ロイヤルバレエ:トリプルビル(火の鳥/イン・ザ・ナイト/ライモンダ第3幕)2012/12/29 23:59

2012.12.29 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: The Firebird / In the Night / Raymonda Act III

今年最後のコンサートはロイヤルバレエのトリプルビル。お目当ては昨年もマリインスキー劇場の来英公演で見たフォーキン版「火の鳥」ですが、他もなかなかクラシカルな取り合わせです。

1. Stravinsky: The Firebird
 Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
 Mikhail Fokine (choreography)
 Itziar Mendizabal (The Firebird), Bennet Gartside (Ivan Tsarevich)
 Tara Bhavnani (The Beautiful Tsarevna), Gary Avis (The Immortal Kostcheï)

火の鳥は当初カスバートソンがクレジットされていましたが、怪我のため降板。代役のメンディザバルはスペイン生まれの31歳、ライプツィヒ・バレエでプリンシパルに上り詰めた後ロイヤルバレエに移籍、現在ファーストソリストです。昨年末の「眠れる森の美女」、今年は「パゴダの王子」と「誕生日の贈り物」でも見ているのでこれで4回目になりますが、私の苦手とする面長オバサン顔の上、固い感じの踊りが面白みに欠け、全然好みではありません。ただ今日は、終始カッと目を見開いた恐い顔が異形の者の存在感をよく表現できていました。踊りはかっちりしていて上手いんだけどやっぱりどこか杓子定規で小さくまとまっていて、物足りません。王子に掴まれてもがくところは、例えば別の日にキャスティングされているマルケスならもっと悲壮感漂わせてジタバタ暴れる様子を上手く踊りきることでしょう。全体的には、同じフォーキン版とは言え昨年来英していたマリインスキー劇場バレエの上演とはだいぶ振付けが変わっていて、群舞のダイナミクスは優れていた一方、プリミティブな迫力には欠けました。後ろのアンサンブルには高田あかね、金子扶生のお顔も見えたような。オケは期待してなかったのですが、意外とピリっとした好演。去年のマリインスキーよりは100倍ましでした。肝心の魔王カスチェイの踊りで金管がもうちょっと踏ん張ってくれていれば、言うことはなかったのですが。




2. Chopin: In The Night (Nocturnes)
 1) Nocturne in C-sharp minor, Op. 27-1 (Nocturne No. 7)
 2) Nocturnes in F minor, Op. 55-1 (Nocturne No. 15)
 3) Nocturnes in E-flat major, Op. 55-2 (Nocturne No. 16)
 4) Nocturne in E-flat major, Op. 9-2 (Nocturne No. 2)
 Jerome Robbins (choreography)
 Robert Clark (solo piano)
 Sarah Lamb, Hikaru Kobayashi, Alina Cojocaru
 Federico Bonelli, Rupert Pennefather, Johan Kobborg

アメリカの振付師ジェローム・ロビンスによる、ショパンの夜想曲に乗せた小品。オケはなく、ソロピアノだけの伴奏です。ロビンスと言えば、私的には「ウエストサイド物語」の振付けでインプットされているので、もっとモダンなものを想像していたら、非常にクラシカルなバレエでした。最初の夜想曲第7番をラムとボネッリ、次の第15番を小林ひかる(怪我で急きょ降板したヌニェスの代役)とペネファーザー、第16番をコジョカル、コボー、最後に有名な第2番を全員で踊るという構成です。タイトルの通り、星空の下、パーティー会場から抜け出してきたかのように着飾った男女が、落ち着いた大人のデュエットを繰り広げます。何だか弘兼憲史の漫画に出てきそうな一場面ですが、幼さを残しながらじゃれ合う第1組、複雑な心のうちを秘めつつ相手を探り合う第2組、激しく愛憎を爆発させる第3組と、各々キャラクターが違うのが面白い。最後のコジョカル・コボー・ペアはさすがに息もぴったりで、人気はピカイチでした。プリンシパルに囲まれた代役の小林ひかるさんは、一番難しそうな役所だったし、ちょいと割りを食ってしまった感じですか。個人的には最初のラム・ボネッリ・ペアの初々しさが良かったです。



3. Glazunov: Raymonda - Act III
 Barry Wordsworth / Orchestra of the Royal Opera House
 Rudolf Nureyev (choreography)
 Alina Cojocaru (Raymonda), Steven McRae (Jean de Brienne)
 Helen Crawford, Ricardo Cervera (Hungarian dance)
 Melissa Hamilton, Emma Maguire, Claire Calvert, Claudia Dean
 (variations solo dancers)

トリはヌレエフ振付けの「ライモンダ」第3幕。大元はグラズノフ作曲、プティパの台本と振付けによる全3幕のバレエで、美女ライモンダの婚約者ジャンが十字軍に出征している間、サラセン王子がライモンダに熱烈に求愛するが、帰還したジャンが決闘で勝利し、ライモンダと無事結婚してめでたしめでたし、というあらすじです。第3幕はその「めでたしめでたし」の部分だけなのでストーリーはなく、ここだけ切り出しての上演が可能なゆえんです。ハンガリー王アンドラーシュ二世の立ち会いの下結婚式を挙げるので、最初のチャルダーシュ(ハンガリーの踊り)を皮切りに、バリエーションのダンスが次々と繰り広げられるという定番の進行になってます。ベージュと金で統一されたロシア正教会風のエキゾチックな衣装が美しい。振付けはこれまた至ってクラシカルで、マクレーの片腕リフト連続技が見物でした(無理して身体壊しませんように…)。グラン・パとパ・ド・トロワでマクレー夫人のエリザベス・ハロッドが出ていましたが、ご主人との絡みはなく。ソロよりも群舞のほうがダイナミクスに広がりがあって面白く、そういう意味では主役のコジョカル、マクレーの影は薄めでしたが、これもクラシックバレエの醍醐味と思える、なかなか見応えのある演目でした。