LSO/パッパーノ/みどり:エスニック・ヴァイオリンの饗宴2010/12/15 23:59

2010.12.15 Barbican Hall (London)
Antonio Pappano / London Symphony Orchestra
Midori (Vn-2)
1. Ligeti: Concert Romanesc
2. Bruch: Violin Concerto No. 1
3. Rimsky-Korsakov: Scheherezade

元々行く予定ではなかったのですが、10月のムターの日が仕事で行けなくなり、エクスチェンジしたのがこの日でした。五嶋みどりは2月に続いて今年2回目のLSOですが、やはり彼女が出演する日は日本人の姿を普段以上に見かけました。普段の3倍増しというところでしょうか。客入りは概ね良く、私が好むかぶりつきブロックも、珍しく最前列(B列)までびっしり人が入っていました。

さて1曲目のリゲティ。ハンガリー民謡色の濃いリズムと旋律を前面に打ち出した曲で、まるでバルトークかコダーイのようです。リゲティにこんな曲があったとは、意外でした。ホラ・スタッカートを思わせる高速ジプシースタイルのソロヴァイオリンが活躍し、やんやの喝采で、ツカミとしては上々です。本日のコンマスはロマン・シモヴィッチ。まだ29歳の童顔で、いつもたいへん楽しそうに楽器を弾く人ですが、この人はモンテネグロ出身なんですね。地域がら、ジプシーの演奏スタイルには慣れ親しんでいるはずで(本来この中欧あたりの民謡はジプシー音楽とは異なるというのがバルトーク・コダーイ以降の定説ですが、そうは言ってもジプシー楽団もちまたに溢れ、その演奏は幼少から少なからず耳に入っていたのも多分事実でしょう)、上手いのも合点がいきました。前はけっこう雑な弾き方をする人だと思ったのですが、雑なのではなくてワイルド民俗派だったんですね。

次は五嶋みどりさん。笑顔で登場して、演奏前にオケに一礼、いい人だ。2月のメンデルスゾーンでは非常に繊細でストイックな演奏だったのですが、今日は打って変わって、粘りのあるたいへん濃いいヴァイオリンに驚きました。ただねちっこいのではなく、繊細さと大胆さが変幻自在に入れ替わる彫りの深い表現で、こんなパワフルな演奏をする人とは思わなかったので、ひたすら圧倒されました。ふと気付けば、ヴァイオリンソロの箇所ではコンマス含め1stヴァイオリンの人が皆、釘付けでみどりさんに見入っていました。パッパーノの伴奏も躍動感溢れる熱演ながらも出しゃばり過ぎずにソロをきっちり下支えし、全体のフォルムをうまく整えていました。今日も大拍手のわりにはアンコールをやってくれませんでしたが、この力のこもった演奏のあとでは、何も弾く気が起こらないのかもしれません。

メインのシェヘラザードはさすがオペラ指揮者の面目躍如で、独奏楽器を歌手に見立てているかのようなドラマチックな音楽作りでした。遅いところはぐっと遅く、早いところは超高速に、メリハリを利かせた演奏を心地良く聴いているといつの間にか夢の世界に誘われておりました。ということで一部記憶がすっぽり抜けていて恐縮ですが、ここではヴァイオリンは民俗派を自重して、デリケートなソロに終始していました。なかなかやるじゃん。思った以上に懐の深い人のようです。振り返ってみると、今日はどれも民族色が濃く、一貫してヴァイオリンが重要な役どころのプログラム構成でした。やはりヴァイオリンを聴くには、できるだけ今日のようにかぶりつき席に座りたいものです。