ロンドン響/パッパーノ:チャイコフスキーとRVWのマリアージュ2025/12/07 23:59



2025.12.07 Barbican Hall (London)
Sir Antonio Pappano / London Symphony Orchestra & Chorus
Antoine Tamestit (viola-2)
Julia Sitkovetsky (soprano-3)
Ashley Riches (bass-baritone-3)
1. Tchaikovsky: Symphony No. 4
2. Vaughan Williams: Flos Campi for Viola and Chorus
3. Vaughan Williams: Dona nobis pacem

12年ぶりにやっと聴けるLSOは、当時ロイヤルオペラの音楽監督だったパッパーノ大将が現在主席指揮者に就いています。当時から、ゲルギエフの後釜はパッパーノが適任ではないかと思っていたのですが(まさかラトルが来てくれるとは想定外だった)、その12年前にパッパーノの指揮で最後に聴いた演奏会が、くしくも同じチャイコフスキーの第4番というこの偶然。もちろんオケのメンバーはだいぶ入れ替わっているようでしたが、ダイナミックでドラマチックなパッパーノの指揮に圧倒的な演奏力で応えるLSOの組み合わせは、昔と変わらぬ充実感に溢れ、12年のギャップが一瞬で繋がりました。パッパーノは指揮棒なしの指先だけで、オペラの歌手に指示を出すかのように各楽器を操っていきます。管楽器のソロはさすがに皆上手く惚れ惚れしますが、主旋律以外もしっかり聴かせるバランスを保ち、以前「マカロニ・チャイコ」と表した、メランコリックに流れるチャイコフスキーからはだいぶ抑制的に変わってきた印象を受けました。第2楽章の中間部であえてテンポを上げて変化をつけ、第3楽章もしっかりと指揮をしてオケ任せにはせず、決してグリップを離しません。オケの演奏技術力を最大限に発揮した最終楽章は圧巻の馬力と音圧を見せつけました。まだ1曲目なのに全力投球で、ほぼ本日終了です。

そもそもこのヘヴィーなプラグラムのコンセプトがよくわからないのですが、前半のド派手な「喜びの讃歌」に対し、後半は打って変わって穏やかな音楽が続きます。馴染みのないヴォーン・ウィリアムズのマイナー曲で、しかも苦手分野の合唱曲なので後半は正直よくわからんかったです。後半最初の「野の花(Flos Campi)」は小編成室内オケとヴィオラ独奏に歌詞のないスキャットコーラスが加わる曲ですが、その編成のユニークさに比して、曲調はあくまで落ち着いて穏やか。続く「われに平和を与えたまえ(Dona nobis pacem)」ではオケが大編成になり、合唱に加えてソプラノとバリトンも加わります。ある種の「戦争音楽」になりますが、激しさはそんなにありません。ソプラノがちょっと不安定な仕上がりでハラハラしたのですが、バリトンは芯のあるたいへん良い歌唱でした。しかし最後まで聴きどころが掴めず漫然と聴き流してしまって、自分にはまだ英国スピリットを堪能できるだけの修行が足らんのだとしみじみ思いました。


フィルハーモニア/ロウヴァリ:ファジル・サイは環境ビジネスの香り2025/11/30 23:59

2025.11.30 Royal Festival Hall (London)
Santtu-Matias Rouvali / The Philharmonia Orchestra
Fazil Say (piano-2)
1. Sibelius: En Saga
2. Fazil Say: Mother Earth (Piano Concerto) (UK premiere)
3. Dvorak: Symphony No. 8

2021年に若くしてフィルハーモニア管6代目の主席指揮者に就任したロウヴァリは、2014年に一度ミューザ川崎ホールにて東響を振った演奏会を聴いて以来です。1曲目、元々はファリャ「恋の魔術師」がプログラムにあったのですが、数日前にメール連絡があり、シベリウス「エン・サガ」に曲目変更とのこと。直後の韓国ツアーで取り上げる曲に寄せたようですが、個人的にはファリャを聴きたかったので、がっかり。意気消沈して寝てました。

気を取り直して、2曲目は「母なる地球」をテーマにしたファジル・サイの新作ピアノ協奏曲。昔から気になっていたピアニストですがなかなか縁がなく、見るのも聴くのも初めてです。日本では「鬼才! 天才! ファジル・サイ!」というキャッチフレーズが先行して、私も鬼才にして怪人と勝手に思っていたのですが、ちょっと思ってたのと違う印象でした。もっとアヴァンギャルドな作風にぶっとんだピアノを想像していたら、既存イメージを寄せ集めたヒーリング音楽のような曲でした。ちょっと悪口っぽく言うと、思想政治的動機があって、芸術的野心はどこにもない感じ。鳥笛、ギロ、オーシャンドラムなどの打楽器を駆使して山と海の大自然を効果音でわかりやすく表現し、また自席からはよく見えなかったのですが、ピアノにもプリペアドの細工をしていたように聴こえました。そういった「飛び道具」を使わずに自然描写をするのが過去の大作曲家たちが取り組んできたクラシック音楽の矜持だと個人的には思うので、安直な効果音頼みは興醒めです。しかしジャンルを超えた人気ピアニストだけあって、ちょっと常識に欠けるファンも多く、演奏中にも写真や動画を撮ってて怒られてる人を多数見かけました。


