ロイヤルオペラ/テイト/シリンス/カンペ:さまよえるオランダ人2011/10/29 23:59

2011.10.29 Royal Opera House (London)
Jeffrey Tate / Orchestra of the Royal Opera House
Tim Albery (Director)
Egils Silins (The Dutchman), Anja Kampe (Senta)
Stephen Milling (Daland), John Tessier (Steersman)
Clare Shearer (Mary), Endrik Wottrich (Erik)
Royal Opera Chorus
1. Wagner: Der fliegende Holländer

「さまよえるオランダ人」、劇場で見るのは初めてです。指揮者のテイトは最初から指揮台の椅子に座っており、場内が暗くなって拍手なしにいきなり序曲が始まりました。白いスクリーンを舞台袖から人力で揺らしていて、ぴちゃぴちゃと水の音がするのでよく見ると、本当にスクリーンの内側から水をかけて、ステージに水が見る見る溜まっていきます。舞台で水を使うのは、火を使う以上にいろいろと面倒だとは思いますが、ピット内のオケの人も、水が漏れてきて楽器を濡らさないかと気が気じゃなかったでしょう。序曲が終わってスクリーンが上がると、ステージ手前側にしっかりと水溜りが。もちろんこの水を要所要所で使っていく演出になるわけです。

パッパーノじゃないのでオケにはあまり期待してませんでしたが、どうしてどうして、いつになく力のこもった演奏で、集中力も切れずに、たいへん良かったです。オケメンバーの指揮者に対する敬意が伝わってきました。タイトルロールのオランダ人は当初ファルク・シュトルックマンの予定でしたが、10月に入って急に病気のためキャンセル、代役はラトヴィア出身のエギルス・シリンスというアナウンスがありました。そのシリンスですが、彼もワーグナーはお手の物らしく「指輪」のヴォータンや「パルシファル」のクリングゾルなどがレパートリーに入っています。痩せぎすの身体ながら歌唱はどっしりと安定していて、青ざめた顔色のメイクも映えて、異形の者の雰囲気は十分に出ていました。ゼンタ役のアニャ・カンペもワーグナー歌手で、恰幅はよいもののよく見ればけっこう美人です。時折張り上げる金切り声がインパクト絶大で、ゼンタの狂気を余すところなく表現した心に残る歌唱でした。他の歌手陣も総じてハイレベルで、コーラスも適度に荒れて迫力があり、音楽的にはなかなか充実した公演でした。

演出にはちょっと難ありです。舞台装置はシンボリックで、船と言えばミニチュアの帆船が出てくるだけで、しかも最後にゼンタは身投げする代わりにその帆船模型を抱えて倒れ込むという、何だかよくわからない結末でした。とは言えドイツの歌劇場と比べたら、ぶっ飛び具合は全然ましなんでしょうけど。オランダ人とゼンタが愛を確かめ合う場面も、変化のないバックに二人とも椅子に座ったまま歌うと言う何とも面白みのない展開。終幕に現れる船のタラップはまるで宇宙船のようで、各々演出家の意図が何かありそうですが、わざわざ謎解きするほど興味を湧き立てられたわけでもなく。もっとトラディショナルな演出で見たくなりました。

一応全3幕のオペラですが1幕ものとして休憩なしで上演されるのが慣例となっています。今回もそれに従い約2時間半ぶっ通しの上演で、ちと疲れました。演出がラストの30分までは正直退屈だったので、実時間以上に長く感じてしまいました。これでもワーグナーのオペラでは最短なのだから、参りました。


杖をつきながらもカーテンコールに出てきたテイトさん(右から2番目)。