フィルハーモニア管/ネルソンス/ハーデンベルガー:英雄の生涯2010/12/07 23:59

2010.12.07 Royal Festival Hall (London)
Andris Nelsons / The Philharmonia Orchestra
Hakan Hardenberger (Tp-2,3)
Zsolt-Tihamer Visontay(Vn-4)
1. Beethoven: Overture, Leonore No. 3
2. Haydn: Trumpet Concerto in E-flat major
3. Gruber: Three MOB pieces
4. Richard Strauss: Ein Heldenleben

4月にバーミンガムで聴いて以来、2回目のネルソンスです。今年のウィーンフィル日本公演で小澤征爾の代役(の一人)として、今までウィーンフィルの指揮台に上がったことがないにもかかわらず抜擢されたので話題になり、日本でもすっかりお馴染みですね。頬や腰回りがちょっと丸くなったような気がしました。

レオノーレ序曲は、何と言うか端から端まで至ってごく普通の演奏だったので拍子抜けしました。速めのテンポで硬質に進むのですがピリオド系的アプローチというわけでもなく、古き良き巨匠時代のおおらかな演奏スタイルは師匠のヤンソンスを踏襲していますが、独自性が見えない分、スケールは師匠より一回り小さいように感じてしまいました。まあ、オケが違うので(ヤンソンスを聴いたのはウィーンフィルとコンセルトヘボウでしたから)フェアな比較ではないかも。なお、舞台袖のトランペットは、あえてトップの人が担当していました。

ハイドンのトランペット協奏曲というと私の嗜好からは最も縁遠い類の音楽です。この曲は昨年のPROMSラストナイトでも聴いているはずですが、全く記憶に残っていませんでした。「地上最高のトランぺッター」との異名をほしいままにしているというハーデンベルガーは、一見クラシックの奏者には見えない、ちょい悪オヤジ風のお洒落な伊達男でした。今日もかぶりつき席だったためトランペットの音が生々しく直接耳に届き、オケとのバランス等さっぱりわかりません。レオノーレも多分そうですが、この曲だって、ネルソンスがやりたくてやってる曲ではないんだろうなあ、とは想像できます。トランペットは破綻がないということではたいへん上手かったですが、もうちょっと角の取れた柔和な音のほうが私は好みです。

レオノーレより短い協奏曲が終わり、アンコールを始めるのに何やら楽器をさらに2本持ってきて、オケまで共演しての演奏となりました。曲はグルーバーの「3つのMOBピース」という極小組曲で、曲ごとにC管やピッコロに持ち替えて、ラテンだったりジャズだったり、なかなか楽しい曲でした。作曲者も会場にいたので、前に呼ばれて拍手にさらされていました。本人は不本意かもしれませんが、ハイドンよりもこっちのほうが断然面白かったです。

さて「英雄の生涯」ですが、意外と実演で聴く機会に恵まれず、多分11年前の新婚旅行の際、バービカンでダニエル・ハーディングのLSOデビューを聴いて以来の2回目だったかと思います。くしくも今日はハーディング世代のライバル、弱冠32歳のネルソンスです。今日の演奏会で最初からもやもやと感じていたことが徐々にはっきりとしてきましたが、この人はリズム重視で、ハーモニーの整理はあまり上手くなく、何でもかんでもクラスターのように鳴らしてしまう傾向があると思います。元々オーケストレーションが過不足なく構築されている曲では、上手くハマるとスケール大きく躍動感溢れる名演が生まれる可能性がありますが、「英雄の生涯」みたいに濃度過剰気味なサウンドの曲だとグシャっとした分離の悪い響きになりやすいです。特に前半の「英雄の敵」くらいまでは始終何かの楽器が絶え間なくキンキンと耳に障り、「あー、うるさい!」と心の中で叫んでいました。一方、「英雄の妻」「英雄の晩年」といった緩徐部は、ヴァイオリンの熱演もあり、なかなか良い感じに仕上がっていました。前にバーミンガムで聴いた際は、曲がバルトークとショスタコということもあって、民謡ベースのリズムをうまく活かして再現できる人だなと好感を持ったのですが、今日のようなドイツもの中心だと、師匠越えにはまだ課題がありそうです。

コンサートマスターは多分初めて見る人でしたが、素晴らしく繊細で叙情的なヴァイオリンソロだったので、フィルハーモニアにこんな良いコンマスがいたとは、とちょっと驚きました。名前はハンガリー系ですが、ドイツ人みたいですね。今後もチェックしたいと思います。