メインのドヴォルザーク8番は、全体的に丁寧に作り込んだ演奏で、オケと指揮者が現在最も良い関係にあることがわかります。変に緊張感を煽ることもなく、聴衆のざわつきとか全く気にも留めずとっとと演奏を始めてしまうタイプですね。2014年に聴いた際はまだ20代にも関わらず、ラトルばりに細かいところまで仕掛けを施す恐れ知らずの芸風でしたが、年月が経ってだいぶ肩の力が抜けた感じです。細部まで気を配ったリードながらもあざとい感じはなく、カラッとした都会風のドヴォルザークでした。第9番の「新世界」ではなく、第8番でもそのアプローチを取るのが最近の流行りかもしれません。最終楽章のスピードはブラス泣かせではありましたが。

ロンドンではこれが今年最後の演奏会になるため、聴衆も招待しての創立80周年記念パーティーが終演後に開催されていましたが、翌日の仕事もあり、泣く泣く帰宅の途につきました。

フィルハーモニア/パヤーレ/フローレス:ラテン系ノリノリの「幻想交響曲」2025/11/27 23:59



2025.11.27 Royal Festival Hall (London)
Rafael Payare / The Philharmonia Orchestra
Pacho Flores (trumpet-2)
1. Berlioz: Overture, Le carnaval romain
2. Gabriela Ortiz: Trumpet Concerto (Altar de Bronce) (London premiere)
3. Berlioz: Symphonie fantastique

早めにサウスバンクに着いたので、18時からの若手奏者による無料の室内楽から聴いてみました。意外とストールの客席が埋まっていたのはびっくり。演目は全く守備範囲ではないですが、ポルトガル音楽界の教祖ルイス・デ・フレイタス・ブランコ及びラヴェルの弦楽四重奏曲で、1時間近くかかった長いプレコンサートでした。ヴィオラの吉村大智君が堂々と物怖じしない演奏で、アンサンブルの軸を担っていました。


さて本日のメインイベントは、ベネズエラのエル・システマ出身ミュージシャンによるベルリオーズを中心としたプログラム。ドレッドヘアが特徴的なラファエル・パヤーレは、不勉強で名前も知らなかったのですが、ドゥダメルに続け!とのし上がりに奮闘中の若手筆頭株、かと思いきや、年齢はむしろドゥダメルよりも上(1歳だけですが)、すでにそれなりのキャリアを積んでおり、現在はサンディエゴ響とモントリオール響の音楽監督を兼任。奥さんはチェリストのアリサ・ワイラースタイン。ちょうどこの1週間前にはN響定期にも客演していて、グローバルに活躍中の人なんですね。

1曲目の「ローマの謝肉祭」はキレ良く始まり、躍動的にオケを操ってギミック満載のリズムをダイナミックに生き生きと乗り越えていきます。冒頭のツカミは充分。多分フローレス目当てかと思われますが、ブラバン楽団員と思しきラフな格好の若者集団が聴きに来ていて、地味な高齢者ばかりの普段の客層とは違う空気感がありました。

2曲目はメキシコの女性作曲家ガブリエラ・オルティスのトランペット協奏曲「青銅の祭壇」。新作なのでほとんど情報がないのですが、プログラムによるとヴァイオリン協奏曲「弦の祭壇」を作曲中に、対となるトランペット協奏曲の発想を得ていたところ、指揮者と同じくエル・システマ出身のトランペッター、パーチョ・フローレスから作曲委嘱の話があり、作曲者がライフワーク的に取り組んでいる「祭壇」シリーズの新曲として誕生したようです。

フローレスはトランペット3本、追ってパヤーレもさらに1本を手に持って登場。シモン・ボリバルやサイトウ・キネンのトップ奏者を務めた実力者だけあって、冒頭から高速パッセージを披露。ソロトランペットに木管とハープ、さらにはオケ側のトランペットも呼応して、聴いたことがないユニークな展開が続きます。フローレスは艶やかな音色に、ほとんど音を外さない完璧な技巧、見た目は陽気なラテン系、なかなか得難いキャラクターの名手です。新作なのでもちろん初めて聴く曲ですが、いわゆる「現代音楽」のテイストはなく、耳に優しい親しみ深い曲調です。後半はラテンパーカッションが大活躍のカーニバル風になり、指揮者、ソリスト、聴衆が皆ノリノリになっていく中、打楽器陣は笑顔なく生真面目な顔で黙々と叩き続けていたのが可笑しかったです。カデンツァもかなり自由に、客席を指さしてカモン、「テキーラ!」の掛け声など、聴衆を巻き込みながらのパフォーマンスにやんやの喝采を浴びていました。アンコールは、曲名は知らないものの、弦楽合奏をバックにしっとりした曲を披露。こういうのもできるんだぜ、とばかりのトランペット名手は、サックス名手に負けず劣らずのズルカッコ良さでした。


