LSO/ティッチアーティ/ヴェンゲーロフ(vn):女王陛下に大接近 ― 2012/12/05 23:59
2012.12.05 Barbican Hall (London)
Robin Ticciati / London Symphony Orchestra
Timothy Redmond (conductor-1)
Maxim Vengerov (violin-2)
1. Maxwell Davies: Fanfare - Her Majesty's Welcome (LSO commission)
2. Tchaikovsky: Violin Concerto
3. Elgar: Enigma Variations
この演奏会は今シーズンのチケット発売開始後あっという間に売り切れになっていて、さすがヴェンゲーロフは人気者、と思っていたのですが、実はThe Queen's Medal for Musicのガラコンサートということで、女王陛下も臨席されるスペシャルイベントだったんですね。当初はサー・コリン・デイヴィスが指揮の予定でしたが、例によってドクターストップでキャンセル。今シーズン目玉の一つであったはずの一連の「デイヴィス卿85歳記念コンサート」は、結局ここまで一つも振れてません。このままカムバックしなかったら、シャレにならんよ。
物々しいセキュリティチェックを覚悟していたら、いつも通りコート着たまま、リュック担いだまますんなりと会場に入れたのでちょっと拍子抜け。しかし、女王は全員が着席してからの入場のため、普段よりも早く席に着かされました。最初はLSO on Trackという教育プログラムの若者管楽器奏者も加わっての短いファンファーレがあり、続く国歌斉唱の後、今回の委嘱新作であるマックスウェル・デイヴィスの「女王陛下歓迎のファンファーレ」が演奏されました。しかしこのファンファーレ、しゃきんとしたところが一切ない屈折したヘンテコな曲で、このシニカルさはイギリス音楽としては意味があるのかもしれませんが、女王陛下はこの曲で歓迎されて果たして嬉しいのか、とちょっと気になりました。なお、ここまでの指揮はティモシー・レッドモンドです。
次のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、正直苦手な曲。チャイコフスキーは好きですが、この曲はやっつけ仕事に見えてならず、皆が崇めるほど、そんなに名曲かなあと常々疑問に思っています。それはともかく、第1楽章の特に前半は、ヴェンゲーロフの隙のない完璧さに感服しました。じっくり分析して積み上げたという感じはなく、天才が腹八分目で弾いているような、衒いのないナチュラルな上手さ。ところがそのうち雲行きが怪しくなって、「ん」と思ってしまう箇所がちらほら耳に残ってきます。カデンツァも「ボロボロ」とは言わないまでも「ボロ」くらいは言ってしまえる不調ぶり。もちろん、彼にしては、という但し書きはつきますが。どうしちゃったんだろう、ソリストとして復帰してまだ日が浅いので、リハビリ途中なのかもしれません。それにしてもこの人は終始直立不動、第2楽章でかかとが少し浮いた以外は、足なんかほとんど動きません。また肩をいわさなければ良いのですが。終楽章は曲芸のようなスピードで激しく駆け抜け、ヴァイオリン・ヴィルトゥオーソの面目躍如で圧巻した。オケは女王臨席だとさすがに集中力極大で、切れのあるリズムにふくよかな音色、完璧なパートバランスと三拍子勢ぞろい。サー・コリンの代役のティッチアーティも伸び伸びとオケを引っ張り、良い仕事でした。
Robin Ticciati / London Symphony Orchestra
Timothy Redmond (conductor-1)
Maxim Vengerov (violin-2)
1. Maxwell Davies: Fanfare - Her Majesty's Welcome (LSO commission)
2. Tchaikovsky: Violin Concerto
3. Elgar: Enigma Variations
この演奏会は今シーズンのチケット発売開始後あっという間に売り切れになっていて、さすがヴェンゲーロフは人気者、と思っていたのですが、実はThe Queen's Medal for Musicのガラコンサートということで、女王陛下も臨席されるスペシャルイベントだったんですね。当初はサー・コリン・デイヴィスが指揮の予定でしたが、例によってドクターストップでキャンセル。今シーズン目玉の一つであったはずの一連の「デイヴィス卿85歳記念コンサート」は、結局ここまで一つも振れてません。このままカムバックしなかったら、シャレにならんよ。
