NYP/ギルバート:マーラー9番にやっぱりマリンバは不要2012/02/16 23:59


2012.02.16 Barbican Hall (London)
Alan Gilbert / New York Philharmonic
1. Mahler: Symphony No. 9

2年ぶりのNYPロンドン公演です。ギルバート指揮NYPのマーラー9番というと、演奏中の終了間際にiPhoneのマリンバ音アラームが鳴り響き、演奏を中断したというニュースがつい最近各誌、各サイトを賑わしていました。その記事を読んで一番印象深かったのは、何人かの聴衆が「そいつをつまみ出せ」「1000ドルの罰金だ」などと口々に罵ったというくだりで、何ともアメリカらしいというか、もし日本で同じ事件が起こったとして「つまみ出せ」は言っても「10万円払え」と言う人はおらんよなあ。あと以前友人から聞いた話で、ビジネスが全てに優先するニューヨークでは、メトロポリタン歌劇場で上演中も携帯の電源を切らない人が多く、あまつさえ、かかってきた電話には出て話すのが普通、という「驚きの事実」があったのですが、やっぱりそれは眉唾で、ニューヨーカーでも演奏中は携帯を鳴らしてはいけないという常識はさすがにあるみたいですね。

今シーズンから外来アーティストのチケットがべらぼうに値上がりしたので、以前のように毎回かぶりつき席で聴くのは難しくなりました。今日はバルコニー席の真ん中1列目という、まあそんなに劣悪な席でもないのですが、やっぱり私はオケと距離のある席だと素直に楽しめない、という自分の嗜好を再認識しました。非常に繊細で、よく練り上げられた好演だったと思います。よくぞここまでというくらいに押さえ込まれた弦と、明るい音で馬力の炸裂していた金管に挟まれ、木管は割を食って陰が薄かったです。金管の音が直接上に上がってきてやけに生々しく聴こえ、デリケートな弦や木管との対比で異形の印象を覚えました。なんだか幻想交響曲の「ワルプルギスの夜」みたいでしたが、これは座った席と、自分の耳のせいでしょう。落ち着いて聴いていると、テンポを大げさに揺らすでもなし、作為的なアゴーギグを入れるでもなし、流れを切り開くというよりも音楽の持つ自然な流れに乗っかっていくような演奏でした。特に終楽章の緊張感の持続は素晴らしく、これを品のないマリンバ音で邪魔されては、そりゃー指揮者も聴衆もさぞ怒ったことでしょう。

奏者では、ホルントップの巨漢、Philip Myersさんが非常に存在感ありました。口笛でも吹くように意のままに楽器を操り、しかし出てくる音は実に芯の太い極上の煌びやかさで、さすがに一番の拍手をもらっていました。チェロの2番手に座っていたEileen Moonさんは、久々に見た「ヤマンバギャル」。あと、今更ながら気付いたのは、この曲は1楽章の一部分だけティンパニが二人になるんですね。4台しか使わないので奏者は一人と何故か今まで思い込んでいました(普通の曲ならティンパニ3台でたいてい十分ですが、やっぱりマーラーは8台くらい並べないと気分がでないしー)。

ステージから遠い席の何が嫌いかというと、やっぱり音というのはいくら音響設計をしていても基本的には距離の3乗に反比例して減衰していくものなので、本来聴きたい音とノイズの比(S/N比)がドラスティックに悪くなってしまうことなんです。今日は演奏中に何か物を落とす人が多く、また後方席のカップルが演奏中でもべちゃくちゃ小声でおしゃべりしていたのが(さすがに前の席のおじさんにshut up!と注意されていましたが)気に障りました。時刻はちょうど9時のころ、終楽章のまさに終盤、極めて注意深い慎重さでラストに向けて進んでいるときに、「チチッ」という腕時計のアラーム音が数箇所で鳴ったのが聴こえました。まあこれは音が小さいので近くの席でないと気付かなかったかもしれませんが、それにしてもこの「チチッ」を切らない人も多いですね。やっぱり、あー今日もいいものを聴かせてもらった、と幸せな気分で帰るには、少々高くついてもいい席を取らねばなあ、との決意をあらたにした夜でした。