メインの幻想交響曲は、これまた全力投球が気持ちいいノリノリのミュンシュ系演奏。今どきは当たり前かもしれませんが、スコア上のリピートは全て行っていても冗長に感じず、軽さと明るさが全編通して滲み出ていました。第2楽章はトランペット奏者がコルネットを持って下手に移動し演奏していましたが、コルネット付きの演奏自体、すごく久しぶりに聴いた気がします(メータ/NYPのレコード以来かも)。あとから調べたら、パヤーレがモントリオール響を振った新譜のレコーディングでもコルネット付き版を選択しているそうで、最近の傾向かもしれません。第3楽章のオーボエは舞台裏からちょっと遠目に、しかし音色はあくまで明るく鳴らして掛け合い、こういうところもミュンシュを彷彿とさせました。第4楽章はテンポを必要以上に揺さぶるわけではなく正攻法で盛り上げていましたが、ホルンのゲシュトップ奏法などスコアに書かれた演出は忠実に実行。最終楽章の弦もきっちり弱音器を使いおどろおどろしさを強調するも、鐘の音は高くてキラキラしており、やはり基本は明るいラテン系に終始していました。あまりに聴きすぎて食傷気味の「幻想」ですが、こういう若くて突き抜けた明るさも、真似しようと思ってもなかなか達成できるものではなく、良きかなと思いました。


サー・アンドラーシュ・シフとOAEのシューマンとメンデルスゾーン2025/05/22 23:59



2025.05.22 Royal Festival Hall (London)
Sir Andras Schiff (fortepiano-1,3) / Orchestra of the Age of Enlightenment
1. Schumann: Introduction and Allegro appassionato for piano and orchestra, Op.92
2. Mendelssohn: Excerpts from the Incidental Music to A Midsummer Night's Dream
 (Overture, Intermezzo, Nocturne, Scherzo)
3. Schumann: Piano Concerto

前週に続いて出張中のオフを利用し、懐かしのサウスバンクへ。そもそも2013年に帰国して以来一度も英国を訪れる機会がなかったので、実に12年ぶりになります。中のカフェとショップはすっかり様変わりしていましたが、ホールの中は昔の通りです。

啓蒙時代の楽団、OAEを聴くのも12年ぶりなのですが、シフはハンガリーの巨匠なのに何故か巡り合わせが悪く、過去に聴いたのは2011年のBBCプロムス1回だけでした。古楽器集団のOAEに合わせたとはいえ、ブリュートナーの1859年製フォルテピアノを奏でる今夜のシフはだいぶ変化球というか「よそゆき顔」の様子となるかもしれない、と思っていたのですが、確かにちょっと勝手が変わりやりにくそうな感じは見て取れたものの、元々の理知的で奇を衒わない芸風はこのようなピリオド系アプローチと親和性は高そうでした。本日のプログラムはシューマンとメンデルスゾーンという、19世紀前半を駆け抜け、どちらも若くして亡くなったドイツの天才ペアの作品で、今日のフォルテピアノが作られたのもちょうど二人が亡くなった後くらいですが、彼らが慣れ親しんだ「ピアノ」という楽器は、まさにこのようなものだったんでしょう。

1曲目のシューマン「序奏とアレグロ・アパッショナート」は初めて聴く曲でした。久しぶりに聴くOAEの響きは、独特で新鮮。ノンビブラートの素朴な弦の上に、バロックアンサンブルのようなゴツゴツした木管が乗っかり、全体的に音に芯があって硬質ではあるがふくよかな太さも感じます。ホルンはバルブなしのナチュラルホルンで、浪漫派の曲になってくるとかなり演奏難度が上がると思うのですが、難なく完璧に吹きこなしてめちゃくちゃ上手い。後で調べると、トップのロジャー・モンゴメリーはROHでも首席奏者を勤めている英国ホルン界の第一人者だそうで、さすがと納得。対するシフのピアノは、楽器の特性上オケと音量バランスが合わない部分もあり、本当はガツンと情熱的に盛り上がりたい後半のアパッショナートも、だいぶ地味で落ち着いたものでした。多分モダンピアノにモダンオケで演奏する時はもっと揺さぶる感じになるんじゃないでしょうか。それにしても、過去に4度聴いたOAEも全てこのロイヤル・フェスティバル・ホールだったのですが、このオケのコンセプトでこのホールは広すぎで、何でいつもここでやっているのか不思議です。隣のクイーン・エリザベス・ホールや、あるいはウィグモア・ホールだとビジネス的に難しいのかもしれませんが、せめてバービカンでやってくれたほうが絶対特性に合っているのになあ、と残念に思います。

2曲目は「夏の夜の夢」の非公式「組曲」としてよく抜粋される選曲から「結婚行進曲」を除いた4曲。一番のメジャーどころを外したのは、楽器編成の都合かもしれませんが、全体的なプログラムのトーンを考えての選曲でもあったかと思います。ここではシフは指揮に専念し、個人的にあまり思い入れのない曲ということもあって、あっさりと流れ過ぎました。


