LSO/エトヴェシュ/ズナイダー(vn):バービカンの「コーラス席」2012/05/08 23:59


2012.05.08 Barbican Hall (London)
Peter Eötvös / London Symphony Orchestra
London Symphony Chorus
Nikolaj Znaider (Vn-2), Steve Davislim (T-3)
1. Bartók: Music for Strings, Percussion and Celeste
2. Bartók: Violin Concerto No. 2
3. Szymanowski: Symphony No. 3 (‘Song of the Night’)

4/29の演奏会同様、ブーレーズの代役でエトヴェシュ登板です。今日は平日ではありますが、ヴァイオリンコンチェルト目当てに家族揃って出かけました。

1曲目は「弦チェレ」、ロンドンでは初めて聴きます。楽器配置はスコア指定の通りピアノを挟んで弦楽器を左右対称に振り分け、第1楽章は遅めのテンポながらなかなか良い感じで始まったかに思いきや、盛り上がってくるに従い、どうもキレの悪さが目立ってきました。第2楽章では変拍子のリズムがさらにぎこちなく、躍動感がさっぱりありません。いったい何でしょうか、これは。よく考えたらエトヴェシュのバルトークは今回初めて聴くことに気付きました。ペーテルさん、ハンガリー人でありながら、実はバルトークが苦手?あるいは、LSOとのフランス&ベルギーツアーも終わって気が抜けたか、はたまたツアー中にオケメンバーと何かやり合ったか。ともかく、電池の切れた時計の様なバルトークに、だいぶ失望しました。

なお、最初から合唱団がステージに出ていて、弦チェレに合唱?といぶかしく思っていましたら、ただ演奏を聴いていただけの様子でした。全く演奏に関与しない人がステージに上がっているのは、他にあまり記憶にありません。しかし、これぞ世にも珍しい、バービカンの「コーラス席」ですかー。

楽器配置を大幅に変えるため、ここで休憩が入りました。後半はお目当てのヴァイオリン協奏曲第2番。ここでもやはり合唱団がすでにステージ上に座っています。シマノフスキと切れ目なしで演奏するはずはないので、これもまた鑑賞タイムなんでしょう。それにしても勉強熱心、好奇心旺盛な合唱団ですなー。私はただ非番の演奏を聴くためだけにステージに上がって観衆に不必要な姿をさらすのは、プロとしてはどうかと思ってしまいます。

さて前半はリズムが悪かったペーテルさん、後半も出だしのハープから早速テンポが定まらず迷走してます。ほどなく入ってきたズナイダーのヴァイオリンがまた、低音が雑で野暮ったく、ヤクザが啖呵を切るような品のない調子。バルトークが書いた最も素晴らしい旋律の一つであるこの曲の冒頭主題が、無残にも切り刻まれてちょっとムッとしました。ズナイダーはちょうど6年前にブダペストでコルンゴルドの協奏曲を聴いて以来です。そのときは見かけによらず繊細なヴァイオリンを弾く人だと思ったんですが、今日の演奏は音面だけ追っていて自分の音楽として全くこなれていないという印象でした。確かに、さすがは現代の第一人者だけあって途中はっとさせる美しさの箇所もいくつかありましたが、全体を通しての完成度はテツラフに遥か及ばない、と結論せざるを得ません。バックのオケがまた、さっきに輪をかけてぎこちないモタツキぶり。この曲は大好きなので、2年前のLSOも含め何度もライブで聴いていますが、ここまでギクシャクした演奏も初めてです。ヴァイオリン、オケ共に、正直聴いていてどんどん胸がしんどくなってしまう演奏でした。


演奏後、満足げな表情で手を取り合うズナイダーとエトヴェシュ。

すでに心が疲れ果てている中、まだメインの曲を残しています。最後のシマノフスキは合唱とテナー独唱付きの単一楽章交響曲で、全く初めて聴く曲でした。無調風で不協和音バリバリながら、どこか神秘的で原始宗教を思わせる穏やかな雰囲気の曲です。これはリズムがキモじゃない分、バルトークよりも全然良い演奏に聴こえました。前回のLSO同様、音の積み重ね方に作曲家としてのこだわりと巧みさを感じました。まあ、バルトークはあまりに聴き込みすぎているので、どうしても辛めの評価に傾きがちなのはいたしかたないところです。

今日は小学生の娘には楽しめる要素がなく、ちょっと気の毒な選曲でしたかなー。そりゃ、ミュージカルのほうがいい、と言うわいな。それにしてもエトヴェシュ、ハンガリー人指揮者なのにバルトークのリズムが苦手とは、正直がっかりです。来月のフィレンツェ歌劇場、バルトーク・ダブルビル(マンダリン/青ひげ公)も小澤征爾の代役でエトヴェシュが振りますが、何だかとっても不安になってきました。