ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管/シャイー:イタリアの千両役者2010/12/02 23:59


2010.12.02 Barbican Hall (London)
Riccardo Chailly / Gewandhausorchester Leipzig
Arcadi Volodos (P-1)
1. Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1 (original version)
2. Tchaikovsky: Francesca da Rimini
3. Respighi: Pines of Rome

今日は娘がディズニーの「Fantasia 2000」の中でも特にお気に入りの「ローマの松」があるので、家族で聴きに出かけました。昨日に続く寒波で、雪と寒さのため交通も一部マヒしており、そのせいか空席が目立ちました。

ゲヴァントハウス管は、一度は聴いてみたかったオケの筆頭でした。以前ライプツィヒに行ったとき、ホールの外観だけは見たのですが。また、自分でも何故だかわかりませんが、シャイーの演奏は今までCDでもほとんど聴いたことがなかったかも。ということで今日は初ものづくしでエキサイティングです。

まずはチャイコフスキーの有名すぎるピアノ協奏曲から。家族は好きですが、私はそんなに好きな曲じゃありません。今日は珍しい原典版での演奏とのことでしたが、この曲に精通してるわけではなくスコアも持っていない私には、通常の版との違いはよくわかりませんでした。プログラムに書いてあったのは、冒頭のピアノの和音強打がアルペジオになっているのが一番特徴的だそうです。しかしヴォロドスはそこを際立たせるような弾き方はせず、イントロはサラリと流していましたので、原典版と言われなければ「柔らかい弾き方をしてましたね」という感想で終わっていたでしょう。その後も時々違和感を感じる箇所は確かにありましたが、通常版と大きく変わったと思えるところはなく、このツアーで原典版をあえて演奏する意図は全く謎のままでした。ソリストも指揮者も、実際原典版だからどうとかいう意識はなかったように思います。

ロシア出身のヴォロドスは超絶技巧派として売り出し中の若手ピアニストだそうです。実際、ちょっと軽めのコロラトゥーラのようなピアノで、コロコロと指がたいへんよく回ります。難曲度の高い曲なので、私はこの曲をミスタッチなしで弾く人には巡り会ったことがありませんが、少なくとも今日までは、と付け加えることになりそうです。ヴォロドスは私が聴く限りほとんどミスなく、シャイーのリードする繊細なオケ伴奏とほどよい一体感を呈しながら、危なげなくずいずいと突き進むピアノでした。看板に偽りなしです。こういう人は自分の技術をとことん見せつけるアンコールピースを必ず持っているはず、と期待しましたが、残念ながらアンコールはやってくれませんでした。

次の「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、CD、iTunesでもたいがいスキップしてしまう、正直苦手な曲です。シャイーはここでも繊細なコントロールを見せてくれました。弦はつや消しをかけたようなハスキーな音色。渋いですがドイツ的な重厚さはあまり感じませんでした。木管は全体的に柔らかくまとまったアンサンブルで、特にクラリネットが非常に良い音色です。ティンパニはトレモロはいただけませんが単打は腰が入ったなかなかいい音を出しています。弦と木管の柔らかさに比べてちょっと金管が固いような。音に濁りがあり、音量が十分ではありません。このオケはどうも金管が弱点のようです。次の曲を乗り切れるのか、ふと不安がよぎります。

メインの「ローマの松」は、やはり懸念した通り金管の弱さが如実に出てしまいました。ティンパニは孤軍奮闘していましたが。いろいろ解釈の余地はあれど、やはりこの曲は大音響でビビらせてナンボという面はありますから、バランスの弱さは盛り上がりの弱さに直結します。ただし今日はいつになく3階席で聴いたので、バランスはステージが遠かったせいもあるかもしれません。それにしても、若い奏者で緊張していたのか、「カタコンブ」のトランペットソロはトチリが多く、いかにも自信なさげで痛々しかったです。「ジャニコロの松」は逆に金管が目立たない分、渋い弦の上に透き通る音色のクラリネットが乗っかった夜の情景は極上の響きで、この日最も良かった瞬間でした。終盤のナイチンゲールの鳴き声テープは打楽器奏者が掛け持ちで卓上ミキサーをいじって音量をコントロールしていました。

終曲「アッピア街道の松」では最後にバンダの金管が登場し、指揮者によっては客席側方や後方で吹かせたりして音響の立体感を演出しますが、今日は最初から舞台の上にいて、出番が来ると最後部の一段高い平台に上がりました。うーん、音が割れてる…。もうちょっとプロらしくしっかり吹いてほしいです。ティンパニを筆頭に打楽器陣の奮闘により曲は何とか盛り上がって終わりましたが、この曲はこのオケの性向とは合っていないのでは、と思いました。まあそれを言えば、チャイコフスキーとレスピーギというプログラムはドイツのオケとしては全く変化球ですから、次回があれば是非ドイツものか東欧ものを聴きたいです。

シャイーはどちらかというと繊細な分析が信条の人と見受けましたが、そこはイタリア人、大風呂敷を広げたり、大見得を切ったりする役者根性も兼ね備えている様子。今まで敬遠していたのはいったい何だったのでしょうか。力量が信頼できる好みの指揮者として今後ひいきにさせてもらいたいと思います。

おまけ。昔のフォトアルバムから、プログラムにちなんでライプツィヒ・ゲヴァントハウスの外観と、ローマ・アッピア街道の松を引っ張り出してきました。


コメント

_ かんとく ― 2010/12/06 23:04

Miklosさん、こんにちは。
確かにこのプログラムをわざわざロンドンでやる狙いが良く分かりませんでした。管のパーツ、パーツでは良く聴くLSOとかの方が上手かな~と思ったところは、ありましたけど、このコンビの良さは、個々の技量よりも、全体としてのアンサンブルの美しさがあるのかと思った次第です。これからも定期的に来英してくれるそうなので、次回も楽しみにしたいと思います。

_ Miklos ― 2010/12/07 07:02

かんとくさん、コメントありがとうございます。トラックバックを送ろうとしたんですが、何故かうまく行きませんでした。
シャイーはそれこそバッハから現代曲まで器用になんでも振れるんでしょうが、このオケはあまり軽めのプログラムは似合わないかもしれませんね。同じチャイコフスキーでも、シンフォニーを聴きたかったです。

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