休憩中のフォルテピアノ調律にこの人だかり。

休憩後のメイン、シューマンのピアノ協奏曲はゴールデンウィークのラ・フォル・ジュルネでも聴いたばかりですが、ここ近年この曲が大好きになってしまい、いろんな演奏を聴き漁っています。その中にはシフがイヴァーン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管と共演したBBCプロムスのYouTube動画もありましたが、やはり弾き振りで、楽器も鳴りにくいフォルテピアノになるとアプローチがだいぶ変わってきます。フレージングがより端正で抑圧的な古典アプローチになっていましたが、曲自体は明らかにロマン派の代表作なので、燃え上がり切れないもどかしさがありました。第2楽章では本来(?)の姿が垣間見え、情感を乗せた深いピアノが聴けましたが、第3楽章では再び即物的なピアノに戻り、ピアノの見せ場を作るよりもオケを快活に進めるほうに腐心している様子でした。

アンコールではピアノの小曲を弾いた後、蓋を閉じてもう終わりかと思いきや、もう一曲、序曲「フィンガルの洞窟」を指揮しました。アンコールピースにはちょっと長い曲ですが、シューマンの協奏曲だけだとメインとしては短いので、ほど良いサービスでした。オケはますます鳴らしにくそうに演奏していましたが、クラリネットはたいへん美しい音色で、満足です。


終演後もこの明るさ。ロンドンの夏がすぐそこですねえ。


聖チェチーリア音楽院管/ガッティ:至極真っ当なブルックナー9番2025/05/17 23:59



2025.05.17 Sala Santa Cecilia, Auditorium Parco della Musica Ennio Morricone (Roma)
Daniele Gatti / Orchestra e Coro dell’Accademia Nazionale di Santa Cecilia
Andrea Secchi (chorus master)
1. Brahms: Gesang der Parzen
2. Brahms: Schicksalslied
3. Bruckner: Symphony No. 9

私的「まだ見ぬ強豪」の一つ、聖チェチーリア音楽院管弦楽団は、バーンスタイン指揮でドビュッシー管弦楽曲集やプッチーニ「ラ・ボエーム」のレコーディングがあり、1990年代からガッティ、チョン・ミョンフン、パッパーノ、ハーディングといったスター指揮者が音楽監督に名を連ねるイタリアの名門オケです。ローマ出張中のオフ日にちょうど演奏会があったので、ここぞとばかり聴きに行きました。


映画音楽の巨匠モリコーニの名を冠したホールは北側郊外のちょっと不便な場所にあり、ローマ中心部からだとバスかトラムを乗り継いで行くことになります。大きい本屋を超えて奥に入ると、屋外円形劇場を取り囲むように3つの音楽ホールが階段上に位置し、どれがメインホールなのか外観だけでよくはわかりません。中には多目的のイベントスペースもあり、ジュニアオケと思しき団体がバーンスタインの「マンボ」を練習していました。


サンタ・チェチーリア・ホールの中は2800席と比較的広く、深い茶色で統一されたシックな内装に、なだらかな球面の天井がイタリアっぽいこだわりのオシャレです。プログラム前半は、ブラームスの「運命の女神の歌」と「運命の歌」という2曲の合唱曲。個人的にはどちらも全く初めて聴く曲ですが、プログラムにはそれぞれ過去の演奏歴が書いてあって、どちらも2010年にジョナサン・ノットの指揮で演奏して以来のようです。またガッティは「運命の歌」のほうを過去に3回も取り上げており、お気に入りなんでしょう。国立アカデミーの合唱団は80人くらい、声楽曲は元々苦手分野で細かいことはよくわからないものの、緻密なコントロールの下に人声の繊細さと迫力を感じることができました。ただし、ドイツ語の発音はちょっとイタリア寄りで、ブラームス臭いドイツっぽい匂いはしませんでした。なお、ガッティは過去2回聴いていますが、全て暗譜で臨むのがトレードマークのところ、今回も譜面台最初からなしの強気の攻めでした。

買った席がステージ真横だったのはまだよいとして、自席の周辺を見事にいかにも地元勢のおばちゃん時々おっちゃんに囲まれてしまい、開演前はべちゃくちゃ、演奏中でもひそひそとうるさいので、休憩の間に平土間の空いてそうな席に移動。やはり音的にはこっちが大正解でした。ちなみに本日は3日連続公演の最終日で、週末にも関わらず客入りはイマイチ。半分くらいしか埋まってなかったんじゃないでしょうか。もったいない限りです。

