NYPヤング・ピープルズ・コンサート@ロンドン2012/02/18 23:58



2012.02.18 Barbican Hall (London)
Young People's Concert: Leonard Bernstein's New York
Alan Gilbert / New York Philharmonic
Jamie Bernstein (Narrator, Vo-4), Benjamin Grosvenor (P-5)
Joseph Alessi (Tb-3,4), David J Grossman (P-3,4)
Timothy Cobb (DB-3,4), Christopher S Lamb (Drums-3,4)
1. Bernstein: Overture to 'West Side Story' (arr. by Maurice Peress in 1965)
2. Copland: 'Skyline' from 'Music for a Great City'
3. Strayhorn: Take the 'A' Train
4. Bernstein: 'Ain't Got No Tears Left' from 'On the Town'
5. Bernstein: 'Masque' from Symphony No. 2 ‘The Age of Anxiety'
6. Bernstein: Three Dance Episodes from 'On the Town'

NYPのヤング・ピープルズ・コンサート(YPC)は1924年から脈々と続く伝統ある青少年向けの啓蒙音楽会ですが、何と言っても1958年〜1972年の間レナード・バーンスタインのパーソナリティでテレビ放送された一連のシリーズが特に有名です。私自身、実際に初めて見たのは10数年前に「クラシカ・ジャパン」で放映されていた分ですが、レニーの軽妙でツボを心得た語り口と、その実、子供向けとは思えない高度で深い内容に、ついのめり込んで見てしまいました。その本家本元を見る機会があろうとはつゆとも思わずに。

午後4時からのスタートでしたが、1時から楽器体験のファミリーイベントが行われていましたので、バービカンセンターの中は子供だらけ。LSOのファミリーコンサートの時よりも規模が大きかったし、盛況でした。この子供らが皆ホールに入ってきたら大変なことになるなと思っていたのですが、コンサートのほうは思ったより子供だらけではなく、大人だけのグループもたくさんいました。イベントだけ遊びに来た家族連れが多かったようです。


今日のYPCはロンドンでは初の開催とのこと。「バーンスタインのニューヨーク」と題し、レニーの長女のジェイミーさんをメインホスト(ホステスと言うのかな)に据えて、もちろんレニーの曲を中心に、ニューヨークという町の雰囲気を音楽で伝えようという内容です。ジェイミーさんは今年還暦ながら、スパンコールのミニスカボデコンというイケイケの服装で登場。さすがはレニーの娘だけあって、手馴れた司会っぷりはカリスマ性十分でした。それに、イギリス人のパーソナリティに比べて言葉が断然聞き易い!(まあこれは私の耳の問題なんでしょうけど)一方のアラン・ギルバートはいかにもしゃべりは苦手そう。基本は台本棒読みで、出番のないときはずっと台本に目を落とし、話し出しにいつも微妙な間がありました。

1曲目の「ウエストサイド物語」序曲、ミュージカル上演では普通省略されるため(映画版でも本編では省略されていましたが、サウンドトラックのリマスターCDに収録されました)、ある意味珍しい選曲ですが、「シンフォニック・ダンス」よりもコンパクトでストレートなダイジェストになっているので、もっと頻繁に取り上げられてもよい曲かなと思いました。

3、4曲目はNYPメンバーによるジャズ・コンボ。ピアノを弾いたグロスマンはコントラバス奏者。ベースのコッブは今シーズンゲストプリンシパルとしてNYPで弾いているものの、元々はMETオケの主席だそうです。これは至って普通の演奏というか、プロ奏者ならこれくらい弾けて当たり前、ジャズ度ではウィーンフィルメンバーの演奏する「プレリュード・フーガとリフ」とさして変わらず、さすがはニューヨーカーと舌を巻くほどジャジーな演奏でもありませんでした。

5曲目の「不安の時代」から第5楽章「仮面舞踏会」は、ご当地向けにイギリスの弱冠19歳若手ピアニスト、ベンジャミン・グロヴナーを起用。NYPとは初共演だそうですが、この数分ぽっちの曲にして、かなり緊張した様子だったのが初々しかったです。最後は「オン・ザ・タウン」の3つのダンスエピソードをフルで演奏。NYPの主力メンバーによる最後まで手抜きなしの誠実な演奏は、非常に好感の持てるものでした。


