フィルハーモニア管/マゼール:マーラー4番2011/04/28 23:59

2011.04.28 Royal Festival Hall (London)
Lorin Maazel / The Philharmonia Orchestra
Simon Keenlyside (Br-1), Sarah Fox (S-2)
1. Mahler: Rückert-Lieder
2. Mahler: Symphony No. 4

「マゼールのマーラー・チクルスを厳選して聴きに行く」シリーズの第4弾。気付けばここ4回は連続してフェスティヴァルホールに来ています。

1曲目は「リュッケルトの詩による5つの歌曲」。私は元来声楽曲が苦手で、それは大好きなマーラーでもしかり。交響曲のCDの埋め草に入っているのをごくたまに聴くだけでほとんど馴染んでないのですが、それを差し引いても今日はのっけから何か違和感。あれ、リュッケルト・リーダーってこんな曲だっけ?どうも曲順が私の持っているCD(カラヤン)と違ったようです。後で調べると、この歌曲集の曲順は特に固定されてなく自由なんだそうですね。本日は下のような曲順でした。

1. Liebst du um Schönheit(美しさゆえに愛するのなら)
2. Blicke mir nicht in die Lieder!(私の歌を覗き見しないで)
3. Um Mitternacht(真夜中に)
4. Ich atmet' einen linden Duft(私は仄かな香りを吸い込んだ)
5. Ich bin der Welt abhanden gekommen(私はこの世に捨てられて)

サイモン・キーンリサイドを生で見るのは初めてですが(奥さんでロイヤルバレエ・プリンシパルのヤノウスキは今年に入って2回見ていますが)、長身でなかなかいいオトコではないですか。骨折でもしたのか、左腕にギブスをしていましたが、先週の演奏会では腕を吊るバンドも着けていたそうなので、それよりは回復しているんでしょう。たいへん華があって伸びもある美声で、腕のせいで声に力が入らないということはなさそうでした。ただ、第1曲と第4曲で何カ所かファルセットになっていたのがちょっと違和感がありました。カラヤンのCDだと歌はメゾソプラノでしたが、よく考えたらこの曲をバリトンで聴いたことがなかったので。今日のマゼール先生、コールアングレでちょっと濃いめのポルタメントをさせていた以外は、全体的にどうも淡白です。指揮はコンパクトで、各曲の終止で指揮棒をくるくる丸めながらも左手はもう楽譜を次にめくっていて、何だか先を急いでいるような感じ。

客入りは、後方で空席が目立ちました。今日はサイドの後列席だったので、休憩時間にフロントストールの空席に移動。マゼール先生、マーラー4番は暗譜です。冒頭、インテンポの鈴&フルートとリタルダンドをかけるクラリネット&弦で生じる「時間の歪み効果」は、つるびねったさんに指摘されるまでは気にしたことがなかったのですが(確かに手持ちのCDのほとんどはそうなってます)、マゼールさんそんなちっちぇえことはまる無視、みんな仲良くリタルダンドで一件落着でした。あれれと思いましたが、その後はわりと端正に進んで行きます。先日の6番と比べると負担がずいぶん楽なせいもあるんでしょう、金管は崩れることなくぴっちり決めてました。展開部のフルートのユニゾンは生演で聴くとピッチの微妙なずれが気になることが多いのですが、ことさら早めにデクレッシェンドして目立たないようにしていました。今日は何か真っ当じゃん、と思いながら聴いていると、最後の第2主題が戻ってきて弦が強烈なリタルダンドをかけるあたりで崩壊寸前に陥り、ちょっとハラハラしました。あれはコンマスが悪いんじゃないかなあ、ヴァイオリンが指揮者とコンマスのどちらに着いて行ったら良いか一瞬迷ったように見えたので。危機を何とか乗り切った後、コーダではこれでもかというくらいアチェレランドをかけて終りました。

さあこれから行きますよ、という合図かと思ったけど、続く第2楽章でもそれほど変なことは仕掛けて来ず(もちろん楽譜の通りこまめにテンポは変化していますが)、マゼールはスコアをねじ伏せるというよりも上手くさらさらと乗りこなしているという感じでした。6番のときと同様、スケルツォ楽章ではことさらえげつなく諧謔的になるのは相変わらずでしたけど。第3楽章は何と言ってもクライマックスでスミスさんのティンパニが期待通りの爆演。この人はいつも彼しか出せない渋い音を安定して叩き出してくれるので、毎回楽しみです。

終楽章しか出番がないソプラノは、3楽章が始まる前に出て来て座ってじっと待っていたり、3楽章のクライマックスのところで静々と歩いて出てきたり、一度は終楽章が始まってから悠長に歩いて出て来たこともありましたが、いずれにせよ終楽章の前に休止を置かないのが普通です。しかし今日は3楽章の後にも休止を入れ、ソプラノが登場して場内の咳が収まるのを待ってから演奏を開始していました。ソプラノのサラ・フォックスは多分初めて聴く人ですが、生真面目な歌いっぷりで、可も不可もなく、という感じ。マゼールもここはさすがに歌い手のほうに合わせて、何かをやらかす余地はなかったです。コーダではぐっとテンポ落とし、リタルダンドまでかけて、終る前に止まってしまうかのような終り方でした。ここまでの3回と比べると、拍手の盛り上がりはちょっとテンションが下がり気味でした。

今日はマゼールにしてはあまりヘンタイな仕掛けはなく、至って真っ当な演奏と言ってよいでしょう。こちらも「何をやらかしてくれるか」と身構えているからか、ちょっと拍子抜けでしたが、フェアーに個性的な演奏ではありました。変わっているという意味では、前に聴いたユロフスキ/ロンドンフィルの演奏のほうがよっぽど変わってましたね。