZの上を行く「超一流」かも、と思えたのはコンセルトヘボウとベルリンフィルくらいでした。

盛大な拍手喝采に応えてアンコールはハンガリー舞曲21番と、シュトラウスのBauern Polka、「田園」ポルカです。最後まで粋な演出を通しておりました。

コメント

_ かんとく ― 2011/01/24 07:38

Miklosさん
出張お疲れ様でした。
今だ、このコンサートの余韻に浸っています。実はリストのピアノ協奏曲のトライアングルは指揮者の目の前に居たんですね。指揮者?、ピアノ?の影になって全く見えなかったので、どっから音が出ているのか不思議でしょうがありませんでした。
是非、定期的にロンドンに来て欲しい楽団ですね。

_ Miklos ― 2011/01/24 09:12

かんとくさん、コメントとトラックバックありがとうございます。あとで奏者の人に話を聞くと、トライアングルがあの位置に来るとピアノと弦楽器が格段に合わせやすくなって良かった、と言っていました。やっぱり、演奏の効率を一番に配慮しているんですね。

その後ドルトムントでも聴き、そちらもたいへん充実した素晴らしい演奏会でした。感想はまた後日に、多分ブログではなく「演奏会備忘録」のほうに書き足すと思いますので、よろしければご覧ください。

_ dognorah ― 2011/01/25 00:52

さすがにブダペスト時代から愛聴していらしたこのオーケストラについてはお詳しいですね。大変参考になりました。私も正面に座っていたのでかんとくさんと同様、トライアングルは見えませんでした。派手に鳴っているのに不思議な気分でした。音は汚い印象ではありませんでした。今回はハンガリー大使館の動員努力が功を奏して満員でしたね。幕間に話したハンガリー人はピアニストぐらいハンガリーから連れてきてほしかったと嘆いていましたよ。

_ Miklos ― 2011/01/25 04:46

dognorahさん、こんにちは。在英ハンガリー人会の動員もあったそうで、たいへん盛況な演奏会でした。確かに、ピアノ独奏がスティーヴン・ハフだったのは、何故なんでしょうね。その後のドルトムントでも私が聴いた翌日にリストのコンチェルトをやっていましたが、ソリストは違う人でした。シフ、ラーンキのクラスとまでは言いませんが、せっかくなのでハンガリー人ピアニストを連れてきて欲しかったと私も思います。

_ kumagusu2005 ― 2013/02/27 12:35

初めまして。先日聴いたイヴァン・フィッシャーの田園のCDが、あまりに素晴らしかったので、検索をかけてみると貴ブログを発見しました。面白い配置と演出で演奏されてますね。実は、私も旅行先のミュンヘンで、このコンビの演奏会を聴いたのですが、ユニークな配置で仰天しました。(小生のブログ写真をご覧下さい。) これからも、このコンビの演奏は、ビジュアル面を含めて見逃せないと思っております。今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

_ Miklos ― 2013/03/02 09:42

kumagusu2005さん、初めまして。フィッシャーはいろいろとヘンな仕掛けをやってくる指揮者なので、目が離せません。是非ひいきにしてくださいませ。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策で「クイズ認証」導入してます。2020年夏季五輪開催地の日本の首都は?(漢字で)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://miklos.asablo.jp/blog/2011/01/16/5647292/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

_ ロンドン テムズ川便り - 2011/01/24 07:41

 ブタペスト祝祭管弦楽団のロンドン公演に出かけた。12月にブタペストを訪れたばかりなので、不思議に親近感を感じる。今日はハンガリーの大統領(と聞えたが気がしたが?)を初めとするVIPもロイヤルボックスに鑑賞に来ていた。

 一曲目はハイドンの交響曲第92番。美...