ロイヤルバレエ/ヌニェス/キシュ/マルケス/マクレー:王妃の舞踏会、ラ・シルフィード2012/05/24 23:59

2012.05.24 Royal Opera House (London)
Royal Ballet: Double Bill (Ballo della regina/La Sylphide)
Daniel Capps / Orchestra of the Royal Opera House

私「次のマクレーさんのダブルビル、いつにする?」
妻「全部!」
私「あほ言え、我が家のオペラ座基金はとうに底抜けて大赤字なんじゃ!(怒)」
妻「パートナーは誰なの?」
私「初日の月曜がコジョカル、木曜はいつものマルケス。コジョカルまだ見たことないし…」
妻「どっちでもいいけど、かぶりつき席が取れるほう!」

という会話があったかはともかく、今回もマルケス・マクレーのゴールデンコンビをかぶりつき席で鑑賞です(半泣)。


1. Verdi: Ballo della regina (from 'Don Carlo')
George Balanchine (Choreography)
Merrill Ashley (Staging, Principal Coaching)
Marianela Nuñez, Nehemiah Kish
Samantha Raine, Leanne Cope, Yuhui Choe, Emma Maguire

最初は「王妃の舞踏会」という短いバレエ。ヴェルディの「ドン・カルロ」からバレエの場面を切り出して、ジョージ・バランシンが独自の振付をつけたものだそうです。初演は1978年ですが、ロイヤルバレエでは昨シーズン初めて取り上げられました。ストーリーは特になく、純粋にダンスの妙技を鑑賞する演目のようでした。込み入ったステップに、手足を始終ダイナミックに駆使して、見かけ以上に体力を消耗しそうな踊りです。ヌニェスは綺麗だし、キシュはそんなに長身ではないはずですが、手足のさしが長いのか、伸縮のダイナミックさに目を奪われました。ついでに意識も奪われ、後半はついウトウトと。すいません。(観劇前にオペラ座横のMasala Zoneでしっかり食い、暑かったのでビール飲んじゃったのが敗因です…)



2. Løvenskiold: La Sylphide
August Bournonville (Choreography)
Johan Kobborg (Additional Choreography, Production, Staging)
Roberta Marquez (The Sylph), Steven McRae (James)
Sabina Westcombe (Effie), Alexander Campbell (Gurn)
Elizabeth McGorian (Madge), Genesia Rosato (Anna)
Sarah Keaveney (Little Girl), Emma Maguire (First Sylph)

2つ目の「ラ・シルフィード」は、昨年マリインスキー劇場のロンドン公演で見た「レ・シルフィード」とは全く別物の作品で、ロマンチックバレエの古典中の古典だそうです。ストーリーは、結婚間近の青年ジェイムズが許嫁そっちのけで妖精シルフに心奪われ、婚約指輪を奪って逃げたシルフを追いかけて、捕まえようと魔女からもらったショールをかけるとシルフは羽根がもげて死んでしまい、自分も息絶えそうになる中、許嫁が別の男と結婚していくのを見る、という救われない話。このジェイムズというのが、今まで見たマクレーさんの役にはなかった「ひどいヤツ」キャラクターで、婚約者とのデュエットは心の通わない空々しいもので、愛情がないのは明らかなのに、彼女に横恋慕している若い農夫が近寄ってくると害獣を追い払うかのように跳ね除けるという、独占欲だけは旺盛な駄々っ子。「嫌なヤツキャラ」が立っていたのは、マクレーさんの非情な演技がそれだけ優れていたということですね。一方、マルケスのシルフは存在感が希薄で、妖精というよりもまるで幽霊のよう。正直、不気味で恐いです。いつもよりも何だか踊りもフラフラしていて不安定に見えたのは、多分意図的な演技なのでしょう。お互い心引かれているはずのジェイムズとシルフのデュエットにしても、すり抜け、すれ違いの連続で、結局ジェイムズの孤独感をいっそう際立たせるだけ。ダンサーにとっては、いつも組んでいるパートナーと、フィジカルな接触なしでもいかに絶妙のコンビネーションを発揮できるかという、非常に難しい演目だったのではないでしょうか。上手くいったのかどうか私には判断できませんが、少なくとも「ラ・シルフィード」の世界観は十分心に染み入りました。しかし救いのないラストはどーんと暗い気分になるので、一日の最後に見たい演目じゃないですね。

スコットランドの農村が舞台なので、男女共にチェックのスカートを着たフォークダンスは一見の価値ありです。子役もみんなかわいかったし。こういった民族衣装を纏ったフォークダンスのシーンは、ハンガリー国立バレエではよく見ましたが、ロイヤルバレエでは珍しいと思います。素朴で田舎臭いダンスは、先進国の大都会では敬遠されるんでしょうかねえ。妻は最前列でもオペラグラスをしっかりと握り、スカートで回転するマクレーさんに目が釘付けでした。

このところやけにしっかりした音を出していたオケ、今日はまた前に逆戻りでした。トランペットはピッコロトランペットのソロも含めて立派なものでしたが、ホルンがアマチュアをずらりと並べたようなひどさ。特にシルフィードの第2幕はホルンが音楽表現の主役なのので、あのずっこけぶりは犯罪的と言ってもいいくらい。途中、弦のピッチもおかしくなり、睨みをきかせられない指揮者の統率力の問題だと思います。まあ、まだコートが手放せなかった先週から、今週急に真夏(イギリス標準)になったので、ダレるのはしょうがないんでしょうけども。