気を取り直してメインのブル9。オールイタリアンによるマカロニ・ブルックナーがどんな感じになるのか想像つかなかったのですが、ガッティもオケもさすがに世界の一流、ローカル色を封印した純度の高い正統派ブルックナーでした。まずこの人はブルックナーであろうともやっぱり暗譜で押し通しますが、前半以上に細かくタクトを操り、テンポを揺らし、非常にきめ細かく表情を付けていきます。自分の中でストーリーが完成されており、流れを大事にするためか楽章間をほぼ間髪入れず繋げます。そしてオケが優れて機能的で、応答が素晴らしく良く、何より音色が美しい。ご自慢の弦は言うまでもなく、金管も角がなく必要十分に鳴り渡り、オケが一体となって極めてナチュラルに、なめらかな盛り上がりを見せます。このようなひたすら美しい系のブルックナーが果たして王道かというと、異論もいろいろあるでしょうが、ヨーロッパの一流オケの誠実な仕事ぶりにいたく感動しました。それにしてもガッティの仕事人ぶりは相変わらずのハイレベルで、この人はとんでもなく優れたオケマイスターなのかもしれません。なお、オケメンバーは基本ヨーロッパ系の人ばかりで、第1ヴァイオリンに日本人らしき女性が一人いたのですが、プログラムを見ると韓国系の人でした。


おまけ。イタリアでも人気のようです。

大阪フィル/尾高:松村「前奏曲」とブルックナー「ロマンティック」2025/02/18 23:15

2025.02.18 サントリーホール (東京)
尾高忠明 / 大阪フィルハーモニー交響楽団
1. 松村禎三: 管弦楽のための前奏曲
2. ブルックナー: 交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版)

記憶に間違いがなければ、大フィルを聴くのは1982年の「大阪国際フェスティバル」にて、アレクシス・ワイセンベルクがソリストでラフマニノフ2番とチャイコフスキー1番を一晩で弾くというコンチェルトの夕べ以来、実に43年ぶりです。それ以前にも朝比奈隆などの指揮で何度か聴いているはずですが、金管はよく音を外すし、正直あまりシャキッとしないオケ、という印象しかありませんでした。東京公演を毎年行っていて、近年は音楽監督である尾高忠明の指揮でブルックナーの交響曲と日本人の作品という組み合わせが定番のようですが、オケとしての優先順位は低いので、カップリングが松村禎三でなければ聴きに来ることはなかったでしょう。

サントリーホールは意外と客入りが良く、9割がた埋まっていました。さっそうと登場したのはソロコンマスのVaundy、ではなく崔文洙。チューニングが始まり、早速嫌な予感がしたのは、あまりに緊張感がなく、音が汚い。というか、安っぽい。大阪人はあまり楽器にお金をかけないのかなと。チューニング自体も、えっそれでやめちゃうの、と拙速な感じを残すものでした。はたして危惧していた通り、冒頭のオーボエは澄み切ったというには程遠い音色で、続くピッコロ6重奏も、最初からあんなにワウってたら繊細なスコアが台無しじゃー、と心で叫んでいました。こういった緩さ、おおらかさが昔から特徴というか、もしかしたら大フィルの魅力なのかもしれません。ただ自分の嗜好とは違うなあ、ということを再認識できました。

松村禎三「管弦楽のための前奏曲」を生で聴くのも超久々で、多分、CD化もされている1992年の都響定期演奏会(指揮は岩城宏之で、前奏曲、ピアノ協奏曲第2番、交響曲第1番というヴェリーベストプログラム)以来です。ついでの余談で、尾高忠明を見るのは2011年の札幌交響楽団ロンドン公演(ロイヤル・フェスティバル・ホール)以来ですが、その前に尾高さんを見たのは1998年のサントリー芸術財団主催「作曲家の個展:松村禎三」(この時は交響曲第2番の初演と、交響曲第1番、チェロ協奏曲というヘヴィープログラム)だったことを今ようやく思い出しました。話を戻すと、西洋音楽のフォーマットを使いながらも常に日本的、アジア的な文化の継承を意識し、音符ではなく古代建造物からインスピレーションを得て書かれたこの初期の傑作が、かつてほど取り上げられなくなったのは残念で、実演で聴けたのがまずは感謝です。この曲を聴くと、短すぎず長すぎない20分弱というコンパクトな時間内で巨大な伽藍が組み上げられていく様が脳裏に浮かびます。このような繊細な曲で(いやどんな曲でもそうなのですが)開始から早速ゴホゴホ遠慮なく咳をする輩があちらこちらにいて、コロナの効用で改善されたと思っていた咳マナーも、喉元過ぎればもはや風前の灯火です。

メインのブルックナー「ロマンティック」は、やはり大フィルの「あかんところ」がしっかりと出ていた演奏と思いました。この曲で特に重要なホルンは音出すだけで必死、出たら万々歳で満足の世界で、その先の「アート」が全くありません。指揮者も最初から野心を捨てている感じで、自分の音楽を淡々とこなすのみ。熱量を感じることができませんでした。第2楽章、ここはプロオケの強みで中音域の弦は充実していて厚みを増していたのですが、第3楽章のホルンはやっぱり音出しているだけの苦しい演奏。最終楽章はそもそも冗長で好きではないのですが、退屈さを凌げるだけの盛り上がりは聴けず。オケのスタミナ配分はきっちり管理していたのか、最後まで管楽器を中心にバテる様子はなく鳴らし切っていました。しかし全体を通してまた聴きたいと思う要素がなく、大フィルのブルックナーは自分のためのものではないなと。クラシックの場合、たいていの曲はどんな演奏だったとしても「実演に勝るものなし」という一面がありますが、ブルックナーだとそうもいかない、ということを悟りました。今日のような演奏を聴きに出かけるくらいなら、家でハイティンクのCDを聴いているほうがずっと心に染みました。
(単なる個人の見解ですので、気を悪くされた方がいたらすいませんです。)