物々しいセキュリティチェックを覚悟していたら、いつも通りコート着たまま、リュック担いだまますんなりと会場に入れたのでちょっと拍子抜け。しかし、女王は全員が着席してからの入場のため、普段よりも早く席に着かされました。最初はLSO on Trackという教育プログラムの若者管楽器奏者も加わっての短いファンファーレがあり、続く国歌斉唱の後、今回の委嘱新作であるマックスウェル・デイヴィスの「女王陛下歓迎のファンファーレ」が演奏されました。しかしこのファンファーレ、しゃきんとしたところが一切ない屈折したヘンテコな曲で、このシニカルさはイギリス音楽としては意味があるのかもしれませんが、女王陛下はこの曲で歓迎されて果たして嬉しいのか、とちょっと気になりました。なお、ここまでの指揮はティモシー・レッドモンドです。
次のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、正直苦手な曲。チャイコフスキーは好きですが、この曲はやっつけ仕事に見えてならず、皆が崇めるほど、そんなに名曲かなあと常々疑問に思っています。それはともかく、第1楽章の特に前半は、ヴェンゲーロフの隙のない完璧さに感服しました。じっくり分析して積み上げたという感じはなく、天才が腹八分目で弾いているような、衒いのないナチュラルな上手さ。ところがそのうち雲行きが怪しくなって、「ん」と思ってしまう箇所がちらほら耳に残ってきます。カデンツァも「ボロボロ」とは言わないまでも「ボロ」くらいは言ってしまえる不調ぶり。もちろん、彼にしては、という但し書きはつきますが。どうしちゃったんだろう、ソリストとして復帰してまだ日が浅いので、リハビリ途中なのかもしれません。それにしてもこの人は終始直立不動、第2楽章でかかとが少し浮いた以外は、足なんかほとんど動きません。また肩をいわさなければ良いのですが。終楽章は曲芸のようなスピードで激しく駆け抜け、ヴァイオリン・ヴィルトゥオーソの面目躍如で圧巻した。オケは女王臨席だとさすがに集中力極大で、切れのあるリズムにふくよかな音色、完璧なパートバランスと三拍子勢ぞろい。サー・コリンの代役のティッチアーティも伸び伸びとオケを引っ張り、良い仕事でした。
休憩後、実はこのイベントの予備知識を何も仕入れていない私は、今年の受賞者の発表も当日行われることをその場になってはじめて知りました。女王陛下も舞台に出てこられて、ホストのマックスウェル・デイヴィスより今年の受賞者である英国ナショナルユース管弦楽団(NYO)の名が読み上げられました。個人でなく団体に賞が与えられるのは初とのことです。女王臨席の演奏会で御大デイヴィス卿の代役に超若手のティッチアーティはちょっと軽すぎるんじゃないかと思っていたのですが、なるほど、NYOの受賞が決まっていたのでその出身者を持ってきたのね、というのはうがった見方でしょうか。ともあれNYOは来年早々にバービカンで演奏会がありますので、よい凱旋公演となることでしょう。それにしても今日は前から二列目の席だったので女王陛下とは5mもない至近距離。特に女王ファンと言うわけではありませんが、こんなに近づけることも今後二度とないと思うので、貴重な経験でした。
NYOを代表して5人の若者が登壇、女王と握手していました。
最後のエニグマ変奏曲がこれまた素晴らしい演奏で、気合の入ったときのLSOの音が何と豊かで艶やかなことよ。節度を守りつつも仄かに感傷を漂わせる絶妙の「ニムロッド」で、まさに時が止まりました。指揮者も若いのに余裕たっぷりの指揮ぶりで、とんでもない大器かもしれません。
全部終わったらもう10時。混雑する前に会場を出ようとしたら階段が閉鎖されていて、仕方なしに駐車場のほうから外に出ると、ちょうど裏口から女王がロイヤルカーで帰宅するところでした。周囲は通りがかりの車も全て足止めされていて、やっぱりやんごとなきお人が動くのはいろいろたいへんやなあと。
シャッターチャンスを逃し、女王の顔が見えない…。
コメント
_ 守屋 ― 2012/12/13 15:48
_ Miklos ― 2012/12/15 20:00
「肩をいわす」、よく考えると関西弁ですねえ。テレビでもプロ野球選手(関西出身者が多い)などが普通に使っている表現なので、方言であることをつい忘れてしまいます。
私の席はF列だったのですが、D列までつぶして舞台を広げたので(おかげで当日急に席を変えられた人も多かったようです)期せずして至近距離になりました。そもそもセキュリティの都合からバービカンの舞台上に女王が出てくることはないんじゃないかという説もあったので、貴重な経験でした。多分二度とないでしょう。
私の席はF列だったのですが、D列までつぶして舞台を広げたので(おかげで当日急に席を変えられた人も多かったようです)期せずして至近距離になりました。そもそもセキュリティの都合からバービカンの舞台上に女王が出てくることはないんじゃないかという説もあったので、貴重な経験でした。多分二度とないでしょう。
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>(肩を)いわさなければ
僕は大阪出身の漫画家の作品でこの表現を知っていました。知らなくても類推できると思いますが、他の地域の方には「肩をいわすって?」、ってけっこう新鮮な表現ではないかと思います。