今年還暦とは思えないジェイミー・バーンスタインと、今年45歳のアラン・ギルバート。

NYP/ギルバート/ラン・ラン(p):「顔芸の王子」はもう卒業?2012/02/18 23:59


2012.02.18 Barbican Hall (London)
Alan Gilbert / New York Philharmonic
Lang Lang (P-2)
1. Lindberg: Feria
2. Bartok: Piano Concerto No. 2
3. Prokofiev: Symphony No. 5

NYPダブルヘッダーの後半戦は、ロンドンでも超人気のラン・ランをソリストに迎えてのバルトーク。聴きに行かないわけにはまいりません。娘は「ふたつも見るの〜?!」とぶーぶー文句をたれていましたが。

1曲目のリンドベルイは現在NYPのcomposer-in-residence(招聘作曲家とでも訳すんでしょうか)として契約しており、2年前の来英時もUK初演の曲を演奏していました。今日の「Feria」は「fair」の意のスペイン語ですが、2年前に感じた北欧の香りはほとんどなく、響きが金属的でスペインの風味もあまりない、ごった煮のしっちゃかめっちゃかな(失礼!)曲でした。5分くらいの曲かと思ったら意外と長く、20分くらい続いたので疲れました。リンドベルイさん、ツアーにも同行しているようで、最後は指揮者に呼ばれて舞台に出てきました。

さて待望のバルトーク。オケメンバーは大移動し、舞台に向かって右側に弦、左側に管とすっぱり分わかれて座りました。ラン・ランとバルトークはミスマッチにも見えますが、ちょうど5年前にもブダペストで同じ第2番を聴いたときは(オケはバレンボイム/ウィーンフィル)、クリアな音でリズミカルにミスタッチなく弾きまくるスタイルが意外とハマっているなと感じました。それにしてもラン・ラン、今やすっかり垢抜けて、ずいぶんとすました顔で涼しげに弾くようになってしまって、「顔芸の王子」はもはや卒業したんですね。テクニックはさらに凄みを増し、ノリノリで弾いてみたり、しっとりと歌ってみたり、極めて機械的なこの難曲を易々と手中に収めていました。第2楽章などは余裕で見得を切って、ワンフレーズごとに流した左手でポーズを決めていたのが悔しいほどサマになっていて、正にスターのパフォーマンス。大喝采に答えてアンコールはリストの「ラ・カンパネッラ」を弾いてくれましたが、これがまた尋常じゃない上手さで唖然としました。前に聴いた「ラ・カンパネッラ」よりもさらに難易度が高そうなギミック満載でしたので、別バージョンなのか、あるいは即興の「ラン・ラン・スペシャル」なのか。ともあれ、リストも当時はイケメンの比類なきピアノ・ヴィルトゥオーソとして多くの女性ファンを惹きつけていたそうですから、ラン・ランの目指すところは「現代のリスト」と称されることなんだろうかと、ふと思いました。


遠くてすいませんが、拍手に応えるラン・ラン。

メインのプロ5もこれまた大変良かったです。ここまで休んでいたホルントップのMyersさんも登場し、トランペットも非常に上手く、充実したブラスセクションは一抹のスキもありません。今日もバルコニー席で遠かったので弦はあまり届いてきませんでしたが、繊細な弱音は一昨日のマーラーよりもさらに際立っており、木管も揃って惚れ惚れするような艶やかな音色で、良いときのLSOと比較しても全く遜色ないハイレベルの演奏。影のあるゲルギーとはまた違う、ギルバートの明るく誠実な音楽作りも好感度高く、ストレートに心を打ちました。

アンコールは「キャンディード」序曲。これまたNYPのオハコで、中学生のころバーンスタイン指揮NYPの自作自演盤を飽きもせず熱狂的に繰り返し聴いていたのを思い出しました。私より若いギルバート氏(日本名はタケシだそうですね)、ネームバリューはまだまだなのでプレスに叩かれることも多々あるでしょうが、外野の雑音に惑わされずじっくりとキャリアを積んでいって欲しいと思います。