武蔵野音大管弦楽団:三角帽子、サン=サーンス「オルガン付き」2024/11/26 23:59

2024.11.26 東京オペラシティ コンサートホール (東京)
現田茂夫 / 武蔵野音楽大学管弦楽団
長嶋穂乃香 (mezzo-soprano-1)
斎藤茉奈 (organ-2)
1. ファリャ: バレエ音楽《三角帽子》全曲
2. サン=サーンス: 交響曲 第3番 ハ短調Op.78 「オルガン付き」

こちらも元々予定にはなかったのですが、選曲に惹かれて行ってみました。オペラシティのコンサートホールは今年2回目ですが、ここのパイプオルガンはまだ聴いたことなかったなあ、というのも理由の一つです。

武蔵野音大は学生時代に何人も知り合いがいたのですが、オケは初めて聴きます。学生オケはプロと比べるともちろん技術レベルは及ばないところがあるものの、しっかりと練習を積み重ねていて、概ね演奏が丁寧なので、技量よりも一期一会の熱意と勢いが感動を生むこともあるから面白いです。ましてやここは音楽を専攻する人たちの集まりなので、技術レベルもなかなかのものでした。

前半の「三角帽子」は、バランス的にはブラスがちょっと馬力不足は否めないものの、弦、木管、打楽器は文句のつけようがない立派な演奏。メゾソプラノは、舞台袖、コーラス席など通常の指揮者の横ではない離れた場所で歌うことが多いですが、今日は木管に紛れた場所に座ってらっしゃいました。在学中の学生さんですが、すでにプロでも通用するレベルのしっかりした歌唱でした。

指揮者の現田茂夫さんはよく名前を見る人ですが、聴くのは初めてです。2019年に亡くなった佐藤しのぶさんのwidowerですね。少し脱色した髪に耳ピアスのチャラい外見で、指揮台から身を乗り出して、コンミス嬢の譜面台の真上くらいまで顔を近づけるのがちょっとキモい。

メインのサン=サーンスのオルガニストは、元々はピアノ専攻で、大学院の音楽研究科に在学中とのこと。このホールのパイプオルガンは初めて聴きましたが、高音の抜けがよく、低音の濁りが少ない、まさに私好みのオルガンでした。この曲は誰がやっても演奏効果が上がる、よくできた曲だと思っていましたが、勢いがあれば押し通せる第2楽章はともかく、第1楽章は結構難しいんだなとあらためて感じました。特に弦のアンサンブルが未熟だと、わちゃわちゃとした感じになってしまってテンションが上がってこないのがちょっといただけないかなと思いましたが、一方で、あまりデリケートなコントロールがない分、普段は目立たない副次声部が際立ってしまうというご利益もあり、面白い演奏になりました。

プログラムを見ると、このオケは武蔵野音大の器楽専攻学生から選抜されており、合奏授業の一環として毎年管弦楽の大作に取り組んでいるそうなので、大作好きの私としては、今後もウォッチしたいと思います。

日本フィル/インキネン/神尾真由子(vn):アルプス交響曲、他2024/11/24 23:59



2024.11.24 サントリーホール (東京)
Pietari Inkinen / 日本フィルハーモニー交響楽団
神尾真由子 (violin-1)
1. グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲 イ短調
2. R.シュトラウス: アルプス交響曲

元々予定していなかったのですが、時間ができたので急遽行ってみました。日曜のマチネということで、満員札止めではないものの客入りは上々。なんだかんだでアルプス交響曲の生演は10年ぶり。インキネン/日フィルを聴くのも10年ぶりでした。

本日のプログラムは、1864年生まれ、今年で生誕160年、没後75年のリヒャルト・シュトラウスと、その1歳年下のグラズノフという、おそらく接点はほぼなかったであろう同世代作曲家の組み合わせです。グラズノフといっても、パッと思い浮かぶ音楽はなく、過去には「ライモンダ」第3幕などのバレエ作品をロイヤルバレエで観たくらいの、馴染みが薄い作曲家です。諏訪内晶子さん以来日本人として二人目のチャイコフスキー国際コンクール優勝者である神尾真由子さんを聴くのは初めてでしたが、ファンの人には申し訳ないものの、最初の一音からして自分にはちょっと受け付けない類のヴァイオリンでした。誤解を恐れず思ったことを言うと、音が汚く、荒っぽい演奏。解釈でそのように装っていることでもなく、途中のカデンツァなどを聴くと確かに技巧的に長けているのは認めますが、全然好みではありませんでした。ということで、残念ながらパスです。アンコールはパガニーニ「24のカプリース」の有名な終曲を弾き切って、ドヤ顔。うーむ、ますます何だかなあ…。ベレゾフスキー(この人もチャイコフスキー国際コンクールの優勝者でしたね)を最初に聴いた時と同じようなモヤモヤ感が残りました。

