ベルリンフィル/ラトル:マーラー3番、至福のクライマックス2011/02/23 23:59

2011.02.23 Royal Festival Hall (London)
Sir Simon Rattle / Berliner Philharmoniker
Anke Hermann (S-1,2), Nathalie Stutzmann (A-3)
Ladies of the London Symphony Chorus
Ladies of the BBC Singers
The Choir of Eltham College
1. Brahms: Es tönt ein voller Harfenklang, Op. 17 No. 1
2. Wolf: Elfenlied (Mörike Lieder)
3. Mahler: Symphony No. 3

ベルリンフィル最終日です。この日ももちろんソールドアウト、リターン待ちの長い列ができていました。

今日のコンサートマスターは大進君ではなくブラウンシュタインでした。本来今日はマーラー1曲のプログラムですが、後になって短い歌曲2曲の追加が発表されました。プログラムを読んでいないのでこの選曲の意図はよくわからないですが、1曲目のブラームス初期の歌曲は、作曲がマーラーの生年である1860年ごろなんですね。2曲目の作曲者ヴォルフは言わずと知れたマーラーと同い年の人ですから、「1860年繋がり」の選曲だったのかな。歌曲は特にうとい分野なので、2曲とも聴いたことのない曲でした。

ウォーミングアップも済んだところで、休憩なしでマーラーの開始です。この3番の第1楽章は特に大好きな曲なんですが、冒頭からベルリンフィルのパワフルなホルンと打楽器に早速胸にぞぞ気が走りました。同じ「角笛」交響曲とは言え、テンポが激しく揺れ動く4番とは違ってこれは行進曲ですから、揺さぶりなく淡々と進んで行きます。今日は後ろの方の席だったんですが、音が十分な音圧を保ってしっかり届いてくれるので、やはり超一流のオケは楽器の鳴らし方からひと味違いますね。ラトルは今日はあまり仕掛けて来ないなと思っていたら、展開部のクライマックスの前で珍しく無理めのアチェレランドをかけてオケを煽り、その後の暴風雨のような音楽をうまく導いていきました。再現部になり、行進曲が戻ってきて盛り上がる部分は、私の好みでは大見得を切って「泣き」を入れて欲しいところですが、サー・サイモンは一歩引いてクールにスルーしていたのがまあ彼らしいです。これだけでお腹いっぱいになりそうなこの長大な第1楽章、案の定終った後は拍手がパラパラと鳴っていました。

第2楽章はしかし、弦の甘いメロディを実にロマンチックに響かせて、なるほどここまで「泣き」は取っておいたのだなと納得。第3楽章では中間部の舞台裏で吹くポストホルン(多分トランペットで代用)がなにげにめちゃめちゃ完璧で、さすが裏方まで一流を配置しております。

第4楽章、アルトのシュトゥッツマンが登場し、指揮者の横ではなくて打楽器の前あたりに立ちました。初めて聴く人ですが、美しい声のアルトです。バックでは第1楽章の動機が寡黙に再現される中、オーボエの強烈なポルタメントがたいへん新鮮でした。ここまでポルタメントを強調する演奏は聴いたことがありませんが、どうやら中間楽章でいろいろと仕掛けを盛り込む戦略のようです。ベルリンフィルは、繊細なところはとことん繊細に、高らかに鳴るところはとことん大胆に、ダイナミックレンジの広さはいつもながら圧巻です。

第5楽章は短い曲ですが、25名の少年合唱と100名の女声合唱が加わり、一気に賑やか、華やかになります。オケの音量が大きいからでしょうか、合唱団の人数は普通よりも多めです。面白かったのは少年合唱が要所で、ちょうど大声で遠くの人を呼ぶときのように、手でメガホンを作って歌っていたことです。確かにこの曲のライブでは少年合唱がオケに負けて今ひとつ聴こえてこないことも多いので、ビジュアル的にも少年だからこそ許されて、良いアイデアだと思いました。

切れ目なしに始まった終楽章は、まさに天上の音楽。この長丁場の終盤ですからもはや細かいことを気にする余力もなく、極上の響きにゆったりと身を任せつつ、もうすぐ終ってしまうベルリンフィルとの至福のひとときを名残惜しんでおりました。じれったくてなかなか盛り上がらない曲ですが、最後には4手で打ち込むティンパニの強打に導かれて壮大なクライマックスを迎えます。ラトルはまるでカラヤンのように瞑想しつつ腕をぶらぶら横に動かすだけで、もはや指揮棒で強引に音を引っ張り出さずとも自然な流れでここまで音楽を持っていけるのには、よっぽど良い関係にあるのだなあと、いたく感心しました。エンディングはふわっと力を抜くように終わり、誰もが残響の余韻を噛み締めていたところ、いちびったオヤジが突然のフライング・ブラヴォー、これはちょっといただけない。まあしかし、すぐに聴衆は総立ちとなって指揮者と奏者の健闘を称え、ラトルも団員もさすがにお疲れモードで拍手に応えておりました。

数年前までは、ラトルはベルリンフィルに行ってからかつてのキレがなくなった、というような悪口をよく見たものですが、どうしてどうして、今まで聴いた4回(ブダペストで1回、ロンドンで3回)のこのコンビの演奏はどれもこの上なく充実したものでした。今日の演奏も、全く自分の好みかと言われるとそうでもない部分がありますが、好みを超越してこれほど最上質の音楽に巡り会えることはそうそうありません。機会があれば、画竜点睛として是非とも本拠地ベルリンのフィルハーモニーでこのコンビを聴いてみたいものだと、野望がむらむらと湧いてきております…。

コメント

_ つるびねった ― 2011/02/26 18:58

それにしても素晴らしい音楽会だったですね。フライング(?)ブラヴォーはわたしは気になりませんでした。わたしの気持ち的には十分の間があったし、ちゃんとブラーヴィと複数形で言ってたし、声も通ってたし、そこから堰を切って沸き上がった拍手のタイミングがぴったりだったし、みたいな。ベルリン・フィルの上手さにはもう唖然とするばかりです。本当にラトルさんとベルリン・フィルは良い関係を築いてますね。ラトルさんもまだ若いので、これからしばらくこの関係は続いていくのでしょうか。一度は本拠地、フィルハーモニーで聴いてみたいものです。
なんか皆さん、ブログアップするの早くて、書くのが遅いわたしはアップアップでした。

_ Miklos ― 2011/02/28 00:37

つるびねったさん、たいへん充実したベルリンフィルシリーズでした。彼らの体力もすごいものがありますね。私が一番反省しているのは、チケットがけっこう高かったので買うのに躊躇して、結局どちらの演奏会も普段なら買わないような(その席で聴くくらいなら多分あえて行かない)後ろの方とか脇の方の席を買ってしまったことです。特にこのシリーズはけちるんじゃなかった、と後悔することしきりでした。

>書くのが遅いわたしはアップアップでした。

山田くん、ざぶとん取っちゃって。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策で「クイズ認証」導入してます。2020年夏季五輪開催地の日本の首都は?(漢字で)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://miklos.asablo.jp/blog/2011/02/23/5704751/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

_ miu'z journal *2 -ロンドン音楽会日記- - 2011/02/26 11:26

23.02.2011 @barbican hall

brahms: es tönt ein voller harfenklang
wolf: elfenlied
mahler: symphony no. 3

anke hermann (sp), nathalie stutzmann (ca)
stefan dohr (hr), marie-pierre langlamet (hp),
tamás velenczei (posthorn),
london symphony chorus, bbc singers, choir of eltham college
si...