ロンドンフィル/ユロフスキ:ようやく聴けたシェーファーの美声2010/12/01 23:59

2010.12.01 Royal Festival Hall (London)
Vladimir Jurowski / London Philharmonic Orchestra
Christine Schaefer (S-2,3)
1. Debussy (orch. Matthews): Three Preludes
(1) Des pas sur la neige
(2) La cathedrale engloutie
(3) Feux d’artifice
2. Britten: Les Illuminations
3. Mahler: Symphony No. 4

7月以来の久しぶり、今シーズン初のRFHです。気温は0℃くらいですが風が強いので体感気温は確実にマイナスの寒さでした。テムズ川沿いのクリスマスマーケットもいつにも増して寒々としています。

私は特にLPOひいきではなく、聴きに行く回数はLSOよりずっと少ないのですが、去年のLSOではドタキャンでフラレてしまったシェーファーのマーラー4番を聴きたい(見たい)がためにチケットを取りました。シェーファーは来年2月のベルリンフィルでも同曲を歌うことになっていますが、昨年のLSOに続き、今年ヒラリー・ハーンとのプロジェクトもキャンセルしているし、キャンセル癖のある人なんかなと、ちょっといぶかっております。

ユロフスキは、弟のディミトリ、お父さんのミハイルと今年立て続けに聴き、長男ウラディーミルが最後になってしまいました。記録によると11年前バスティーユ・オペラ座で「スペードの女王」を見たときの指揮者がウラディーミルだったはずなのですが、超モダンな演出のみがインパクトとして残っていて演奏はほとんど覚えておりません。

まず、コリン・マシューズ編曲のドビュッシー前奏曲集から「雪の上の足跡」「沈める寺」「花火」の3曲。ピアノの原曲と比べてどれも明るい色彩の編曲になっており、ドビュッシー本人の他の管弦楽曲と比較してもずいぶんと趣きが変わってしまっているなあという印象を持ちました。和声をすっきりと整理し、各楽器の音色が分離して際立つようにちりばめられています。ピアノは一見モノクロームなようでいて、奏者の指先一つでずいぶん幅広いカラーを出せる楽器なのだと今更ながら気付かされました。管弦楽版にしてしまうと色彩感が固定されてしまい、奏者のできる仕事が減ってしまうのは両刃の剣ですね。3曲の中では「花火」が一番ドビュッシーらしい編曲だったと思います。

次のブリテン「イリュミナシオン」は全く初めて聴く曲で、歌曲とも思っていなかったので、ホクロがチャーミングなシェーファーがいきなり登場してきたのに驚きました。あーでも、今日は歌ってくれるのね、と一安心。シェーファーは、まずその美声に感銘を受けました。細い身体ながら、ソプラノにあるまじき芯の太さと粘りのある伸びの声は比類なく、神の恵み、天性のものだと思いました。やはり生で聴けて良かったです。ただ、あまり歌い慣れていない曲なのか(そりゃそうかも)、ずっと楽譜を見ながら歌っていたのと、この日は調子が万全ではなかったようで、息継ぎが短くギクシャクした箇所も多少ありました。

さて、メイン。マーラーのシンフォニーでマイベスト3を選ぶなら「4,6,9」という答えは長年変わっていません。20年以上前だったら「1,2,3」などと答えていた時期もありました。それはともかく、4番は自分の結婚披露宴でBGMに選んだくらいお気に入りの曲。シェーファーの中性的な美声はこの曲にどう作用するか、期待大です。

まず気付いたのは、休憩前と楽器の配置が変わっていること。弦楽器は最初ドイツ式(向かって左から1st Vn、2nd Vn、Vc、Va)だったのが、マーラーでは2nd VnとVaの位置が入れ替わっていました。古典的両翼配置とも少し違う変則配置で、指揮者のこだわりがあったと思います。コンバスは後ろの最上段横一列で、そのためか私のかぶりつき席にはあまり低弦の音が響いて来ませんでしたが、この曲に限ってはあまり重厚にならないほうがよいこともあります。

印象は一言で言うとかなり個性的なマーラーでした。細部までいじくり倒して造形しているわりにはフレーズごとの後処理がルーズというか、ブツブツと切れてどうも呼吸が違うという感じです。冒頭含め何度も登場する鈴の音は、もうちょっと細やかな神経が欲しいところでした。しかし全体を通してオケに破綻はなく、ホルンなどこの日は相当上手かったです。LPOは名手揃いではないですが、ユロフスキ監督の下、しっかりトレーニングされているのはよくわかりました。大編成のオケをそのまま鳴らし切るのではなく、室内楽的なアプローチでポリフォニーを透かし見せる意図は成功していたと思います。

私の捉え方ではこの曲は長大な序奏付きの歌曲のようなもので、終楽章がうまくなければそれまでの積み重ねも水泡に帰することになりかねません。第3楽章終盤のトゥッティのところで静々とシェーファーが登場。やはり本調子ではなさそうで、終楽章は歌の出だしから音が上がり切らずちょっと苦しい展開です。しっかり歌うところは本当にほれぼれする歌唱ですが、ユロフスキの揺さぶりに押されてか、息が長く続かず、何カ所か変なところで息継ぎが入ってました。また、弱音では声がかすれ、音程も微妙に怪しくなっていましたが、全体としては問題になるようなレベルではなく、十分に立派な歌唱でした。美人だし、このような素晴らしいソプラノと巡り会えたのは至福でした。ただ、本人は終演後、不本意そうな複雑な顔をしていましたが。2月のベルリンフィルは、是非万全の体調で帰ってきて欲しいと思います。

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