メインのアルプス交響曲は、私の大好物である打楽器大活躍の大編成曲ですが、オケの地力がモノを言う曲だけに、日本のオケでは物足りない思いをするに違いなく、結果として10年も敬遠していたのも「わざわざ出かけていってがっかりしたくない」のが大きな理由でした。キャリアのハイライトがバイロイトで「指輪」を振った実績であろうインキネンなら、かつての手兵を率いてハッタリでも何でも大いに劇的に仕上げてくれれば、という期待を持って買ったチケット。演奏開始前、えらく長い時間をかけて静寂を待ってから指揮棒を振り始めたインキネン。冒頭から管がバラっと入ってしまって、繊細とは言えない弱音の出だしにちょいと不安がよぎりましたが、インキネンは気にせずひたすら丁寧に、ゆっくりと音を紡いでいきます。全部で60分近くはかかっていたのではないかと感じましたが、こういうアプローチのときはなおさらオケがバテて息切れしてしまうのが常。しかし今日は金管の頑張りが良く、山頂のクライマックスまでは何とか音圧を維持し、持ち堪えていました。その後、集中力が切れたのか、ちょっとヤバい箇所がちらほらと出てきたものの、嵐の場面で巻き直し、後半の金管の難所である弱音高音を乗り切ると、最後は冒頭の再現のような、あまりデリケートではない静寂で幕を閉じました。うーむ、やはりこういうところは、過去に聴いたウィーンフィルやBBC響の惚れ惚れする弱音にはかなわないなあとは思いつつも、全体的にはメリハリが効いて見通しの良い、普通に良い演奏でした。カーテンコールでインキネンが最初に指名したのが、ホルンとトランペットだったのも納得。そう言えば、日フィルはけっこう外国人とおぼしき奏者が多いと言う印象です。個人的には、サンダーシートが図体の割にあまり響かなかったのが少し残念でした。


おまけ。アークヒルズもすっかりクリスマスの装いです。


N響/ブロムシュテット:97歳の現役最高齢マエストロはまだまだ衰えない2024/10/19 23:59



2024.10.19 NHKホール (東京)
Herbert Blomstedt / NHK交響楽団
1. オネゲル: 交響曲第3番「典礼風」
2. ブラームス: 交響曲第4番 ホ短調

10月後半とは思えない蒸し暑さの中、代々木公園のアジアンフェスの雑踏をかき分けてNHKホールへ。原宿駅では大きくて重そうな銅鑼(ソフトケース入り、キャスター付き)を引いてる女性がいらっしゃって、今日の奏者かなと思ったら、やっぱりそうでした。

さて、現役最高齢ながらもヨーロッパ各地で精力的に客演を続けているブロムシュテット翁。N響とは長い付き合いで、桂冠名誉指揮者の称号を得て、ここ20年くらいはほぼ毎年来日されているのですが、一昨年は直前に転倒して怪我をしたにも関わらず無事来日、しかし、買っていたマーラー9番のチケットはやむを得ない事情で聴きに行けませんでした。昨年、リベンジと意気込んでシベリウス2番のチケットを買ったら、感染症のため公演直前で来日キャンセル。もう日本で見ることは叶わないのではとの噂もありつつ、半信半疑で今年はこの日のチケットをとりあえずゲット。欧州でも健康状態悪化でキャンセルを連発しているようだったので、さすがに97歳の超高齢者を長距離フライトに乗せるのはもう無理か、昨年同様来日キャンセルのアナウンスは直前まで引っ張るのかななどと思っていたら、前週のB公演には無事来日して元気に振っていたということで一安心。それでも、当日会場に来てみるまでは「もしかしたら」との危機感が拭えませんでした。

楽団員と一緒にコンマスに手を引かれてゆっくりゆっくり登場したブロム翁に、会場は割れんばかりの拍手、早速ブラヴォー叫ぶ人もおりました。過去に生演を聴いたのは1回だけ、2010年のBBCプロムスでオケはマーラーユーゲントでしたが、その当時ですでに83歳ながらも年齢を感じさせない若々しさが印象に残っていました。それから14年、さすがに足腰が衰えたマエストロは、指揮台上の長椅子に座り、指揮棒は持たずに両手の人差し指を巧みに使い、上半身だけ動かす省エネ指揮です。腕はもちろん大振りではないものの、必要十分な可動域でキビキビと動きます。それより、眼鏡なしでオネゲルの複雑そうなスコアをちゃんと追ってたのが驚きでした。97歳という年齢を考えると視力も聴力もかなり衰えていて当たり前と思いますが、前週の評判通り、足腰以外はシャキッと冴えている様子でした。1曲目のオネゲル3番「典礼風」は、第二次大戦末期から終戦直後にかけて作曲された、「戦争交響曲」とでも呼ぶべき性質の重苦しい作品で、実演を聴ける機会は貴重です。コストミニマムな指揮に対して、オケのほうは仕上がりがまだちょっと未完成という感じでした。木管はまだ良かったですが、金管は音色まで気を配る余裕がなかったもよう。全体的に、道筋がわかって進んでいるのかがよくわからない手探り感が出てしまっていたと思いますが、まあ統制が弱いときのN響はこんなもんです。と思ったら、今日のコンマスは就任したばかりのゲストコンマスの方でした。

休憩後のブラームス4番は、ブラームスの交響曲自体、それを目当てに演奏会に行くということがないので、この前に聴いたのは7年前にウィーンでウィーンフィル、出かけた先でたまたまやってたので聴いたというわけです。こちらはブロム翁、譜面台のスコアは終始閉じたまま暗譜で振っていたので、知り尽くしたレパートリーなんでしょう。冒頭から彫りが深いフレージングが意外だったので指揮をよく見ていると、もちろん練習で叩き込んでもいるのでしょうが、微妙な指の動きながらもちゃんと指揮でリードしていて、二重に驚き。オネゲルと比べるとオケが曲に慣れている分、反応が良く一体感もありました。必要最小限に要所を締める、動きの小さい指揮でしたが、中音域をしっかりと響かせる骨太なドイツ伝統系のブラームスで、決して枯れたり、ましてやボケたりしていない、生命力がみなぎる好演でした。ブロム翁は、足腰を除けば十分に冴えていて、怪我さえしなければまだまだ活動は衰えない感じです。老人の歩行も、気持ちは前のめりでスイスイ歩こうとしていたのが、かえって怖いかも、と思ってしまいました。来年も元気な姿を見せてくれますように。


読響/ヴァイグレ/テツラフ(vn):欧州ツアー直前、充実のブラームスとラフマニノフ2024/10/09 23:59

2024.10.09 サントリーホール (東京)
Sebastian Weigle / 読売日本交響楽団
Christian Tetzlaff (violin-2)
1. 伊福部昭: 舞踊曲「サロメ」から「7つのヴェールの踊り」
2. ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
3. ラフマニノフ: 交響曲第2番 ホ短調

翌週からテツラフと藤田真央を引き連れてヨーロッパツアーに出かけるヴァイグレ/読響の壮行演奏会になります。客席は満員御礼。

1曲目の伊福部版「サロメ」は初めて聴く曲。欧州ツアー向きに何か日本物を1曲、ということでの選曲でしょうか。ツアーのプログラムを見ると他に武満の曲をやる日もあるようです。「7つのヴェールの踊り」と言えば、リヒャルト・シュトラウスの楽劇「サロメ」の劇中舞曲があまりにも有名ですが、同じ原作でありながら伊福部のバレエ音楽は全くテイストが異なるのが面白いです。旋律、リズム、構成どれをとっても全くの伊福部節で、純和風というよりは、東宝の怪獣映画音楽風。変拍子の複雑なリズムを低音をしっかり聴かせつつ小気味よく進めていったヴァイグレさん、曲への思い入れなどは特にないであろうに、劇場キャリアの職人技を垣間見ました。

続くブラームスのコンチェルトは、一昨日ソロリサイタルを聴いたばかりのテツラフがもちろん目当てです。曲自体は好んで聴く曲じゃないので、過去に実演を聴いたのが10年前のイザベル・ファウスト(オケはハーディング/新日本フィル)1回だけという体たらく。しかしテツラフは期待通りの孤高の演奏で、雑なワイルドタッチから、この上なく綺麗に響かせるメロディまで、表現の幅がえげつなく広く、かつ全てが自然に鳴り響き、まるで弓を動かさなくても音が湧き出てくるかのよう。ちょっとハンガリー舞曲を彷彿とさせる終楽章では、一昨日のソロとはまた全く違う情熱的なアプローチで挑み、全くこの人の懐の深さは格別です。アンコールは一昨日も聴いた、バッハのソナタ第3番から「ラルゴ」でやんやの喝采。最近は毎年来日してくれるので、日本での人気も定着している様子です。

東ベルリン出身のヴァイグレはロシアものも得意分野のようですが、メインのラフマニノフ2番は、ある意味それらしい、弱音欠如型のおおらかな演奏。オケはまるでブラームスのように分厚い音作りで、金管を筆頭によく鳴ってはいるものの、抑制が効いた柔らかな響きにしっかりコントロールされています。第1楽章の最後はティンパニの一撃ありバージョン。第2楽章第2主題のポルタメントは軽く効かせて節度ある甘さを演出。有名な第3楽章も焦らず、昂らずにじっくりと盛り上げていきます。最終楽章はここまで貯めたエネルギーを全てを解放するかのような爆演。全体的にツボを抑えた見事なリードで、これなら本場欧州と言えども、どこに出しても恥ずかしくないクオリティと言えるでしょう。個人的にはいろいろあってちょっと荒んだ心も癒される、良い演奏会でした。